その2 初めての上映会
次いで俺は、サワダの親父つまりカエデ嬢の父を、箱に登らせた。
親父は、皆に向かって一礼をすると、声を張り上げた。
「サワダ商会でございます。」
「ご覧の通り、騎士団の護衛を得て、安全に交易ができるようになりました。」
「これからは、良いものを、安く、品切れすることなく皆さんにお届けできる。そしてこの里の農産物、鋳物や鍛冶の製品も、どんどん交易に乗せていきたいと考えております。」流石は商人、要点を簡潔に押さえて、弁舌は滑らかだ。
「これも騎士団のお陰であり、我らに守護をくださる偉大なる飛竜様、そして我らの新たな仲間、獣人族の騎士様にも感謝を申し上げるものであります。」
盛大な拍手の中、サワダの親父は続ける。
「海辺の里から持ち帰りました海の幸。些少ではありますが、商品見本としてご用意いたしましたので、皆様どうぞお召し上がりください。このサワダ商会、今後とも皆様のために努力する所存です。」
「こんなところですかな。」拍手に送られて箱から降りたサワダの親父は、俺に向かって演説の首尾を聞いてきた。
「流石ですね、親父さん。商人の貫録、しかと拝見いたしました。」
「なあに、絶好の宣伝の機会を与えて下さって、感謝しておりますよ。」
「ジロー先生に言われた通り、獣人族の騎士様にも触れておきました。それにしても、まさか我が娘があの騎士様を選ぶとは、驚かされましたな。」
サワダの親父には、里に戻ってきたカエデ嬢が真っ先にゲルタンとの婚約を報告したと聞いた。オヤジ殿としては、商売に熱心なあまり年頃を過ぎても浮いた話一つない娘を心配していたらしく、二つ返事で了承したのだと言う。
「良い婿殿に来ていただき、お陰でこれからの商売が楽しみです。」ワハハと俺に笑いかけると、親父はすかさず周囲に馴染みの客を見つけて、ヤアヤアと話をしに行った。
俺は再び箱の上に登る。
「これからしばらくは、料理と酒を楽しみながら、商隊が歩いたハルウシの村、そしてオタルナイの港町の風景を見てくれ!」
箱の上に、今度はカエデ嬢を登らせて、動画の説明に当たらせた。
たかが一泊二日の旅程ながら、隣町を訪れた経験のある里の者は少ない。初めて見る他の里の風景、そして漁港や魚市場の様子を、皆はワイワイと楽しんでいた。
◇ ◇ ◇
サナエとクレアとカレンが、それぞれ飲み物を片手に、俺に近寄ってきた。どうやら料理の手配も終わったらしい。
「三人ともお疲れ様。お陰様で皆 大喜びだよ。」
「それはそうよ、美味しいものが食べられて、お酒も飲めて、こんな風景も見られるのだもの。それよりも、先生!」サナエが周りをぐるりと見渡してから、口を尖らせた。
「護衛隊のアイデアは私達で考えたのに、騎士団と商人の手柄にしちゃってさ。」
「あらサナエ。旦那様は、獣人族の協力があればこそだと、サワダ商会の口から言わせたかったのですよ。」クレアには、やっぱりお見通しか。
「ジロー先生、そうなの?」
「まあ、そうだな。この里の皆に獣人族の事をもっと知って欲しいと思ってね。」
ハッとしたカレンが「有難うございます、旦那様。」と俺にささやく。この愛する嫁の種族を、もっとこの里でもアピールしたい俺なのだ。
「その意味では、実はこれからが本番さ。獣人族の力を、俺はこの里の皆に見せつけてやろうと思う。」
カエデ嬢の説明が、そろそろ終わる。
俺は、また箱の上に登ると、カエデ嬢の隣で声を張り上げた。
「そろそろ宴もたけなわだ。ここで、今夜のとっておき映像を皆さんにお見せしよう。怖い魔獣が出てくるし、血も流れる。刺激が強いから、気の弱い者は注意してくれよ!」
壁面の動画が、ぱっと暗転した。暗闇に魔獣の瞳がギラリと光る。
広場の人々の話し声が、かき消えた。
「群れなす狼の襲撃と、これを迎え撃つ護衛団の戦いだ。」俺が説明を加えた。壁面に大写しされた動画は、なかなかの迫力だった。広場の皆の眼が、壁面に釘付けになったのは、俺の狙い通りだ。
狼が三匹飛び出してきた。
ゲルタンが剣を振ると、三つの火球が飛んで狼を直撃した。
怯む狼に向かってゲルタンが飛び込むや、赤く励起させた剣を一閃、回転しながら二閃、三閃する剣の舞。
そして、両側の騎士も負けてはいない。それぞれ一頭ずつを切り伏せ、突き刺して、瞬く間に五匹の狼を倒した。
「わああ」と、広場が湧いた。
一匹の狼が、前衛を突破して迫って来る。
すると突然、空中に白く輝く障壁が浮かび上がって、狼の突進を阻止した。次の瞬間には、素早く現れた飛竜の胴体に跳ね飛ばされ、狼は大木の幹に叩きつけられていた。
「おおお」と、また広場にどよめきが広がった。
「今のは何だ? 飛竜様の魔法か?」「飛竜様の、あの強さを見たか!」魂消たような声が、あちこちから聞こえた。この後の、バーゼルのお食事シーンは、事前にカットさせてもらっていた。
広場の興奮が冷めやらぬうちに、また場面が切り替わる。
さあ、最後の仕上げと行こうか。
「次は、暴君熊と私の兄ゲルタンの一騎打ちを、皆さんにご覧にいれましょう。」俺は、声を高めて精一杯に煽ってみた。(続く)




