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ルオタニア作戦

……………………


 ──ルオタニア作戦



 魔王軍は次に片付ける目標としてルオタニアを選択した。

 ルオタニアはサルミヤルヴィ地方を奪取したのちはほとんど停止していたが、それではネヴァグラードが砲撃の危機にさらされるという恐れもあったし、それにいつまでも北部に戦力を拘束されているわけにもいかなかったからだ。


「では、ルオタニア本土に侵攻するのだな」


 ヴァヴェルがそう大本営で確認する。


「はい、陛下。この攻撃でルオタニアを戦争から引きずり下ろします」


 ジューコフ元帥がヴァヴェルの問いにそう答える。


「現在のルオタニア軍は防衛に徹しており、動く気配はありません。サルミヤルヴィ地方を占領し、それを既成事実として講和するつもりなのでしょう」


 ルオタニア軍は度重なる汎人類条約機構からのネヴァグラード攻略の要望を出されていたが、ルオタニア軍はそこまでの軍事力はないと断っていた。

 事実、ルオタニアに進駐したアルトライヒ軍がネヴァグラードを陥落させようとしたが、魔王軍の強固な抵抗にあって失敗している。

 それからB軍集団の崩壊とともにアルトライヒ軍は主力をレヒスタン方面に移動させ、それによってルオタニアは孤立してしまった。


「サルミヤルヴィ地方は取り戻さなければならない」


 ヴァヴェルはそう言う。


「奪われたままであってはならないのだ。すでにあそこには少数ながら魔族が定住を始めていた。それに我々がこの戦争で弱ったという政治的メッセージは人類国家側に一切に与えたくない」


 ヴァヴェルがサルミヤルヴィ地方を取り戻したいのはネヴァグラードを保護するという観点からだけではなく、政治的な意味合いもあった。

 このままサルミヤルヴィ地方を取り戻さなければ魔王軍がこの戦争で人類国家同様に疲弊したと考えるだろう。

 それは次の戦争につながりかねない。

 だから、この戦争で徹底的に人類国家を叩き、自分たちの政治的優位を得なければならないのだ。

 そうでなければ流された大量の血は無意味になってしまう。


「ジューコフ元帥。サルミヤルヴィ地方からルオタニア軍を駆逐し、ノルトハーヴンを目指して進軍するように命じる。願わくば我々に勝利を」



 * * * *



 魔王軍北西方面軍の指揮は変わらずザイツェフ上級大将が執っていた。


「ソコロフスキー大将。君にはノルトハーヴンまで進軍してもらうぞ」


 彼は指揮下に入っているソコロフスキー大将にそう命じる。


「十分な兵力はいただけるのですか?」


「6個自動車化狙撃兵師団と30個の歩兵師団だ。火砲も15000門が君を支援する」


 ソコロフスキー大将が尋ねるのにザイツェフ上級大将はそう答える。


「素晴らしい。では、ルオタニア軍を粉砕し、ノルトハーヴンに黒旗を掲げてごらんに入れましょう」


「頼むぞ」


 かくして魔王軍による攻勢は始まった。


 最初はいつも通りに濃密な攻勢準備射撃。

 自走多連装ロケット砲から何までの砲撃がルオタニア軍が陣取るサルミヤルヴィ地方の防衛線に降り注いだ。

 前線は砲撃によって粉砕され、パニックになったルオタニア軍は撤退を始める。

 そこに魔王軍が戦車を先頭に進んできた、


 この魔王軍の攻勢開始の知らせはすぐさまルオタニア軍司令部に報告される。


「ついに始まったか……」


 ルオタニア陸軍司令官のリンドホルム元帥は忌々しげにそう呟く。


「我が軍の防衛線はすでに突破されました。前線ではかつてのリンドホルム・ラインがあった地点までの遅滞戦闘が始まっています、元帥閣下」


「恐らくは我々はそれ以上の後退を強いられるだろう。最悪の場合、首都ノルトハーヴンが落ちる」


 魔王軍は大攻勢に出た。

 魔王軍は兵士も戦車も火砲も航空機もあらゆる面でルオタニア軍を上回っている。

 そのことは前線からの偵察情報ですでに判明していた。「


「どうなさるのですか?」


「今、ライネ大統領が魔王国との講和交渉に取り掛かっている。我々はそれまでノルトハーヴンを敵の手から守るのだ」


 頼みの綱であったアルトライヒ軍はすでに去り、魔王軍は首都ノルトハーヴンに突撃しようとしている。

 それを防ぐにはもはや魔王軍と早急に講和する以外の選択肢はなかった。


「全軍の全将兵に命じる。講和交渉が終わるまでノルトハーヴンを守り切れ」


 リンドホルム元帥はそう命じ、ルオタニア軍は全力を挙げて首都防衛のための遅滞戦闘を開始した。


 その中には先のルオタニア戦争を戦った将兵の姿もあった。



 * * * *



「マケラ中尉。君の中隊に働いてもらうぞ」


 冬戦争の中でリンドホルム・ラインの防衛を担当していた予備役中尉のマケラ中尉も、この戦争に再び駆り出されていた。


「はい、大隊長殿。我々は何をすれば?」


 今はマケラ中尉は猟兵大隊の下で1個猟兵中隊を指揮しており、彼らは崩壊しつつある前線の僅かに後ろにいた。


「じきに崩壊した戦線から友軍が撤退してくる。進軍する敵とともに。我々は敵を食い止め、そして友軍を現在構築中の新しい防衛線まで撤退させる」


 大隊長はそうマケラ中尉に説明。


「君には前進観測班(FO)とともに魔王軍に奪われるより先にこの丘を奪ってほしい。この丘を観測地点にして、進軍する魔王軍に砲撃を浴びせて友軍が撤退する時間を稼ぐんだ。やってくれるな?」


「お任せください」


「頼むぞ」


 マケラ中尉はリンドホルム・ラインのやや後方にある丘の奪取に向かった。

 この丘からはリンドホルム・ラインから伸びる道路が見渡せ、砲撃の観測地点として優れた場所だと分かっていた。

 今は魔王軍にはまだ奪われていないとそう考えらえている。


「中隊全員! 俺たちは丘の奪取に向かうぞ! ついてこい!」


「了解です!」


 マケラ中尉は自分たちの部下を見て暗澹たる気分になった。

 誰も彼もが若すぎるのだ。

 この戦争で先の戦争からさらに動員が行われ、16歳以上の男性が総動員された。

 そのせいでマケラ中尉の中隊にもまだ子供ような童顔の兵士たちがいる。


 クソッタレめ。子供を戦場で死なせてこの国に未来はあるのか?

 そうマケラ中尉は内心で愚痴る。


 しかし、彼らも軍人になったからには軍人として行動してもらわなければならない。

 マケラ中尉は彼らを指揮して丘の奪取と防衛に向かう。

 その前にまず前進観測班(FO)と合流だ。


前進観測班(FO)の指揮官を務めるイルマリ・コスケラ中尉だ。よろしく」


 前進観測班(FO)はイルマリ・コスケラ中尉という若い中尉に指揮されていた。


「エーロ・マケラ中尉だ。丘を取るのは任せてほしいい」


「ああ。よろしく頼む」


 そしてマケラ中尉は撤退する友軍とは逆に南に向けて進んだ。


「酷い有様だな……」


 マケラ中尉たちが進んでいると前方からとぼとぼと敗れた友軍が撤退してくるのが見えた。

 誰もかれもが泥まみれで血を浴びており、何かしらの負傷をしている。

 手に武器を持っているものもいれば、いないものもおり、まさに戦いに敗れた兵士たちであった。


「中尉殿。この戦争には勝てるのでしょうか?」


「諦めなければな」


 勝てるかって? 今やってるのは勝つ戦いじゃない。負けないための戦いだ。

 もうとっくに勝てるという前提は崩壊しちまっているんだよ。


「あの丘だな」


 マケラ中尉の目に丘が見えた。

 僅かな木々が生えているだけの寂しい丘だ。


「魔王軍がいそうか?」


「いや。それらしきものは見えない。まだここまで到達していないのだろう」


「だといいのだが」


 魔王軍は空挺部隊から特殊部隊まで後方に浸透して前進観測班(FO)の任務を果たす兵士を多く有する。

 密かに後方に浸透して、後方の予備部隊への砲撃を誘導するのだ。

 そうであるからにしてあの丘もすでに魔王軍がいる可能性があった。


「まずは偵察を出した方がいいだろうな。2名、ついてこい!」


 マケラ中尉は若い兵士に偵察を任せるのは不安で自分と少数の兵士で丘の様子を見に行った。

 マケラ中尉たちが丘に到達しても銃声は響かない。

 その代わり砲声は何度も響いていた。遠くで友軍が砲撃されているのだ。


「よし。敵はいない。他の連中を呼んで来い。ここに陣地を作るぞ」


「はい、中尉殿」


 マケラ中尉は丘から道路を見渡す。

 本当にここからはよくこの周辺が見渡せるなと彼は思った。

 だからこそ、マケラ中尉の部隊に命令が下ったのだろうし、魔王軍もすぐにここが観測地点になっていることに気づくだろう。

 そうなったときどうなるのか……。


「マケラ中尉。無事に丘は確保できたな。陣地を作ろう」


 丘の上にコスケラ中尉たち前進観測班(FO)と部下たちがやってきた。


「部下にも手伝わせる」


 それから丘の上に塹壕陣地を構築して、マケラ中尉たちは魔王軍の到来を待つ。


 魔王軍が進軍してきたのは、マケラ中尉たちが丘の上に陣地を構築し終えてから数時間後のことであった。

 戦車、装甲兵員輸送車、トラックなどの車列が道路に満ちる。

 格好の砲兵の目標だ。


……………………

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