表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後輩と幼馴染  作者: ヒヤ
2/24

第02話  図書室と僕の関係

 ドアを押し開けて渡り廊下に出ると、思いのほか冷たくなっていた風がピューと僕の身体に吹きつける。ちょっと前までは赤に黄色に鮮やかに学校を彩っていた紅葉たちは、今では冷たい風に吹かれ、カラカラと音を立ててながらコンクリートの上を踊り狂っていた。

 僕はちょっとだけ身をすくめた。現在うちの高校では夏服から冬服への移行期間中で、最近では学ランやセーラー服の生徒たちもちらほら見かけるようになってきていた。まだそんなに寒くはないだろう、と僕は思っていたのだが、季節が移ろうのは案外早いものかもしれない。僕もそろそろ学ランを着てこようか。

 吹きさらしの渡り廊下を足早に抜けて、僕はその先にある建物の中に入っていった。


 教室のある棟から少し離れた所に建っているこの平べったい構造の建物は二階建てだった。一階に普段はあまり使われない会議室などがあり、二階に図書室がある。図書室に行くのには、この建物を一階から入って階段を昇ってもいいのだが、渡り廊下で二階から二階に直通できるため、教室が二階にある二年生の僕はよくこの渡り廊下を使って図書室に通っていた。

 昼休み、僕が教室や食堂でお昼を済ませた後にこうやって図書室に通うのは、もはや習慣のようなものだった。僕が一年の頃からその習慣は始まった。


 図書室という場所が好きで、中学時代は度々図書委員に立候補していた僕は、高校に入っても当然のように図書委員を希望した。その結果、去年は一年間ずっと図書委員だった。

 それで、僕が通っていた中学校でもそうだったが、ある種の独特な空気をもつ風変わりな連中が図書室を溜まり場にしていたのだった。

 彼らは同じ空気を感じ取るのに優れていて、図書委員として図書室にやってきた生徒の中から有望な人間を仲間に引き入れ、その構成員を確保し、毎年入れ替わっていく学校という箱庭の中で途絶えることなく存続し続けていくのである(らしい)。彼らは多かれ少なかれオタク的な気質をもつ者が多く、マイノリティーな人間の集まりであったので一学年に数人ほどと、その数は決して多くはなかった。その少数の、結束が強いんだか弱いんだかわからない連中が、閉塞的で排他的な雰囲気を醸し出しているため、素質のない図書委員の多くは次第に図書室に顔を出さなくなり、ある種の独特な空気で満たされた空間が完成する。


 去年の春、僕は当然のようにその仲間に受け入れられた。まさに類は友を呼ぶ、である。

 そして、僕と同時にこれまた当然のように仲間入りした生徒が一人いた。


 そういった仲間内に次第に取り込まれていき、僕は昼休みに特にやることがない時なんとなく図書室に足が向くようになっていた。

 いや、図書準備室に、という方が正確だろう。

 図書準備室というのは、図書室の隣にあり、図書室運営に必要な作業等を行う為の場所である。が、普段それほど利用されることはなく、また図書委員しか入室できないとされる部屋であったが為、溜まり場としてうってつけであり、連中は当然のようにそこにたむろしていた。

 ちなみに、以前図書委員だった時に仲間入りしたが現在は図書委員ではない、という者もいるが、そういった者が準備室を利用するのは暗黙の了解とされている。というかそもそも、ほとんどのメンバーが別々のクラスであったため、現在誰が図書委員かなんてお互いにきちんと認識すらしていなかったのだ。

 現に僕は今は図書委員ではないが、この部屋に堂々と入るし、また図書委員で作業することがあるときは当然のように参加していた。逆に、この溜まり場のメンバーではない正規の図書委員が準備室に入ることは皆無といっていいほどなかったし、仕事に来なかったとしても文句を言う者は誰もいなかった。


 僕は図書準備室のドアに手をかけてスライドさせようとする。が、鍵が掛っていた。まだ誰も来ていないらしい。僕は図書室の方に回り、司書の斉藤さんから鍵を受け取って、準備室の鍵を開けた。

 図書準備室の中心には円卓があり、それをぐるっと囲むように十個の椅子が置かれている。椅子はどうせ余るので、ここに来るようになったばかりの頃にはみんなてきとーに空いてる席に座るのだが、そのうちお気に入りの席が出来てくるようでだんだん定位置に収まるようになってくる。卒業シーズンになると、卒業生の先輩の席を狙っていたやつら同士で縄張り争いを始めることもあるが、それは最終的にはじゃんけんという極めて平和的な方法で解決しうるほどの些細な争いでしかなかった。


 図書準備室には南向きの窓がある。

 斉藤さん曰く、図書館には南向きの窓を作らない、というのは図書館を建てる上での常識らしく、その常識通りにこの学校の図書室にも南向きの窓は存在しない。ただ、この準備室はそうではないようで、管理のために必要な各種資料を収めた本棚の上にあるはめ込み窓から、高く昇ったお日さまの光がさんさんと降り注いでいる。まぁ、ここには資料くらいしか文献は置かれていないし、直射日光の当たらない位置にしか本棚がないから問題はないのだろうが。

 夏は暑いからずっとカーテンを閉めていたが、今の季節は暖かくて気持ちがいい。

 腰をつけずにだらしなく座っていると、昼食後の気だるさとポカポカと暖かい日差しのせいかだんだんと眠気がやってきた。

 腕を組んでだらしなく座った姿勢のままウトウトしてると、ふと、柔らかいものが肩の辺りにあたるのを感じた。

「んぅ~?」

 僕が寝ぼけた声を出すと耳元から吐息混じりの甘ったるい声がかかった。


「おはよ、ミト」


 僕の幼馴染的存在にして、僕と同時にこの図書準備室の溜まり場に仲間入りを果たした女子生徒。


 ――佐藤理世りよだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ