その1 本当の歳(とし)
朝飯が終わって、俺は自室に四人を招き入れた。テーブルを囲む形で、サナエとヨシユキ、クレアとカレンに席を勧める。
「タロー、来てくれ。」そう呼びかけると、壁の中ほどに置いてあるボットのディスプレイが灯り、タローの顔が映し出される。「皆さんお早うございます。」
「サナエとヨシユキは、前にもこの部屋でタローと話した事あったよな。」。
「はい、何度か会ったわよね。先生の兄貴分のキカイね。」
「これは、この村の門に置いてあったゴーレムと同じものですか?」
「キカイとは何でしょう。」クレアとカレンの質問が重なった。
「機械と言うのは、何かの仕事をさせるために人が作った仕組みの事だな。」
「門に置いてあったやつも、このタローがここから動かしているのさ。」
「タロー殿は、人族に見えますが?」カレンが聞いてきた。
「これは似顔絵だ。タローは、俺が元いた世界で作られた機械さ。人より早く、正しく考え、沢山の知識を持っていて賢い。ここ四十年来の俺の相棒だ。そして、訳あって今は俺の兄貴分だ。」
「四十年って言ったの、先生。先生って、今いくつなの。」サナエが驚いていた。
「それが、今日の第一の問題点だな。」さーて、初公開。身の上話を始めるか。
「俺は、二十歳を越えたあたりから肉体年齢を止めている。つまりそれ以上、歳は取らないンだ。この村に来て十年、その前の場所に五年くらい、最初に暮らした場所には二十年以上住んでいたから、実際の俺は六十歳代の半ば過ぎと言ったところかな。」場がシーンとする。
「賢者様の不老長寿の秘術ですか?」とクレア。いやいや流石に、そんな魔法はありません。
「いいや、一ヶ月ごとに俺は、機械を使って体を若返らせてきたんだ。俺は、少なくともあと百年以上は生きて、空から降りてくるはずの仲間を待っていなければならない身の上なのさ。」またシーンとして、しばらく沈黙が続いた。
「十歳の時に流行り病になって、先生に助けてもらった。それからここで働かせてもらって十年経って、私は大人になったけど、先生はまったく変わらなかった。」サナエが呟く。
「俺も八歳の時に先生に拾われて、今まで置いてもらったっすけど、先生はずっとそのままっすね。」ヨシユキも認めた。
「お前たちは、いつの間にか大人になったよなぁ。」
「どうだサナエ、俺の中身は七十手前の爺様だ。ウエキ爺といい勝負だ。それでも俺の嫁になるか?」苦笑いしながら、俺はサナエの顔を覗き込んだ。
「私は今の先生が好きなんだから、それでいいよ。だけど私は、先生の子供を産めないの?」うわっ、いきなり直球を投げてきやがった。
「いや、体は若いままだから、子供は作れると思うぞ。」そう言った俺は、顔が赤くなるのを感じた。何やってんだ、こんな小娘相手に俺は。
「ジロー様はこれからも若いままだとしても、私達は年をとります。いくら魔力量の多い魔族が長命だとて、これから百年生きる自信はありません。私達が老婆に変じても、ご寵愛をいただけるのでしょうか?」クレア姫、流石に的を得た発言です。そして、お二人と私の関係は既に確定なのですね。
「そう、それが今日の問題点の二つ目になる。」俺は認めた。
「その質問には、私から答えよう。」壁のタローが発言して、皆がタローの顔を見つめた。
「肉体年齢の進行を止める、と言うより賦活化させると言うのが正しいのだが、その処置は私ならば可能だ。ジローは月に一度の処置を必要とするが、純粋な現地人である貴女達の場合は、半年に一度の処置で十分だろう。」
「我らも、歳をとらぬようにできるという事だな。ならば、私は望むところだ。私も若いままでいられるのなら、ジロー殿の子宝をいくらでも授かる事ができるではないか。」カレンが鼻息も荒く意気込んだ。
「まあ、カレン。少しばかり言い方が露骨ですわ。気持ちは分かりますけれど。」クレアがたしなめる。
「いやいやカレンさん。女性の体の中では、生まれた時から卵の数が決まっているのです。卵は毎月減っていきますから、いつまでも若いからと言って、いくらでも子供が産めると言う訳ではないのですよ。」
「えっ先生、卵の数がもう決まっているって、そうなの? 私、まだ教わっていません。」サナエが変なところに食いついてきた。
「獣人は竜とは違う。私は卵は産まぬぞ!」カレンは、別なところに引っ掛かりましたね。そーじゃなくって!
「だとしても私は、長生きはいいかな。ジロー先生の子供を何人か産んで、育てて、その子供達と一緒に年をとって行きたい。ジロー先生が私より先に死なないなら、それでいいかも。」なるほどサナエちゃんらしいお答えですね。
「私はカレンと同じです。このままの姿でいられるなら、子を授かり、ずっとジロー様をお支えしたい。」クレアの目が強く輝いている。こりゃ、逃がしてくれそうもないな。
「ヨシユキ、どうだ?」
「えっ、俺もっすか。俺も普通でいいです。先生と結婚するわけじゃねーし。俺も早く、可愛くて綺麗な嫁さんを探そうかなあって。」
「皆さんのお考えが分かりました。」タローが結論めいたことを言いだした。
「いやいや、ちょっと待て。タロー、これから船で空に上がるぞ。」
「そこまで見せるのか?」
「そうじゃなきゃ、身の上話にならないだろうが!」俺は立ち上がった。「では、場所を変えよう。ついてきてくれ。」俺はドアを開けると、まず治療院の受け付けで、受付係の部下に声をかけた。「済まんが、今日の午前中は休診にする。昼過ぎには戻る。」
◇ ◇ ◇
皆を廊下の奥に案内した。
風呂に繋がる反対側の、いつもは鍵をかけて閉じてある扉を開けると、納屋に出る。中には、母星で言う一戸建てぐらいの大きさの、銀色に輝く大きな楕円体が置いてある。
「これが、俺が乗ってきた船。タローの本体もここにある。」エアロックの扉を開けた。宇宙空間ではないので、エアロックの二枚の扉が同時に開いて、その先の扉の向こうはもう操縦室だ。
「タロー、人数分を頼む。」床からテーブルと椅子がせり上がってきた。俺はレーション機械から飲み物を出して皆に配ると、タローに命じた。
「この星が見渡せる位置まで上昇してくれ。」ふっと床に押し付けられる感覚があったが、すぐに慣性を打ち消して加速度を感じなくなった。
操縦席前のディスプレイを一杯に拡大して、俺は遠ざかっていく地表の画像を皆に見せてやった。納屋の上に飛び上がり、どんどん高さを増し、雲を突き抜け、やがて青い丸い球体を見下ろす位置で搭載艇は停止して宙に浮かんだ。(続く)




