『どうやら俺は異世界転生してたらしい。知るか。』
「はあはあはあはあはあ……おい。勇者様はワシを殺す気かの?」
「その息遣いなんとかならねえか?」
何故か最強勇者のミリエドが一人の老人に全身を鎖でグルグル巻きにされていた。
「はあはあ……はあ。」
「大丈夫か? じゃあ、俺はもう行くから。」
よっ、と全身の鎖を解く。
「なっ、これはワシが数十年もの年月を掛けて完成させた伝説の鎖なのじゃぞ!?」
「知るか。」
「待つのじゃあ~~~」
「うるさいな、【捕縛】」
お返しとばかりにミリエドは老人を鎖に掛けた。今度は老人が動けない番である。何とか抜け出そうとするが、抜け出せない。
「お主……まさか鎖に呪いを施したな!?」
「お見事。正解だ。」
(なかなかやるじゃないか、このジジイ。)
ミリエドは少しこの老人のことを見直していた。それも束の間のことであるが。
「じゃ、俺は魔王討伐に行くからな。」
「ダメじゃ!先に話を聞くのじゃ!お主はこの世界で生まれきておらんのだ!異世界転生というやつだ!」
「そんなこと知ってる。記憶が戻ったからな。」
「なぬっ!?」
ミリエドにはこの老人が何を言いたいのかも分かっていた。だが、あえて触れなかったのだ。絡まれたくなかったから。
(それにしてもどこまで進んで出られる気配がないな。いっそのこと転移するか。)
「【転移】。」
「ほ、本当にワシの話を聞かないのか……!? あ! 待つのじゃ~!」
後には待つのじゃ~という残響だけとなった。それっきりミリエドが帰ってくることはなかった。
**********
ミリエドは元の世界に戻っていた。
「やっと、戻ってきたぞ。」
「お帰りなさいませ!ミリエド様!」
「ああ、ただいま。」
迎えに来たのはミリエドが召喚された王国の王女ミリア。ミリエドに惚れていた。この国で最も綺麗な女性ランキングナンバーワンになるほどの美貌の持ち主で、性格がおかしい。
「全身を縛って下さい!」
そう言って縄を差し出す。ミリエドはなぜか老人とミリアの顔が一致して見えた。
「断る。」
「そう言わずに!ほら!どうです?」
スカートの端を持ち上げてミリエドを誘う。だが、それが罠だとミリエドは知っていた。よって無視をする。
「それよりも魔王討伐だ。」
「そんなのはどうでも良いのですよ! 誰かが倒してくれます!」
「おい……それでいいのか王女。」
ミリエドはため息をつく。
「魔王討伐の前に。」
「……何でしょう?」
ミリアは期待するような目で見ている。知るか。
「仲間を見つける必要がある。勿論、お前以外で、だ。」
「そんな!酷い!」
ミリアは心外であるとばかりに手に口を当てている。何を勘違いしているのか、ミリエドには理解ができなかった。
(俺自体が強いから、強い仲間はいらん。ただ、ミリアよりマシなやつが欲しい。)
「希望者を集めてくれ。強いやつじゃなくていい。」
それから一週間。王宮の前に志望者で溢れていた。ほとんどが女性である。正確にはミリエドファンクラブの会員である。その中の一人が声を上げた。
「ミリエド様!私達をお供に!」
「多すぎる。」
「そんな!!」
(やっぱりミリアもこいつらも一緒だった。この世界はこんなやつらばっかりなのか……?)
ミリエドはため息をつく。どうしようもないやつら、だとファンクラブの女性達を見る。
「【心情把握】。」
この魔法は他人の心情を読み取る難易度の高いものだ。使える者はほとんどいない。それをミリエドは簡単に使う。
(うん、見事にダメだ。もうちょっと、マシなやつはいないのか?)
それでも諦めずに膨大なファンクラブ会員を視ていると、その中に目立つ者が数人いた。
(こいつらにするか。後は……あの隠れてるやつも呼ぶか。)
「【拡張】……おい、お前と、お前と、お前! あと、路地に隠れているお前だ! 話があるからこっちに来い!」
ミリエドの周りには4人の女性が集まってきた。
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