資金獲得までの綱渡りな日々
「パラケルスス」からの書簡が軍部の最高幹部に届いてから数日。トウヤとエリーは、長屋の部屋で息を潜めて過ごしていた。匿名の銀行口座に巨額の資金が振り込まれるか、あるいは軍に怪しまれて衛兵が踏み込んでくるか、運命の分かれ道を待つ緊張の日々だった。
この時間を使って、二人は「もし成功したら」の具体的な計画を練り始めた。
「エリー。資金が手に入ったら、まずこの王都から出る。国外まで逃げるか、王都から遠い辺境の領地まで身を隠すかだ。どこに逃げるにしても、君の身分をどう説明するか決めないとな。」
エリーは神妙な顔をしながらつげる
「恋人や夫婦では、貴族社会の法に縛られて貴方の首を絞めてしまいます。わたくしは、公爵令嬢として恥じない形で復讐を遂げるまでは、貴方の足枷にはなりたくありません。」
「分かった。じゃあ、『遠縁の親戚』で『病弱な妹』という設定で行こう。病弱な妹設定ならあまり、外に出なくても怪しまれそうにないしな。そして俺は財産を失ったが、知識で何とか生計を立てている兄という体裁だ。この設定なら、誰も深追いしないだろう。」
エリーは、トウヤの配慮に感謝しつつ、この偽りの関係を受け入れた。
次に問題となったのは、エリーの美しすぎる外見だった。特に、手入れが行き届いた淡い長い金色の髪は、目立ちすぎており平民としてはあまりに不自然だった。
「エリー、君の髪、本当に綺麗だが、目立ちすぎる。なんとか束ねる必要がある。」
事前に髪の手入れやセットは侍女任せで自分では出来ないということでトウヤに任せる事にしていた。
そしてトウヤは鏡がない部屋でエリーの髪を触りながら、自分の知る最も堅牢で美しい髪型を思い浮かべた。
「よし。君の髪を、こんな風にっと…三つ編みに編み上げ、それをうなじのあたりでコンパクトなシニヨンにまとめよう。まるで、とある騎士王みたいな、毅然とした髪型だ。これをフードで覆えば、少しは目立たなくなる。」
トウヤが言及した『騎士王のイメージは、エリーにとっての「高潔な誇り」と重なった。
「騎士王……。わたくしが、汚名をそそぐための覚悟を示す髪型ですね。お願いします、トウヤ。」
トウヤは、慣れない手つきでエリーの髪をまとめ上げた。その姿は、確かに高潔で、追われる令嬢ではなく、運命に立ち向かう騎士のようだった。




