表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/55

負けないための戦い

……………………


 ──負けないための戦い



 マケラ中尉たちの陣取る丘から敵の車列が見えた。

 A-34中戦車、装甲兵員輸送車、トラックなどなど。無数の車列が道路を進んでる。


「砲撃を要請しよう」


 前進観測班(FO)のコスケラ中尉が残忍な笑みを浮かべていた。

 彼はこれから自分が誘導する砲撃で魔族を大量に撃退できるのが楽しいのだろう。


「こちらコスケラ。砲撃を要請。座標──」


 コスケラ中尉が砲撃を要請してからすぐに最初の砲弾が落下してきた。

 ルオタニア軍の砲兵の腕は悪くなく、最初から道路にぴしゃりと当てた。

 双眼鏡で道路を見ているマケラ中尉にはトラックから降りて慌てて路肩に伏せる魔王軍の兵士たちが見える。


「いいぞ。効力射を要請!」


 それから車列に向けて魔王軍ほどではないが、確かな威力の砲撃が浴びせられた。

 砲撃はトラックを吹き飛ばし、装甲兵員輸送車を破損させ、戦車の履帯を千切って擱座させていく。


 砲撃は1、2分の短い時間で行われた。

 すぐに陣地転換しないと魔王軍の砲兵から対砲射撃を浴びるからである。

 砲兵たちは魔王軍による反撃を避けるために移動を始めている。


「やったな。魔王軍が撤退していくぞ」


「ああ。しかし、連中はこれぐらいじゃ諦めないだろう……」


 それからマケラ中尉とコスケラ中尉はひたすらに次の敵が来るのを待った。

 その間に彼らは自分たちの話をしていた。


「俺はサルミヤルヴィ地方に入植した人間のひとりだった」


 コスケラ中尉が語る。


「前の戦争で魔王軍に奪われるまでは、平和に暮らしていた。土地を開拓して農地を作り、そうやって暮らしていたんだ」


 だが、突然その平穏は奪われたとコスケラ中尉。


「魔王軍は俺たちの耕した農地を砲撃して破壊し、家屋を焼いた。連中は忌々しい獣だ。だから、俺はやつらを1体でも多く殺したい」


 コスケラ中尉がどうして魔族を吹き飛ばすときに笑顔だったかの理由はこれだ。

 彼は故郷となる場所を奪った魔族を憎んでいる。


 それから彼らは何度も砲撃を誘導していたが、魔王軍はどこからルオタニア軍が自分たちを観測しているかに気づいた。

 そして、ついにマケラ中尉たちが陣地を築いている丘に向けて攻撃を始めたのだ。

 まず丘に向けて放たれたのは砲撃だ。


「伏せろ、伏せろ!」


 迫撃砲と思われる砲撃が丘の上にいるマケラ中尉たちの塹壕陣地に降り注ぎ、マケラ中尉が若い兵士たちに向けて叫ぶ。

 兵士たちは塹壕のそこに伏せて砲撃に耐えた。

 しかし、これはまだ攻撃の始まりを知らせるだけのものに過ぎない。


「魔王軍が来るぞ!」


 マケラ中尉たちに籠る陣地に向けて魔王軍の歩兵が襲い掛かってきた。

 丘を埋め尽くしそうな数の魔王軍の歩兵たちが、雄たけびを上げて迫ってくる。


「機関銃、撃て!」


 マケラ中尉の中隊には旧式の重機関銃とアルトライヒからライセンス生産した軽機関銃がある。

 それらが迫ってくる魔王軍に向けて一斉に火を噴いた。

 ばたばたと魔族がなぎ倒されるが、それでも魔族は恐怖せずに丘に突撃してくる。

 彼らは恐怖を有さないのではないかとそう心配になるような光景だった。


「敵が引きます!」


 しかし、そうではなかった。

 ある程度の損害を出すと魔王軍は退却し、再び砲撃が始まったのだ。


「このままここに籠っていても無意味だ。魔王軍に奪取される」


 マケラ中尉はコスケラ中尉にそう言う。


「なら、あなたたちは撤退するといい。俺たちは最後までここに残る」


「本気か?」


「ああ。どうせもう帰る故郷もない……」


 コスケラ中尉はマケラ中尉に力なくそう言った。


「……分かった。幸運を祈る、コスケラ」


 マケラ中尉はそう言い、部下を率いて丘から撤退。

 その後、魔王軍は猛烈な砲撃を丘の上に浴びせ──丘の上には黒旗が翻った。



 * * * *



 各地でルオタニア軍による遅滞戦闘が続いていた。

 魔王軍の進撃を1秒でも食い止めようと、各地で必死の抵抗が続く。


「前進だ。前進せよ!」


 それを撃破せんとするソコロフスキー大将は前線で命じる。

 彼は戦車と装甲兵員輸送車、トラックを前へ前へと押し出し、ルオタニア軍の抵抗を粉砕しようとしていた。

 砲兵も砲弾の雨をルオタニア軍に降り注がせ、魔王軍は進み続ける。


「ソコロフスキー大将閣下。このままならば我々は7日以内にはノルトハーヴンです」


「うむ。素晴らしいことだ」


 前線から僅かに2キロの地点に設けられている司令部でソコロフスキー大将が参謀の言葉に頷く。


「敵はもはや組織的な抵抗が困難になっているはずだ。踏みにじってノルトハーヴンまで急ぐぞ」


 ソコロフスキー大将はそのように判断したが、まだまだルオタニア軍の抵抗は組織的だった。

 彼らは辛うじて防衛線を構築しており、魔王軍が迫るのに激しい抵抗を示す。

 だが、防衛線にほころびが生じつつあることは陸軍司令官であるリンドホルム元帥も把握していた。


「魔王軍は突撃を続けています」


 リンドホルム元帥は淡々と告げる。


「現在の防衛線は持って2、3日。それまでに講和をなさなければ我々は滅びます」


 彼が話している相手はライネ大統領だった。


「……今、講和の準備が進められている。だが、もう7日は欲しい」


「7日ですか……」


「可能か、元帥?」


 ライネ大統領がじっとリンドホルム元帥を見つめる。


「努力はしましょう。ですが、日が経つごとに若い兵士たちが流す血は増えます」


「分かっている。迅速に講和に至るつもりだ」


 リンドホルム元帥はそう言い、ライネ大統領は頷いた。


 7日間、どうにしかして防衛線を持たせ、ノルトハーヴンが侵略されるのを防がなければならない。

 ルオタニア軍の絶望的な戦いは続いた。

 この戦いを戦い抜いても勝利はないと言うのに。



 * * * *



 ルオタニア軍が全力で魔王軍を押しとどめているとき、中立国のアルペニアでは駐アルペニア連邦大使のペルトネンが魔王国に接触していた。


「レーベデヴァ大使。我々は戦争を終わらせたいのです」


 そう言ってペルトネン大使は魔王国の駐アルペニア大使であるレーベデヴァ大使に頭を深く下げた。


「頭を上げてください、ペルトネン大使」


 そんなペルトネン大使にレーベデヴァ大使は優しくそう言う。


「当然、我々も平和を求めています。ですが、これはあなた方から通達された宣戦布告によって始まった戦争です。当然ながら我々はあなた方に平和の対価を要求する必要があります」


 レーベデヴァ大使はそう言うと、すでにルオタニア語に訳された講和条件を提示。

 そこには賠償金の請求や軍事基地としてノルトハーヴンの近くの領土を魔王国に貸与すること、そして軍備制限などについて記されていた。

 ペルトネン大使は屈辱的ではあるが、祖国が滅ぶのに比べれば受け入れられる条件だと判断した。


「分かりました。この条件で講和しましょう。一応本国に確認取ります」


「ええ、ペルトネン大使。前向きな回答を期待していますよ」


 それからペルトネン大使は本国に確認し、本国はレーベデヴァ大使が示した条件を受け入れると回答。

 このことは魔王国の首都バビロンにも伝えられた。


「ルオタニアは講和条件を飲むとのことです」


「そうか。いい知らせだ。ノルトハーヴンまで進軍する必要がなくなる」


 魔王軍は確かに戦いにおいて優勢であったが、少なくない犠牲者も出していた。

 特にルオタニア側に地の利がある戦いでは、魔王軍は思いもよらぬ方角からの攻撃を受けるなどしたのだ。

 魔王国の敵はルオタニアだけではない。

 未だアルトライヒを含めた汎人類条約機構と交戦中なのだ。

 兵力は他でも必要とされている。ルオタニアですりつぶすわけにはいかない。


「講和の締結を急ぐように、モロゾヴァ外務大臣。頼むぞ」


「はい、陛下」


 それから魔王軍とルオタニアはバビロンにて講和を締結。

 バビロン講和条約が締結された。

 ルオタニア方面に拘束されていた魔王軍の戦力はレヒスタン方面へと機動し始める。



 * * * *



 アルトライヒはルオタニアが戦争から脱落したことを知った。


「ルオタニアは上手く戦争から抜けたな……」


 ヴェーバー宰相はそうぼやくように言う。


「ええ。彼らは祖国を完全に魔王軍の戦車に蹂躙されることは避けられました。我々とは違って、ですね」


 そういうのはクレッチマー元帥だ。


「……やはり不味いのか?」


「前線は今や薄氷の上に立っているようなものです。全面的な撤退で戦線を立て直すことも難しい状況です」


 ヴェーバー宰相が尋ねるのにクレッチマー元帥が首を横に振った。


「我々も魔王軍と講和することを考えなければいけない。我々がまだ戦えるうちに」


「ですが、どのような条件で講和を? 今のままでは困難です」


「分かっている。魔王軍に何とかして打撃を与えられないか? シュナイダー少将がやったようにして」


「今は彼はシュナイダー中将です。ですが、難しいでしょう。戦車の性能でも、運用ノウハウでも魔王軍は我々を上回りつつあります」


「そうか……」


 魔王軍の将校たちに質は戦いの中で急激に上昇しつつある。

 今の魔王軍がシュナイダー中将がかつて行った作戦に引っかかるとは思えない。


「どうすればいいというのだ……」


 ヴェーバー宰相はそう苦悶の表情でつぶやいた。


……………………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「エルフの森はなぜ焼かれたのか? ~平和な森が炎に包まれるまでの物語~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ