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オーディン川の戦い

……………………


 ──オーディン川の戦い



 魔王軍北部方面軍と中央方面軍はそれぞれの司令官がノイベルク攻略の功績を得ようと競って前進していた。

 ノイベルクを落とせば歴史に名が残ることは間違いなかったからだ。

 今のところノイベルクを巡るレースで優勢だったのはワシレフスキー上級大将の北部方面軍であり、彼らはオーディン川攻略戦に挑んでいた。


「閣下。偵察情報が入りました」


 参謀がワシレフスキー上級大将に空軍の航空偵察とさらに北部方面軍直轄の偵察部隊が行った情報を提示する。


「敵はオーディン川に防衛線を構築しています。しかし、規模としてはこれまでのような大規模なものではありません。やはりアルトライヒ軍は受けた損害から回復しきっていないようですね」


「好都合だ。このままノイベルクに乗り込み、黒旗を掲げるのだ」


 参謀の報告にワシレフスキー上級大将はそう指示する。


「魔王陛下も勝利を期待しておられる。ゆくぞ、諸君」


 そして、魔王軍によるオーディン川攻略が始まった。

 最初に魔王軍が行ったのは夜間による空挺降下で橋を確保することだった。

 オーディン川にかけられた4つの橋が攻略目標であり、空挺部隊は密かに降下すると現地で橋の爆破準備を進めていた工兵を排除し、橋を確保した。

 それからいつものように猛烈な火砲の砲撃から大規模攻撃が始まる。


「進め、進め! ノイベルクに乗り込むのは俺たちだ!」


 A-34-85中戦車に乗ったレーベデフ少佐が命令を叫ぶ。

 彼らは空挺部隊が確保した橋に向けて進んでいる。

 空挺部隊は精鋭だが、所詮は軽歩兵であるため急がなければ橋はアルトライヒ軍によって奪還されてしまうだろう。


「前方に敵戦車! 新型です!」


「何だと!?」


 レーベデフ少佐が部下の報告に驚く。

 この前にも新型を相手にしたのに、もうまた新しい新型を出してきたのかと。


「あれは……」


 レーベデフ少佐がキューポラから見たのはレーヴェ重戦車である。

 レーヴェ重戦車はゆっくりと砲塔を旋回させ、レーベデフ少佐たちに砲口を向けた。


「不味いぞ……!」


 レーベデフ少佐がそう呟いた次の瞬間、敵のレーヴェ重戦車が砲撃。

 レーベデフ少佐の大隊に所属するA-34-85中戦車が砲撃をまともに食らい、一発で爆発炎上した。

 A-34-85中戦車はそうこうも強化されているのだが、それでも一発である。


「クソ、クソ、クソ! 敵の新型は化け物だ! 気を付けろ!」


 レーベデフ少佐は部下たちにそう警告を発し、すぐさま敵戦車を撃破すべく砲撃を集中する。

 敵の重戦車は幸いにして2両この場にいるだけだった。

 なので数で優るレーベデフ少佐たちは周りから砲撃を浴びせまくり、それによってようやく敵戦車を無力化した。

 この戦闘でレーベデフ少佐たちは7両のA-34-85中戦車を失ったが、レーヴェ重戦車は2両が撃破されたのみだ。

 なんとも不吉な前哨戦であった。



 * * * *



 レーベデフ少佐たちはレーヴェ重戦車に衝撃を覚えたが、それを扱うベルクフェルト大佐たちはあまり自分たちの戦車に快い印象を得ていなかった。


「また泥濘にはまったのか?」


「ええ。移動させるのには専用の回収車両が必要です」


 ベルクフェルト大佐は頭が痛かった。

 レーヴェ重戦車は55トンもの重さのある重戦車だ。

 その巨体ゆえにインフラへの負担が大きい。

 レーヴェ重戦車が通ったあとの橋や道路は悲惨な有様になるし、道路以外の場所を進めばこうして泥濘にはまる。


「まともに前線に到着できるのは10両といったところか?」


 おまけにレーヴェ重戦車はその巨体もあって故障しやすいかった。

 転輪がおかしくなったり、履帯が外れたり、エンジンが故障したり……ととてもではないが信頼のおける兵器ではなかった。

 ベルクフェルト大佐たちは何度も立ち往生し、司令部からいつになったら配置につくのかという苛立ちの命令を受け取っていた。


「上空に敵の攻撃機!」


 さらに目立つ重戦車が列を作ってのんびりと移動しているところを航空優勢を奪っていた魔王軍が見逃すはずもない。

 魔王空軍はベルクフェルト大佐の第601独立重戦車連隊を狙って執拗に爆撃を加えた。

 爆弾が降り注ぎ、レーヴェ重戦車は戦う前から撃破されしまう。


「畜生。忌々しい魔王軍め!」


 ベルクフェルト大佐は飛び去って行く魔王軍の攻撃機に向けて叫ぶ。


「損害は?」


「5両、完全に走行不能です」


「クソ。このままでは……」


 ベルクフェルト大佐は焦りと恐怖を抱いていた。

 このままでは自分たちはオーディン川を守り切れないと。

 そのとき通信兵がベルクフェルト大佐の下に駆け付けた。


「大佐殿。オーディン川にかかる橋のひとつが魔王軍によって制圧された模様。我々は可能な限りの戦力を率いてこれを奪還し、橋を爆破せよとの命令です!」


「了解した。動ける車両だけで進むぞ! 急げ!」


 ベルクフェルト大佐は指揮通信車から命令を叫び、動けるレーヴェ重戦車だけが進んでいく。

 1両、また1両と落後するのを放置して、ベルクフェルト大佐は部隊を前進させた。

 問題の橋に到着したときにはヤグアール中戦車は9両、レーヴェ重戦車は10両までに減少してしまっていた。


「大佐殿! 魔王軍が橋を使って渡河を始めております!」


「遅かったか!」


 そう、そのときすでに魔王軍はオーディン川の渡河を始めており、対岸に橋頭保を築きつきつつあった。


「橋頭保に突っ込んで橋を奪還する。突撃だ!」


 ベルクフェルト大佐はそう命じ、ヤグアール中戦車とレーヴェ重戦車が一斉に橋の方に向けて突撃していく。


「前方に敵戦車!」


 ベルクフェルト大佐たちの前に立ちふさがるのはA-34-85中戦車だ。

 それが8両程度一斉にヤグアール中戦車とレーヴェ重戦車に砲口を向ける。


「撃て!」


 ベルクフェルト大佐の命令に従ってヤグアール中戦車とレーヴェ重戦車が発砲。

 一斉に放たれた砲弾がA-34-85中戦車を撃破する。


「いいぞ! この戦車ならば勝てる!」


 指揮通信車から戦況を見ているベルクフェルト大佐は、これまでは強敵だった魔王軍の戦車が玩具のように破壊されていくのを見て満面の笑み。

 第601重戦車連隊の攻撃は続き、橋の奪還に向け着実に敵の橋頭保を圧迫していた。

 しかし、敵も橋頭保を渡すまいと対戦車砲も総動員して挑む。

 壮絶な撃ち合いが始まり、ヤグアール中戦車やレーヴェ重戦車が炎上し、魔王軍の対戦車砲が爆発し、A-34-85中戦車が大破する。

 それでも勝っているのはベルクフェルト大佐たちだった。

 彼らはもう少しで橋を奪取できた。

 だが……。


「何故動かなくなった? どうしたのだ?」


 ベルクフェルト大佐は突然動かなくなったレーヴェ重戦車を見て焦る。


「ガス欠です、大佐殿。燃料がありません」


「……何ということだ……」


 重量が大きなレーヴェ重戦車はそれだけ燃費が悪い。

 レーヴェ重戦車は当初積んでいた燃料を使い果たし、ガス欠で停車した。


「あと少しだったと言うのに……!」


 ベルクフェルト大佐たちはもう少しで魔王軍の橋頭保を叩き潰し、橋を奪取することができていた。

 だが、その勝利は得られなかった。

  ベルクフェルト大佐たちは戦車兵を回収し、レーヴェ重戦車などを爆破処理して撤退していったのだった。



 * * * *



 魔王軍はそれから無事にオーディン川を渡河した。

 オーディン川を越えればノイベルクまでは障害らしき障害もない。


「いよいよ我々は敵首都ノイベルクに乗り込むのだ」


 ワシレフスキー上級大将はそう言い、部下たちを鼓舞した。

 すでにノイベルクは火砲の射程内に入っている……。


……………………

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