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オールシーズン  作者: mbt


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3/4

甘い侵略

 北の王国。

 雪の静寂を破るように、花の香りが漂った。


 振り向くと、そこにいたのは艶やかな赤のドレスを纏う女――バレンタイン。


「へぇ。相変わらず支配的ね、あなた。」


「……早いな。まだ出番じゃないはずだ。」

 白銀の王、クリスマスはため息をつく。


「だって、恋はいつだって予定外に咲くのよ。」


 彼女が指を鳴らすと、雪の結晶がハート型に変わった。

 冬の空気に、淡い香りと熱が混じる。


「やめてくれ。僕の冬に甘ったるさは似合わない。」


「でも、人は寒い冬にこそ、ぬくもりを求めるものよ?」

 赤い唇が近づく。

「あなたの白銀の王国にも、少しくらい赤を差してあげるわ。」


 氷のように冷たかったクリスマスの瞳が、一瞬だけ揺れた。

 だが、その心を誰も見抜けない。



---


 その時、雪の帳の向こうで鈴の音がした。

 ――澄んだ音と、柔らかな和音。

 二つの音が重なって世界を震わせる。


「……また“あの双子”の目覚めか。」

 クリスマスが小さく呟く。


 雪の丘を越えて現れたのは、

 白い衣をまとった少年と少女。


「――あけまして。」

 少年が笑顔で手を振る。


「――おめでとうございます。」

 少女がその言葉を静かに結ぶ。


 二人の声が響いた瞬間、

 雪の空に細い亀裂が走った。


 新年・ようと新年・いん

 始まりを司る双子の“始奏の子”たち。



---


「また来たのね、はじまりの子たち。」

 バレンタインが微笑む。

「季節の交代は順調?」


「まだ揺れています。」

 少女・陰が答える。

「冬の静けさの中に、わずかな“歪み”が。」


 陽は頬をかきながら言った。

「でも大丈夫! ちゃんと見張ってるよ。

 ……ただ、ちょっと変なんだ。

 光がまぶしすぎて、影が濃くなってる。」


 クリスマスが眉を寄せる。

「……つまり、私の光が闇を作っていると?」


 バレンタインが肩をすくめた。

「そう言ってるわけじゃないでしょう? 

 けど、確かに“境”が少し揺れてるわ。」



---


 四人が立つその地の下――

 遠くの路地で、黒い霧がほんの少しだけ動いた。


 誰もまだ、それを“ネガティカの残り香”と呼ぶことを知らない。

 世界は美しく見えて、

 その中心で、わずかに軋んでいた。



---


「行こう、姉さん。」

「ええ、陽。始奏の調律を始めましょう。」


 二人は手を重ね、鈴を合わせる。

 澄んだ音が重なり合い、雪の空に溶けていく。


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