第十話 新たな仲間
今日は1時間後にも投稿する予定です。
それでは、本作品をお楽しみください。
『ふぅ……』
マギアサーベルの刀身を消し、バックパックへと戻す。
目の前には、熱せられた断面をそのままにHPが尽きたフラワーアリゲーターがその身体を光に変えている。
ここ〈散華の森・中層〉にはいくつかの徘徊ボスがいて、今倒したフラワーアリゲーターはその徘徊ボスの一体だ。
特徴として高いHPと自動HP回復を持っていて、元が植物だからか火属性に弱い。ま、マギアサーベルで数回斬ったら沈んじゃったけどね。
固定ダメージ3000はやっぱりえげつない。少なくとも、この中層に出るモンスターは一撃で、ボスでさえこの有様だ。他のプレイヤーに見られてたらチートだなんだと騒がれそうだね。
そうそう。マギアブレードとマギアソードを作ったから、《刀剣》スキルを派生させている。マギアソードは片手剣としても使えるから、《片手剣》スキルに派生させたわ。もちろん魔機人だからアーツは覚えなかった。
でも、この攻撃力を見てるとアーツなんてなくてもいいって思えちゃうね。しかも使った魔力は勝手に補充してくれるし!
ふふふ、ここから私の理想ロボット創造計画が始まるのよ!
……まあ、まだ剣だけですけどね。本音を言えば、ビームライフルorマグナムと、シールドは欲しいところ。《盾》スキルを覚えれば装備できるし、中層から帰ったら早速作ってみようかな?
私としては、完全な物理シールドよりも盾のパーツがカションカションって動いて、そこからビーム状のシールドが展開される方が好みだ。ギミックを搭載すればいけるかな?
っと、そうだ。中層に来た目的を忘れてたわね。とりあえずヴィーンと連絡をとらないと。
『ん、どうしたのかな?』
『"剣"が完成したから中層に試し斬りに来たの。すっごい威力でびっくりしちゃった。ヴィーンは今どこにいるの?』
『中層の奥、下層の手前あたりまでは来ているよ。ここらへんのモンスターは一癖も二癖もあるモンスターばかりで戦闘が楽しいんだ』
どうやらヴィーンは知らないうちにバトルジャンキーに目覚めていたようだ。いや、私も戦闘は好きだから人のことを言えないかな?
まぁ、中層の奥までだったらこの装備でも十分戦えるだろう。下層まで行けるかは、ちょっと分からないけど。
『とりあえず下層の入口の辺りまで向かえばいいかな?』
『そうだね。そうして貰えると助かるよ。私は、ミオンが来るまで戦闘でもしていよう』
『はは、ほどほどにね。じゃあまたあとでー』
『うん。あとでね』
チャットを終えて、森の奥へと歩を進める。出てくるモンスターが一撃だから、戦い甲斐がないわね。その分作るのにも苦労はしてるんだけどね。主に、リアルの時間を削ったっていう意味で。
マギアサーベルを振っているだけでも《片手剣》スキルのスキル上げになる。むしろ、戦うモンスター数が多くなるため、通常よりも経験値は多いようだ。でもあまり一つのサーベルばかり使いすぎると魔力の回復まで時間がかかるから、できるだけ交互に使っていかないとね。
しばらく進んでいると、矢が風を切るヒュンって音とモンスターの悲鳴が聞こえてきた。そろそろヴィーンのいる下層の近くかな?
音のした方へ向かえば、そこには木にもたれかかってウィンドゥを操作しているヴィーンの姿があった。
『待たせちゃったかな?』
「ふふ、待つというほどでもなかったよ。戦ってれば時間はすぐに進むからね」
ヴィーンの笑顔はやはり美しい。気品っていうのかな。私にはないものを感じてしまう。
私の背後にチラリと視線を向けると、私に向き直ってヴィーンは言った。
「その背中に刺さってるのと、肩のそれが"剣"かな?」
『刺さってるって……まあそうだけどね。マギアサーベルとマギアソード。性能はこんな感じ』
私は私にしか見えないウィンドゥを操作して、ヴィーンにも見えるようにする。そのステータスを見たヴィーンが笑顔のまま固まってしまった。んー、まあそうなるよね。
「……これは、とんでもないものを作ったね」
『ロマンを求めてたらとんでもないものができてしまいました』
「ふふ、いや、だからこそ、か。どうせここから帰ったらこれに負けず劣らずのとんでもないものを作ろうとしてるんだろう?」
『やっぱわかっちゃう?』
「分かるとも。ところで――」
『?』
「そこに隠れてる君は、私たちになにか用かな?」
ヴィーンは鋭い視線を私の後ろの木々へ向ける。えっ、誰かいるの!?
私が振り返ると、そこには全身を錆び付かせた……否、全身を錆び朽ちさせた人型のロボットがいた。
立てばポンコツ、座れば鉄クズ、走る姿はスクラップ――と言った言葉が聞こえてきそうなその姿は、紛れもない。魔機人の初期パーツである錆び朽ちたパーツシリーズだろう。
錆び朽ちているため色は分からないけど、パーツのシルエットを見ると男性型の魔機人だろう。ちょっと装甲が多めの重装甲な機体だ。もちろん、錆び朽ちてるから紙装甲ではあるんだけど。
目の前の魔機人はへこへこと頭を下げながら話しかけてくる。
『す、すみません。僕の名前はカノンって言います。見ての通り魔機人で始めました』
『私は魔機人のミオン。こっちはエルフのヴィーン』
「どうも。それで、君はそこで何を?」
鋭い視線が魔機人――カノンさんを貫く。手はもちろん腰の矢筒にかけられている。 あの視線、怖いよねぇ。美しさと怖さが合わさってなんかこう、背筋がピーンってなるんだよね。
案の定背筋がピーンっとなって直立不動になるカノン。
『ぼっ、僕は掲示板でそちらの――ミオンさんのことを聞いて、やって来ました』
『私?』
思わず首を傾げる。
しまった。普段から掲示板を覗いていないからなんのことか分からない。一体どんなことが書かれてたんだろう?
「ふむ」
ヴィーンは短くそう言うと、ウィンドゥを操作し始める。恐らくカノンさんの言った掲示板を探しているのだろう。
数分も経たずにヴィーンはウィンドゥを閉じ、軽く息を吐く。
「ミオン、やらかしたね……」
『え、え?』
「掲示板を見て来た、というのも分かるよ。たしかにこの情報を聞いて確かめに来ない魔機人はいない」
『えっと、それで、どんな情報?』
「君、フラワーアリゲーターを秒殺したようだね」
『あー』
あれか。マギアサーベルの試し斬りで瞬殺しちゃったモンスターだ。倒したところを見られて、それが掲示板に載ってしまったんだろう。
しまったな……誰にも見られてないと思ってたのに。
「掲示板ではお祭り騒ぎというか……主に、魔機人のスレがとんでもないことになっているよ」
『でしょうね。あの威力で、しかもビームサーベルときたら、魔機人プレイヤーで気にならない人はいません』
「とりあえず、話してくれるかい?」
『はい……』
さすがに素材のことまでは話さなかったけど、マギアサーベルとマギアソードの性能とついでにブラッドラインの性能を二人に見せつつ説明する。
『これは、また、とんでもない……』
「ふむ。ゲーム開始三週間で作っていい装備ではないね。さすがと言うしかないかな。ビームサーベル……いや、マギアサーベルか」
カノンさんとヴィーンの二人が感嘆の吐息を漏らす。兄さんも言ってたけど、やっぱトンデモ武装だったか。いやしかし、ロマンのためには自重などしていられないのですよ。
『これを開発するのに大体リアルで二週間くらいガレージに引きこもってたから、スキルレベルとかは他のプレイヤーと比べるべくもないけどね』
「いや、この性能なら多少のスキルレベルの差なんてひっくり返せると思うが……」
『ちなみに、これって量産とかはできるんですか?』
『一つ一つ手作りだから量産は厳しいかな。スキル持った魔機人が数いれば……って感じかな』
『なるほど……』
考え込むように顎に手をあてるカノン。他の魔機人プレイヤーに会ったのは初めてだけど、やっぱりまだ錆び朽ちたシリーズなんだ。あのダンジョンを見つけられた私、実はとんでもない幸運だった?
『……一つ、いいでしょうか』
『なにかな?』
『もし、僕が……僕たちがマギアサーベルを、そしてブラッドラインを作って欲しいと依頼したら、受けてくれますか?』
『依頼かぁ……』
依頼を受けて、私と同じパーツや武装を作成する。その依頼自体は、別に受けてもいい。経験値にもなるしね。
ただ……それでいいのか? っていう思いはある。
ブラッドラインが欲しいって言われれば、時間はかかるかもしれないけど同じものが作れるだろう。
でも、それは何か違うんじゃないだろうか。
魔機人の酷い事前情報を得てもなお、魔機人を選んだ私のような変わり者。錆び朽ちた状態をなんとかしてやるぞと、それぞれが日々頑張っていたはずだ。
このゲームで自分の理想の魔機人を動かしたいと。作りたいと。
仮に彼らが自分でパーツを作れなくても、私がそれぞれの希望を聞いて、それに沿ったパーツを作ればいい。そのためには、同じ組織に所属している方がやりやすい。
なら、私にできることは――
『うん、そうしよう』
『?』「?」
私の声に首を傾げる二人。
決めた。これなら、誰も不幸にならない。このゲームを、魔機人で楽しめるようになる。
ゲームは、みんなで楽しんでこそ、だよね。
『カノンさん……だったよね』
『自分のことは呼び捨てで構わないですよ』
『そう。じゃあ、私に対してもタメ口でいいよ。それでカノン。貴方のフレンドの魔機人、集められるだけ集められる?』
『え、あ、はい。いや、うん。掲示板なんかで情報交換もしているし、大丈夫だとは思うけど……』
『それと、そのフレンドさんに、貴方のフレンドの魔機人を集められるか、聞いてくれないかな』
「……ああ。なるほど。そういう事か」
『ええ、できるとは思うけど……』
怪訝な表情(だと私が思っている)を浮かべるカノンに対し、納得したような表情を浮かべるヴィーン。さすがに分かっちゃうか。
『お願い。多分、私が貴方たちに同じ装備を作るよりも、いい結果になるはずだから。それで、その上でお願いがあるんだけど……』
『どうした?』
私は一呼吸置いた後に、それを口にした。
『――みんなに、私の作るギルドに入って欲しいの』
[所持スキル]
《魔機人》Lv.38(2up↑)《武装》Lv.33(1up↑)《パーツクリエイト》Lv.--《自動修復》Lv22《自動供給》Lv.31(1up↑)《片手剣》Lv.6(New)《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.16(2up↑)《直感》Lv.25《敏捷強化》Lv.29(1up↑)《採掘》Lv.21《鍛冶》Lv.42《裁縫》Lv.19
残りSP59
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもお楽しみください。




