第二十七話
光治さんの足元がひび割れて、一気にマグマがふきでてきました。マグマが光治さんにふりかかったので、夢雨が悲鳴をあげます。しかし、光治さんはマグマをあびても、まったくの無傷でした。シューッ、シューッと、うねるようにマグマが流れていきます。健介はごくりとつばを飲みこみました。
「なぜここがこんな恐ろしい世界だと思う?」
逆に聞かれて、夢雨は口をつぐみました。光治さんは意地悪く笑って、夢雨を問いただしました。
「お前はもうわかっているんだろう、夢雨。なぜこの世界がこれほどまでに怒り狂っているのか。わかるだろう?」
健介のうしろで、夢雨がからだをちぢめました。健介が心配そうにふりかえります。
「夢雨、大丈夫か?」
夢雨は健介の顔を見て、弱々しくうなずきました。光治さんから顔をそむけたまま、夢雨はかすれた声で答えました。
「ここはパパの夢の世界だから、パパの気持ちと密接につながっている。だからパパの感情が、ダイレクトに世界に反映される。ママといっしょのときは、パパは幸せだったから、世界はおだやかで確かなものだった。でも、パパとママ、二人の世界がおびやかされそうだから、この世界はこれほど荒れ狂っている、そうでしょう?」
光治さんは、満足そうにひげをなでつけました。
「そうだ。わたしと時雨の世界でいっしょに生きるのなら、わたしもひどいことはしなかっただろう。だが、夢雨はわたしたちの世界を壊そうとした。だからわたしは夢雨の心を操作したんだ。二度とわたしに逆らないように。この世界を壊そうとしないように」
うしろで夢雨が、おえつをもらしているのがわかります。健介は光治さんをにらみつけました。
「あなたは夢雨のお父さんでしょう? それなのにどうして、夢雨に、自分の娘にそんなひどいことができるんですか!」
光治さんが健介に右手を向けました。手から青い稲妻がほとばしります。
「夢雨、ふせて!」
左手に盾をイメージして、健介は夢雨を盾でかばいました。稲妻が盾に当たってはじかれます。
「君も私の邪魔をするのか?」
「当たり前だ! 実の娘に、夢雨にひどいことをするなら、ぼくが許さないぞ!」
いきどおる健介の手を、夢雨がそっとにぎりました。
「夢雨、大丈夫だったか?」
気づかう健介に小さくうなずき、夢雨は光治さんに目をやりました。
「ありがとう、でも、大丈夫だから。ごめんなさい、わたし、本当は認めたくなかっただけなの。パパはわたしと会えば、ちゃんと帰ってきてくれるって、ずっとそう信じていたの。でも、違った。パパは夢の中を選んだ。夢の中で、ママとの世界を。だからわたしが邪魔だったんでしょう?」
さっきまでのおびえている夢雨とは雰囲気が違いました。今はまっすぐに光治さんを見ています。
「だんだんと思い出してきたの。わたしは夢にとらわれているパパを、なんとか夢から現実へ連れ帰ろうとした。でも、パパはママがいるこの世界から出たくないって思った。それでわたしを操った、従順な娘になるようにって。そうでしょう、パパ」
光治さんはクックとこもるような笑い声をあげました。光治さんの笑い声が、世界に反響して、いたるところで地面がわれ、マグマがわきでてきます。血のような色の太陽は、さらにどす黒さをまして、今にも空が飲みこまれてしまいそうです。額の汗がかわいていくのを感じ、健介は盾の取っ手をぎゅっとにぎりしめました。
「そうだ。だが、それのなにが悪いんだ? わたしにとっては時雨との世界こそが全てなんだ。それを夢雨が望まないのなら、それは夢雨が間違っているということだ。間違ったものは正さないといけない。わかるだろう?」
健介は宇宙船で見た、ハートと脳のことを思い出しました。そして、公園で見た光治さんと時雨さんの会話のことも。健介は光治さんをしっかり見すえていいました。
「なにが正解かなんて、ぼくにはとてもじゃないけどわからないよ。でも、あのとき夢雨のお母さんがいっていたことはよくわかる。人生に正解なんてないし、ましてや正解を他人におしつけるなんて、そんなことはしてはいけないことなんだ」
盾をかまえる健介に、光治さんは鼻を鳴らして問いかけました。
「してはいけないことか。だが、君だってわたしにおしつけているではないか。それに、そんな押し問答はどうでもいい。重要なのは、どうしてわたしと時雨の世界が壊されたかということだ」
青い稲妻が、光治さんの両手に、まるでへびのようにまとわりついています。あちこちでふきだすマグマにまで、バチバチッと青い稲妻が光り、今にもはじけそうになっています。
「夢雨がわたしの操作から解放されたのは、君の影響だろう。それにこの世界がこれほどまでに荒廃したのも。つまるところそれは、外部からの夢まくらによる干渉によるものだと考えられる。逆にいえば、そのファクターとなっている君がいなくなれば、この世界の異常も修正されるということだ。夢雨を操作するのはそのあとでいい」
光治さんが、再び健介に手を向けてきました。健介は夢雨をかばうように、盾を前につきだしました。
「おしゃべりはここまでにしよう。君には悪いが、この世界のバグとして消去させてもらうよ」




