表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/27

肉の檻

ああ、またか。


背中に鈍い衝撃が走る。蹴られた。いや、蹴飛ばされたというべきか。


コンクリートの床に、ずしりとした身体が転がる音が響く。


「この役立たずが。動けって言ってんだろ!」


男の声が、冷たい空気を裂いて突き刺さる。


わかってる。動けって言ってるんだろう?でも無理なんだ。

四本足で立つのにも慣れてない。何より、身体が重すぎる。


――いや、それ以前の問題だ。


なぜ、俺が豚になってるんだ?


昨日まで――いや、今朝まで、俺は普通の人間だった。


三十代。ごく平凡なサラリーマン。毎日、決まった時間に満員電車に揺られ、上司に頭を下げ、同僚の愚痴を聞き、深夜にコンビニ弁当をかきこむだけの、地味な人生。


そのはずだった。


それが気がついたら、豚。

肥満体。皮膚病。目ヤニと鼻水で汚れた顔。


鏡なんてなかったけど、周りの豚と一緒に写った水たまりの中の自分が、その事実を突きつけてきた。


"お前は、もう人間じゃない"。


……笑える話だ。


人間として、何一つ誇れない人生を送った俺は、

人間ですらいられなくなった。




> 飼育員たちは俺をただの「豚」として扱った。

名前なんてもちろんない。ただの番号だ。


餌は決まって残飯。

水は泥まみれ。

ケージの中で寝そべるしかない。


ある日、一頭の豚が逃げようとした。

鉄棒で撲殺された。


次の日、その肉が俺の餌に混じっていた。


吐き気がした。でも、吐けなかった。


生きるって、なんだ?


こんなの、生きてる意味があるのか?


それでも、俺は――死ねなかった。


"人間"への憎しみだけが、俺を繋ぎ止めていた。


俺をこんな目に遭わせたのは、奴らだ。

嘲笑い、蹴り、利用し、食う。


……次に生まれ変わるなら、絶対に人間になってやる。

そして、俺を踏みにじった“全て”を、見下ろしてやる。


――その誓いを胸に抱いた、あの日。


屠殺場の床に広がる血の中で、俺の意識は闇に沈んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ