水底の華(みなそこの はな)
白いしろい世界の底に、南天の実がぱらぱら落ちる。
夜ごとに、そういう夢を見る。
……ぱたり。ぽたり、ぱらぱらぽとっ、ぱらぱらら……っ。
夢だから、南天のほかに何もない。現実にはあり得ない、巨きなおおきな樹のしたで、僕はぽつんとひとりきり。
白くて淡く、儚い世界。嬉しくもなく、さみしくもなく、ぼくはうっとり待っている。
……誰かを、ひたすら待っている。
夢みたいで。現実みたいで。
ぼくは、ただただ待っている。
水底のような、白い空間……僕らは、うっとり待っている。
南天の実が落ちる、おちる。ぱらぱらぽたん、ぱらぱらり……赤い赤い実がたまっていく、ひらいてゆく、花咲いてゆく。
ふわふわふわと落ちては上がり、水面にあがり、珊瑚樹の枝をはなれて上へ、うえへ。
赤いあかい紅玉の粒が、血のような柘榴石のつぶつぶが、桃色珊瑚のハートの粒が……。
あがる、あがる、おちる、墜ちる、堕ちてはあがる、ひらひらと。
宝石の粒は種になり、ゆっくりゆっくり花ひらき、たんぽぽになり、すみれになり、桜の花びらはらはらと、ふぅわり浮かぶマリーゴールド。
『……時間だ』
『時間だよ』
『たゆたうフレーズはもうおしまい、歌って舞い踊り、お話をこさえる時が来た』
『上がっておいで、あがっておいで』……。
――ああ、時が来た。
うたえ、踊れ、舞い狂え。しゃらしゃらきらきら、舞い踊れ――。
宝石とお花と、鬼いちごや黒すぐり、金柑やら何やらを体じゅうにめいっぱいに飾りつけ……、
ぼくらは、世界へ手をさしのべる。
(了)




