隊長への交渉
王都の門をくぐり、街道に出たトウヤは、隊商の最後尾にロバ車をつけたまま、隊列の先頭にいる隊長に話しかけに行く必要があった。
ポケットから隊長への交渉で使う小銭を握りしめていた。
トウヤは隊列の先頭を行く、屈強な体躯の隊長に声をかける
「隊長さん、少しよろしいでしょうか?」
隊長は、ロバ車を引くトウヤを見て、怪訝な目を向けた。
隊長「なんだ、てめえ。俺たちの後ろに勝手にくっついてきやがって。何の用だ。」
トウヤは努めて落ち着いた態度で
「この度、こちらの商業都市まで行きたいのですが、私一人と、病弱な妹を乗せたこのロバ車では、道中が危険でして。どうか、貴隊の護衛の傍を、一緒に目的地まで向かわせていただけないでしょうか。」
トウヤは、握りしめていた小銭を隊長の手に押し付けた。その額は、貧しい平民にとっては十分な額だったが、隊商の護衛料としては微々たるものだった。
隊長は、小銭を一瞥し、鼻で笑うことなく、トウヤの背後のロバ車に目を向けた。そして、「病弱な妹」という言葉に、彼の表情は一瞬で変わった。
隊長は低い声で、遠い目をする
「病弱な、妹……か。」
隊長は、かつて流行り病で幼い妹を亡くした過去があった。トウヤの必死な眼差しと、幌の中に隠された病弱な少女の存在が、彼の心の傷に響いたのだ。
隊長は小銭をトウヤに押し返す。
「金はいらねえ。人に何かあったら、道連れになるのが筋だ。勝手についてくるのは構わねえ。だが、隊列から絶対に離れるな。妹さんを大事にしてやれ。」
隊長は、トウヤのロバ車を隊列の中央付近に誘導し、彼らの安全を確保してくれた。トウヤは、お金ではなく、隊長の個人的な善意によって、最も安全な逃亡手段を得たことに、深く感謝した。
そして、隊長はその後も、道中、幌付きのロバ車の様子を何かと気にかけるのだった。




