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その2 海辺の村

翌日の朝、朝食を皆でとってしばらく休むと、一行は再び馬車を進め始めた。

上空のドローンはボットに回収して、内部で充電が開始された。

「ジローに繋いでくれ。団長がおられるはずだ。」


ゲルタンは打ち合わせ通り、ボットを通じて治療院で待機してくれていた騎士団のクールツ団長に、短く朝の定時報告をした。

ハイエナの出没は珍しいことではない。無事撃退した事を聞いた団長は、今後とも安全第一で頼む、と伝えて通信を切った。


クールツ団長がゲルタンの報告を聞き終わって、とりあえず安心した様子だ。

「順調のようですな。うちの騎士も、ゲルタン殿が上手く使ってくれているらしい。」

「ああ、ゲルタン兄は、その辺りは抜かりがありません。任せていただいて大丈夫です。」俺としては、カエデ嬢の兄貴を見る目が気になって仕方がないのだが、まあこれは成るように成るのだろう。


「では、私はこれで戻ります。明日の朝もこの時間にまた来ますが、何かあったらすぐ呼んでください。」と言って、団長は騎士団の本拠地に戻っていった。

うーむ、こうして護衛隊が複数出張ることになったら、騎士団にも連絡用のボットが一つ必要になるな。残りは必ずしも多くはないが、考えておこう。


 ◇ ◇ ◇


カエデ嬢の馬車は、その日の昼過ぎに海辺の村ハルウシに到着した。

村に入ると、カエデは早速取引のある食品問屋に顔を出した。地上から人の背の半分ほどの高さに浮かんで進む飛竜、これに跨る獣人、通りを歩くカエデ一行は、注目の的になった。

とある大きな商家に到着すると、

「おお、これは、これは、カエデお嬢。ようこそのお越しでございます。」店の奥から、老爺と老婆が満面の笑みで現れた。


「エドナのお爺様とお婆様、お久しゅうございます。」

エドナ商会は、この村で一番の食品問屋で、店頭では一般販売も行う商店だ。昔からサワダ家とは村同士の交易で付き合いがあり、カエデも子供の頃から何度もこの店に顔を出していた。


通りに面した店の前には、簡素なイスとテーブルが置かれている。

勧められるままに、カエデは背負ってきた籠を下すと椅子に腰かけた。エドナの爺様と婆様も、その向かい側に腰を下ろして、すぐさま情報交換と商談が始まった。

「私達は竜騎士様のご助力を得て、これから商隊に護衛団をつけることにしましたの。今日はその初回なので、私も一緒に来たのです。」引き連れた飛竜と獣人を紹介した。


「ほうほう、尊き飛竜を間近に見るとは。そして貴方は伝説の竜騎士様と言うわけですな。」バーゼルとゲルタンは、頷いて挨拶を返した。

「これは頼もしい。これからは、村から村へ安全に行き来ができますな。」

「そうよ、エドナのお店の商品も、私が沢山仕入れて売ってあげるんだから。」

「それは、それは、有難い事じゃ。漁師の者共も喜びましょう。」

「竜騎士様のご加護の賜物じゃ。こりゃ交易の大改革となりますな。」


「今は何が獲れているの?」

「イカにタコ、そしてニシンが豊漁ですな。」

「へえ~、じゃあこれから私達は港町まで行って、四日したら戻ってくるのだけれど、私達の村に戻るときには日持ちするものを用意しておいて欲しいわ。」


「おうおう、それでは乾物や塩蔵品を集めておきましょう。」

「お願いするわね。それと今日は、新鮮な野菜と果物を持って来たわ。」

「おお、それは是非見せて下され。ここでは貴重な品じゃ。」

「交易ギルドに馬車を回しているの。夕市で商いをしましょう。」


よその村から馬車で商品が入ると、その商いは原則として村のギルドの交易所で行われるが決まりだ。交易所に持ち込まれた商品は、特定の売り先がいない場合は競りに掛けられる。

あらかじめ相手先が決まっている場合は相対取引となるが、競りでも相対でも、取引金額から決められた率の手数料をギルドに納める仕組みだ。

売り買いは、早朝に開催される朝市と、日暮れ前に行われる夕市の原則二回となっていた。


「それから、これは初めての試みなのだけれど、何種類かの薬草も持ってきたの。うちの村には、腕のいい薬師がいるのよ。」カエデはそう言うと、床に置いた籠から包みをいくつか取り出して、机の上に並べて見せた。


「打ち身に貼る湿布薬。この飲み薬は、胃薬と痛み止めね。そして、これは解熱薬。」治療院のサナエ先生とヨシユキ先生が作る薬には、実はまだまだ多くの種類があるのだが、薬師の処方が必要な場合も多い。これらの薬は、簡単な処方で使える常備薬として、カエデが治療院から流通を許されたものだ。


「獣人族は森の民でしょ。森には薬草が豊富だから、私達の里では彼らと薬草の交易があるのよ。」これは最近になって治療院のサナエが始めた事だ。ゲルトの里からは、狩猟で得られた干し肉などの商材もあり、カエデが住むサホロの里からは穀物や野菜、そして衣類などが物々交換で、或いは金銭取引で提供されている。


「獣人族は、魔族にくみする者。我ら人族とは敵対的だと聞きましたがのう。」エドナ婆様が、ゲルタンの顔をのぞき込んだ。「時代は変わるものじゃ。」

寡黙なゲルタンが、珍しく口を開いた。「最近になって行き来が増えたのです。私の妹などは人族に嫁いでおりますよ。」

「ほう、それは、それは。」エドナ爺様も驚いた様子だ。


「海辺には、獣人族の集落はないからの。知らなんだわ。サホロの里では、それほどまでに交流が進んでおるか。」

カエデはゲルタンをちらりと見てから、「まあ始まったばかりね。この護衛隊も、獣人族のお仕事の一つなの。」

「私たち商人が騎士団に支払う護衛代金は、騎士団からゲルタン達にもお給料として支払われるの。」

「我らの里も、潤うと云う事です。」再び、ゲルタンが野太い声で話した。


「まっ、それは兎も角。どうかしらこのお薬、売れると思わない?」

「売れるじゃろう、売れるじゃろうが、」とエドナの爺様。

「無造作に、店に並べるわけにも行くまいて。」エドナの婆様は、そう言うと「よいこらしょ。」と椅子から立ち上がり、店の奥に姿を消した。

「息子を呼びに行ったのじゃろ。」


しばらくすると、婆様が壮年の男を連れて戻ってきた。「カエデのお嬢、しばらく。」

「ヨアキム小父おじ様、ご機嫌いかがですか。」カエデが立ち上がって、きちんと礼をした。

バーゼルとゲルタンも、頭を下げて挨拶をした。


ヨアキムと呼ばれた男は、竜と獣人の前に立つと、胸に手を当てて礼を返した。

「これはこれは、伝説の飛竜と竜騎士にお会いできるとは、光栄の至りです。」

「ふふん、カエデ嬢の商談も順調の様子。これからは何度も会う事になりそうだな。」

バーゼルがよく響く声で応じて、その場を一気に和ませた。


「息子は、この村の治療師に知り合いがおる。」とエドナ爺様。

「薬の流通は、治療師の集まりに声をかけるのがよかろう。」とエドナ婆様。

「新たな商売ですな、お任せください。販路を組み上げてお見せしましょう。」ヨアキムは自信満々といった風情だ。やり手の商人の風格が漂っていた。(続く)

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