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戦争の教訓

……………………


 ──戦争の教訓



「これが敵の戦車か」


 そう言って魔王軍のA-26軽戦車を眺めるのは、落ちくぼんだ目に鋭い眼光を宿したアルトライヒ帝国陸軍の軍服を纏った人物であった。


「はっ! 魔王軍がA-26軽戦車と呼称する戦車となります、シュナイダー少将閣下」


「よく持ち帰ってくれたな、ベルクフェルト少佐。感謝するぞ」


 そう、アルトライヒ帝国で戦車を中心にした戦いを布教している人物カール・シュナイダー少将だ。


 アルトライヒ帝国はルオタニア戦争でいくつもの鹵獲品を得た。

 魔王軍の装備する小銃や火砲、トラック、航空機、そして戦車だ。


 それらはルオタニア共和国に一定の代金を支払ってアルトライヒ帝国が買い取り、アルトライヒ帝国本土の運ばれて来た。

 今は陸軍の試験場でその性能が確かめられている。


「軽戦車というが、我々のルクス中戦車とほとんど変わらないな」


「ええ。エンジンの性能もほぼ同等です。さらに主砲に至っては連中の方が強力と来ています」


「ふむ。我が国の軽戦車は機関銃を乗せているだけだというのに」


 アルトライヒ帝国が今も偵察用に保有するラッテ軽戦車は7.92ミリ機関銃2門を乗せただけのものだ。

 戦車開発初期の塹壕を超えて歩兵を支援するというその目的のみのために作られたもので、正直に言って今の時代にはついていけていない。


「魔王軍の中戦車には遭遇しなかったのか? 重戦車には?」


「いいえ。遭遇していません。連中が繰り出してきたのは、こいつだけです」


「ふむ。防諜目的か……?」


 魔王軍が中戦車や重戦車を開発していないとはシュナイダー少将もベルクフェルト少佐も思っていなかった。

 伝え聞く魔王国の工業力があればそれらを開発するのは容易だろうからにして。


「ベルクフェルト少佐。実際に魔王軍と戦って見ての感想を聞かせてくれ」


「はい、閣下。敵はまだ閣下が考えるようなドクトリンを有するまでには至っていないようです。連中は常に戦車を歩兵の速度に合わせていました」


「それは朗報だ。うちのじいさんたちと同じような考えというわけだ」


 シュナイダー少将が侮蔑を込めて語ったじいさんというのは、今のアルトライヒ陸軍を仕切っている老将軍たちのことである。

 ルミエール共和国との塹壕戦を経験した彼らは今もその記憶に取りつかれている。


「ルクス中戦車の性能には満足できたか?」


「残念ながら。口径37ミリ砲はやはり脆弱な火力ですな」


「やはりか。一応ルクスII中戦車では口径50ミリ砲に切り替える予定だ。だが、それ以上の砲を乗せるとなると車体の方が持たない」


 ルクス中戦車はアルトライヒ帝国の主力となるべく作られた戦車であった。

 大量生産されたその戦車はアルトライヒ帝国の装甲部隊の8割が装備するほどのものとなっていたが、その性能はすでに時代遅れになりつつあった。


「例の突撃砲の方はどうなのですか?」


「あれは。長砲身の口径75ミリ砲を乗せることはできるらしい。しかし、やはり管轄として砲兵が扱うことになって連中が持っていった。クレッチマーのじじいは砲兵贔屓だからな仕方ないが……」


 ベルクフェルト少佐が尋ねるのにシュナイダー少将は首を横に振る。

 突撃砲というのは砲塔を戦車に固定することで作りを簡素にし、さらには従来ならばターレットリングに制限される大きな火砲も搭載できる装甲戦闘車両(AFV)だ。


 しかし、この突撃砲はアルトライヒ陸軍では戦車ではないとされ、砲兵に配備されるものとなっていた。

 これは砲兵に配備されるとそれこそ歩兵の支援のために榴弾ばかり乗せることになり対戦車戦闘において脆弱になるほか、シュナイダー少将が求めるような戦車の速度に合わせた新しいドクトリンの実現が困難になる。


「では、新しい車体の設計が必要ですね」


「ああ。デカい砲を乗せることができ、そして何より鈍重ではないものが必要だ」


 シュナイダー少将は協力な戦車が必要だとは思っていたが、どちらかといえば快速の中戦車を発展させたがっていた。

 彼が目指すものが戦車の機動力による機動戦を主体としたドクトリンであるためだ。

 鈍重な重戦車は彼の目指す思想と一致しない。


「我々がこうしてのんびりしているときに、敵も足踏みしてくれていればいいのだが」


 シュナイダー少将はまだまだ発展途上の祖国の戦車を前にそう呟いた。



 * * * *



 シュナイダー少将が想定する敵は、早くも次の戦車を開発していた。


「これがKW-1重戦車です、陛下」


 ヴァヴェルの前にそう披露されたのはT-26軽戦車の一部を代替するものとしてボロディン設計局が開発したKW-1重戦車であった。


「ふむ。今までものとは大きさが違うな」


 ヴァヴェルはバビロン郊外の陸軍試験場を走行するKW-1重戦車を見てそう呟く。


「その通りです、陛下。主砲は口径76.2ミリ砲を搭載し、装甲厚も正面は90ミリ近くります。その分、重量も45トンとなりましたが……」


 ボロディン設計局の技術者が申し訳なさそうにそう言う。


 重量はそのまま車体への負荷になり故障の原因となるし、インフラへの不可も大きいというデメリットがいろいろとある。

 だが、ヴァヴェルの求めるものを実現するには40トンを超えてしまっていた。

 これはこの時代の戦車としてはかなりの重量だ。


「構わない。これはこれまでのそれよりもよく動いている。今までは足の生えたトーチカレべルでしかなかったからな」


 ヴァヴェルは重戦車にもそれなりの機動性を求めた。

 彼が想定している戦場はふたつ。

 ひとつは自国内で繰り広げられる防衛線、そしてもうひとつはそこからの敵地への反転攻勢だ。


 重戦車は守りにおいては足の生えたトーチカで十分だった。

 自国内での防衛戦においては機動力よりも火力と装甲が求められる。


 しかし、これが攻勢に転じるとなると重戦車は足の生えたトーチカから、逆に敵のトーチカを破壊する破城槌にならねばならない。

 そこには確かな機動力が必要とされる。


「しかし、主砲は開発中の中戦車と同じか」


「まだ口径76.2ミリ砲以上の対戦車砲が開発できないこともあります」


「ふむ」


 魔王軍は様々な口径の榴弾砲やカノン砲を開発していたが、対戦車砲は未だに口径76.2ミリのそれが最大のものであり、それすらもまだ広く行き届いていない。

 しかも、この口径76.2ミリ砲は同口径の榴弾砲をベースにしたものであり、最初から対戦車戦闘に特化したものではなかった。

 だが、先のルオタニア戦争では牽引されて展開した口径76.2ミリ砲がルクス中戦車を撃破していることから、全く対戦車戦闘に適さないというわけではないと分かっている。


「空軍の口径85ミリ高射砲を転用できないか聞いてみよう」


「ええ。この戦車の車体にはまだまだ余裕があります。将来的により大きな口径の物が搭載可能です」


 ヴァヴェルはそう提案し、技術者は安堵の表情を浮かべていた。

 とりあえずはこのKW-1重戦車はヴァヴェルの求めに応じられたのだと。



 * * * *



 さて、ヴァヴェルは空軍の高射砲と言ったが、魔王軍において都市防衛のための大口径高射砲は空軍の管轄であった。

 野戦軍の防空のための高射砲などは当然陸軍の管轄であるが、敵戦略爆撃機が襲い掛かる都市においては空軍の飛行隊に合わせて行動する必要があるため、空軍の下に防空軍という組織が設置され、そこが高射砲を管轄していた。


 そのような空軍は先のルオタニア戦争での教訓を分析しているところだった。


「我が軍の戦闘機の主な墜落の原因です」


 空軍参謀総長であるバラノフ上級大将に報告を行うのは、ルオタニア戦争で空軍部隊の指揮を執ったアレクセイ・ドミトリエヴィチ・マルコフ中将だ。

 彼は吸血鬼として初めて空軍の将官の地位を得た優れた人物として知られている。


「墜落の原因の多くは敵戦闘機と戦闘によって生じており、次に高射砲による砲撃、その次に機体トラブル、最後に友軍による誤射となっています」


 マルコフ中将がそう報告するのをバラノフ上級大将は静かに聞いていた。


「敵の戦闘機を鹵獲できましたが、エンジン性能に限って言えば我が国のそれが上回っています。パイロットたちも速度で負けることはなかったと証言しているぐらいです」


「では、練度の問題か?」


 バラノフ上級大将がそう問う。


「それも考えられます。パイロットに聞き取ったところ、ほとんどの戦闘機が敵戦闘機とのドッグファイトによって撃墜されていますので」


「ううむ……」


 魔王空軍はパイロットの練度を相当高めていたはずであった。

 彼らはとにかく訓練飛行を行い、パイロットたちの飛行時間を伸ばしていた。

 その平均飛行時間はアルトライヒ空軍やブリタニア王立空軍のそれらと比較しても遜色ないものだったはずだ。


 だが、どういうわけかルオタニア戦争では多数のパイロットの犠牲が生じている。


「あるいはドッグファイトの理論に間違いがあるが可能性があります」


 マルコフ中将はそう言ってChE-3戦闘機の模型を手にする。


「我が国の戦闘機は速度で敵を凌駕していますが、敵の戦闘機は運動性能がいい。となりますと、従来のドッグファイトでは我々の強みである速度が生かし切れていないのではないでしょうか?」


「だとすれば、一日も早くパイロットを訓練しなおす必要があるな」


「ええ。すぐさま新しいドッグファイトの理論を考えねばなりません」


 バラノフ上級大将はそう言い、マルコフ中将も頷いたのだった。


……………………

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