『俺最強だし、さっさと魔王討伐に行かせてくれね?』
この世界には最強と呼ばれる勇者がいた。その名はミリエド。その力は初代勇者にも及ぶとされた。
「勇者様!!」
老人がミリエドの前に跪く。
「ウザイ。」
「申し訳ありません!! お話だけでも聞いて頂けませんか!?」
「やだ。」
老人を飛び越えてミリエドは前へと歩き出す。すると、スタタタタタとミリエドを追い越して跪く。
「勇者様!!」
「ウザイ。」
「申し訳ありません!! お話だけでも聞いて頂けませんか!?」
「やだ。」
老人を飛び越えてミリエドは前へと歩き出す。すると、スタタタタタとミリエドを追い越して跪く。
「ゆう……」
「もういい。」
ミリエドは遮るように言葉を被せる。
(もう飽きた。このやり取りもう20回目。俺は魔王討伐に行きたいんだけど。このジジイ、体力どんだけあるんだよ。)
冷ややかな目線を老人に向けるが、気付いているのか気付いていないのか。ミリエドはため息をついて、魔法を発動させた。
「【飛翼】。」
背中から黒い翼が現れる。何枚もの羽根を落としながら、長い長い廊下を老人に追い付かれないように全速力で逃げた。
(俺、勇者なんですけど。)
ミリエドの努力は虚しかった。撒いただろうと後方を振り変えると、全速力で走る老人の姿が。さすがに最強勇者と言えど、これには焦る。
「えっ、怖っ」
持てる限りを尽くしてミリエドは逃げた。時に廊下にトラップもしかけたが、全て避けられた。
(まさか俺、最強じゃない? このジジイ最強説浮上してるんですけど。)
視界に一筋の光が見える。出口だ。ミリエドはラストスパートだと、さらに加速させる。同時に老人の走行速度も上がる。
(ちょっとジジイ、スピード違反で捕まれ。)
「はあはあ……なんで俺こんなに疲れるの?」
扉を閉めて、老人の姿が消えたのを確認すると、ミリエドは【飛翼】を解除した。扉に背をつける。
「最悪だ、あのジジイ……ぐわっ!」
床がポコりと盛り上がる。
(そんなはずはない。まさかジジイ……床を掘って!!)
予想通りだった。飛び退くと、床から回転しつつ老人が出てくる。人智を超越した老人であった。
「ジジイ……何者?」
「はあはあはあはあはあ……うるさいわい!」
(めっちゃ疲れてるじゃん。諦めろよ。)
「ゆ、勇者様、お話だけでも……!!」
「分かったよ。」
命懸けのデットヒートに負けたミリエドは老人の話を聞くことにした。
**********
老人はどこからか取り出した水を飲む。
「俺にもくれよ。」
「いやじゃ。」
デットヒートした結果、老人の態度は一変していた。とても生意気な老人になっていた。
(迷惑だ。とっても迷惑だ。)
ミリエドの嘆きも虚しく、老人は話を始めた。
「その昔、この国には」
「やっぱ、もう行くわ。」
「待つのじゃあー!!」
話が長くなりそうだから聞くのは辞めることにした。
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