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その3 賢者の戦い

ふいに、人型の大きな影が地面からユラユラと立ち上がった。3mほどの巨体となり、太い刀身の両手持ちの剣を構えていた。

この魔物は何だ? キラが召喚したのか?


「何だか、見覚えがあるな。」タローの言葉を聞いて、俺も思い出した。そうだ、こいつは魔人の里に続くダンジョンにいた、ゴーレムという奴じゃないか。今から十数年前に、戦ったことがある。カレンに渡した魔人の大剣をドロップした階層のボス、懐かしいな。


魔物は、大剣を鈍色に励起させるとブンと横に薙ぎ払ってきた。こいつは闇属性の魔法剣だったな。闇属性で剣速を早めているが、こんな大振りでは避けるのは容易(たやす)いぜ。


振り下ろされたその腕を、俺は上から切りつけた。腕はさくりと切り離されたが、ぐずぐずと砂のように崩れ、ザザアと音を立てて舞い上がり、切断された腕の断面に殺到する。たちまちのうちに腕が再生した。そうそう、こんな奴だった。


確か、ある程度ダメージを当てなければ、次のモードに移行しないんだよね。思い出してきた俺は、水の波動に風の波動を組み合わせて、この魔物に打ちつけた。

絶対零度アブソリュート・ゼロ!」言わずにいようと思ったが、つい言葉に出してしまったぜ。


水に叩かれ、次いで風に冷やされた魔物は、パキパキと音を立てて足元から凍り付いて、氷の像になった。しかし、内部から熱を発したものか、魔物はゆっくりと溶け始めると、何事もなかったようにまた動き始める。


次いで俺は、風属性の高等魔法を叩き込む。

超雷撃スーパー・ライトニング!」うーん、この名前もイマイチかな。

激しくスパークするいかずちがドドンと魔物の頭上に落ちて、演武場をバリバリと揺らした。俺の渾身の雷撃魔法だ。


魔物の体から湯気が立ち上って、動きが止まる。キナ臭い匂いが立ち込める。

だがしかし、やはり効果はないように見えた。立ち止まってしばし、また何事もなかったように魔物は動き出して、大剣を振るって向かってくる。ここまでは、前回と同様の展開だ。見た目では分からないが、ダメージ量は蓄積しているはずだった。


「タロー、頼む!」

俺の頭上に浮かんだステルス小型ボットから、収束された重力子ビームが魔物に向けて放たれた。

重力撃グラビトン!」よーし、ノッテきたぞ、俺。


この重力波は、本来はボットを移動させるためのものを、収束して攻撃に転用しているのだ。重力波は目に見えないから、観衆は俺の魔法と思うだろう。そして、光速で飛来する究極の衝撃波に、耐えられるものはない。

ボッと白い煙が浮かんで、魔物の巨体の中央に穴が開いた。二発目では頭が消し飛んだ。しかし、吹き飛んだ砂粒はまたも音を立てて渦を巻き、巨体を再び構築した。


魔物は、口らしきものを開きキアアと声を上げた。よし規定のダメージ量を満たして、次の戦闘ステージに突入だ。


ゴーレムは、その姿を消した。すると、アンデッド達が無数に現れて、俺を取り囲んだではないか。ゴーレムは、次のステージでは死霊を召喚するのだ。

いろいろな魔物の死体に交じって、魔族もいれば獣人族のそれもある。きっと、これまでこの場所で命を落としてきた奴らの、成れの果てなんだろう。

会場には悲鳴が渦巻いた。


さーて、ここからが賢者たる俺の真骨頂だ。皆さん、よ~く見ていてね~。

いま魂を救ってやるぜ、光属性で「広域回復魔法(ワイドエリアヒール)!」

淡い輝きが演武場に渦巻くと、周囲のアンデッド達が、たちまちグズグズと崩れて消えてしまった。よーし、上手く行ったな。


すると、キアアとまた鳴き声がして、姿を消していたゴーレムの巨体が再び現れた。よーし、いよいよ最終ステージ。

トドメだ、今度は闇属性に切り替えて「極大回復魔法(マクシマムヒール)!」


演武場の空間の光が闇に変じて、吸い込まれるように魔物に集中していく。ゴーレムは、形を失って土の塊に姿を変え、やがてゆっくりと地面に吸い込まれていった。

うん、一度戦ったことのある相手だから、楽勝だ。


「やはり、前回と同じだったな。」タローが感慨深げだ。そう、俺もあの頃を思い出していたよ。ウィル坊は元気でやっているかな、嫁に取られたスセリとは、仲良く暮らしているのだろうか。

って、いかんいかん、戦いの最中(さなか)に思い出に浸るなど。俺も歳をとったかな?


観客は、シーンと静まり返ってから、ウオ~と喝采が高まって鳴りやまなかった。

そして、頼みの綱だった魔人の加護を倒されて、キラは卒倒しそうな表情をしていた。

「これで俺の勝ちだな。」キラに声を投げたが、返事が返ってこない。見るとキラは、再び印を結んでいる。


「この禁断の奥義を、私の代で披露することになるとはな。」すると、キラの前に再び魔物が召喚されて、その姿を現したではないか。

鉄の光沢を持つ体が、光を乱反射してプルプルと輝いている。それは、その体内に沸騰する膨大な魔素を抱えた、巨大な銀色のスライムだった。


さすがに観衆は、魔素に敏感な魔族たちだ。会場は再び、物音が消えて静まり返った。一目見て、強大な魔法を打ち出す厄介な存在であることを、誰もが見破ったのだろう。


「また出たな、これも懐かしい。」タローが呟いて「また例の方法で派手に倒すつもりか?」と聞いてきた。

そうだ、前回もこいつは出てきたっけ。あの時は倒し方が判らずに、無理やり力業(ちからわざ)で押し通ったのだが、


「いいや、ここはホム爺に教わったのを試してみよう。」

「そうか、だがやったことはないのだ、慎重にな。」

俺は、目の前で剣呑けんのんにプルプルと輝き揺れるスライムに向けて、断固として歩みを進めた。そしてそのままスライムを踏みつけ、かき分け、通り抜けて、その向こうにいるキラの手前まで歩いて行って足を止めた。


「あの階段の愚者(スケアクロウ)が、どうかしたか?」

「なぜ、その名を知っている?」と震える声で言うと、血の気の失せた顔をしたキラは、派手に後ろにパッタリと倒れた。明らかに失神していた。


「勝負あった、ジロー殿の勝ちだ!」魔族の審判が宣言した。静まり返った演武場のステージ中央には、鉄色の大きなスライムが、ただプルプルと揺れていた。

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