航空作戦
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──航空作戦
魔王海軍の潜水艦が琥珀海に大規模なブリタニア海軍の水上艦が侵入したことを報告したのは、リガンの戦いが始まってから10日後のことだった。
未だリガンは陥落しておらず、魔族と人間の血に染まっている。
「このタイミングで敵海軍が動いたのか」
ヴァヴェルはバビロンの大本営で敵海軍が動いたという報告を受けた。
「はい、陛下。複数の潜水艦が敵艦隊がリガンに向けて進んでいることを報告しております。間違いなく敵の狙いはリガンへの攻撃でしょう」
フェドロヴァ上級大将がヴァヴェルにそう説明。
「しかし、まだ琥珀海の航空優勢はどちらも掴めていないはずだが」
先の大本営での話では敵は自分たちが航空優勢が得られない限り、水上艦隊を琥珀海には侵入させないだろうという話であった。
しかし、現在において汎人類条約機構の海軍は水上艦を琥珀海に侵入させ、リガンに向かっている。
「敵水上艦隊に空母が含まれていることが確認されています」
フェドロヴァ上級大将はヴァヴェルの問いにそう答える、
この世界でも空母は実用化されている。
ブリタニア海軍は40~60機の艦載機を搭載可能な空母6隻を保有しており、琥珀海にはそのうち2隻が投入されていた。
「つまり空母の直掩機で艦隊を守っているというわけか」
「その通りです。敵水上艦隊は空母艦載機で艦隊防空を行いながら、リガン攻撃を目指すつもりかと」
「ふむ……」
空母艦載機で常に自分たちの艦隊を守ることができれば、無理に空軍を使って航空優勢を確保する必要はない。
ブリタニア海軍はそう踏んだのだ。
「では、空軍にはまず敵空母の直掩機を排除してもらうということでいいか?」
「はい、陛下。空母の直掩機が外れれば、我々の海軍航空隊が攻撃を仕掛けます」
ヴァヴェルが確認するのにフェドロヴァ上級大将は頷く。
「ならば、まずは空軍に頼むとしよう。バラノフ上級大将、すぐに海軍と連携して行動を取ってくれ」
「畏まりました、陛下」
空軍参謀総長のバラノフ上級大将が頷く。
「リガンに敵艦隊が達すれば、今もリガンで抵抗している我が軍の将兵が多く犠牲になるだろう。それだけは避けなければならない」
ヴァヴェルのその言葉に失敗は許されないと理解したフェドロヴァ上級大将とバラノフ上級大将はそれぞれ任務を達成するために行動を始めた。
まず必要なのは敵艦隊の正確な位置を特定することだ。
* * * *
魔王海軍が保有するKrA-2戦略爆撃機は今は海上哨戒任務に就いていた。
その長い航続距離を生かして琥珀海上を飛行し、琥珀海で活動中の潜水艦から報告のあった海域周辺を飛行中だ。
「見えたぞ! 敵艦隊だ!」
魔王海軍のパイロットの目に敵艦隊が見えた。
空母2隻、戦艦2隻、巡洋艦4隻、駆逐艦らしき小型艦10隻の艦隊だ。
魔王海軍のパイロットはすぐさまこのことを司令部に報告する。
これを受けて司令部は空軍と海軍の混成飛行隊をすぐさま出撃させた。
「出撃だ!」
魔王空軍、魔王海軍のパイロットたちが機体に乗り込んでいく。
さて、魔王海軍には海軍航空隊というものが存在する。
それは海上哨戒と対艦攻撃を主な任務としており、先ほどのKrA-2海上哨戒機やトルブニコフ設計局が開発したTru-2攻撃機を保有している。
しかし、彼らは戦闘機を保有していない。
航空優勢を確保するのは空軍の仕事と割り切っており、海軍はあくまで空軍のエアカバーの下で行動するのであるという方針のためであった。
そのような経緯があって戦闘機を保有していなかったが魔王海軍だが、空軍との演習は欠かさず行っており、その連携に問題はないはずである
そして、この戦いにはパイロット不足のためだろうか、クズネツォフ中尉も駆り出されていた。
『パーヴェル。俺たちは敵戦闘機を一掃するのが仕事だ。だが、あまり敵艦に近づきすぎるなよ。対空砲火にやられるからな』
「了解」
クズネツォフ中尉は編隊長からの命令に返事を返しながら周囲を見張る。
彼のやや後方からは海軍のTru-2攻撃機の編隊が敵艦隊に向かっていた。
Tru-2攻撃機は空軍も急降下爆撃機として使用している優秀な機体で、パイロットたちからはとにかく頑丈でなかなか落ちないと評判であった。
今回そのTru-2攻撃機は本来の急降下爆撃機としてものと航空魚雷を搭載した雷撃機としてのものが半々に混じっている。
本来、急降下爆撃機に魚雷を積むことはあまりなく、攻撃が成功するかは不明だ。
『海軍の連中を敵に落とさせるなよ』
編隊長はそう言い、クズネツォフ中尉たちは敵艦隊に向けて飛行していく。
そして、前方にある雲の下に空母と戦艦を含む敵艦隊が見えた。
『いたぞ。敵戦闘機を駆逐しろ!』
クズネツォフ中尉たちはその命令で敵戦闘機との交戦に突入。
いつものように一撃離脱を心得て、敵戦闘機との格闘戦を拒否する戦法を取る魔王空軍の戦闘機。
それに対してブリタニア海軍航空隊の艦載戦闘機は執拗に魔王空軍機を格闘戦に誘いこもうとしていた。
あのブリタニア空軍も使用している傑作機ケストレルMk.II戦闘機の艦載機版シーケストレル戦闘機を保有するブリタニア海軍の飛行隊は、やはり格闘戦を得意としているのである。
クズネツォフ中尉たちはサッチウィーブ戦法や高高度から急降下攻撃などを仕掛けて、そんなシーケストレル戦闘機を撃墜していく。
しかし、クズネツォフ中尉たちも無傷とは言えず、敵機に無理やり格闘戦に巻き込まれたChE-3戦闘機がそれに応じられず落とされていった。
陸上での墜落と違い、海上での墜落は生還できる可能性が低く、墜落の報告があるたびにクズネツォフ中尉は戦友を失ったことに怒りを覚えた。
「戦友たちの仇を取ってくれよ……!」
クズネツォフ中尉は後方から迫る友軍攻撃隊にそう期待する。
また敵機を完全に掃討したとは言えない段階だったが、魔王海軍機が敵艦隊に攻撃を開始。
Tru-2攻撃機は500キロ航空爆弾を搭載したものがまずは敵艦隊の上空から急降下を行って攻撃を仕掛けた。
パイロットたちがまず狙うのはやはり敵空母と戦艦だ。
まず被弾したのはブリタニア海軍空母アイアンクラッドだ。
装甲空母として知られるこの空母は降り注いだ何発かの爆弾を飛行甲板に受けても無事だったものの、艦橋に被弾してしまい艦長が戦死し一時戦闘不能になる。
もう1隻の空母アンブレイカブルはもっと悲惨で、魔王軍の投下した爆弾は飛行甲板を直撃したのちに僅かに貫通し、格納庫内で爆発。
航空燃料に引火し、火災が発生したことで完全に戦闘不能になる。
戦艦の方はといえば損害は軽微だった。
戦艦ドミニオンは主砲塔に爆弾を受けるも損害はなく、もう1隻の戦艦インビクタスも対空火器に僅かな損害を受けただけだった。
急降下爆撃隊が敵艦の猛烈な対空砲火を引き付けているとき、雷撃隊も敵艦隊に迫っていた。
航空魚雷を搭載したTru-2攻撃機は水面ぎりぎりを飛行して敵艦隊に接近。
輪形陣を組んでいる敵艦隊の外縁に位置する駆逐艦に向けてまずは牙をむいた。
Tru-2攻撃機から放たれた航空魚雷は敵の駆逐艦の脇腹に突き刺さり、大穴が空いた駆逐艦は急速に傾斜して沈没していく。
駆逐艦隊は慌てて狙いを雷撃機に絞り、低空を大荷物を抱えて飛行しているTru-2攻撃機はばたばたと撃墜され始める。
そこで再び敵の急降下爆撃機が登場し、雷撃機に対空砲火を集中し始めた駆逐艦を屠り始めた。
* * * *
「なんてことだ」
アルファ任務部隊の旗艦である戦艦ドミニオンの艦橋で、司令官のフレデリック・ホークスワース中将は呻いていた。
戦艦の艦橋からは炎上する友軍空母と沈没していく無数の駆逐艦が見える。
「どうなさりますか、提督?」
戦艦ドミニオンの艦長がホークスワース中将に青ざめた表情で尋ねた。
彼は明らかにホークスワース中将が撤退を命じてくれることを祈っている様子だ。
「このまま撤退することはできない」
しかし、ホークスワース中将はそう言う。
「リガンでは友軍が泥沼の市街地戦に苦しんでいる。我々は何としてもそれを助けなければならないのだ」
リガンが地獄の戦場なのは魔王軍だけではなく、汎人類条約機構でも同様だった。
リガンを制圧するのに今も汎人類条約機構軍の兵士たちは血を流している。
それを助けるために今回の海上作戦は立案されたのだ。
「せめてリガンに向けて艦砲射撃を行いたい。それまで撤退することはできない」
ホークスワース中将の言葉に艦長たちはなんてこったと思った。
このままじゃあ、俺たちは恐らくリガンに到着することもなく全滅だぞと彼らは思い込んでいた。
もしや、提督はこのまま逃げ帰って無能の汚名を着せられるのが嫌で死ぬつもりなんじゃないかと思う人間すらいた。
「友軍戦闘機が上空に到着しました!」
しかし、ここで戦局を変えるかもしれない増援が現れた。
友軍であるブリタニア空軍のケストレルMk.II戦闘機の編隊が上空に現れたのだ。
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