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後輩と幼馴染  作者: ヒヤ
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第08話  曇り空の一週間―月曜・昼休み

「ハロー、ミトりん」

 昼休み、僕が図書準備室のドアを開けるや否や、威勢のいい神名川の声がとんできた。

「あ、こんにちはー」

「ちゃお、ミト」

 それを合図に室内にいたエタイや佐藤も思い思いの挨拶をしてくれる。僕は各々に返しながら椅子に座った。

「なんか久しぶりだね、ミトりん」

 そう言ったのは神名川だった。

「あれ、そんなに会ってないか?」

 確か神名川とは先週の水曜(たぶん)に図書準備室で会って以来だ。

「うわー、冷たいなミトりん。いつも平日は二日と開けずに会っていたというのに……!」

 と大仰に嘆いて見せた。

 僕は昼休みはたいていここに来ていたし、神名川も週に三、四回は来ていたので二日連続で会わない日はなかったような気がする。おまけにクラスも近かったからちょくちょく遭遇するし。

 しかし、先週は僕が東雲や後輩たちと屋上で過ごしたり、その次の日は神名川が来なかったりで二日連続で会わなかった上、廊下で遭遇することもなかった。土日をはさんだのでだいぶ会ってないような気がしてもおかしくはないのかもしれない。

「それまでのエンカウント率が高かっただけじゃないのか?」

「酷いな~、人をモンスターみたいに言って。私と会わない間に一体誰と会ってたんだかー。ね、さとりん」

「そうね、誰と会ってたの、ミト?」

 気がついたら佐藤もニヤニヤ笑いながらこっちを見ていた。二人のときはそんなこともないけど、こいつは神名川と一緒だと妙に悪乗りしてくるときがある。

 僕が口を開こうとする前にエタイが勢いづいて口を開いた。

「先週の昼休みは屋上に行ったりしてましたもんね」

 二人が勢いよくエタイの方を振り返った。

「なにそれ、告白!?」

「あらあら、私を差し置いて屋上デートかしら?」

 あまりの食いつきのよさにエタイもたじたじだった。助けを求めるように僕の方を見てきた。

「あー、それな。四人でお昼食べてたんだよ」

 今度は二人が僕の方を振り返った。

「ダブルデート!?」

「あらあら、ミトはいつの間にそんな甘酸っぱいお付き合いをするようになったの?」

 ノリノリだった。面倒くさいなと思いながらもちゃんと説明してやった。

「うちのクラスの東雲とエタイと七瀬だよ。このメンツでデートとか、どんな青春だよそれ」

「ふくりん、ゲイ疑惑!?」

「まさかエタイくんと東雲くんがそんなことになっていたなんて……」

 当の本人であるエタイだけがポカンとしていた。

 僕は思わず溜息を吐いた。

「で、冗談は置いといて。実際なんでそんなメンツになったのか教えなさいよ」

 やはりニヤニヤした表情のまま佐藤が僕を小突いてきた。


「ははぁ、なるほどね。それで最近ななりんが昼休みに来ないのかぁ」

「昼休みの図書準備室には私がいるもんね。代わりに休み時間や放課後に現れると」

「放課後ならさとりんは部活でいないもんね」

 好き勝手に露骨なことを言う二年生女子二人だった。神名川もだいぶ性質が悪いが、一緒に悪乗りする佐藤はこういうときだけはいつもと調子が違うせいか、なに考えてるのかわからなくなるので、僕にとっては神名川以上に扱いに困る存在だった。

 ほんと、佐藤はどう思ってるんだろう。神名川とは違って他人ごとじゃないだろうに。いや、そう考えるのは僕の思いあがりだろうか? そんなことを考えてると佐藤と目があった。佐藤はなにも言わずにニッと笑ってみせるが僕にはその意図はわからなかった。大した意味などなかったのかもしれないが、そんな彼女の意味不明な仕草がいちいち僕を不安にさせる。最近は特にそうだ。昔はそういうことがあっても聞き返したりできたのに、今ではそういうこともなんだか気恥しくてできなくなってしまった。

 また意味もなく溜息を吐く。昔に戻りたいわけじゃないけど、なんとなく寂しいような、落ち着かない気分だった。

「なーに考えてんの?」

 隣の佐藤が悪戯っぽい顔で僕を見ていた。頭の中を見透かされているような佐藤の瞳は嫌いじゃなかったが、ときどきその瞳はずるいなって思うときがあった。だからそういうときは僕もせめてもの抵抗としてなんでもない顔をしてみせる。

「ううん、なんでもない」

 佐藤は少し拗ねたような顔をする。そんな佐藤を見て、ずるいと思ってるのはお互い様かもしれないと思う。

 気がついたら神名川がエタイになにか吹きこもうとしていたので、適当に話を逸らしたりしていたら予鈴が鳴った。僕らは慌てて準備室を後にした。

 教室まで戻る途中は、なにか楽しそうに話し続ける神名川とそれに付き合わされるエタイの二人の後ろを僕と佐藤がついて行く形になった。特に話題が思いつかず、ちらと佐藤の方を見るとやはり目があった。なによ、と唇の端だけで笑ってみせる佐藤も僕と同じようなことを考えていたのかもしれないと思うとちょっとおかしくて、僕はフッと少し笑った。こんなところで気が合わなくてもいいのに。それを察したのか佐藤もそれ以上なにも言わず、ニッと笑った。


 それから三人と別れ、僕は自分の机に着いて次の授業の準備をしながらぼんやり考え事をしていた。

 ……気が合うということと相手のことをわかることって別のことなんだよな。気が合うからって、付き合いが長いからって、わかってたような気になってたのかもしれないな。だからあんなことで不安になったりするのかな。

 ……って、なんであいつのことわかってないといけないってことが前提みたいになってんだろ?


 そこで僕の思考を中断するかのように五時限目開始のチャイムが鳴った。

新しい一週間のはじまりです。

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