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オールシーズン  作者: mbt


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4/4

始奏の子

 夜はまだ冬の色をしていた。

 雪が止み、空気が透き通り、世界が息をひそめている。


 その静寂の中、二つの光が歩いていた。

 新年・ようと新年・いん

 始まりを司る双子――「始奏の子」。


 彼らの足音は、まるで時の針のように一定で、

 一歩進むごとに、雪が音もなく形を変える。


「……姉さん、やっぱり何かおかしいよ。」

 陽が口を開く。

 息が白く光に変わり、夜に溶けた。


「風の流れが不自然ね。

 季節の境が、少し軋んでる。」

 陰の声は落ち着いていたが、その指先は微かに震えていた。



---


 二人が立つ場所は、

 冬と春の境――世界の“継ぎ目”。


 そこでは時間がまるで呼吸を忘れたように静まり返っていた。

 音も、香りも、動きも、すべてが止まっている。


「……クリスマスの光が、強すぎたのかも。」

「それに、バレンタインの熱も混ざった。」

「ふたりとも悪気はないけど、

 光と熱が残ると、影が伸びるんだ。」


 陽は拳を握る。

「このままじゃ、“めぐり”が歪む。

 始奏で整えなきゃ。」


 陰は静かに頷く。

「でも焦らないで。

 音を急がせると、世界がついてこられなくなる。」



---


 二人は向かい合い、鈴を合わせる。

 陽の鈴は金、陰の鈴は銀。

 ひとつ鳴らせば世界が震え、

 もうひとつ鳴らせばその波紋が静まる。


 それが双子の「始奏」。

 始まりの音と、終わりの調律。


「いくよ。」

「ええ、陽。」


 チリン――。

 澄んだ二音が重なり、夜が息を吹き返す。

 雪が光り、凍っていた川が音を立てて流れ出す。


 けれど、その美しい音の中で、

 ほんの一瞬――黒い影が揺れた。



---


《また始めるの? どうせまた終わるのに。》


 闇の底から、声がした。

 双子のどちらにも似ていない、低く冷たい声。

 雪の表面に黒い模様が滲むように広がっていく。


「……ネガティカ。」

 陰が呟く。


「まだ残ってたのか……。」

 陽は歯を食いしばる。


《光が強ければ、影も深くなる。

 あなたたちが始めるたび、私は増える。》


「それでも、僕らは始める!」

 陽の声が響いた。


 鈴が再び鳴る。

 それに合わせて、陰も鈴を合わせる。


「影を消さないで。

 ただ、正しい場所に戻すの。」


 二人の音が重なった瞬間、

 光と影がひとつの輪となって空へ昇った。


 夜空に描かれたその円は、

 やがて淡い虹のように溶けていく。



---


 静寂。


 雪は溶け、地面から草の香りが漂い始めた。

 春の気配が、ようやく顔をのぞかせる。


「……ねぇ、姉さん。」

「なに?」

「怖かったけど、少しきれいだったね。」


 陰は微笑んだ。

「始まりはいつも、少し痛いものよ。」


 二人は手を取り合い、雪の坂道を下りる。

 その背後で、冬の星々がゆっくりと瞬きを終えた。



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