その2 夕焼け鳥の肉
そんなある日の夕方。治療院の今日の診療が終わり、また遅くなったローリーがボットに送られて帰宅して、しばらくするとボットが戻ってきた。
しかしボットは、獣人を一人連れていた。ローリーの兄、ラルドーが戸口に立っていたのだった。
「おっす、ヨッシー。獲物のお裾分けを持って来てやったぞ。」そう言って、ラルドーは包みを差し出した。
「夕焼け鳥の肉だ。お前、これ好きだったよな。」
「これは有難い。よかったら、これを肴に一杯やろうぜ。酒ならある。」ヨシユキは、そう言ってラルドーを招き入れた。
この里では、一人暮らしのヨシユキ。昼飯は、通ってくるローリーが作ってくれたものを一緒に食べているが、朝夕は自炊だ。
もともと手先の器用な彼は、ちゃんと料理ができた。子供の頃から、サナエに手伝わされた経験が生きていた。
手早く肉を捌き、下処理をして、切り分けて串を打ったら、火を起こしたコンロの上に網を敷いて、さっそく肉を焼き始めた。そして葉物野菜を切ってきて、傍には味噌の壺を置く。これをつけて食べようということらしい。
「あいかわらず手際がいいな。」ラルドーは、そんなヨシユキを褒めた。
「お前は、いい嫁さんになれるぜ。」
「そうだろ、しばらく嫁さんはいらないな。」そう言って笑うヨシユキを、ラルドーは少し冷めた目で見つめた。
「ローリーは、どうだ。ちゃんと働いているか?」
「ああ、お前の妹には感謝してるぜ。よく気が利いて、頑張ってくれている。」ヨシユキが答えた。これは本音だ。ローリーは本当によく働く。
「もう、あの娘がいなければ、ここの治療院はやれないぞ。たいして給金も払えていないのに、申し訳ないと思っているさ。」
ラルドーは、そんなヨシユキを見て、
「給金を払わなくてもいい方法があるぞ。」苦笑いを浮かべながら、言ってみた。
「なんだよ、そんな訳にはいかないだろ~が。」そう言いながら、ヨシユキは甕を重そうに両手で運んでくる。
「これはな、ジロー先生が分けてくれた酒でな。米から作った試作品だそうだ。」ラルドーに茶碗を渡して、甕から柄杓で酒を注いでやった。
「ほう、それは珍しいな。」と応えつつ、話に乗ってこない相手をどう引き込もうかと、ラルドーは考えていた。
「お前、ローリーに手を出していないよな。」違う言い方をしてみるか。
「なんだよ、そんな事をしたらお前に、ぶん殴られるだろうが、」ヨシユキは、ヘラヘラと笑う。
判ってないな、こいつ。
「なぜ手を出さない?」ラルドーは、言い返した。
「だから、お前に怒られるからだよ。」
「いや、手を出さないから、怒っているんだ、俺は。」
ヨシユキの顔から笑いが消えて、不思議なものを見る顔になった。
「お前のお陰で、ローリーは健康を取り戻した。感謝している。背も伸びたし、最近は体も大きくなって、まあ、その、あれだ、出るところは出て、すっかり年頃の娘らしくなってきた。」
「ああ、そうだな。あれは代償性成長と言ってだな、制限因子が無くなったときに、成長が一気に、」
「そういう話じゃないんだって!」
ラルドーは話を続ける。
「この頃は、兄の眼から見ても、すっかり綺麗な娘になった。」
「だから代償性成長と言ってだな、」
ラルドーが手でこれを遮って、「まあ聞け!」とヨシユキの発言を封じた。
「昔から可愛い妹だが、ここ最近は綺麗になったと思っている。あれは恋する娘ってやつだ、多分な。」そう言って、ラルドーはユシユキの顔をじっと見た。
「もしかして、俺にっ、て言いたいのか?」
「そうだ。」
「あのな、ラルドー。医者や治療士が、治した患者に好かれるのは、よくある話だ。妹さんは、俺に感謝してくれて、熱心に手伝ってくれているだけだ。」
「朝も早よから、いそいそと出かけて行く。夜の帰りは遅い。我が家で話すのは、治療院での出来事と、お前の話ばかり。これを毎日聞かされているんだぞ、うちの家族は。」
「それは確かに、楽しそうに働いてくれている。俺も、妹さんに嫌われているとは思っていないぞ。」
「嫌ってないんじゃなくて、お前が大好きなんだよ。俺の妹は、な!」
ヨシユキは、ポカンとした顔で「そうなのか?」と言った。
(続く)




