神の座からの転落と新たな契約
昨夜は、トウヤが用意した固い黒パンとチーズという粗末な食事で空腹を満たし、怪我の手当てだけを施して、二人分の生活を賄うには狭すぎる部屋で夜を明かした。
翌朝。貧民街の長屋の一室に差し込む薄暗い光の中で、トウヤは飛び起きた。日雇いの仕事に遅れるわけにはいかない。
(まずい、時間がねぇ! でも、このまま日雇いに行ったら、『神のフリ』をしたまま大公爵令嬢を置いていくことになる。あとでバレて面倒なことになるのは勘弁だ! 今のうちに白状して、問題を最小限に抑えるのが賢明だろう。)
彼は、粗末なベッドで目覚めたばかりの少女、エリーに声をかけた。エリーは神妙な面持ちで、トウヤの次の「神の啓示」を待っていた。
おはようございます、『理を司る者』。昨日の契約、心より感謝しています。貴方の次の指示は――」
トウヤは咳払いをして、視線を逸らし、焦りながら
「えーっと、エリー。緊急で、至急伝えたいことがある!その、君が言っていた『契約』の件なんだけどな……実は――俺は神様なんかじゃない一般男性なんだ。」
エリーはポカンと目を見開き
「い、一般……男性? では、あの『運命の車輪』や『アカシャの記録』は……?」
トウヤは額に汗をかきながら、小声で早口になる
「あれは、君の警戒心を解くための、知識の応用というか……なんというか、小説や物語で読んだ知識の真似事だ! すまない! 芝居だった! でも、俺が君を助けたかったという気持ちは本物だ!」
エリーの顔は、驚愕と混乱で固まっていた。しかし、昨夜のトウヤの必死の介抱と真剣な目、そして恩義を知るエリーは、怒るよりもトウヤの誠実さを受け入れた。
エリーは深い溜め息をつき、優しく微笑む
「……分かりました。トウヤ。貴方が命を懸けて助けてくださった恩義は、決して忘れません。これからも、わたくしを助けてくださいますか?」
トウヤは、命拾いした心地で頷き、改めて協力関係を築いた。彼の無能力転移者としての、本当の物語が、ここから始まったのだ




