契約の代償 ―神楽美優の涙、そして告白―
“力”を得るには、何かを捨てなければならない。
誇り、自由、あるいは――心。
俺は、まだ決めかねていた。
生徒会の「契約」。
星乃萌音の微笑み。
そして、俺の“過去”が叫んでいる。
「自由に生きろ」と。
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> 「なあ、黒牙……お前、“契約”するのか?」
放課後、神楽が聞いてきた。
「どうなんだろうな。力は欲しい。でも……」
「でも、星乃のものにはなりたくない――?」
「……そういう意味で言ったんじゃない」
神楽は笑う。
けれど、その目は少し赤かった。
「……私もね、契約してたの。
今のランク2の座も、もともとは“借り物”」
初めて聞かされた事実だった。
「相手は、霧島蓮よ。
あの人に拾われたから、今の私がいる」
「けど……」
神楽はぽつりと呟く。
「あの人の前では、絶対に“好きな人”の話をしちゃいけないの」
「……え?」
「“私の心が他の誰かに向くこと”が、許されないの。
それが、私が結んだ契約の“代償”」
その瞬間、彼女の目からぽろっと涙が零れた。
俺は、言葉を失った。
そんな“重さ”を、ずっと背負っていたのか――
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> 「ねえ、黒牙」
神楽がふっと笑った。
「……もし、私が“自由”になれたら。
あなたの隣にいてもいいと思う?」
その問いに、答える前に。
背後から怒声が飛んだ。
「――美優ァ! 何をしている!」
現れたのは、霧島蓮だった。
その目に、冷たく怒りが宿っている。
「私の所有物が、勝手に“感情”を持つな」
俺の中で、何かが切れた。
目の前の神楽が怯え、霧島が威圧する。
俺は、一歩前に出た。
「お前のモノじゃねえよ、神楽は」
「ほう。ランク3ごときが、ランク9に口答えか?」
ランク9――
霧島蓮は、**“王の側近”**と呼ばれる男。
だが、俺は引かなかった。
「たとえお前が何位だろうと関係ねぇ。
俺は、目の前で泣いてる女を守りたいだけだ」
――次の瞬間。
霧島が構える。
気配が一変し、教室の空気が張り詰める。
「この場はおさめてやる。だが……次は“処分”するぞ、黒牙」
彼は去っていった。
俺の手には、まだ微かに震えている神楽の手が残っていた。
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> その夜。
俺は、生徒会の“契約書”を破り捨てた。
力の代償に、心を売る気はない。
俺は俺のやり方で――
“てっぺん”を獲ってやる。