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雷撃

……………………


 ──雷撃



 ワシレフスキー上級大将はその戦車を見上げていた。


「アルトライヒの戦車ではないな?」


 その戦車は明らかにアルトライヒのルクス中戦車の流れを汲むものではない。


「ええ。これはブリタニアの戦車です。情報部によればセンチネルMk.II歩兵戦車というそうですね。主砲と速度は我が軍のA-34中戦車に比べれば大したことはありませんが、装甲はなかなかのものですよ」


「ふむ。これが連中の対外支援というやつか……」


 ブリタニアはアルトライヒを含めた汎人類条約機構加盟国に対する軍事支援を開始していた。

 戦車や火砲、航空機といった軍事支援が次々に大陸海峡を渡り、レヒスタンで開かれている東部戦線に到着していた。


 このことを魔王国のモロゾヴァ外務大臣は批判し、中立違反であると糾弾した。

 しかし、それぐらいでブリタニアが支援をやめるはずもなく、ブリタニアからの軍事物資は東部戦線で汎人類条約機構に反撃の機会を与えつつあった。

 首都ヴァルシャはますます遠くなり、魔王軍では苛立ちが募った。


 そんな中で魔王海軍が動いていた。

 魔王海軍は開戦以来、琥珀海を行き来するアルトライヒやレヒスタンの艦艇を狙った攻撃を行っていた。

 その攻撃の主力をなしているのは潜水艦で、魔王海軍の潜水艦隊はろくな対潜装備を有さないアルトライヒとレヒスタンの艦隊に牙をむいていた。


 魔王海軍琥珀海艦隊所属のS-99はそのような作戦に従事している最中である。


「潜望鏡深度まで浮上」


「潜望鏡深度まで浮上」


 古い潜水艦としてそれなりの騒音を出しながら、S-99は潜望鏡が使用可能な深度まで浮上した。


「見えたぞ。レーダーが探知したとおりだ。デカい輸送船がいるな……」


 ガリーナ・ペトロヴナ・アリョーヒナ海軍少佐でありS-99の艦長は潜望鏡からの光景に思わずそう呟いた。

 彼女の視線の先には1万トンほどだろう大型輸送船が見える。


 魔王海軍は潜水艦を始めとする艦船に積極的に新しい技術であるレーダーを搭載していた。

 このS-99も事前にレーダーを使用して目標を探知し、その情報に基づいてここまで進出してきたのである。


「アルトライヒ海軍の護衛艦はほとんどいないようだ」


「食いますか?」


「そうすべきだろうな」


 それからアリョーヒナ艦長の命令で魚雷が装填され、狙いが輸送船に向けられる。

 S-99には前方に6門と後方に4門の魚雷発射管がありアリューヒナ艦長は前方に全ての魚雷を使用することにした。

 というのもこの時代の魚雷というのは不発が生じることがあり、また威力不足で大型艦を沈め損なうこともあるからだ。

 アリューヒナ艦長はそれに備えた。


「1番から6番魚雷発射管、撃て」


 そして彼女の命令で回避行動が難しいように扇状に魚雷は発射された。

 放たれた魚雷は見事に敵輸送船に命中し、敵輸送船は傾斜を始めると琥珀海に沈んでいった……。



 * * * *



 ブリタニアの新聞ロンディニウム・タイムズはアリョーヒナ艦長の()()を大々的に報じていた。


『魔王軍、避難民の乗った我が国の客船を撃沈する!』


 そう、アリョーヒナ艦長が沈めた船はブリタニアのものであり、さらに言えば彼らは自称するところによれば武器弾薬ではなく中立国へ疎開することを目指していた避難民たちを乗せていたらしい。


 ブリタニアはこのことを猛烈に批判し、魔王軍は戦時国際法上は非合法とされる無制限潜水艦作戦を行っていると糾弾した。

 しかし、魔王国もブリタニアの主張に反論し、当該輸送船が本当に避難民を乗せていたかの証拠はないとした。


 両国で輸送船撃沈を巡る非難の応酬が高ま中、ついにブリタニア議会は魔王国への宣戦布告を決定した。


「ようこそ、レヒスタンへ、ラングレー大将」


「出迎えに感謝します、シュタインバッハ上級大将閣下」


 ブリタニア陸軍から派遣された海外派遣軍の司令官であるロバート・ラングレー大将はシュタインバッハ上級大将──シュナイダー少将の勝利のおかげで昇進した──の出迎えを首都ヴァルシャの空港で受けた。


「さて、戦況について知らせよう」


 シュタインバッハ上級大将はそう言ってラングレー大将を司令部に案内する。


「我々東部戦域軍は現在も魔王軍による圧力を全方位から受けている」


 シュタインバッハ上級大将は新たにアルトライヒ・レヒスタン・ルミエール・ブリタニアの4か国の軍隊で構成される東部戦域軍の司令官となっていた。


「君の指揮する第8軍には我々とともに圧力が強い北部方面の守りを固めてほしい。北からの攻撃は君も知っての通りシュナイダー少将が一度退けたが、再び攻撃が開始される可能性はある」


 シュタインバッハ上級大将はそう言い、ラングレー大将が指揮する海外派遣軍の配置を示す。

 彼らは以前シュナイダー少将が魔王軍を退けた場所に配置された。


「実を言うと我々は大きな作戦を計画している」


「ほう?」


「シュナイダー少将の勝利は大きかった。あれをもっと大規模にやれないかと考えていたところなのだ」


 シュタインバッハ上級大将はそう言いながら地図を示す。


「相手にまずは先制攻撃を放たせて、それに対するカウンターを打ち込む。我々はそれを意図的にやろうとしている。この部位を見るといい」


 そう言ってシュタインバッハ上級大将が示すのは北部ではなくレヒスタン南部だ。


「ここの守りはあえて脆弱にしてある。やがて魔王軍はこの地域で前進を始めるだろう。そうしたところで北部から我々は快速な戦車を以てして反撃に出る。そうすることでシュナイダー少将がやったように敵の突出を刈り取るのだ」


 シュタインバッハ上級大将が示したのはまるで回転ドアのように両軍が機動する様子であった。


「面白い作戦ですね」


「ああ。魔王軍が罠にかかりさえすれば戦争は我々の有利になる」


 ラングレー大将が率直な感想を述べるのにシュタインバッハ上級大将はにやりと笑って見せた。


「君たちブリタニア海外派遣軍には期待している。我々に続いて機械化されている部隊だからね。これからの戦争はやはり機械化されていなければならないよ」


 ブリタニア海外派遣軍は1個機甲師団と9個自動車化歩兵師団からなる高度に機械化された精鋭部隊だ。

 東部戦域軍司令部はこのほかにも機械化された部隊を北部に配置して、魔王軍が回転ドアを押し始めるのを待った。



 * * * *



 魔王空軍はレヒスタン上空の航空優勢争いを行っていた。


 というのも、ここ最近航空偵察が頻繁に汎人類条約機構の空軍部隊の妨害に遭っているのだ。

 魔王空軍は開戦初期には少数の汎人類条約機構の空軍部隊を相手に優勢だったが、ブリタニアやルミエールの介入以降は楽な狩りはできなくなっている。

 そんな中で魔王空軍は偵察飛行を陸軍からの求めで行っていたが、偵察機が狙い撃ちにされているかのように撃墜されていた。


『パーヴェル。俺の方に食らいついた。落としてくれ』


「了解」


 クズネツォフ中尉はルオタニア戦争のあともパイロットであり続け、今は僚機を援護する位置についていた。

 僚機の背後には現在アルトライヒ空軍のHf109戦闘機が食らいついており、クズネツォフ中尉はそこに向けて飛行していた。


 ルオタニア戦争で魔王軍のChE-3戦闘機は高速ゆえの旋回性能の低さと格闘戦能力の低さを露呈してしまった。

 魔王空軍ではすぐさま対応策が考えられ、パイロットの再教育が開始された。

 魔王空軍が選んだ格闘戦で優れる汎人類条約機構の戦闘機に対応する方法──それは格闘戦に持ち込まれないようにするということであった。


 魔王空軍は一切の格闘戦を拒否する。

 敵に合わせて低速でやり合うことはせず、持ち前の上昇力で高高度から急降下して一撃を加える。

 または僚機を囮にして一度敵を食らいつかせ、その側面からやはり一撃離脱で攻撃を叩き込むという地球で言うところのサッチウィーブ戦法が取られていた。


 クズネツォフ中尉は今まさにサッチウィーブ戦法の僚機に食らいついた敵戦闘機を狙う立場にあり、僚機を追いかけている敵戦闘機の側面に現れると口径20ミリ機関砲を叩き込んだ。


 敵機は炎に包まれて地上に落ちていく。


『次は俺に食わせてくれよ』


「ああ。俺の方に食らいついたらな」


『よろしく頼むぜ』


 クズネツォフ中尉たちパイロットは新しい空戦を学習し、魔王空軍の損耗は減ってその戦果は増えた。

 しかし、やはり航空偵察は妨害され続けている。


 それもそうだろう。

 汎人類条約機構は北部に大規模な兵力を機動させている最中だったのだから。

 彼らは巧妙にカモフラージュを施し、戦力をじわじわと北部に集結させつつあった。

 その一方で南部の守りが脆弱だと気付いた魔王軍は南部に兵力を機動させ始めた。

 シュタインバッハ上級大将が画策するところの回転ドア作戦は、着実に実行に向けて進みつつある。


……………………

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