召喚されしはアリの勇者
どうも、アリです。
よく人間に踏みつぶされたりする虫です。
急に地面が光ったと思ったら、知らないところにいて、こんな風に思考できるようになってました。それに目もよく見えるようになっていたりして、自分の身体じゃない感じです。
何か周りの人が「勇者召喚が失敗するなんて……」「何が違ったんだ。くそっ!」「魔王の種が現れて魔族が暴れだしたっていうのに、このままじゃ魔王が誕生してしまう。そうなったら……」とか言ってるんですかどういうことでしょうか。
よくわからないですが踏まれたくないので一先ずここを離れたいと思います。
わたしがいたのは地下だったようです。階段を上がったら、荒野のような場所に出ました。よく見ると焼け崩れた人間の家があります。
でもわたしには関係の無い事です。とりあえず巣に帰りましょう。
*
ピンチです。
巣がどこにあるかわかりません。これでは帰れないじゃないですか。どうしましょう。
それにお腹が空いてきました。
幸いわたしは変わり者の、種を主食にしているアリです。このような荒野のような場所でも草木一本生えていないわけじゃありません。
種の一つや二つはあることでしょう。
むむ、そこの木の辺りから種の反応がします。もうお腹ペコペコです。
木の近くで見つけた種は私と同じくらいの大きさです。これ一個で二日は持ちます。
でも今まで見たこともない種です。青色や赤色や黄色や緑や……。
ちょっと食べるのに抵抗がある色でしたが、恐る恐る食べてみると案外おいしかったです。
一つわかったことは、ここが巣からかなり離れているということです。こんな種今まで見たこともなかったですから。
それにしても、巣は一体どこにあるのでしょうか。
あ! そういえばちょっと前に、今までにないくらい上物の種を見つけたって聞きました。取りにくい所にあるからまだ拾えていないようでしたから、きっと強い種の反応のある所に行けば仲間に出会えるはずです!
そうと決まれば早速行動です。
*
やっと着きました。
たくさん歩き回って見つけた、一際高い反応。
それがこの、わたしの目の前にある禍々しい城から感じられます。
確かにここにあったら取りにくいですね……。
さぁ、突入です!
大きな扉でしたが、わたしはアリですから小さな隙間から簡単に入る事ができました。
反応はこの城の一番上からします。階段を上るのは大変ですが、ここにあるのを見つけるまでたくさん歩いたんですから、このくらいなんてことないです。
時々人が通りますが、わたしの存在に気づいた様子はありません。踏みつぶされたりしたら一大事ですから、慎重に行動しなくてはいけません。
それにしても、肌が真っ黒だったり、角が生えていたりして、今まで見てきた人間とちょっと違います。まぁ、わたしには関係の無い事ですけどね。
そんなことを考えていると、遂に反応のあった部屋に辿り着きました。
扉のついていない部屋の入口の両脇に、人が立っています。
中を見てみると奥にある台座にわたしの何倍も大きな赤く光る種が見えます。わたし一人じゃ大きくて運べそうにないですね。まあ、始めから運ぶつもりはないですが。
種の所で仲間を待つことにしましょう。
わたしは部屋の前に立っている二人に気づかれることなく部屋に侵入します。
やっぱり、床も壁も天井も黒いから気づかれにくいのでしょう。
台座がつるつるしていて登りにくかったですが、なんとか登りきりました。
赤く光る種を直接見てみると、威圧感が違います。気のせいか脈を打っているようにも見えます。
うう、それにしてもお腹が空きました。
この城を登るのに邪魔になるので、食糧は全部置いてきたのです。
ひ、一口くらい食べてもいいですよね? 食べますよ?
いただきまーす。
カリッと小さく音を立てて赤く光る種を食べます。
何かドクンドクンと音が聞こえてきます! なんですかこれは。明らかにこの種、脈打ってますよね。
で、でも、お腹空いてるし、もう一口くらい食べてもいいですよね。
人間なら耳を澄まさないと聞こえないくらいの、カリカリという音が聞こえます。
……って、いつの間にか食べ過ぎてました! ど、どうしましょう。あんなにあったのに、今は半分くらいになってます。
そういえばもう赤く光ってないし、脈も打ってないみたいです。
それに部屋の外が騒がしくなってきました。おっと、人が来るみたいです。一旦逃げましょう。
わたしは台座から降りると、走っている人達に踏まれないよう注意して城から脱出をします。
みんな「魔王の種が!」と言ってましたが、あの他にも種があったのでしょうか。
今気づきましたが、さっきまであった強い反応がなくなっています。やっぱりわたしが食べてしまったせいでしょうか。
これでは仲間が来ないでしょう。
仕方ないですね。
強い反応の種のところに行けば仲間に出会えるかもしれません。
種を探しに行くとしましょう。