ただ、ひまわりをダースで送っただけなのに
僕の実家はひまわり農家を営んでいる。偏にひまわりと言っても油糧用、食品用、観賞用と用途によって品種が変わるのだ。油糧用の種は圧搾のために果皮と胚が固着していて食品用には不向である。逆に食用や観賞用の種は含油率が低く搾油には向かないのである。
等々、うんちくを語ってしまうから、僕は35歳を過ぎても独り身なのかもしれない。
「指に小さいトゲが刺さった時に抜くのに役に立つ身の回りのものが有る。何か知ってるか」
「全く、お前は相変わらずだな」
今日は親友と久しぶりに飲んでいる。こいつは少し前に結婚してしまい、第一子も授かったという事で飲みに行く機会が減ってしまっていた。
「五円玉だよ。あの穴をだな」
「はいはい、分かったって。そうそう、五円黙って言えば俺が嫁さんと付き合うきっかけになったのも五円玉なんだ」
奴は僕の話を慣れた様子でぶつ切りにして、それでもワードを拾って話を続けた。人によっては嫌がるかもしれないが、僕は自分がついついうんちくを披露してしまうのを分かっているので却って助かると思っているのである。
「そこの所、詳しく」
「なんだ、なんだ。やたらと喰い付くじゃないか。さては、お前も良い相手に巡り合ったのか」
親友の馴れ初めを聞こうとして、逆に突っ込まれてしまった。僕は結婚したいのだが、相手がいないのである。モテ期は3度やって来ると言われているのに、僕には1度しかやって来ていなかった。それも幼稚園の時にだ。
「ちげーよ。はあ、僕の2度目のモテ期は一体いつやって来るのだろうか」
「何か、結婚するとモテ期が来るらしいよ。指輪に魔力があるらしい」
だからか、さっきから奴ばかりやたらと女の子から見られているのは。待てよ、という事はチャンスはあと1度しか残されていない事になるではないか。
「不確かなものを当てにしないで、1度目のモテ期を大事にしたらどうだ」
奴の言っているのは幼馴染の絵美の事だ。彼女は幼稚園の時には毎日のように僕の事を好きだと言い抱き着いて来たものだ。だが、歳を重ねるごとに徐々に離れて行き、別々の高校に行ったのが決定的であった。
「よし、俺が魔法を教えてやろう」
僕は奴の言う事に懐疑的だった。ひまわりをダースで贈る事のどこが魔法なんだと。
だが、贈った翌日に涙を浮かべた絵美が僕の胸に飛び込んで来て、僕は婚約者を得ることになった。
後から知った事だが、ひまわりを12本贈る事には求婚の意味があるらしい。