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古都オストクローネ

……………………


 ──古都オストクローネ



 戦いの中でフォーゲル少尉は大尉になっていた。

 相次ぐ敗走で士官を失い続けたせいで、アルトライヒは深刻な将校不足になり、野戦任官でフォーゲル少尉は大尉になったのだ。


「こいつが我が軍の新型戦車だ」


 フォーゲル大尉に見せられた戦車はこれまでのアルトライヒ軍戦車と違い、どちらかといえば魔王軍のそれのような戦車であった。


「ヤグアール中戦車だ。魔王軍の戦車などこの新型にかかれば余裕で撃破できる」


 そう説明するのはシュナイダー中将だ。

 彼は前線がレヒスタン降伏して致命的に崩壊していく中で、その崩壊を食い止めるためにできることを全てやれと命じられていた。


「閣下。この戦車は何両存在するのでありますか?」


「……君の中隊に配備するのが全てだ、大尉」


 シュナイダー中将はフォーゲル大尉の問いに首を横に振ってそう答えた。


 なんてこったとフォーゲル大尉は思う。

 確かにこの戦車は立派に見えるが、たったの14両しかないんじゃあ……と。


「グロスアルトライヒ装甲師団がほぼ全ての戦車を失っているのは知っている。それでもこの師団には精鋭たちがいる。それでどうにかしてもらうよりほかない」


 グロスアルトライヒ装甲師団はミンシクの戦いのあとで瓦解した。

 今や戦車は僅かにしかなく、将校も兵卒も新顔に変わっていた。

 それでもグロスアルトライヒ装甲師団はアルトライヒ陸軍のシンボルとして、立て直しが急がれた師団である。

 こうして僅かにしかないヤグアール中戦車が配備されたのもそんな理由だ。


「グロスアルトライヒ装甲師団には何としてもオストクローネを守ってもらう必要がある。今、まさに友軍や民間人がオストクローネから船で脱出しているのだ」


 シュナイダー中将の言葉にフォーゲル大尉はオストクローネに暮らしている彼の家族や友人のことを思った。

 オストクローネにはフォーゲル大尉の両親が暮らしている。

 そして、フォーゲル大尉の故郷でもあるオストクローネには大勢の友人が今も暮らしているのだ。


「量では劣るが質では我々の方が上だ。そのことを魔王軍に対して示してやろう」


 シュナイダー中将はフォーゲル大尉たちにそう言っていたが、自分でもこれが無茶だと言うことは理解していた。

 量の面で圧倒的な差が出来すぎていて、質で挽回しようにも袋叩きにされるだけだ。

 それに質の面でも汎人類条約機構は優秀な将兵を魔王国の領土内の戦闘で失い、その反面魔王軍の方は戦いから学び続けており、質の差も縮まりつつある。


「オストクローネは何日持たせればいいのですか?」


 フォーゲル大尉はそう質問した。

 彼はオストクローネが落ちるのは確定のように語っていた。

 どう考えても今の状態でオストクローネを永遠に守り抜くことはできないのだと。


「……2週間だ。2週間何としても守りぬけ」


「了解」


 シュナイダー中将もいずれオストクローネが落ちることを否定せず、フォーゲル大尉たちに2週間保たせることを命じた。

 2週間あればオストクローネで進行している撤退作戦が完了する。


「では、諸君の健闘を祈る」


 シュナイダー中将はフォーゲル大尉たちにそう言い、オストクローネ内の司令部に向かった。

 そこにはオストクローネ守備隊の司令部があるのだ。



 * * * *



 レヒスタンの降伏によって戦線はアルトライヒ本土についに接した。

 最初に攻撃にさらされたのは琥珀海沿岸に沿ってレヒスタン側に突き出るようにして存在する東アルトライヒ領だ。

 オストクローネが位置するそこが魔王軍の攻撃目標となった。


「作戦目標はオストクローネだ」


 北部方面軍のワシレフスキー上級大将は参謀たちに告げる。


「我々はアルトライヒの古都を制圧し、やつらに精神的な揺さぶりをかける」


 アルトライヒにとってオストクローネは古都として精神的な支柱になっている。

 魔王軍はそれを制圧することによって、単純な軍事的成果だけではなく、アルトライヒの国民の厭戦感情も煽ろうというつもりであった。


「魔王陛下も勝利を期待しておられる。我々に勝利を」


「我々に勝利を」


 こうして魔王軍によるオストクローネ攻略作戦がスタートした。

 動員された兵力はオストクローネに向けて機動する。


 さて、ここで防衛の指揮を執るシュナイダー中将はかつて自分が行って成功した『後手からの一撃』を計画していた。

 これまでのように縦深防御で敵を弱らせ、そののちに強力な反撃によって敵を粉砕しようと言うわけだ。

 しかし、このことは魔王軍に読まれてしまってたい。

 特にそれで以前痛い目を見たワシレフスキー上級大将が指揮する北部方面軍は強く敵の反撃を警戒し、敵に有力な手だてが取れないようにすることに尽力した。

 まずは火砲による砲撃。

 縦深を制圧するその猛烈な砲撃によって汎人類条約機構軍が考えていた縦深防御が粉砕された。

 それから集中させた航空戦力による打撃。

 航空優勢は瞬時に奪われ、のちに反撃に出るはずの予備戦力まで打撃を受けた。

 これらの攻撃によってシュナイダー中将が考えていた作戦は事実上崩壊した。


「全軍前進、全軍前進!」


 魔王軍の戦車と歩兵がその崩壊した計画を完全に蹂躙していく。


「大隊長殿。全車前進できます」


「よろしい。俺たちがオストクローネに一番乗りだ」


 レーベデフ大尉──今はレーベデフ少佐に昇進した彼が、指揮下の戦車大隊を指揮してオストクローネに攻め入ろうとしている。

 彼の大隊にはここ最近導入された新型戦車が配備されていた。

 A-34中戦車の改良型であり、85ミリ砲を搭載したA-34-85中戦車である。

 主砲だけではなく、装甲の面でも強化されたこの戦車でレーベデフ少佐はオストクローネの戦いに挑む。


「前進!」


 一斉に戦車がエンジン音を響かせて前進を開始する。

 すでに砲撃で耕された汎人類条約機構軍の陣地からの攻撃はほとんどなく、レーベデフ少佐たちは悠々と汎人類条約機構軍の防衛線を蹂躙してオストクローネに迫る。


「大隊長殿。連隊本部から通信です」


「連隊本部は何と?」


「これよりオストクローネ前面の防衛陣地に対して攻撃を仕掛ける。よってこの座標に集結せよとのことです」


「了解した」


 連隊本部からの命令を受けてレーベデフ少佐は座標の位置に向かう。

 そこには連隊規模の戦車と自走砲が待機していた。

 自走砲は122ミリ榴弾砲や152ミリ榴弾砲を搭載したもので、対戦車戦闘のおいても効果を発揮する車両だ。


「レーベデフ少佐。来たか」


 連隊長が本部でレーベデフ少佐を迎える。


「我々はついにオストクローネに迫った。これを1日も早く落とすことを魔王陛下は望んでおられる。よってこれから総攻撃が始まる」


 連隊長はそう言って地図を指さす。


「友軍がオストクローネの西の連絡線を遮断したのちに我々はオストクローネに向けて突撃。これを一気に制圧する。敵の防衛部隊は僅かに1個師団と予想されている。それも大半は民兵の寄せ集めだ」


「脅威にはならないと?」


「油断はするな。だが、過大評価もするな。汎人類条約機構軍はすでに戦力の大部分を喪失していることは紛れもない事実だ」


「了解しました、連隊長殿」


「このままオストクローネを落として、次はノイベルクに黒旗を掲げるぞ」


 ノイベルクの国会議事堂に黒旗を掲げるのは自分がやりたいところだとレーベデフ少佐は思った。

 それからすぐに前進が命令され、レーベデフ少佐たちはオストクローネの攻略にかかった。

 猛烈な攻勢準備射撃という魔王軍の十八番とともにオストクローネ攻略戦はスタートする。

 この猛砲撃ののちに魔王軍はオストクローネ西の連絡線を遮断。

 これによってオストクローネは包囲された。


「前進、前進!」


 そこにレーベデフ少佐が指揮する戦車大隊を含んだ大部隊が押し寄せた。


……………………

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