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ノクス海海戦

……………………


 ──ノクス海海戦



 オデリスに迫る魔王海軍南方艦隊。


 それを阻止すべくヴァラキア海軍は航空隊を投入。

 彼らの有するほぼ全ての航空機が魔王海軍との決戦に投入された。


 その内訳はHf109戦闘機が40機、SA-214攻撃機20機、Ef87爆撃機24機である。

 Hf109戦闘機はアルトライヒと同様のもので、攻撃隊の護衛に当たる。

 SA-214攻撃機はルミエールの双発攻撃機で、魚雷を搭載している。

 Ef87爆撃機はアルトライヒ製の急降下爆撃機だ。


 これらの攻撃隊が南方艦隊との決戦を求めてオデリスへと飛行する。

 事前に攻撃隊とは別にNs95水上機が偵察に放たれ、それらが敵艦隊の正確な位置を報告してくれるはずだった。


 まだ南方艦隊はその動きに気づいておらず、だが警戒はしていた。


「レーダーに新たな航空反応です。反応2機。また哨戒機でしょうか?」


 レーダー要員がそう報告するのにクルガノヴァ提督は眉をゆがめる。


「次の哨戒機を放ってきたということは、我々の存在は敵の司令部に通報されている可能性が高い。航空機による攻撃に備えろ」


「了解」


 クルガノヴァ提督は素早くそう命じ、レーダー要員も見張り員も空を監視する。

 そして、そこにヴァラキア海軍が放った攻撃隊が現れた。


「敵航空機、数80機から85機です!」


 ヴァラキア海軍航空隊は西から現れた。

 西に向かっている南方艦隊と正面衝突する形で現れたヴァラキアの攻撃隊は魚雷を積んだ攻撃機は高度を落とし、急降下爆撃機は逆に高度を上げる。

 護衛の戦闘機は南方艦隊の直掩戦闘機の排除のために突撃した。


「友軍機を対空砲火に巻き込まないように」


「了解」


 直掩機は艦隊の対空砲火の射程外で敵攻撃隊の迎撃に入る。

 南方艦隊の上空にいた空軍のChE-3戦闘機は60機であり、数の上では敵戦闘機を上回っている。

 しかし、数以上に魔王軍が上回っていたのは練度だ。

 魔王軍のパイロットがいくつもの実戦をすでに経験し、かつ高度に訓練されてるのに対して、ヴァラキア海軍航空隊は飛行時間も短くて実戦はこれが初めてだった。

 ヴァラキアのような小国では訓練飛行に使用する燃料代が確保できなかったり、事故で損耗する機体が出ることを司令官が嫌ったりと、十分な訓練ができない理由がある。


 それでも彼らは義務を果たそうと努力した。

 攻撃隊が突入するまで敵戦闘機を引き付け、敵が友軍機を撃墜するのを可能な限り阻止したのだ。


 しかし、完全に護衛を果たせたとは言い難かった。

 魔王軍の戦闘機はヴァラキアの護衛を駆逐したのち、攻撃隊に襲い掛かった

 戦闘機が狙ったのは魚雷を抱え、低空を飛行している鈍足のSA-214攻撃機だ。

 ChE-3戦闘機は上空から急降下して攻撃機に襲いかかり、機銃を浴びせた。

 SA-214攻撃機も旋回機銃で応戦するも、ほとんど意味はなく低空でエンジンに火が付いた機体がそのまま海面に墜落していく。


 それでも10機ほどのSA-214攻撃機が艦隊に接近することに成功した。

 これと同時にEf87急降下爆撃機も250キログラム爆弾で艦隊を狙う。


「対空戦闘、対空戦闘!」


 敵攻撃隊に対して南方艦隊の猛烈な対空砲火が浴びさせられる。

 口径40ミリ機関砲が無数の機関砲弾を敵編隊に向けて叩き込み、鈍足の攻撃機はまともにそれを浴びてばらばらに砕けて海面に落ちた。


 ここで魔王海軍は一種の選択をした。

 先の琥珀海海戦の結果、装甲化された大型艦に対しては急降下爆撃はさほど有効ではないということが示されている。

 一方で雷撃は大型艦にも有効であり、絶大な効果を示すことも分かっている。


 では、ここで大型艦を守るために大型艦狙いで雷撃を試みる攻撃機の撃墜を優先するのか、それとも小型艦も自衛のために急降下爆撃機を狙うのか、だ。


「敵雷撃機に火力を集中せよ」


 クルガノヴァ提督は迷わず決断した。


 彼女は護衛艦は主力艦を守るべしという役割を徹底させ、自衛のための戦闘ではなく大型艦を守るための戦闘に従事させた。

 これは結果的には成功だった。

 急降下爆撃機はアドミラル・キーロヴァに向けて急降下爆撃を行ったが、爆弾はアドミラル・キーロヴァの十分な水平防御に遮られて全く効果を及ぼせなかった。

 運のなかった駆逐艦2隻が爆弾を浴びて炎上したが、被害はそれだけだ。

 そして雷撃を試みていたSA-214攻撃機は残らず撃墜され、ヴァラキア海軍航空隊による航空攻撃は失敗に終わった。


 今や南方艦隊はオデリスに接近し、牙をむこうとしている。



 * * * *



 南方艦隊がオデリスに到達する前に汎人類条約機構軍は可能な限りの輸送船を港の外に逃がした。

 もし、ここで輸送船が多く撃沈されてしまえば、それこそ汎人類条約機構軍の兵站は完全に破綻してしまうのだ。

 オデリスに向かっている輸送船についても引き返すように命令が発され、オデリスにいる汎人類条約機構軍は魔王軍の到来に備えた。


 そして、彼らはやってきた。


「オデリスが見えます」


「ああ。しかし、敵の輸送船はほとんど逃げているな」


 南方艦隊は可能であれば汎人類条約機構軍の輸送船を多く撃沈することが求められたが、残念なことに港に見えるのは数隻の輸送船だけだ。


「では、目標は港湾内の貯蔵施設だ。この港にある汎人類条約機構軍の物資を可能な限り破壊する」


「我々が作った港を自分たちで破壊しなければならないとは残念です」


「また再建すればいい。この戦争に勝利したあとで」


 アドミラル・キーロヴァの艦長が悔やむようにオデリスの港の方を見るが、クルガノヴァ提督はそう言い切った。


「まずはこの戦争に勝利する。目標、敵輸送艦」


「了解」


 そして、アドミラル・キーロヴァとその僚艦が主砲をもたげて狙いを敵艦に定める。


「主砲、撃ち方始め」


「主砲、撃ち方始め」


 口径38センチ3連装砲3基を有するアドミラル・キーロヴァは9門の火砲を交互射撃で汎人類条約機構軍の輸送艦に向けて叩き込んだ。

 ただの輸送船が戦艦の砲撃に耐えられるはずもなく、一瞬で輸送船は海中に没した。

 港湾内で沈んだ輸送船はそのまま港湾内の通行を妨げるものとなる。

 だが、これはまだ始まりに過ぎない。


 南方艦隊は倉庫や燃料タンクを砲撃し、そこに蓄えられていた汎人類条約機構軍の兵站物資を吹き飛ばしていく。

 燃料が燃えてなくなり、倉庫内にあった食料や弾薬も燃えていった。


「さて、これで任務は完了だ」


 燃え上がるオデリスの港湾施設を見てクルガノヴァ提督はそう言い、艦隊に対して撤退を命じた。

 南方艦隊が猛威を振るったことで、汎人類条約機構軍の兵站計画は破綻した。

 今やオデリスを利用していた東部戦域軍C軍集団は食料も弾薬もなく無防備な状態だ。



 * * * *



 魔王軍南部方面軍が立案した()()()な作戦では、無理なオデリスの奪取を第一目標とせず、あくまでオデリスを汎人類条約機構軍が利用できなくするという目標が定められていた。


 動員されたのも1個自動車化狙撃兵師団と4個狙撃兵師団のみ。

 全軍で30個師団を有する南部方面軍としては実に小規模な攻撃だった。

 その上、第一目標とする到達点はオデリスを野砲の射程に収められる範囲であり、オデリスの奪還ですらなかった。


 このような寒波の真っ只中で攻撃を行うという試みが初めてということもあり、上から下まで慎重になりすぎている様子であった。


「前進、前進」


 いつものように火力を集中した攻勢準備射撃ののちに魔王軍が前進を開始。

 A-34中戦車を装備する自動車化狙撃兵師団が先頭に立って進み、戦車と装甲兵員輸送車の速度で兵力は展開されていく。


「敵はどうしているんだ……?」


 しかし、いくら前進しようとも敵の抵抗はほとんどない。

 こうなると逆に不安になり、魔王軍はより警戒を深める。

 これが罠などではないかと。


 だが、抵抗がないのは当然であった。

 C軍集団司令官のマリノフスキ上級大将はオデリスまで兵力を下げ、さらに魔王海軍がオデリスに艦砲射撃を加えるとオデリスすら放棄して撤退していたのだ。

 これは艦砲射撃でオデリスの港湾設備は損傷しており、これ以上守っても無駄だし、そもそも守り切れないという判断からであった。


 魔王軍は地雷などの汎人類条約機構軍の置き土産を処理すると、オデリスをほとんど血を流すことなく奪還。

 オデリスのガントリークレーンに魔王軍の黒旗が翻ったのだった。


 この勝利の知らせはヴァヴェルの下にも届けられ、大本営ではようやく敵が押し返せたということに歓喜の声が僅かに漏れた。


「今はまだ小規模な反転攻勢だが、春になったならばいよいよ汎人類条約機構軍を相手に逆襲したい」


 ヴァヴェルはそう語る。


「敵は少なくない損害を我々の祖国の地で生じさせた。このまま敵を疲弊させ、しかる後に決定的な一撃を以てしてレヒスタン、ヴァラキア、ルオタニアとの国境まで敵を押し返す。そして、そこから敵地での戦いとなるだろう」


 ヴァヴェルはこの戦争は敵の領土を占領して初めて終結するであろうと見ていた。

 そう、これは総力戦なのだ。

 国という組織が死ぬまで戦い続ける狂った戦争であり、地球では世界規模のものが二度繰り返されたもの。

 ヴァヴェルはその歴史を知っているし、自分たちがそれをなぞっていることも知っている。

 総力戦の狂気がこの世界においても行われていることを。


「願わくばこの戦争ののちに我ら魔族に長い平和が得られることを……」


 狂気の最中にあってヴァヴェルは祈るように大本営の場でそう言った。


 冬が終われば、また戦争の季節が戻ってくる。


……………………

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