その2 この星にしようと思う
熟睡してしまった。
目が覚めて身繕いをし、居住区からブリッジに向かえば、オルは既にゾラックと協議の最中だった。
「ほら、こうすれば10回くらいは連続ジャンプが出来そうよ。」
「素晴らしい!流石ですね。こういったとんでもない発想は、私には不可能です。有機脳の働きは、まさに脅威です。」
「ふん、出鱈目だって言いたいンでしょ。この方法論を補強して実現性を上げるのが、あなたの役割よ。」
「はい、これはまさに人類と我々AIとの協同ですね。」ゾラックの声にも張りがある気がする。
「頼りにしてる。10回のジャンプを連続できれば、時間はかかるけどなんとか二千光年先に渡れるわよ。」
何だか上手く行っているらしいな。聞いても理解できない俺は、黙っていることにしよう。
「あら、お早う、ジー。よく寝てたじゃない。」
「はいはい、未知の人類との遭遇を夢に見ましたよ、オル。」
「そう来なくっちゃね。さあ、さっさと理想の恒星を見つけてちょうだい!」
彼女は船外活動の準備に忙しい。ゾラックとの協議を受けて、リープ機関に応急措置を加えるようだ。
ブリッジの一角を占める観測装置群の前に席を移した俺は、急かされるままに手ごろな恒星の調査に取り掛かった。
◇ ◇ ◇
結局、オルの応急措置が功を奏して、リープ機関は10数回の連続ジャンプができるようになったそうだ。これだけ飛べれば数百光年をひとまたぎにできる。通常空間に戻ってもまた再度の連続ジャンプを繰り返せば、数日で目的の恒星系に辿り着けそうだ。
俺はと言えば、良さげな恒星候補を既に絞り込んでいた。
最終的に選んだ白色に輝くこの星は、核で水素の核融合反応が起きている。質量と直径、そして表面温度は俺たちの太陽のほぼ同じ。太陽に近い距離にはいくつかの岩石・金属惑星が巡っているらしく、その外側には比較的大きなガス惑星なども従えている。
「この星にしようと思う。」俺はオルとゾラックに最終提案をした。
「ジーがそう決めたなら、異論はないわ。生き物係さん。」まずは、オルが賛成してくれた。
ゾラックはしばらく無言だった。俺のシミュレーションを検算しているのだろう。
「はい、私も同意します。ここから見渡せる範囲で、距離も考慮すればまずは第一候補とすべきですね。」ようやくゾラックも口を開いた。
「ただ、もう一つ、少し離れていますが有望な星があります。」
「うん、俺も見つけたよ。バルジの方向に二百光年くらい行ったところだろ。」
「そうです。」
「この恒星は三連星だ。だからリスクがあると考えた。」
「連星だとどんなリスクがあるの?」オルが割り込んできた。
「うん、条件が整えば生物の発生には問題はないはずさ。ただ、太陽が三つ昇ってくる世界の人類とは、簡単に言えば価値観が異なるおそれありってところだ。これまで発見された五つの惑星文明のうちの一つが、まさにそうだった。」
「要するに、人類はいるかもしれないけど、お付き合いはできないかも、と言うこと?」
「そうそう、今回の任務は人類文明の発見だけではない、難破した俺たちがそこで暮らせるか? ってことだよな。」
いろいろ協議したが、なにせ時間が惜しい。
ゾラックに命じて、第一候補の恒星をめがけて不完全ながら連続ジャンプの設定を進めることになった。
「ご存知の通り、リープ機関は恒星の重力を感知した時点で自動停止します。目標とする恒星の重力範囲は二光年ほど、そこからは手動の単独ジャンプで更に一光年ほど進めばオールトの雲の領域に到達します。」
「そこから先のジャンプは出来ませんから、通常航行で恒星の重力井戸に降りていくことになります。この時の速度は光速の30%を想定しています。これは本船の融合炉で発生させるエネルギーを重力ブレーキに回した際の限界速度です。」
「これ以上早いと、ヘリオポーズ境界面で止まれないのよね。」とオルが付け加えた。
ヘリオポーズとは、太陽風が星間物質や銀河系の地場と衝突して混ざり合う境界面のことだ。その外側の真の宇宙空間から、俺たちは太陽風の速度を感じながら恒星の重力井戸を降りていくことになる。そこからは、ぐっと速度を落とす必要があるのだ。
「光速の30%とすれば、ヘリオポーズまで三年くらい?」と俺。
「はい、二年と五ヶ月と計算されます。」とゾラックが応える。
「ヘリオポーズを突破すれば、今度は速度を更に落として惑星間航行モードに切り替えます。ここから目的の内惑星系までは約二百日です。」
なーるほど、俺たちが太陽系を飛び出した時は、太陽風の速度が遅くなり始めるヘリオスフィアからは加速を続けて一気に外宇宙に出たのだ。その後はジャンプするのだから、減速は考えなくても良かった。しかし、未知の太陽系に降りていくとなると、いろいろと手続きが大変で時間もかかるのだ。
俺たちの重力工学は、まだ恒星重力圏からの超光速航行を実現させていない。リープ航法に移行するのは、恒星系を抜け出してからだ。
そして、恒星重力圏の中では、星間物質との衝突を回避するために、光速の30%程度の移動速度に限られることになる。
いつかは、俺たちの文明も重力圏を気にせず超光速航行ができるようになるのだろうか。宇宙で出会った異文明から、その技術を教わることもあるのかもしれない。
さて、オルによれば、目標とした恒星系までは、応急措置を施したリープ機関で数日かかる見込みだ。俺はその間に、恒星系の観測データを少しでも補強しておく必要がある。
操船はオルとゾラックに任せて、俺は深宇宙観測機器を駆使して恒星系の調査にのめり込んだのだった。生き物との邂逅を願いながら。




