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苦手な方はご注意ください。

夏のホラー2021『かくれんぼ』

お前も燃えたらよかったのに

作者: 小畠由起子

「もういーかーい?」

「まーだだよー」


 放課後、雨が降っていて、かさを持ってきていない男の子たちは、おむかえが来るまで校舎で待つことになりました。


「もういーかーい?」

「まーだだよー」


 和人もその一人でした。和人たちは、お母さんがかさを持っておむかえに来てくれるまで、みんなでかくれんぼをすることにしたのです。


「もういーかーい?」

「もういーよー!」


 教室の、教壇(きょうだん)机の下に隠れて、和人は息をひそめます。雨が窓をバチバチとたたく音がひびいて、背筋がぞっとします。机の下はせまくて少しほこりっぽい感じですが、せっかくかくれんぼしているのに、一番に見つかるのはいやでした。和人は体操すわりして、ぎゅうっと身をちぢめます。と、誰かの手ががしっと和人のうでをつかんだのです。


「ひゃっ!」

「おい、なにしてんだよ! ここは危険だ、早く逃げるぞ!」


 うでを乱暴に引っぱりあげられて、和人は悲鳴を上げて起きあがりました。いつの間にか雨の音が消えて、代わりに、けたたましいサイレンの音と、なにかすごい轟音がします。思わずおびえる和人のうでを、男の子はさらに引っぱります。


「ほら、逃げるっていってんだろ! 死にたいのか!」

「えっ、死にたいって、えっ?」


 なにが起きているのかわからず、困惑する和人を見て、男の子はチッと舌打ちしてから無言で引っぱっていきます。その迫力に気おされて、和人は男の子に従おうとしました。しかし……。


「和人、ダメよ!」


 ハッとしてうしろをふりかえると、そこには真っ白な着物姿のおばあちゃんがいたのです。和人が大好きだった、キヌおばあちゃんでした。


「和人、ここから出てはダメよ。ここにいなさい。大丈夫、なんにも怖いことはないよ。さ、おばあちゃんのそばにおいで」

「おばあちゃん」

「バカッ、なにやってんだよ! とにかく早く来い、爆撃で死ぬぞ!」


 男の子の引っぱる力が、どんどん強くなっていきます。しかし、和人はその手をふりほどこうともがいて、それからキヌおばあちゃんに助けを求めます。


「おばあちゃん! キヌおばあちゃん! 助けてよ、ぼく、死にたくないよ!」


 しかし、和人の必死のさけびも聞こえないのか、キヌおばあちゃんは顔色一つ変えずに、同じことをくりかえしています。


「和人、ここから出てはダメよ。ここにいなさい。大丈夫、なんにも怖いことはないよ。さ、おばあちゃんのそばにおいで」

「おばあちゃん!」

「和人、ここから出てはダメよ。ここにいなさい。大丈夫、なんにも怖いことはないよ。さ、おばあちゃんのそばにおいで」

「助けて、おばあちゃん!」

「和人、ここから出てはダメよ。ここにいなさい。大丈夫、なんにも怖いことはないよ。さ、おばあちゃんのそばにおいで」

「おばあ、ちゃん……?」

「和人、ここから出てはダメよ。ここにいなさい。大丈夫、なんにも怖いことはないよ。さ、おばあちゃんのそばにおいで」


 だんだんと和人の胸に、おばあちゃんに対する恐怖の気持ちがわきあがってくるのでした。それとともに、男の子の引っぱる力がどんどん強くなり、ついに和人は、無理やり教室の外へと連れ出されてしまったのです。あまりの勢いに、和人はそのままもんどりうって、ドテンッとしりもちをついてしまいます。


「イタッ! なにするんだよ! ……あれ」


 男の子のすがたが消えていたのです。それどころか、明かりがついていたはずのろうかが、今は真っ暗で、サイレンの音がひびきわたっています。心細くなった和人は、半泣きになって教室のドアに指をかけました。その瞬間……。


「ボゴォォォンッ!」


 鼓膜が破れんばかりのすさまじい爆発音がして、教室の中がオレンジ色の炎でいっぱいになったのです。和人は「ぎゃあっ!」と悲鳴を上げて、またもやしりもちをついてしまいました。そのままずるずるとあとずさっていきますが、炎は教室の中だけを燃やしているようで、窓ガラスが割れたり、ドアが吹き飛んだりはしませんでした。


「な……なんなんだよ、いったい……! ぼく、かくれんぼしてて、それで、どうしてこんな……ヒッ!」


 べちゃっと誰かの顔が、オレンジ色一色の窓ガラスにはりついたのです。誰の顔か気がついて、和人はまたもやすっとんきょうな悲鳴をあげます。


「ぎゃああああっ!」

「……と……か……と……」

「ヒィッ、ヒィ、ヒィィッ!」


 壁に背をビッタリつけて、和人はガチガチと歯を鳴らして窓ガラスを凝視します。そこにはりついていたのは、先ほどのキヌおばあちゃんだったのです。荒い呼吸音が聞こえてきて、和人はひぃっと耳を押さえます。しかし、いくら耳を押さえても、呼吸音はやみません。さらに、なにかぶつぶついう声も聞こえてきました。


「……も……よ……に……」

「おおお、おお、おば、おばぁ……」

「……まえ……えた……よか……のに……」

「キ、キキ、キヌ、おば、おばおば……」

「おまえ……もえた……よか……たのに……」

「おばあちゃん! キヌおばあちゃん!」

「お前も燃えたらよかったのに」

お読みくださいましてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほのぼの童話の口調で書かれているので、怖さ増し増しですね。 ラストのセリフがすごい威力!! でも、タイトルと同じだったので、さきにネタバレしちゃうみたいでちょっともったいないような気が……(…
[気になる点] 小説情報で戦争とあるので時代はかなり過去なんだと思うのですが、本文での時代背景が分かりにくいように思いました。サイレン(消防車、パトカーなどサイレンにも様々ありますので、)を空襲警報に…
[一言] 最後1行が怖い〜。
2021/07/11 21:03 退会済み
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