第三十三話
夢雨と健介は、窓の森の入口に立って、じっと目をこらして待っていました。もちろん手には、黄金の盾と、黄金の弓に矢をつがえています。
「来たわ、それに、あいつもいる!」
地平線のかなたから、黒いつばさがはためくのが見えました。抹消プログラムの背中には、誰かが乗っているようです。それが芹沢だとわかると、夢雨の顔がこわばりました。健介が夢雨をかばうように、夢雨の前に進み出ました。
「まさか抹消プログラムをふきとばすとは、とてつもない力だ。おかげでここまで来るのにずいぶん時間がかかってしまったよ」
不快なだみ声で芹沢がいい、抹消プログラムは地面に舞い降りました。白い髪と、黒い翼がふわりとゆれます。抹消プログラムは感情のない目で、健介たちのすがたをとらえます。芹沢もその背からおりて、夢雨をなめるような目つきで見つめました。
「おや、おじょうちゃんのパパはどうしたんだい? もしかして、おじょうちゃんたちを置いて逃げてしまったのかな。かわいそうに」
夢雨が、芹沢を嫌悪と怒りのまじった視線でにらみつけます。芹沢はそれに気づいているのかいないのか、げびた口調で続けました。
「パパのことなんてほうっておいて、おじさんと仲良くしようじゃないか。前みたいにね。ほら、どうだい、おじょうちゃんがもしおじさんに従うというなら、命だけは助けて」
「だまりなさい!」
とどろくような夢雨の声に、芹沢は気おされてだまりこくってしまいました。芹沢は抹消プログラムのうしろにまわりこみます。抹消プログラムはうつろな目で夢雨の様子を探っています。
「なにを企んでいるのか知らないが、降参するなら今のうちだと思うぞ。ただの人間が、この抹消プログラムと戦うことなどできん。ましてや勝つなど絶対に無理だ。そんな無駄な夢を見るよりも、おじさんにひざまずいて命乞いをしたほうが賢明だと思うがな」
「あんたなんかに命乞いするぐらいなら、死んだほうがましよ!」
夢雨は黄金の矢を抹消プログラムに向けると、弓をキリキリと引きしぼりました。
「まさか、まだ戦おうというのか? ふん、そこまで死にたいなら別に止めはしない。やれっ!」
芹沢の言葉に反応して、抹消プログラムが羽ばたきました。しかし、その動きよりも早く、夢雨の黄金の矢が抹消プログラムにつきささったのです。抹消プログラムはふきとばされましたが、すぐに体勢を整えます。夢雨も黄金の矢を何本もイメージして、抹消プログラムに向けてはなち続けました。
「なにをしてる、あんな矢、よければいいんだ!」
手をふりあげてののしる芹沢に、夢雨が矢をはなちました。ひいっと悲鳴をあげて、芹沢がその場にうずくまりました。
「こら、おれを守らんか! おれはお前の主だぞ!」
芹沢が抹消プログラムをののしります。抹消プログラムは全く無表情のまま、芹沢の前に降り立ちます。夢雨が芹沢を狙って矢を連射しますが、抹消プログラムがそれをはじいていきます。
「ひぃぃっ! やめろ、おれを狙うとはどういうことだ! この人殺しが!」
情けない声を上げる芹沢に、夢雨がとどろくような声で反論します。
「死にたくなければ、あなたはそこで丸まってなさい! これはわたしたちの戦いなんだから」
芹沢はあとずさり、やがてさらにうしろへかけだしました。逃げる芹沢は無視して、夢雨は抹消プログラムに狙いを切り替えます。抹消プログラムはちらりと芹沢を肩越しに見て、それから夢雨の矢を全身に受けていきます。
「なんて硬さだ……」
健介の言葉通り、あれだけの矢を身に受けたのに、抹消プログラムには傷ひとつついていませんでした。しかし、夢雨はまゆひとつ動かさずに、弓に矢をつがえていきます。
「まずい、あいつ、剣を作りはじめているぞ!」
健介が警告するようにさけびました。矢をあびながらも、抹消プログラムは両手に光を集中させていました。夢雨が機械のような正確さで、何本も矢を連射し、妨害します。しかし、抹消プログラムはまったくひるまず、ゆっくりと光を黄金の剣へと変えていきました。黄金の剣を作り出すと、抹消プログラムは弾丸のようなスピードで、夢雨のもとへ飛びかかってきました。
「夢雨に近づくなっ!」
抹消プログラムの黄金の剣を、再び健介が黄金の盾で防ぎました。目がくらむほどの光をはなち、剣と盾は砕けました。しかし、抹消プログラムは下がらず、無防備になった健介になぐりかかってきたのです。
「させないっ!」
抹消プログラムのこぶしを、夢雨の黄金の矢がはじき飛ばしました。夢雨は何本も矢を抹消プログラムに撃ち続けました。抹消プログラムがよろめいたすきに、弓に矢を三本つがえて、一気にはなったのです。抹消プログラムがふきとばされるのを見て、健介は再び神経を集中させ、盾を出現させました。
「くそっ、だがまたその守りの戦法か。そんなんじゃジリ貧だぞ。いさぎよく消されちまえばいいものを」
安全な場所へ逃げ、頭をかかえてうずくまった芹沢が、あざけるように笑いました。しかし夢雨も健介も、芹沢には見向きもせずに、ただ抹消プログラムだけに意識を集中させました。抹消プログラムは小首をかしげ、右うでに光を集中させました。そして抹消プログラムの右手のひらから、何発もの光弾が発射されたのです。健介が夢雨の前におどりでました。
「夢雨、ぼくのうしろにかくれてて!」
健介は盾が広がるようにイメージして、夢雨と自分の身を守りました。光弾が盾にぶつかるたびに、ふきとばされそうになりますが、足とこしに力を入れて、必死にその場でふんばります。夢雨も健介のからだを支え、押し飛ばされないようにサポートします。
――でもあいつがいったように、このままじゃいつかやられてしまう。おじさん、早く出口を見つけて――




