ランク4決闘戦 ―絶対感覚の使い手・十条麻人との死闘―
奴隷だった俺が、ここまで来た。
星乃にも、神楽にも、そして“自分”にも嘘をつかずに――
俺は、ただ勝ち続けてきた。
そして今、
次の扉が、開こうとしている。
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> 「黒牙、ランク4昇格戦だ」
呼び出されたのは、生徒会主催の“公式決闘”の場。
試合は“公開”。観客は全校生徒。
許可された攻撃は、致命傷以外すべて有効。
対戦相手の名は――十条 麻人。
ランク4にして、“異能持ち”。
その異能の名は――
『絶対感覚』
触覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚。
すべての感覚を、自らの意思で“切り替え”できる能力。
「――俺は、“痛み”を感じない」
戦闘開始前、十条は静かにそう告げた。
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> 「対戦、始めッ!」
合図とともに、距離が詰まる。
十条は、一切の表情を変えず、
こちらの攻撃をそのまま受け止めてきた。
「マジかよ……拳を入れてもビクともしねぇ」
彼は“痛覚”を遮断している。
それどころか、“聴覚”と“視覚”だけを極限まで研ぎ澄ませ――
あらゆる攻撃を先読みして避けてくる。
まるで戦闘用AIのような戦いぶりだった。
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> 「黒牙、お前じゃ俺には勝てない」
「痛みを恐れる奴は、上には行けない」
言葉とともに、十条の拳が俺の鳩尾を穿つ。
呼吸が止まり、膝が落ちた。
(……負けられねぇ。こんなとこで……!)
その時だった。
脳裏に、かつての“豚”の記憶が蘇る。
食肉処理場で、痛みと恐怖の中で見た“現実”。
『あの時の俺は、全部の感覚を奪われていった』
『でも最後まで残ったのは、“怒り”だった』
怒りが、俺の足を動かす。
脳が焼けても、心が叫んでる。
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> 「お前、痛みがないから負けるんだよ」
「痛みを知ってるから、俺は折れねぇ!」
一瞬。
十条がわずかに目を見開いた。
その隙を見逃さず、
腕を取って捻り、顎に膝を入れる!
鈍い音が響き、十条の身体が後方に吹き飛んだ。
「勝者――黒牙!」
観客が静まり返る。
その中で、神楽が小さく拍手を送っていた。
星乃もまた、静かに笑っていた。
――そして俺は、
“ランク4”の座を、ついに掴んだ。
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> 試合後。
十条はポツリと呟いた。
「お前の感情……久々に“熱”を感じたよ」
「次に会うときは、もっと面白い戦いになるかもな」
そう言って、彼は控室に消えていった。
決して倒れなかった。
それが、上位者の“プライド”なのだろう。