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オールシーズン  作者: mbt


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2/4

主役交代の日

十月三十一日の夜。

 街はオレンジと紫に染まり、仮装の子どもたちが風のように駆け抜けた。カボチャのあかりが浮かんでは溶け、笑い声が空に弾む。

 中央のステージで、黒いマントの青年がマイクを握りしめる。

 ハロウィン――混沌と解放の祝祭。舞台の王は、今日ばかりは世界の王だ。


「さあみんな!最後まで騒ごうぜぇぇぇ!! 10月はオレの月だーー!!」


「ハロウィン最高ーーー!!」群衆の歓声はより一層大きくなり、祭りの熱は最高潮に達していた。


「いつ見ても派手ねぇ。あなたって本当に注目の浴び方を知ってるわ。」後方から乾いた拍手とともに足音が近寄る。

 ハロウィンが目を凝らすと、群衆の隙間を歩く紅の影があった。

 艶やかなドレス、手には細いチョコ色の手袋。

 彼女は軽やかに歩き、群衆のど真ん中で立ち止まる。

 その声に、ハロウィンがにやりと笑った。

「おっと、こんな夜に“二月の女王”とは珍しいじゃねぇか。

 迷子か? それとも、場違いの見物人か?」

 バレンタインは肩をすくめ、唇の端を上げる。

「お祭り騒ぎが聞こえたから。少しだけ甘い香りを足してあげようと思って。」

「そのチョコ、危険すぎるな。」

「あら、“愛”は、少しだけ苦くて、でも癖になる匂いなの。そういう魔法なの。」

「まったく、派手な乱入者だな。けど――」

 言葉の続きを探すように、彼は少しだけ笑った。

 “けど、こうして騒げる夜は嫌いじゃない”――

 そんな軽口を吐くつもりだった。

 ――その瞬間。

 観客の奥から、地鳴りのような声が上がる。

 「10!9!8!…」

 群衆のカウントダウン。

 年を越すのではない。

 “季節の交代”の合図だ。

 ハロウィンの表情が一瞬で凍る。

「……マズい!」

 彼が慌ててマントを翻すよりも早く――

 風が変わった。

 空から舞い降りる無数の光。

 冷たい空気。鈴の音。


 ――カチリ。

 真夜中を告げる針の音が、街の奥へ沈む。

 オレンジの光がゆるやかに退き、赤と緑のきらめきが世界を塗り替えた。


 クリスマス――冬の帝王。灯りを点けるだけで、誰かの胸に懐かしさを呼び起こす男。


「お疲れさま、ハロウィン。ここからは僕の時間だ」落ち着いた微笑で彼は言った。

「ちょ、まだ後夜祭だって――ぐわっ!!」


言い終わる前に、プレゼント袋の底が見事に命中した。

 ハロウィンは空中で一回転しながら飛んでいく。


 観客の歓声と、バレンタインの笑い声が重なった。

「キャッ、派手な退場!」


 ランタンが宙を舞い、

 光の粒となって夜空に散る。

 雪が舞い降り、オレンジから白へ。

 世界の色が塗り替えられていく。

 ハロウィンの声が遠ざかりながら響いた。

「覚えとけよ王様ぁぁぁぁーーーっ!」

 鈴の音だけが、余韻のように残った。


「交代の瞬間って、いつ見ても綺麗ね。

 あなたたち、ほんとに正反対なのに似てる。」

「似てる?」クリスマスが首を傾げながらストレートに嫌な顔をする。

「どっちも、人の心を騒がせる天才よ。」


「それは誉め言葉として受け取っておこう。」

「好きに受け取って。」

 彼女は軽く手を振り、雪のように人混みに消えていく。


クリスマスが空を見上げ、静かに言った。

「……今夜、季節の境が揺れている。」

 さきほどまで後ろに隠れていた、小さな影が答える。

「わかっています。今はただ――あなたの光で、人々を安心させてください。」

「光は闇を照らすが、同時に影を作る。

 ……気をつけよう。」

「また時期が来れば、私たちはやってきます。」

 その声を残し、小さな影は風に溶けるように消えた。

 同時に、遠くの路地で黒い霧がほんの少しだけ動く。

 ――季節は交代した。

 だが、世界の空気はわずかに“静かすぎる”気がした。

 クリスマスが片手を掲げる。

 鈴の音に合わせて、街のイルミネーションが一斉に開花した。

 樹々に星が灯り、窓辺に小さな奇跡が並んでいく。

 その光景を、舞台袖からハロウィンが見上げていた。

 息を整え、空を仰ぐ。

 ――火は渡した。

 だが、祭は続く。

 それがこの世界のルールであり、

 彼が誰よりも愛している“めぐり”だった。

 

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