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第二十四話

 地面に落ちた光の剣が、鈍い輝きを放ちます。そして健介は確かに見ました。光の剣に、夢雨のすがたが封じられているのを。夢雨が剣の中で泣いているすがたを。健介はドレスを着た夢雨と向きなおりました。


「夢雨の一番の望みは、お父さんをこの夢から救い出すことじゃなかったの? ねえ、夢雨、思い出してよ。いつもいってたじゃないか、夢にとらわれるのは悲しいことだって。お父さんが夢にとらわれてしまって、君はずっとさびしい思いをしてきたんだろう。それなのに君まで夢にとらわれたら、だめじゃないか」


 健介は夢雨に向かって手をさしのべました。ドレスを着た夢雨は、日本人形のように無表情のままです。


「夢雨、いっしょに行こう。二人でお父さんを探すんだ。そして、この世界から脱出しよう」


 突然夢雨の手に、もう一本、真っ黒な剣が現れました。さっきまでの光の剣とは対照的な、まさにそれは闇の剣でした。とっさに健介は、盾を何重にもイメージして、ドレスの夢雨に鎖を巻きつけます。しかし、盾も鎖も、闇の剣に切られて、ぼろぼろに朽ち果てて消えていきました。


「あなたになにがわかるっていうのよ! いいわ、わたしにとって真実はたった一つだけだもの。わたしはこの世界を愛している。パパとママのことを愛している。そして、その世界からわたしを連れ出そうとするあなたは敵。わたしの、パパとママの世界を邪魔するやつは!」


 夢雨が再び、闇の剣をふりかぶりました。健介はまたもや盾のイメージをうかべました。今度はさっきまでよりも、強く、硬く、どんな攻撃にも耐えられるように集中します。現れた盾は、今までの盾よりも小型でしたが、健介はそれの取っ手を左手でがっしりつかみました。夢雨の闇の剣から、真っ黒な風の刃が健介へと切りかかってきます。風の刃は盾にぶつかり、ガラスのようにもろく砕け散りました。夢雨は踊るようにステップをふんで、何度も風の刃を健介へと放ちます。


「頼む、持ちこたえてくれ!」


 ありったけのイメージを、小さな盾へとそそぎこみます。盾に無数の風の刃がおそいかかり、耳をつんざくような甲高い音をたてて砕けていきました。夢雨はまるで竜巻のように、激しい動きでスピンしています。風の刃が数を増しましたが、健介はじりじりと夢雨へ近づいていきます。


「やるじゃないの、でもこれならどう?」


 剣のダンスを止めると、夢雨は闇の剣にグッと力をためこみました。健介も盾を前につきだし、守りに全神経を集中させます。やがて夢雨は再び、闇の剣をふりまわして、風の刃を健介へと放ちました。真っ赤に燃えるその刃を、再び盾で受け、健介は爆発とともにふきとばされました。


「ぐわっ!」


 ふきとばされて転げながらも、健介はなんとか体勢を整え、盾を構えます。真っ赤に燃える刃は、次々地面にぶつかって爆発していきます。


「まさかこれ全部、爆発する刃なのか!」


 健介は足をグッとふんばり、再び真っ赤な刃を盾で受けました。爆風で盾が吹き飛ばされそうになりますが、両手で盾を支えてふんばります。手に、足に、そして顔に、爆風でふきとばされた石のつぶてがふりかかり、すり傷だらけになります。それでも健介は必死に盾にしがみついて、身を守りました。ですが……。


「ぐっ、うわっ!」


 とてつもなく重い空気のかたまりが、からだじゅうを押しつけてきたのです。突然のことに、健介はなすすべもなくその場に倒れこんでしまいました。夢雨を見ると、健介に手のひらを向けています。


「これで気がすんだかしら」


 起きあがれない健介に、闇の剣を手にした夢雨が、抑揚のない声でつぶやきました。すたすたと健介のそばへ歩いてくると、闇の剣を顔の前につきさしました。


「これでわかったでしょ。わたしはこの世界が好きなの。悪いけどあなたには、この世界から出ていってもらうわ」


 健介は空気のかたまりをふりほどこうと、じたばたともがきました。ですが、どうやっても空気のかたまりからは逃れることができません。なんとか頭だけをあげて、夢雨を見あげます。すると、ずれためがねの奥で、夢雨の顔がゆがんでいるのに気がついたのです。


「夢雨、泣いてるの?」

「えっ?」


 夢雨は思わず、自分のほおに指をやりました。指先が涙でぬれるのを、夢雨はぼうぜんと見つめていました。


「どうして、わたし泣いてるの?」


 これには健介よりも、夢雨のほうがとまどっているようでした。


「どうして、止まらない、涙が止まらない」


 夢雨は手の甲で、自分の目を乱暴にぬぐいました。けれども涙は、あとからあとからあふれてきます。目をこする夢雨に、健介は静かにいいました。


「夢雨、君は本当にこの世界に満足しているの? 君が本当に好きなのは、こんな夢の世界なんかじゃなくて、お父さんがいる、現実の世界じゃないの?」

「そんなことない! わたしは、この世界が好きだもん! この世界じゃないと、ママに、ママには会えないんだもん! だから」


 地面に落ちた光の剣に、宇宙船での夢雨のすがたが映りました。お母さんと他の乗組員の命、どちらかを選ぶようにせまられた夢雨の顔が、苦しそうにゆがんでいます。


「夢雨、目を覚まして! どんなにつらいことがあっても、夢にとらわれたら前に進めないって、夢雨がいったんじゃないか! 君のお母さんは亡くなっても、まだお父さんがいるだろう! お父さんを助けたかったんじゃないのか? それなのに、夢の世界にとらわれたままで、夢雨は本当にそれでいいのか」


 闇の剣を手にした夢雨も、苦しそうに顔をゆがませました。顔は涙でぐしゃぐしゃになっています。夢雨は髪をふりみだしてさけびました。


「わたしはママを選んだんだ! パパとママと、いっしょに暮らす幸せな世界を選んだんだ! それなのにどうして、わたしを邪魔するの!」


『夢に、とらわれないで!』


 光の剣から、夢雨の声が聞こえてきました。闇の剣を持った夢雨が、金切り声をあげて、光の剣へ闇の剣をふりおろしました。しかし、光の剣は間一髪で、健介の手に収まりました。


「邪魔を、しないでよ!」


 闇の剣が、どす黒い炎をまといながら健介へとふりおろされました。健介は気合とともに、光の剣で闇の剣を受けました。健介と夢雨の間で、世界が昼と夜に分かれました。夜をつかさどる闇の剣が、不自然な月の光をあびて、さらにどす黒い炎をまとっていきます。健介も負けじと、光の剣を押し返します。光の剣に、夢雨のすがたが映りました。ドリームワールドで、夢雨がお父さんと向かい合っています。


 ――これは、あのときの夢雨の記憶、いや、その続きだ――


「なによそ見してるのよ!」


 闇の剣を持った夢雨が、どす黒い炎で昼の世界を焦がしていきます。ですが、健介は目を離すことができませんでした。光の剣に映った夢雨は、お父さんを説得しているのでしょうか、必死に追いすがっています。けれど夢雨のお父さんは、夢雨に手をかざしてぶつぶつとなにかつぶやきました。夢雨が頭を押さえて、苦しみはじめます。お父さんは助けることなく、じょじょに夢雨に近づいて、最後はその頭を直接手でつかんだのです。夢雨はぐったりとその場に倒れ、お父さんはうしろにいたお母さんのもとへ戻っていきました。


「まさか、じゃあ夢雨はお父さんに……」


 闇の剣をふるう夢雨の目からは、涙がとめどなくあふれ続けています。その涙を止めもせずに、夢雨は力任せに闇の剣をふりつづけます。光の剣と闇の剣がぶつかりあうたびに、夢雨の悲鳴が聞こえてきます。


 ――そうか、本当の夢雨は、あの光の剣にとらわれているんだ。だったら、この闇の夢雨を倒せば、本当の夢雨が戻ってくるはずだ――


 健介は光の剣に、ありったけの力をこめて、闇の夢雨へとふりきりました。夢雨が持っていた闇の剣が、光の剣にはじかれてふきとびました。


「これで、本当の夢雨が戻ってくるんだ!」

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