その1 魔人の僕(しもべ)
キラを卒倒させた俺は、静まり返る演武場の貴賓席まで歩き魔王様の前に跪いた。
「お父上、勝ってまいりました。」
「婿殿よ。あれが賢者の戦いか、見事である。」
「旦那様、素晴らしいお姿を見せていただきました。」クレアは、俺に惚れ直したようだな。
だが、魔王様の顔色は、微妙だった。
「見事ではあるが、ちと禍根を残したな。このまま城まで付き合え、婿殿。」
「それと、あ奴を何とかする方法はないか。」魔王様は、演武場のステージの真ん中で、プルプルしている巨大なスライムを指差した。
「召喚した術者が倒れてしまいましたので、私にはどうする事も出来ません。しかし、伝手がありますので、調べておきましょう。」
「ふーむ、魔人の加護に伝手とは、しかも先ほどの戦いの手際の良さ。どうやら婿殿は、いろいろと知っているようじゃ。」
魔王様は、側近に命じた。「城へ戻る。」
◇ ◇ ◇
再び登城する前に、俺は搭載艇に戻ってきた。
南の魔族の里にいるホム爺に、魔王様からの頼み事を相談するためだ。
正面のディスプレイに、ホム爺、ウィルそして俺の娘で今はウィルの妻となったスセリの姿が映し出された。
ウィルは、南にある魔族の里に俺が住んでいた頃からの弟分で、里長の一人息子だ。現在は三十歳の手前、もうすぐ父から仕事を引き継ぐらしい。
ホム爺はウィルの執事だが、実は大昔に魔人によって作り出されたホムンクルスだ。今は訳あって、この魔族の里の特別宰相として手腕を発揮している。
「ジローの兄貴、しばらくだな。」ウィルは相変わらずのタメ口だな。俺は、お前の義理の父なんだぞ。まあ、見た目は俺の方が若いけどな。
「父上、ご無沙汰しておりました。」スセリは元気そうだ。この星に来て、俺がもうけた最初の子だ。今は二人の子の母となって、しっとりと落ち着いた母性が輝いている。
「ジロー、階段の愚者のことで相談があるとタローから聞きましたが?」問いかけるホム爺に、俺はこみいった経緯を話した。
「なるほど、本来は召喚した術者が送還すべきですが、その術者が人事不肖なら仕方がありませんな。こちらで、戻して差し上げましょう。」
「ああ、済まないな、助かるよ。」
「そして、ゴーレムを倒されたのですな?」
「そうだ。」
「ふむ、闇の波動で土に還ったゴーレムは、復活が容易ではありませんぞ。その魔族の王国の守り神となれば、これもこちらで出向かねばなりませんな。」
「そうなのか、そうしてくれれば有難い。」
「ただ、生憎と私はこの里の宰相として忙しい日々でしてな。その仕事には、私の仲間を用意させていただきます。」
えっ、お前に仲間なんていたの? 驚く俺の顔を見て、ホム爺は楽しそうに笑ってみせた。魔人が創造した洗練された合成生命体だと自負するこいつは、相変わらず表情がとても豊かだ。
疑問が俺の顔に出ていたらしい。
「魔人の里では、施設を管理するだけでしたから、私一人が稼働していたのです。私は創造された第一号機ですが、仲間は無数にいるのですよ。すぐにウィル坊ちゃんの魔人号で一人を連れて参ります。ジローの船で、迎えに来ていただきましょう。」
「ならば私が行こう。ジローはこれから魔王様との協議があるのだろう。」タローが、そう言ってくれた。
ちなみに魔人号とは、古の魔人が使った乗り物、魔動機の事だ。ウィルが魔人の里から一機持ち出して、いろいろ改造を施し、自分専用の船としてちゃっかりと使っているのだ。
◇ ◇ ◇
タローを南の魔族の里に向かわせて、俺は子らを抱いた二人の嫁を連れて再び登城した。王城の執務室では、魔王と宰相のゾフィーが俺たちを待ち構えていた。
「さて婿殿、我が王国の守りたる魔人の加護、あの召喚獣について知っていることをご披露願おうか。」
「では、お父上。この昔話をご存知ですか?『魔人族は、最後の守り神として土を光で練ると、主人の命令だけを聞くゴーレムを作りました。ゴーレムは自らの姿を隠し、死者の霊を呼ぶことができました。そして死者の霊は光に照らされるまで、ゴーレムは闇に照らされるまで、戦いを続けて魔人族を敵から守りました。』という話です。」
俺は、昔ウィルに聞かされたのを思い出しながら、魔王様に問いかけた。
「まあ、旦那様がその話をご存知とは。」クレアが驚いて、眼を大きく見開いた。
「うむ、我らが里では誰もが一度は聞いたことがあろうな。それが、キラ侯爵が最初に召喚した魔物ということか。」
「はい父上。あのゴーレムは、本来は魔人族の里を守るために、魔人によって生み出されし魔物。大きなダメージを与えた上で、光属性と次いで闇属性による回復魔法を叩き込んで初めて倒せる、つまり賢者にしか倒せぬ障壁として、魔人が置いたものと聞きました。」
「なるほど、先のお主の戦いは、まさにそのようであったな。」
「では次なる銀色のスライムは、どうなのじゃ?」
「はい。あの魔物は、魔法で攻撃すれば反撃を返すだけのもの。敵意を示さねば何もせず、ただ乗り越えるべきものと、魔人の僕に教わりました。」
「ふむ、婿殿はその魔人の僕とやらと懇意であるのだな。」
「はい、只今この城に呼び出しているところです。」
「何と! それは僥倖。だが、ここに連れてきて何とする?」
「まずは、あのスライムを送還させます。続いては、ゴーレムを復活させる所存です。」
「そうか、それを頼めるのであれば有難い。」
魔王様は、少し考えてから言葉を続けた。
「キラが目覚めたら、まず儂から婿殿に詫びを入れさせよう。そもそもの発端は、奴の無礼であるからの。」
「しかし、その後は婿殿からも一言詫びてもらおうか。先の戦いは、力の差もあろうが、ちと相手を舐め過ぎじゃ。」
はい、反省してます。年上に見える貴族様に対して、生意気しちゃいました、俺。
「キラはの、今回はとち狂っておったが、本来は忠義の者。あの侯爵家が、この王国の中で護国卿の立場を失わぬよう、力を貸してくれぬか。」
「はい、お父上の仰せのままに。」
うーん。クレアの親父殿は、気配りができる男だ。俺が負かしてしまったキラ侯爵への配慮を忘れない。伊達に王様をやってませんね。尊敬しますお父上。(続く)




