廃校
助言、感想大歓迎です。
よろしくお願いします。
私はある田舎の小学校に勤めていた。
といっても、それも今年度までだ。
今年度でこの小学校は廃校になることが決定していた。
この学校に赴任して早や5年。
次の勤務先が決まっているとはいえ、感慨深いものがある。
5年前の私はまだ就職して3年目の新人だった。
初めは「何でこんな田舎に」と思ったし、コンビニが無く一人暮らしには非常に不安があった。
しかし、住んでみれば案外に楽しく、「住めば都」とはよく言ったものだ。
私は自分が担当する理科室の整理をしながら昔を懐かしんだ。
と言うのも、この理科室はもう使われることは無い。
今日行われた理科の実験が最後だ。
廃校まで数カ月の期間はあるとはいえ、実験を行う予定はもうない。
しかし、私は備品を全て箱詰めすることはせず、いつもの場所に整理することにした。
もう使うことはないので、箱詰めして、運びやすくした方が良いのだが、もし急に予定が変わった時のためにいつでも理科室を使えるようにしておきたかった。
感傷と言うのは解っている。
どの教材、実験器具も懐かしい思い出の品だ。
さっき棚に戻した虫の標本などは子どもに大人気だった。
今運んでいる人体模型も案外子どもに人気だった。
よいしょっと持ちあげて、前の黒板の向かって左側に置く。
若い若いと思っていたが、案外歳をくってしまったらしい。
持ちあげた際に少し腰にきた。
また持ち上げるのもしんどいので、台座ごとぐるっと回して黒板に背を向けさせた。
この理科室は一般的な学校の教室と同じく、黒板に向かって右側に廊下、左側に窓となっている。
いつもこの窓側の定位置に置いているせいか、模型の左側が少し日焼けしていた。
「こいつもだいぶ歳くってるなー」
そんなことを呟きながら、アルコールランプを棚にしまう。
どれも古く、ガラス瓶が煤けていたが、ひびが入っているものはない。
小さなひびぐらいでアルコールが漏れることは無いが、火を使う実験は危険なものだ。
念の為に実験前の安全確認でひびのある物は省いている。
食塩の結晶を作るために準備した発泡スチロールの箱も懐かしい。
子どもたちは結晶をキラキラした目で眺めたものだ。
そんなこんな思い出しながら、一つずつ丁寧に埃を払い、整理していった。
最後に後ろのドアの鍵が閉っているのを確認し、黒板側のドアからでる。
人数が少なくても騒がしい子どもたちが居ない教室は寂しいものだ。
ドアから教室全体をぐるっと見回す。
ふと、人体模型と目があった。
子どもたちに悪戯されて、よく目を外されていたが、運よく両目とも無くすことはなかった。
今朝からこんな感慨に耽っていたためか、プラスチック製の目でさえ、悲しそうにしているようにみえた。
最後に前のドアの鍵を閉めた。
次にこの教室に入るのは3月の終わりだろう。
ここで整理したものを箱に詰めて、別の学校に送るために。
一応、隠しネタがあります。