その2 竜を養う
師匠の小屋の外、二頭の竜は大き過ぎて中には入れないので、皆で車座になってここで話をしている。
「なるほど、融合炉のエネルギーの変換効率を犠牲にすると、魔素が増えると。」
「キュベレは、来なんだか?」師匠も、俺と同じことを考えたようだ。
「現れませんでした。前回の応用編ですから、織り込み済みだったのでしょう。」
「ふむ、そうか。」ホッとしたな、師匠。あまり会いたくない風情だな。
「ところでジローよ。このボットを、この融合炉をお主は作れぬのか?」
「ここでは設備がないので無理です。しかも俺には作るだけの知識がありません。」俺は正直に白状した。俺は、物理はからっきしなのだ。なんせ生き物係だからな。
「お前の仲間がこの星に到着すれば、融合炉は作れるか?」
「いえ、重力や物理の専門家はいても、すぐには無理です。工作機械がありません。材料も、多分エネルギーも不足しています。」
「この星でジローの世界の科学技術を発展させるしかない、と言う事じゃな。」
「はい、その通りです。」二頭の竜は、明らかに気落ちした様子で首を垂れた。
「ただ、母船が到着すれば、俺が乗ってきた搭載艇があと六機あります。その搭載艇が積んでいる探査ボットは、俺の船と同じです。」俺は思い付いて言った。
「つまり、大型と中型を合わせて200機以上と言う事だ。」タローが計算してくれた。
「今使えるのが30機、そして百年後には200機を超えるか。それは良い話じゃのう。これがあれば、魔素を得るために竜族が火山に縛られる必要がなくなる。」
「ボットを提供することには、問題がないのじゃな、ジローよ。」
「はい、当面はこの星の探査をする必要もありませんし、何かの時に手元に数機残してあれば十分でしょう。」
「まず、ボットによる魔素の生成量と、それに見合う竜族の個体数を推定してみよう。」タローが、流石にAIらしい発言をした。
◇ ◇ ◇
俺達には、魔素を測定する機器がない。
ウォーゼルとビボウに生体測定機になってもらって、各種ボットのプラズマ温度を魔素生成に最適化して実験し、タローが計算した結果が出た。
「えー、発表します。」
「前提条件として、竜が夜間の就寝時に、その日に消費した魔素を回復できること。魔素量は竜の生命維持に必要かつ十分であること。魔素の発生源となるボットと竜の距離は10km以内としました。」
「まず、大型のボットの場合ですが、一機で最大300頭の竜が必要とする魔素量を供給できます。実際には、こんな数の竜の集団はいないので出番はなさそうですが、大は小を兼ねるとの考え方もありますね。」
「次に中型ボットですが、半分の150頭と計算されました。例えば、一機で3頭の子供を持つ夫婦30組からなる集団に対応できます。」
「最後に小型ボットですが、これが意外に使えるようです。」
「20頭の竜に対応できますので、家族用と言ったところでしょうか。例えばウォーゼルとビボウの夫婦に、子供が沢山産まれても大丈夫です。」
「あくまでも概算だが、手持ちのボットを充てれば数千頭の竜を養える計算になる。」タローが引き取ってまとめてくれた。
「今、この地にそんな数の竜種はいないはずだ。俺が知らないだけかもしれないが、恐らく数百頭まで減っている。」
「私達は、絶滅せずに済むのですね。」ビボウは、感動して体が震えているようだ。
そんなに数を減らしていたのか。本当に危ないところだったんだな。キュベレが言ったとおり、この世界で異物の俺がこんな事を考えなければ、竜族は滅んでいたわけか。
「では、なるべく広くボットを配置して、多くの竜族の遺伝子を保全することだ。」
「ジロー、遺伝子とは何だ?」ウォーゼルに質問された。
そうか、俺としたことが師匠にも竜にも、物理学は教えても、生物学は教えていなかった。
「ああ、生き物の多様性のことだな。いろいろな血が混ざった方が、種として強いんだよ。詳しくは、またボットからタローに夜学で学んでくれ。」生物学なら、俺でも教えられるがな。
「竜が十分な魔素を得られるようになれば、繁殖が盛んになって数も増えるじゃろう。」
うん、師匠、ごもっともですね。
「確かにそうだが、急に増えることはあるまい。」ウォーゼルがフンと鼻を鳴らした。
「子は若い時にしか作らぬし、繁殖行為は年に一度、そもそも我らは群れることを嫌う。空を飛ぶことを愛する孤高の生き物だからな。」
おお、何だかカッコイイな。それに引き換え俺たち人族は、群れるのが大好きな生き物で、繁殖行為ときたら、それはもう、
「タロー、どうだ。竜族がどこに分布しているか、調べられるか?」
「目の前に絶好のサンプルがいる、上空から赤外線で地上の竜族の生体波動を探すことは比較的容易いと思うぞ。」
「なに? 空から見て分かるというのか?」とウォーゼル。
「おいおい、そもそもそのための探査ボットだぞ。俺たちの科学技術を、舐めてもらっては困るな。」俺は苦笑した。
「一日ほど時間を貰えれば、ここを起点とした半球の竜族の分布状況を報告しよう。」
「うん、頼んだぞ。」
「ジローよ、竜族に必要な魔素量は、我ら人族や魔族にとっては巨大であろうな。」
「そうだと思いますが、師匠。何かありましたか。」
「ふむ、竜族と同様に、魔素の不足に悩む魔族がおる。」
「魔族は魔素がなくても生きていけるはずですが。」
「うむ、そうじゃ。しかし生活魔法に親しんできた魔族の習慣は、なかなか変える事ができぬからのう。」
「生命活動に魔素を必要としない魔族ならば、日常において必要とする魔素は、竜族より相当低いはずです。おそらく小型ボット一機で、ある程度の集落の必要魔素量を供給できるでしょう。」とタローが請け負った。
「ジローよ、儂が親しくしている魔族の集落がある。」
「周辺の人族とも通商関係を築いている比較的温和な奴等じゃ。小型ボットを借りて、今度付き合ってはくれぬか?」師匠に頼まれては、俺に嫌はない。
「分かりました。喜んでお供いたします。」俺はそう答えたのだった。(続く)




