第一話 魔機人-マギナ-
スパロボ30にマジェスティックプリンスとナイツ&マジックが出るってマジですか!?
『FreedomFantasiaOnlineへようこそ。まずは、この世界であなたの名前となるプレイヤーネームを設定してください』
周囲を真っ白い空間に囲まれた不思議な場所に私はいた。目の前には半透明のホロウィンドウがホロキーボードと共に表示されている。さて、まずは名前ね。
ピッピッとキーボードをタッチし『MION』と入力する。琴宮紫音からミとオンをとってミオンだ。シオンでもプレイヤーネームとしては通用するだろうけど、本名を使うのはちょっとね。
『ミオン様ですね。お次は、種族をお選びください』
機械音声が喋るのと同時に七種族のホログラムが浮かび上がる。それぞれ、人間、獣人、エルフ、ドワーフ、翼人、魔人、魔機人だ。私は当然魔機人を選択する。ちなみに種族説明欄にはこう書いてあった。
魔機人
機械の体を持ち、魔力を動力源として動く人型ロボット。あらゆる物理攻撃と魔法攻撃に耐性があるが、成長する肉体を持たないため種族レベルが存在しない。また、雷属性の攻撃に弱く、自身の魔力と干渉してしまうため魔法を扱うことができない。
うん、公式サイトに書いてあったことと大差ないわね。機械音声が本当にこの種族でいいですかと聞いてくるので、目の前のホロウィンドウに浮かぶはいをタッチ。すると、白一色だった背景が色を変えていき、工場のような、整備場のような背景に変わる。選んだ種族で背景が変わるのは面白いわね。
『では、この世界であなたの分身となるアバターを作成してください』
アバター作成キタ――――――ッ!
ソワソワする気持ちを抑えつつ、機械音声に促されるままホロウィンドウをタッチしていく。どうやら、アバター作成には二通りのやり方があるみたい。
一つ目は、簡易エディット。これはある程度形の決まったモデルからそれぞれパーツを選んでいき、アバターを作るというもの。主人公のアバターを作れるゲームでは一般的なキャラクリだね。魔機人以外の六種族だと、リアルの自分をスキャンしてベースにすることもできるみたい。
二つ目は、詳細エディット。これはそのままの意味で、本当に一からモデルを作っていくみたい。アバター作成に凝る人はこの詳細エディットで何時間も時間を消費するのだろうことが想像できる。私もその口です。
しかも、私が選んだ種族は魔機人。なんと、この詳細エディットでフレームからモデリングできるという。これは、凝るしかないっしょ!
そんなこんなで3Dモデルと格闘すること約四時間。ええ、四時間です。この設定を始めたのが大体十時半頃だったから、今は午後二時半くらいかな。ちなみに正式サービス開始は正午です。つまりスタートダッシュ二時間半も遅れてしまったわけですね。これはまずい。
と、そんな私の心中を察したのか機械音声が話しかけてくる。
『伝え忘れておりましたが、ゲーム内での一時間は現実世界の二十分ほどです。ですので、そんなに焦る必要はないかと思います』
HAHAHA。Why? 今なんて?
『特殊な時間加速処理を施しておりますので、ユーザーの皆さんの脳や身体に負担はございません。ごゆるりと、ゲームをお楽しみください』
えーっと、つまり、ここで四時間アバターを弄ってたってことは……現実では一時間二十分しか経ってない、ってことか。
兄さん、どうしてこんな大事なことを妹に黙ってたの。くそぅ、ベータテスターめ。つまりは時間以上に楽しんでいたってことか。ふふふ、まあこれからは私もその恩恵に与れるわけだから許してやろう。
どうやら時間に関しては大丈夫っぽいので、改めて私が作成したアバターを見る。
頭部は、側頭部からツインテール状に伸びる二本のパーツが特徴的。開閉ギミックとかも仕込めるらしく、だいぶ凝った作りになっている。顔は一般的な二つ目に口元はマスクパーツで保護している。口のあるロボットも嫌いじゃないけど、女の子だからね。
胴部は、特に凝ったところはない。女性らしいシルエットと両立するかっこよさを目指した感じ。あまり胸部装甲が大きいとミサイルになりそうだ。おっぱいミサイル、見る分にはいいけど自分がやるのはちょっと……。
腕部には色々と武器を仕込めるようにした。やっぱ、装甲部が開閉して中から武器が出てくるとかロマンじゃない? ゲームでもできるかは分からないけどね。まあ、とりあえずはギミックだけ。あと、肩の側面部分にはバーニアを取り付けた。見た目が損なわれないように、バランスよく配置したけどね。
腰部から下は女性らしいシルエットと装甲、スラスター、バーニアをバランスよく配置している。脚部にも邪魔にならない位置にバーニアを配置し、女性的なシルエットを阻害しない程度に装甲を付け足した。
背部はまだ設定できないらしく、ゲーム内で新しく作成してくださいとのこと。ウィングとか、コンテナとか、色々付けたいものがあったんだけどね。
そんなこんなでアバター作成が完了。色は、白と蒼、装飾として紫を入れている。かっこよさと美しさを両立させたような色合いになっていて、凄い私好みだ。理想のロボットでファンタジーの世界を冒険できるとか最高か? 最高だね!
『次に、種族スキル及び種族初期スキル、初期獲得可能スキルの確認をお願いします』
アバター作成が終われば次はスキル。公式サイトでは流し見だったからここでちゃんと見ることにしよう。
と思ったんだけど機械音声がそのままスキルそのものの説明を続けてしまった。要約するとこうだ。
プレイヤーのステータスは全て所持スキルによって決まるということ。スキルを成長させればそれだけ自身のステータスも伸びるってわけね。ただし、基本ステータスは数値化されないので注意、と。例外はHPとMP。ベータテスターの話だと、フリファンの世界は現実と同じくらいリアリティがあるという。リアルとファンタジーのバランスがちょうどいいらしい。
さらに、初期スキルは十枠までだけど、それ以降のスキル取得にはSPが必要になってくる。これは、取得したいスキルの強さや希少性で消費SPが変わってくるみたいだ。例えば、《刀剣》スキルを取得するのに必要なSPが1であれば、その派生スキルである《片手剣》スキルや《両手剣》スキルを取得するためにはSPが3必要といった感じ。レアなスキルはこれに当てはまらず、かなりのポイントを消費したりするらしい。
初期SPは20で、スキルレベル10で1SP、20で2SPと獲得できるSPは増えていく。スキルでステータスが決まるこのゲームで、どのスキルを取るか、どうやって育てていくかでそれぞれのキャラの個性が立つ、と。スキルビルド次第ではオンリーワンなキャラを作ることも可能なわけね。ゲーマー心をくすぐる話だ。
そしてスキルにはカテゴリーというものが存在して、全部で七つのカテゴリーに分類される。それは以下の通り。
武器カテゴリー
防具カテゴリー
魔法カテゴリー
生産カテゴリー
パッシブカテゴリー
エクストラカテゴリー
ユニークカテゴリー
武器カテゴリーはそのまま、武器関係のスキル全般を扱うカテゴリーだ。分かりやすいところで言えば、《刀剣》スキルや《槍》スキルのこと。このカテゴリーのスキルを取らないと、そもそも武器を装備できないから注意ね。
防具カテゴリーもそのまま、防具関係のスキル全般を扱うカテゴリーだ。《軽鎧》スキルや《重鎧》スキル、《布》スキルなんかがこのカテゴリーに入る。《盾》スキルもこのカテゴリーみたい。このカテゴリーのスキルを取らないと、防具の補正が少なかったり、動きづらかったりするので注意。
魔法カテゴリーもそのままで、魔法関係のスキル全般を扱うカテゴリーになる。《火魔法》スキルや《水魔法》スキルなどが当てはまるね。《回復魔法》スキルももちろんこのカテゴリーだ。魔法を使いたいなら必須のカテゴリーってわけね。
生産カテゴリーも読んで字のごとく、生産関係のスキル全般を扱うカテゴリーだ。《鍛冶》スキルや《木工》スキルに加え、素材採取系のスキルである《採掘》スキルや《伐採》スキルなんかもこのカテゴリーに入るみたい。武器カテゴリーのスキルを持っていなくても、生産できる武器を装備できるようだ。あくまでも装備できるようになるだけで、武器カテゴリーのスキルと比べると与えるダメージ量が明らかに違うとのことなので、戦闘前提なら武器カテゴリーも取得した方がいいみたいね。
パッシブカテゴリーもそのまま、パッシブスキル全般を指すカテゴリーね。《筋力強化》スキルや《敏捷強化》スキルなんかがこのカテゴリーに入る。パッシブスキルっていうのはどんなゲームでも大事だから、全てのプレイヤーがお世話になるカテゴリーかもね。
エクストラカテゴリーは、特定の条件で他のカテゴリーから派生するものや、希少性の高いものがほとんどね。その分強力なスキルが多いらしいけど。
ユニークカテゴリーは、フリファンにただ一つだけ存在するスキルのカテゴリーのこと。エクストラカテゴリーよりも希少性が高く、条件も厳しいらしい。ゲーマーとしては、一つくらいユニークカテゴリーのスキルをゲットしたいわね。燃えてくるわ!
各カテゴリーの説明も受けたことだし、早速魔機人のスキルを見ていきましょうか。
《魔機人》
C:EX Lv.1
このスキルを所持している種族は種族レベルを持たない。また、MPを持たず、ENという特殊ステータスを持つ。MPを消費する行動やスキルを使用する際、MPではなくENを消費する。
武器、防具、装飾品を装備不可。代わりにパーツを装備可能。
一部スキルが取得不可。一部スキルが使用不可。一部スキルが適用されない。
雷属性と腐食属性以外の全属性に耐性がある。物理属性の攻撃にも耐性がある。耐性値はスキルレベル依存。
装備パーツとこのスキルの効果が矛盾した場合、装備パーツの効果が優先される。
《武装》
C:EX Lv.1
このスキルを所持している種族は武装を装備可能。なお、武装に武器カテゴリーのスキルが書かれている場合、そのスキルが必要になる。
《パーツクリエイト》
C:EX Lv.--
魔機人のパーツを作成できるようになる。
《自動修復》
C:EX Lv.1
魔力炉から供給される魔力で機体を修復する。
《自動供給》
C:EX Lv.1
魔力炉から供給される魔力でエネルギーを充填する。
わあ、見事にエクストラカテゴリーばっか。これは多分、魔機人以外では取得できないスキルだからってことかな。希少性で見るなら確かにエクストラだね。
それにしても、種族スキル以外の説明があっさりしてるなぁ。これはゲーム内で実際に確認するしかないかな。最後の二つは多分HP自動回復とMP……もとい、EN自動回復かな。回復魔法やポーションなんかは飲めないし、妥当なところだと思う。どれだけの数値が回復できるか……ってところかな。
さて、取得可能なスキルは残り五枠。私は時間の許す限り悩んでこの五つを選択した。
《刀剣》
C:武器 Lv.1
武器〈剣〉〈刀〉を装備でき、ダメージが与えられるようになる。与ダメージはスキルレベル依存。
《鑑定》
C:P Lv.--
あらゆるものの詳細が分かるようになる。対応するスキルを持っていれば追加情報を得ることができる。
《感知》
C:P Lv.1
気配が分かるようになる。感知範囲はスキルレベル依存。
《直感》
C:P Lv.1
危ないものに対する知覚が敏感になる。発動範囲はスキルレベル依存。
《敏捷強化》
C:P Lv.1
AGIが上昇し、補正が入る。上昇値はスキルレベル依存。
《刀剣》スキルは攻撃手段のため。《武装》を持っている状態で武器カテゴリーのスキルを取ると、そのスキルに対応する武装が貰えるみたい。いわゆる、初期装備ね。
《鑑定》スキル《感知》スキル《直感》スキルはゲーム内で取りにくいスキルだって言うのと、ベータテスターの兄さんが絶対に取得しておいた方が後々楽になると言っていたので取った。説明を見てもうっすらとしか分からないけど。
《敏捷強化》スキルは数ある強化系のパッシブスキルの中からこれを選んだ。とにもかくにもスピードって大事だよね、って話。極論、攻撃を食らうことがなければ死なないわけだし。それと、理想とするロボットに近づくためにはスピードがないといけないからね。
この構成でいいのかと訊いてくる機械音声にウィンドウをタッチして答える。
『プレイヤーネーム:ミオン
種族:魔機人
選択スキル:《刀剣》《鑑定》《感知》《直感》《敏捷強化》
…………確認致しました。プレイヤーネーム:ミオン様の初期開始地点は始まりの街、ファスディア近くの森となります。それでは、アクセス開始までのカウントダウンを開始致します。Ⅹ……Ⅸ……Ⅷ……』
本来、ゲーム開始地点はどの種族も始まりの街から始まるんだけど、魔機人だけは始まりの街の近郊にある森の中から始まるの。それは、一般的に魔機人を選ぶ唯一のメリットって言われてるあるアイテムがあるからなんだけどね。
そう。この言い方から分かる通り、魔機人はフリファン唯一の不遇種族として認識されてるの。その不遇云々の話は、兄さんから聞いた話なんだけどね。どうして不遇種族として扱われてるかはあまり教えて貰えなかったんだけど……少なくともベータテスト段階ではNPCの魔機人以外はほとんど見かけなかったそうよ。兄さんが見せてくれたスクショに写ってた魔機人はNPCだったみたいね。魔機人で始めるって言った私を兄さんはとても心配そうに見てたのを覚えている。
でも、燃えてくるね。周囲が不遇種族と蔑む種族で、その認識を塗り替えていくっていうの。ま、ライトノベルにありがちな話だけどね。
っと、そろそろカウントダウンが終わりそう。事前にご飯も食べたし、トイレも済ませてきた。とりあえずは夜までぶっ続けで遊ぶぞー!
『Ⅲ……Ⅱ……Ⅰ……アクセス開始、完了。私たちはプレイヤーネーム:ミオンを歓迎致します。ようこそ、自由なる浮遊大陸へ』
そして私は、フリファンの世界への第一歩を踏み出した――
『な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!』
――そんな私を待っていたのは、全身を錆び付かせた私の相棒でした……。ぐすん。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
よろしければ、続きもお楽しみください。