長期戦への覚悟
市場から戻ったトウヤは、新鮮な食材や生活用品をキッチンに並べながら、今後の見通しをエリーに語った。
「フィオナに近づく作戦は、明日以降だ。だが、この王族相手の復讐劇は、すぐに終わる戦いじゃない。証拠を探し、根回しをするには、年単位の時間がかかると覚悟しておけ。」
彼は、巨額の資金があるとはいえ、無計画な消費は避けなければならないと、自身の現代人的な倹約精神で判断していた。
「だからこそ、まずはこのカーステンの隠れ家での生活基盤を安定させる。君の体調管理、情報収集。全ては長期戦だ。焦るな。」
エリーは、トウヤの冷静な長期計画に安堵を覚えた。彼女の復讐心は熱かったが、トウヤの現実的な判断力こそが、彼らの命綱だと理解していた。
夕食の時間。トウヤは、調達した食材を使い、平民としては上等な、しかし貴族の華やかさはないシンプルな料理を作った。
テーブルには、新鮮な野菜を使ったスープと、香ばしい肉のソテー、そして焼きたてのパンが並んだ。
「どうだ、エリー。王都の長屋の固いパンとチーズとは違うだろう。このスープには栄養がたっぷりだ。まずはしっかり食べて、体力を完全に戻すぞ。」
エリーはスープを一口すすり、目を閉じて感動する
「……美味しいです、トウヤ。こんなに温かくて、心のこもった食事は、わたくしの屋敷でも、味わえませんでしたわ。」
「それはよかった。君が楽しそうにしてくれると、俺も嬉しいよ。」
食事の合間に、二人は昼間の外出の話題になった。
エリーは微笑みながらトウヤにお礼を言う…
「今日は、市場に出られて本当によかったです。全てが初めての経験でした。自分で物を選び、お金を払う……。貴族が使用人に指示するのとは、全く違う、生きた喜びに満ちているのですね。」
「ああ。カーステンは商業都市だから、活気がある。君が言っていた、民草の生き生きとした顔を見られて、俺もよかったと思っているよ。王都の貧民街とは違う、『人が普通に生きている場所』の空気を吸うのも、精神衛生上大切だ。」
トウヤは、自分を巻き込んだ命がけの復讐劇から、意識を「この街での静かな日常生活」へと向けようとしていた。それは、エリーが復讐心だけに囚われず生きてほしいという切実な願いでもあった。




