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異世界引きこもり、通販だけで王都を支配する〜怠け者スキルで成り上がり!?〜  作者: 妙原奇天


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第三章 王立学院の陰謀と、怠け者の天才少女

 王立魔法学院──それは、王都の中でも特権階級と天才だけが通える最高学府。

 その寮の浴場で、私の「洗い水」が使われるようになったのは、一週間後のことだった。


 きっかけは、学院の寮母が王都の宿で偶然シャンプーを使ったこと。

 艶やかな髪に驚き、速攻でギルドへ注文したのだという。

 そして、その寮母が熱心すぎたおかげで──

 「王立学院御用達」という、最高のブランドが勝手に付いた。


 ……もちろん、私はまだ一歩も外に出ていない。


 ギルドから届いた契約書をスクロールして眺める。

 スマホ画面に浮かぶのは、きれいな羊皮紙風デザインのPDF。

 通販サイトの新機能「PDFプリント代行」がまさか異世界で役立つとは。


「ふむふむ。納品量、週二回。寮生四百名分……多いなぁ。怠け者泣かせ」


 ポテチをかじりながら、書類にざっと目を通す。

 支払は月二百金貨。利益率は悪くない。

 ただ──供給量が増えるということは、注目も増えるということ。


 油断したら、また商会に目をつけられる。

 怠け者の信条は「見つからない・働かない・儲かる」だ。

 だからこそ、次の一手を考えなきゃいけない。


「さて……そろそろ、“代理人”を立てる時期かな」


 夜。

 私は森の中にある小屋の窓辺で、通販サイトを開いていた。

 購入履歴を遡り、「AI会話人形」のページをタップする。

 人間そっくりに喋る、音声対応のぬいぐるみ。

 レビュー欄には「子どもが話し相手として重宝しています」と書いてある。


「つまり──営業担当ぬいぐるみ、ってわけね」


 怠け者が出る代わりに、ぬいぐるみが話す。

 この世界の人たちは魔導具を信じるから、少しくらい喋る人形でも違和感がない。

 私は満足げに購入ボタンを押した。


 お届け予定:三日後。

 ふふ、三日後には“部下”ができる。


 三日後。

 届いたのは、ふわふわの猫型ぬいぐるみ。

 耳がぴこぴこ動き、声は妙に可愛い。


「こんにちは、アカリさん。設定を開始しますか?」


「うわ、本当に喋る……すごっ」


 設定画面で名前を入力する。

 ──“コマル”。

 適当につけたが、口調が自然すぎて愛着が湧く。


「コマル、今日からあなたは営業部長ね。ギルドや学院と交渉するの」


「了解です。怠け者のために全力で働きます!」


「うん、いい子。私は働かないけどね」


 猫型AIに任せて、私はカフェオレを飲む。

 画面越しにロベルトからの連絡が入った。


『学院納入の件、順調だ。だが──少し気になる噂がある。

 学院内の“研究塔”で、君の洗い水を“魔法的分析”しているらしい。

 成分を探られたら、君の技術(=通販スキル)が露見する。注意してくれ。』


 ……あー、やっぱりそう来たか。

 文明の香りを嗅いだ学者は、必ず分解したがる。


「仕方ないなぁ。防衛策、発動だね」


 その夜、私はスマホで新しい商品を注文した。

 “魔力干渉対応ラベルシール”。

 電子タグを貼った部分が、魔法の分析を撥ね返すというスグレモノ。

 異世界の魔力と現代技術の、最強コラボ。


「これで、“成分不明の神秘の水”のまま売れるね」


 翌日、そのラベルを貼り付けたシャンプーが学院に納入された。


 そして一週間後。


 学院の研究塔では、ひとりの少女が魔法陣の前で頭を抱えていた。

 金髪に丸眼鏡、真面目そうな優等生。

 名前はリリア・クローネ。王立学院首席の天才魔導士候補。


「おかしい……魔力反応が一切ない……のに、この洗い水は髪を再生させる……!」


 リリアは何度も分析を試みたが、結界のような干渉波が常に跳ね返す。

 成分はゼロ。反応は空白。まるで「世界に存在しない物質」だ。


「……これを作ったのは誰? 一体、どんな魔術師なの?」


 その瞳には、研究者特有の輝き。

 危険なほどの好奇心が宿っていた。


 数日後。

 ギルドに現れたのは、学院の制服を着た少女──リリア本人だった。

 応対するのは、ぬいぐるみのコマル。

 彼女はまさか話しかける相手が猫のぬいぐるみとは思っていなかった。


「……あなたが、この商品の代表?」


「はい、わたしが“代理猫”のコマルですにゃ」


「しゃ、喋った!? これは……魔法? ゴーレム? すごい……!」


「企業秘密ですにゃ。今日はどんな御用で?」


「お願いです! この洗い水の製造者に会わせてください!

 私は王立学院のリリア・クローネ。研究目的で、ぜひお話を──!」


「製造者は多忙につき、お会いできませんにゃ。怠けてますので」


「えっ、怠け……?」


「怠けるために働いてますにゃ。必要な質問は、わたしが代理で答えます」


 リリアは呆気に取られたまま、メモ帳を取り出した。

 彼女は必死に質問を繰り出し、コマルは淡々と(通販情報を脚色して)答えていく。


 そして最後、少女はぽつりと呟いた。


「この技術、もし軍に渡ったら……世界が変わるわね」


 ──やば。

 その言葉をモニター越しに聞いた私は、思わず固まった。

 やっぱり、研究者って怖い。


 その夜、私はロベルトに連絡を送る。


『学院内で研究が進んでる。首席のリリアって子が中心。

 技術を国家機密にされる前に、ガードを固めたい。』


 返事はすぐに届いた。


『了解。だが、彼女を敵に回すのは得策じゃない。

 あの子は王族直系の推薦枠だ。むしろ、味方につけろ。』


「味方、ねぇ……怠け者には難題だなぁ」


 だが、考えようによってはチャンスでもある。

 リリアを味方にできれば、学院経由で全王国の情報を得られる。

 怠けながら支配するには、最高の人材だ。


「……よし。じゃあ、“偶然”出会うシナリオ、書き直そう」


 私は通販アプリを開き、“配送ルート設定”をカスタムする。

 次回の納品先、王立学院寮の裏庭──その受け取り地点に、自分の名前を一度だけ登録。


「これで、“うっかり鉢合わせ”すれば完璧」


 そう、怠け者の私は、運命すら自動配送する。


 そして次の朝。

 王立学院の裏庭で、リリアが段ボールを拾い上げたその瞬間──

 中から、ひょいと顔を出したのは、寝癖だらけの引きこもり女だった。


「……あ、届いた。あ、え、あなた……誰?」


「えっ……え、ええ!? あなたが、“通販の魔女”ですか!?」


 ──これが、私とリリアの出会いだった。

 怠け者と天才少女。

 世界のルールを変える、最悪で最高のコンビ誕生の瞬間である。

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