罠と階段 ―神楽の警告、そしてランク3への道―
名を得た者に次に課されるのは、“階段”の存在だ。
上へ上がるには、足元に何かを積み上げるしかない。
それが“正義”でも“策略”でも――この学園では手段が問われない。
ただ一つの掟、「勝者がすべてを得る」
俺は、登る。
死にかけて生き残ってきた命のすべてで。
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> ある日、神楽美優が俺の前に現れた。
「黒牙……最近、星乃とよく一緒にいるみたいね」
「……だから?」
「忠告しておくわ。**あの子に関わると、“落ちる”わよ」
その言葉には、妙な重みがあった。
「彼女はね、過去に“何人もの男”を――潰してきた」
「潰す……?」
「自分からは手を汚さない。けど、“興味”を持った男は皆、消えてる。
ランク5の近衛、6の東雲、7の倉橋――全員ね」
俺の中で、星乃の微笑みが重たく冷たく歪む。
「私たち、仲間にならない?」
神楽は手を差し出してきた。
「私が次に狙ってるのは、ランク3の椎名玲司。
あなたが協力してくれるなら、“手段”は考える」
ランク3。
次の“階段”――
その男を倒せば、俺はさらに上へ進める。
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> 椎名玲司。
頭脳派。戦闘力よりも、情報と罠の使い手として有名な男。
その彼が俺に接触してきたのは、その日の夜だった。
「黒牙くん、ちょっと話があるんだ。君に、ある“ゲーム”をしようって提案があってね」
ゲーム――
表向きには決闘禁止時間帯に行われる“頭脳勝負”のこと。
勝者が敗者のランクと権利を奪うこともできる非公式ルール。
「勝てば、僕の“ランク3”を譲ってもいい」
「……負けたら?」
「君の“名前”と、“神楽美優との縁”を貰う」
椎名は笑った。
“名前”を奪う。
学園においてそれは、“存在の抹消”に等しい。
「受けるかい?」
俺は、一瞬だけ迷った。
けれど――神楽の手、星乃の微笑み、過去の自分。
すべてを見つめた上で、口を開いた。
「やるよ。
“俺の名前”を賭けて――お前を喰らう」
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> ゲームの内容は、“記憶”を使った心理ゲーム。
相手の心の奥を読み、嘘と真実を交互に突きつけ合う。
嘘を見抜けなければ負け。
真実を見破れなければ飲まれる。
椎名は巧妙に罠を仕掛けてきた。
「君は、まだ豚だった頃、誰かを恨んでいた?」
一瞬、視界が揺れた。
それは、俺が――
屠殺される前の、あの記憶。
「クズみたいに笑ってた奴らがいた」
俺は、その記憶をあえて吐き出した。
「ああ、恨んでたさ。
今でも夢に出てくる――焼かれる肉の臭いが」
椎名の表情が揺れた。
その瞬間。
勝敗は決していた。
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> 数分後。
ゲーム終了。
見届け人の神楽が、冷たく宣言した。
「勝者、黒牙。
よって、ランク3昇格が認定される」
観客たちがざわめく中、俺はただ、口を引き結んだ。
一歩。
また、一歩。
頂点へ続く階段を、登っていく。