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その3 獣人族の治療院

肋骨骨折を治療したもらったラルドーは、その日の夕方には起き上がり、ローリーの助けを借りながら帰っていった。


「今日は泊っていけと言ったのに、もう起きて歩けるんだな。やっぱ、獣人ってスゲー体力!」獣人族の里で治療院を開いているくせに、今更ながらヨシユキは驚いている。

「カレンもそうだけど、強くて、弱音を吐かず、タフだわね獣人って。こんなに頼りになる種族はいないわよ。」


「だけどよ、飛竜様だってスゲーし、クレア姉さんの魔法には今ではジロー先生も敵わないって言ってたぜ。」

「一番弱いのは、私たち人族かもね。」


「だがサナエよ。我ら人族は、他の種族と協力する知恵を持っているのだ!」格好をつけるヨッシー。

「クレアから、人族が魔族を迫害したって散々叱られたわ。」突っ込むサナエだ。

「だからさ、俺たちがここに来てるんだろ。」

「そうね。私も薬草の交易ビジネス、頑張らなくっちゃ。」

「クレア姉さんが言うとおり、早く魔族も巻き込みたいよな。」

「そうね。」夕暮れの中、治療院から自宅に戻っていく獣人兄妹の後ろ姿を見ながら、人族の二人はそんなことを話していた。


 ◇ ◇ ◇


翌日、ラルドーとローリーは、二人揃って治療院に現れた。

ラルドーを診療台に寝かせて、ヨシユキは患部を光属性でスキャンした。

しばらくして、「経過は極めて順調、流石は俺だな。」ヨシユキは自慢げに鼻を鳴らす。


「息苦しさは、どう?」サナエがラルドーの顔をのぞき込んだ。

「ずいぶん楽になった。」そう答えて、ラルドーは起き上がり、二人の人族に改めて頭を下げた。

「あのままでは、俺は、息ができずにまだ苦しんでいたのだろうな。」

「骨は何とか自然に繋がっても、肺を傷つけたのは確かに危なかったわね。」

「人族の医術とは凄いものだ。」


「妹に聞いた。ヨッシー先生は私と同い年だそうだが、たいしたものだ。」

「まあな。」

「妹の病気も、治せるかもしれないと聞いたが?」

「ええ、治療法がありそうなのよね、ヨッシー。」

「ああ、できるだけやってみるよ。」


「ローリー、次のが始まったら、早めにこの治療院に来て、ボットでタローに話しかけて私たちを呼ぶのよ。」

「俺たちが、すぐ飛んでくるからな。」

「ヨッシーが、私の旦那様と治療方針を立てているわ。貴女を、健康にしてあげたいの。」

「はい、宜しくお願いします。」ローリーも、ラルドーも神妙に頭を下げた。


 ◇ ◇ ◇


そして一週間後、サナエとヨシユキは再び獣人族の里に来ていた。

治療院のボットを通じて、ローリーから連絡があったのだ。

「さあ、始めるぞ。」ローリーを治療台に寝かせて、ヨシユキが両手を淡く輝かせる。光属性の深層スキャンだ。


「まだ、息苦しさはないのね。」サナエの問いに、ローリーは「はい」と答えた。

「剥離はまだでも、プロゲステロンはかなり減っている時期だ。今スキャンすれば、部位が分かるはずだ。」


「いつも胸が痛む場所は、右の下のほうだろ?」

「えっ、どうしてお判りに?」

「好発部位なんだってさ。」そう言って、ヨシユキはゆっくりと娘の腹に両手を滑らせていく。

「見つけた、ここにある。」ジロー先生と相談したよりは小さいようだ、これなら行ける。


まずは、患部を分離する。

これには、通常の元素魔法を駆使して実行できる、楽勝のはずだ。

患部の周辺組織を、少し大きめに手繰り寄せる。そこをゆっくりと持ち上げて、根元を強く絞る。患部はもう充血して脆くなっているから、ここは慎重に。ここで破ったりしたら、元も子もない。よーし、できた。


次いで、火属性魔法を集束させて、根元の絞った部分を焼きながら切断していく。にじみ出る血液は、たちまち焼き固められて止血される。やがて根元が焼け切れて、患部はポトリと落ちて離れた。


ここからが勝負だ。ヨシユキの両手に周囲の光が吸い込まれていく。闇属性に切り替えて、傷の修復魔法(ウーンドリペア)で焼き切った傷口を修復していくのだ。

ヨシユキの額に浮かぶ汗を、サナエがふき取ってやる。しばらくして、傷口は滑らかに閉じられた。成功だ。

「山場は越えた、上手く行ったぞ。」ヨシユキはフウとため息をついた。


後片付けが残っていた。体腔内に落ちた患部は、このままでも吸収されるかもしれないが、念の為だ。先日、ジロー先生が教えてくれたばかりのストレージ魔法(ごじげんポケット)。あれからヨシユキは何度も練習して習得したのだった。不思議な魔法だが、これは女神からのギフトだとジロー先生が言っていた。

落ちた患部の塊を認識すると、その横にぽっかりと光り輝く小さな輪が生まれて、患部を飲み込んだ。よし、これで終了。


「終わったのですか?」ローリーが診療台から聞いてきた。

「痛みや、違和感はない?」サナエが確認すると、

「はい、ありません。」と返事がきた。


本人に患部を見せるのは趣味が悪いかもしれないが、始まってから二年間 本人を苦しめたのだ。ヨシユキは、サナエに小皿を持ってこさせると、ストレージ魔法を展開した。

皿の上に、ぽっかりと光り輝く輪が生まれて、ポトリと赤黒い患部の塊が落ちた。


きゃ、と悲鳴を上げたローリーが、「これが、長い間私を苦しめていたのね。」そう言ってヨシユキを見上げた。可愛い大きな目から涙が溢れ出した。


「ヨッシー先生、これを私に下さい。」

「もらってどうする?」

「これも私だもの。家のお庭に埋めて、小さなお墓を作ります。」

まあ、それもいいか。ケジメになるしな、とヨシユキは考えたのだった。


 ◇ ◇ ◇


ヨシユキが通い出して半年が過ぎようとしていた。獣人族の里では、治療院の分院は大成功と言ってよい。特に乳幼児の死亡率が大きく減少したのは、ヨシユキによる早期の対処の賜物だった。


そして、サナエが啓蒙した栄養学的知識と感染症対策も、大きく貢献したと言えるだろう。この成功に気を良くしたヨシユキは、半年が過ぎた頃『この分院に常駐したい』と、ジローに告げたのだった。


彼を助けて働くようになったのは、サナエに薬学の知識を仕込まれつつあるローリーだった。健康を取り戻した彼女は、くりくりとした大きな目が可愛いのは変わらず、ここ一年でまだ背も伸びて体重も増え、年頃の娘らしい張りのある体つきになっていた。


何らかのストレスで成長制限を受けていた動物が、その制限要因から解放されてこれまでにない成長速度を示す現象を、ジローたち生き物係は『代償性成長』と呼ぶ。

彼女の場合は、まさにこれだった。


ローリーの兄ラルドーも、あれ以来すっかり同い年のヨシユキと打ち解けて、狩った獲物の肉を持ち込んでは酒を酌み交わす仲になったと言う。


カレンの兄ゲルタンが主導する商隊護衛の竜騎士ビジネス、嫁三人組による交易の進展と、ヨシユキによる治療院の成功。

人族と獣人族との共同は、順調にスタートを切ったようだ。

お読みいただいて、有難うございます。

あと五章で、つまりあと五日、9/18の日曜日の9時にて、本編はお終いとなります。

へたくそなお話に、もう少しお付き合いいただければ幸いです。拝

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