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花凛:  作者: ぽん太郎
1:
8/12

花凛1‐8:

☆1‐225:



さて、あたしと綾子がさんちのくっちゃぺりながら慌てもせず準備していると。厨房の方の手伝いに行ってたはずの紗世がいきなり姿を現した。



紗世:誰かの話し声がするかと思えば……。つか、お嬢様、何でこんなトコで綾子様の着替えをさせてるんですか?ゲストルームならいくらだってあるのに……。



つか、紗世が目の前に現れた時は綾子は相変わらず紐パン下着姿のままで。紗世は視界にそんな綾子の【恥ずかし姿】が飛び込んできた瞬間、百合のお花畑みたいな脳ミソをマッハのスピードでフル回転させて(よこしま)な妄想に花咲かせてた。



紗世:つかつか、お嬢様はどんだけ欲求不満なんですか?綾子様がお嬢様の幼なじみで今日が久方ぶりの感動の再会だってのは分かりますよ。お嬢様の見知らぬ間に綾子様が【乳もたっぷりフェロモンもたっぷりな桃尻女子】に成長されてビックリされたってのも分かります。だからって、人目のつかない暗がりの部屋の中で幼なじみの立場を利用して綾子様に『服脱げ!』って強要(きょうよう)しちゃうとか、『あたしに成長のほどを見せてみろ?』ってエロ親父風に(せま)るとか。花凛お嬢様の【お側つき】の身でありながら【この不貞(ふてい)】、あたしはマジ良くないって思いますよ?



恵依:おいっ!!



あたしと綾子を勝手に18禁百合設定にすんじゃないよっ!



つか、厨房を手伝ってたはずの紗世がいきなりココに現れたのは花凛たんの頼み事があったからで。紗世はあしたらの足元に転がってる開封された段ボールの中身を確認して、そのうちのひとつを持って立ち上がった。



☆1‐226:



綾子:なあ、その段ボール……どーするんだ?



紗世が持った段ボールは、さっきあたしらが開封した花凛たんのメイド服やらセクシー下着やらが入ってるヤツで。



紗世:ああ、これですか?花凛お嬢様がこれからメイド服に着替えるらしいんです。



恵依&綾子:何だとっ!?



紗世は、それを聞いて驚愕(きょうがく)したあたしと綾子に『他人様(ひとさま)の荷物を勝手に開けて失礼な!』って感じ言わんばかりの侮蔑(ぶべつ)の眼差しを向けてくる。



紗世:つか……この箱の中身、花凛お嬢様の許可もなく勝手に見ちゃいましたね?



綾子:……い、いやいや!ち、ちょっと……これには理由(わけ)が!



恵依:つか、この箱の中に花京叔母さんのメイド服も一緒に入ってたんだって!



そう聞いて紗世は持ってる段ボールの側面を確認してみる。これであたしたちの身の潔白は証明されたはず……なんだけど。



紗世:まあ、今回のことは事故ってことで……仕方ありませんよね。花凛お嬢様には『黒御門家から極秘でお取り寄せしてたアイテムをたまたま探し物をしてたお嬢様に見られてしまいました』と報告しときます。



恵依&綾子:…………。



☆1‐227:



紗世は『これは事故でした』と口では言ってるけども……どーも、伝わってくる感じが『勝手に箱を開けちゃったあたしらが悪い』って聞こえてくる。



恵依:ちょっと待て、紗世!



これは確かに事故だ。見たくて見ちゃったわけじゃない。でも……それを偶然見ちゃって(よこしま)な妄想を一度もしなかったと言えば、それはまったくの嘘だ。



恵依:事故には違いないけど……でも、見ちゃったのには変わりはないから。花凛たんにちゃんと謝るよ。



紗世:…………。



それについて紗世は即答しなかった。確かに紗世はさっき【極秘で】と言ってた。あたしらに見られちゃった時点でそれはすでに極秘じゃなくなってる。



つか、この時、あたしも気付けばよかった。これを頼んだのは瑠依子で、箱の中身を知ってて取りに来たのは紗世で。ってことは、このことを2人は知ってるってことで。なので『花凛たんは何故(なにゆえ)にそれを極秘と言ってるのか?』ってことを考えれば、それは『あたしに対してのみ極秘なんだ』ってことだ。



紗世:別に……お嬢様に謝ってもらなくてもいいんですよ。



マジモードだった紗世が何やらかを(こら)えきれずにクスクス笑いだした。



紗世:つか、お嬢様が花凛お嬢様が切望(せつぼう)する美少女JKになってくれればいいだけの話ですから。



恵依:…ん?



☆1‐228:



花凛たんのこれらのセクシー下着たちとあたしが美少女JKになるのと……いったい、どーゆー因果関係があるというのか?



紗世:この(たび)、花凛お嬢様は【恵依お嬢様を美少女JKにします計画】を発動されました。



恵依:はあ?



何だ、そりゃ?つか、それはあたしだけが対象なのか?何故(なぜ)に?どーして?それじゃあ、まるであたしが【色気も女っ気もない干物女子】みたいじゃないか?



紗世:花凛お嬢様はこうおっしゃってました。『恵依はあたしがオシャレとか女子力とかに無関心だからか?【女であることをサボってる】』と。



恵依:……えっ!?そんなこと、全然ないって!!



紗世:さらに花凛お嬢様はこーもおっしゃってました。『まずは【主である】あたしが手本を見せなきゃいけないな』って。



恵依:はあーっ!?つか、花凛たんは急にどーしちゃったんだよっ!?



紗世:つか、花凛お嬢様的には【急に】って話ではないんですよ。お嬢様の女としての自意識が自発的に芽生えるのを今日までずっと待ってたんです。でも、ここに至ってはまあ、『やむを得ない』って感じでしょーね……。



紗世はさらに言葉を付け足す。



紗世:花凛お嬢様は恵依お嬢様には可愛くいてほしいみたいです。ただ、【それはあくまでも花凛お嬢様一個人としての要望】だから……それを恵依お嬢様に無理やり押しつけたくないみたいです。そこで、【コレ】を実行することにしたんです。



☆1‐229:



恵依:こ、コレ?



紗世:はい。花凛お嬢様がインナーにセクシー下着を着て、アウターにセクシーメイド服を着て、週に何回か【お嬢様と一緒にメイドをやる】んだそーです。



恵依:は、はあーっ!?花凛たんは【遠宮本家の息女】だぞ!瀬尾本家の跡取りの第2継承者でもあるし……。瀬尾一族の中でも【お嬢様中のお嬢様】があたしのためにメイドの真似事をやるとか……そんなの、他に聞こえちゃマズイだろーに!?



紗世:それはもちろん、あたしも瑠依子姉様も言いました。けれども、花凛お嬢様にとっては御自身のことよりも恵依お嬢様のことの方が大事なんだそーです。



紗世の話だと……今回の超ミニスカメイド服の件は【花凛たんの意見を反映した結果】なのだという。瑠依子があたしの要望どーりのスカート丈の寸法でオーダーしよーとしたところ、花凛たんに『今回のは【あたしも責任もって着る】から、あと15センチ短くしてくれ』って注文をつけたらしい。ってことは……このメイド服の件は【あたし以外のみんなは(すで)に知ってた】ってことになる。



紗世:つか、花凛お嬢様、コレについてはずいぶんとやる気満々でしたよ。『あたしの色気と可愛さで恵依の女を覚醒(かくせい)させてやる』って。つかつか、花凛お嬢様は【コスプレ慣れ】してますからね、あたしや瑠依子姉様はセクシーメイド姿の花凛お嬢様をけっこー楽しみにしてたりするんですけど。



つか、あたしは【とりあえず女をやってる】と思う。色気とか可愛らしさはあまりないかも知れないけど……でも、決して女をサボってたりはしてないと思う。ただ……【あたしの女っぷりを発揮する機会】が、今現在ないだけだ。つかつか、もし、それを発揮する機会があるとしたら、それは……それは……。



紗世:つか、お嬢様。今回、花凛お嬢様が【一肌脱ぐ】んですから、期待に()うよう頑張ってくださいよ?



☆1‐230:



恵依:わ、わかってるよっ!あたしだって【やる時はやる】んだよっ!



とは言ってみたものの……。



恵依:ーいったい、どーすればいい?ー



そんな疑問に対して咄嗟(とっさ)に思いついた答えが【今、()いてるペチコートを脱ぐ】ってことだった。



綾子:おい、恵依!いったい、どーしたんだよっ!?何、急に脱ぎ出すんだよっ!?



恵依:な、何って?あたしは【ありのままのパンチラ娘】で勝負するって、今、決めたんだよっ!



綾子:はあーっ!?



恵依:だって……。さっきの花凛たんのメイド服のセットにはペチコートはなかったろーに。だったら、あたしも花凛たんと同じ【パンチラ】で正々堂々といてやるよ!



綾子:そーゆー問題でもないだろーに!?



恵依:花凛たんがあたしのセクシーメイド姿を望むんなら、あたしはそれを完璧(パーフェクト)に叶えてやる!



よくよく考えたら……あたしと花凛たんは一緒にお風呂にも入る仲だ。だからといって、花凛たんの言いつけでも屋敷の中を素っ裸で過ごせってのは嫌だけど……。でも、パンチラぐらいなら、何回見せたって別に減るもんでもなければ、見られるたびにどんどんパンツが()けていって【アソコが丸見え】になっちゃうわけでもない。それが分かってても【やっぱりパンツが誰かに見られてるってのは恥ずかしい】けど……でも、花凛たんと一緒なら怖くない!



あたしが花京ママのセクシーメイド服に着替えた綾子を連れて花凛たんちたちのところに戻ると……。



花凛:ずいぶんと遅かったな、恵依?まあ、でも、そのおかげでコレに着替える時間を(かせ)げたから助かったよ。



☆1‐231:



あたしたちの目の前には、さっきまで真紅コスをしてた花凛たんがセクシーメイド服に着替えてて。オマケにシャアコスをしてた瑠依子もセクシーメイド服姿になってた。



花凛:アイツのメイド服で寸法が合うか?ちと心配だったけど……。綾子もバッチリ似合ってるな?



ヘッドドレスを着けた金髪ツインテールから、今度は髪を下ろしてメイドカチューシャを着けてる花凛たん……フツーにめちゃくちゃ可愛いし、ミニスカメイド服が超似合ってる。つか、短パンやスパッツ姿の花凛たんを日ごろからよく見てるけど……ミニスカの花凛たんの細いナマ脚はローヒールの黒のパンプスとショート丈のレースのソックスでシンプルに飾られてて、これはこれで格別に可愛い。あたしも綾子も場所もわきまえず花凛たんをガン見してしまうところだった。



瑠依子:市乃様たちはあんたと綾子様のメイドコスの写真を()りたくて、ずっと待ってたのですよ?



恵依:あたしと綾子の……写真?



市乃:はい!お二人のメイドコス姿も是非!



正直、パンチラよりもコッチの方が恥ずかしかった。まさか、この格好で同性に激写されるとか……思いもしなかったから。



市乃:恵依様ぁ、あたしにそーゆーヤボな質問しますぅー?それはですねぇー、恵依様も綾子様も【可愛い美人さん】だからですよぉー!



市乃ちゃんはこーゆーの、けっこーオープンだ。



南條:いやー、まさかメイド服ひとつでここまで印象が変わるとは!恵依ちゃんも綾子ちゃんもどちらも美人でスタイルがいいから、一目惚れしちゃいますよ!(蒼星石風な口調で)



つか、南條さんの方があたし的には意外だった。南條さんは学校ではパッとしない地味なメガネっ娘なのに、一度(ひとたび)、コスプレするとこーまでキャラが変わる……まるでコスプレで魔法のようだ。



このあと、2人にどーゆー写真を()ったか?見せてもらったけど……まあ、この短時間でとんでもない枚数を()ったもんだと呆れるぐらいあった。



☆1‐232:



市乃:ネットにはアップしたりしませんよぉー!今日撮()った写真は【あたしの一生の宝物】ですからぁー!



ちなみに……南條さんの方には花凛たんとマリア様(瑠依子)の着替えの動画も()ってあったりして。



南條:これは僕と市乃の2人だけで共有ゆるものから、外に()れることは決してないよ。だから、心配しないで。(蒼星石風な口調で)



いやいや、南條さん。その動画、何するの?夜な夜な、それをひとりで観て楽しむとか?つか、マジどーするの?



市乃ちゃんに限らず、南條さんもまた【この時点で性癖がちと特殊】だってことが判明した。



南條:恵依ちゃんは一緒に生活してるから【それが当たり前】になっちゃってるんだよ。花凛ちゃんとかマリア様(瑠依子)とかみたいな【逸材】の着替えの様子とか、あたしらみたいな俗物にとっては【名香・蘭奢待(らんじゃたい)】並の国宝級の代物なんだよ!



恵依:つか……名香・蘭奢待って何?



名香・蘭奢待とは東大寺正倉院に収蔵(しゅうぞう)されている、中国より渡来したと言われてる国宝級の香木である。過去、聖武天皇や足利幕府の将軍たち、それに織田信長といった時の権力者たちがこぞって所望(しょぼう)したという代物だ。



恵依:いやぁー、花凛たんや瑠依子の着替えが国宝級だなんて……そりゃあ、いくら何でも大袈裟すぎるだろ?



南條:恵依ちゃんは何を言ってるんだ!?そんなこと、外で軽々しく口にしてたら白百合愛善会の面々やマリア様のファンに袋叩きに()うよ!?(蒼星石風な口調で)



☆1‐233:



恵依:何もそんなにマジギレしなくてもいいじゃないかっ!?



南條:恵依ちゃんは分かってなさすぎるよ!特に、白百合愛善会のヤツらはマジでヤバイんだからっ!(蒼星石風な口調で)



恵依:白百合……愛善会?



さっき、綾子と話してた時にも出てきた白百合愛善会。さっきは従姉妹の麻衣と南の始めた集まりの名称だって聞いたのだけど……。



南條:そーじゃ!フツーなら【絶対に表に出てこない名前】なんじゃが……。もしかしたら、【本物の会員】が小童(こわっぱ)たちの集まりの中に混じってるかも知れん!(いつもの南條の喋り口調で)



恵依:本物の……会員?



花凛:なあ、南條……それについて少し教えてくれないか?麻衣や南はこのネーミングについて、『花凛の従姉妹が名付け親なんだ!』って言ってたんだけどさ……。つか、あたしの従姉妹って、本家にいる瑠華しかいないし。でも、アイツらは瑠華じゃなくって【花凛によく似た色白の金髪女子】だって言ってたんだよな……。



花凛たんと瑠依子が(いぶか)しい顔になる。つか、この2人にとって【命を狙われてた時の過去は今も終わってない】のかも知れない。長らくそれとは無縁な平穏な時間を送ってたばっかりに……その緊張感はハンパなかった。



南條:そもそも白百合愛善会とは【瀬尾一族の子女たちが組織した秘密結社の名称】なんじゃ。その発祥はいつなのか?どーゆー子女たちが会員なのか?何の活動をしてるのか?(おおやけ)にならない部分が多分にある組織なのじゃが……。ウチに非公式に記録されてる文書によるとじゃな、『白百合愛善会は瀬尾一族の血をひく子女たちを扶助(ふじょ)する非公式の組織』と書かれておってな。でも、基本的な活動の骨子(こっし)は『瀬尾本家の未来永劫の繁栄のために寄与する組織』なのじゃそーな。



【秘密結社】って単語が出てくること自体、あんまり(かんば)しくない印象がある。パッと話を聞いてる限りじゃあ、【瀬尾一族の女ネズミ小僧】みたいな感じだけど……。



☆1‐234:



南條:ただ……瀬尾本家に対しての忠誠が高すぎるあまり、【少々過激なことも(いと)わない】ところがあるらしい。



花凛:それって……もしかして、【あたしの暗殺】か!?禁忌(タブー)とされてた瀬尾本家と遠宮本家の両方の血をひくあたしの存在を白百合愛善会は危惧(きぐ)してそれに及んだとか?



南條:それは……分からん。じゃが、そーゆー可能性も決してゼロではないかも知れん。



場の空気が一気に穏やかでなくなった。息苦しいまでのビリビリした感じが重苦しくてツラい。さっきまでやれ百合だのパンチラだのって、フツーにキャッキャッやってたのに……。



花京:白百合愛善会が花凛ちゃんを暗殺に及ぶ可能性はゼロなのであります。花盛さんが暗殺に及ばなかった時点で【花凛ちゃんの生存の保証】はされたのであります。【瀬尾の巫女】が下した判断に異を唱え独断専行に及ぶほど白百合愛善会は愚昧(ぐまい)な組織ではないのであります。



花凛:…………んっ!?



いつ、花京ママはココにやってきたんだろ?つかつか、花京ママはサラリと言ってくれたけど……この内容って、花凛たんがずっと知りたがってたことの一部分じゃないのか?



花静:おい、花凛!お前はいつから探偵ごっこが趣味になったんだ?そーゆーのは【あたしら大人に任せておけばいい】んだよっ!



花凛:は、花静……。



東子:大体な、花凛……もし、お前の命が危ないよーだったら、とっくの昔にココから身柄を移してるっつーの!【プロ】は花京や花静だけじゃないんだぜ?



花凛:東子まで……。



花京ママたちは昼ご飯の用意が出来たからと花凛たんたちを呼びに来たのだけど。本館を探しても見つからないので、わざわざ手分けしてココまで探しに来てくれたところだった。



花京:お昼ご飯を食べながら少し話をしましょーか?幸い、ココにいる子たちは皆、遠宮の家と所縁(ゆかり)のある家の子たちでありますから……今後のためにも多少のことは知ってても良いかと思うのであります。



☆1‐235:



何てことだろう。JKのコスプレお披露目会がとんでもない展開を迎えてしまった。あたしらは昼食が用意された本館のリビングへ場所を移したのだが……。



綾子:あ、あれ?今日のお昼って……もしかしてグリーンスムージーと大福……だけ?



あたしらもテーブルが視界に入った時に、確かに『おや?』とは思ったのだ。昼食の用意が出来てるって聞いてただけに……花京ママや花静さんが前の日からずっとキッチンで何やらかを仕込んでたから……今日のお昼をけっこー楽しみにしてだけにフツーに動揺した。



東子:ああー、コレか?まあ、【前菜】だと思ってとりあえず食っておけよ?



いやいや、東子さん。大福は前菜じゃありませんよ?フツーに食後のデザートですよ?



花凛:お前(花京)の手作り大福食うの、何年ぶりだろ?すんごい久しぶりだな?



花京:ええ、花凛ちゃんの大好物でありますから。久しぶりに気合い入れて作ったのであります。



これが主食でも全然オッケーなのは【激甘党】の花凛たんと花京ママぐらいなもんだろう。でも、よくよく思い返してみたら……亡くなった清衛門爺も相当の甘党だったよーな。



花凛:なあ、どーして急に(しゃべ)る気になったんだよ?こないだまでは【そーゆー気配】全然なかったのに……。



花凛たんは早速、皿いっぱいに盛られてる大福に手を伸ばしてパクりと頬張(ほおば)る。つか、花凛たん、立ち食いなうえに食べながら(しゃべ)るとか……フツーに行儀悪いってば。



花京:それはでありますね……花凛ちゃんの【情報の出本(でもと)】が朋ちゃん(南條)だって分かったので。あたしたち大人が()せておいても【ある程度の精度の高い情報が入手できる】状況であるのなら、いっそのこと、(しゃべ)っちゃった方がムダな臆測(おくそく)を生まなくて済むかなと思ったのであります。



☆1‐236:



そう言って花京ママも大福をパクり。つか、この母娘は顔立ちも似てるけど……やること、なすこと、意外とそっくりだったりする。明らかに違うのは胸の大きさと(しゃべ)り口調ぐらい。



綾子:おっ!!この大福、めっちゃウマイ!!



花凛たんたちがパクパク食べてるのを見てるだけじゃ耐えられなかった綾子が2人に(なら)ってパクり。それに(なら)ってローゼンコスから紗世のメイド服を貸してもらった市乃ちゃんと南條さんもパクり。



市乃:うーん!!めっちゃ美味ですぅー!!



南條:これは驚いた!!もしかして、この大福……昔から遠宮の家で出してたものでは?



つか、南條さんの大福の食べるスピードがヤバイ。あっという間に2つ、3つ。



花京:ええ。よく、この味を(おぼ)えたのでありますね?この大福はよく遠宮本家で作られてた作り方を当時の給仕係(きゅうじがかり)のおばちゃんに教わったものなのであります。



南條:やっぱりそーじゃったか!宗矩爺が遠宮の家へ行った時のお土産に持たせてもらったこの大福を(ワシ)も食べさせてもらったが……やっぱりコレが一番じゃよ。



花京:まだまだいっぱい作ってありますから、じゃんじゃん食べちゃってほしいのであります。



あたしや瑠依子、紗世はこれにはあんまり手を出さないよーにしている。つか、この大福がめちゃくちゃウマイのは知ってる。決して食べたくないってわけではないのだ。ただ……この大福に一度(ひとたび)手を出すと、魔性に取り()かれたかのよーに手が止まらなくなり……結果、(ひど)い目に()う。甘いものを湯水のよーに食しても太らない花凛たんや花京ママの体質が、こんな時ばっかりはホントに(うらや)ましく思う。



☆1‐237:



花京:白百合愛善会について、1から100まで話すとめちゃくちゃ長くなっちゃうので……【かいつまんで】話すのであります。



白百合愛善会の発祥はけっこー昔にまで(さかのぼ)る。



花京:かつて、瀬尾本家の当主に【とんでもない女性(にょしょう)好き】の姫様がいたのであります。まだ年端(としは)もゆかなかった頃は、周りの大人たちは【嫁入り前の少女の()れ事】と言ってあまり深刻には考えてなかったのでありますが……。ただ、この姫様、大人になっても一向にそれが(おさ)まらない。治まらないどころか、ますます(ひど)くなる一方だったのであります。



この御当主は後に【魔性の姫様】と呼ばれる。つか、この姫様は瀬尾一族の娘たちを次から次へと【お側つき】にし……その数、100人は下らなかったと言われる。そして、【お側つき】となった子女たちの多くは有力な家の出で……政略結婚などで力や権力を保持してきた家々にとって【それはとても深刻な問題】だった。【お側つき】となった子女たちは姫様の魔性に()かれたかのごとく(いく)つになっても側を離れず、死ぬまで愛して止まなかったそーだ。



そんな現状をどーにかしてほしいと子女たちの親が泣きついて頼んだのが姫様の妹君だった。妹君は姉姫に『方々の家々から苦情が出てるから、子女たちを実家に返してやってほしい』と再三、頼み込んだが……一向に聞き入れる気配はないどころか、ますます酷くなる一方で。そこで妹君は泣く泣く姉姫を誅殺(ちゅうさつ)するに至った。この時の妹君を開祖とするのが【現在の第2瀬尾家】である。第2瀬尾家の当主はこの一件以降、【(さば)きの執行人(しっこうにん)】という唯一無二のポジションを継承することになる。



花京:この時の姉姫様の【お側つき】だった子女たちがそれぞれの家に戻り、【お家の任務】を遂行する(かたわ)ら、亡き姫様の遺志を継ぐ集まりを発足させたのであります。それが時代と共に幾度(いくど)か名を変え、現在の白百合愛善会という名称に落ち着いたのであります。



花京ママが言うに、白百合愛善会の主な会員は【瀬尾一族の中でも有力な家々の子女】が今も名を連ねてるらしい。それは瀬尾十家も例外ではない。



花京:ココにいる子たちの家以外の十家は白百合愛善会の会員だと踏んでも大方、間違ってはないのであります。



☆1‐238:



南條さんの家は【代々、記録係をやってる家】だから何となく分かるけど……。



花京:それは……【現在の体制になる以前の】結束を今もなお引き継いでるから、なのであります。



そもそも、遠宮家は黒御門家と同じ【古来より脈々と続く瀬尾の直系の家系】である。あたしの家の相川家、綾子の池田家、市乃ちゃんの長尾家は先祖代々より遠宮家とは色々と所縁(ゆかり)がある家々らしい。つまり……あたしや綾子、市乃ちゃんは花凛たんとは【遠ーい遠ーい親戚関係にあたる】ってことだ。



でも……だからって、そのせいでウチの御先祖様たちは【魔性の姫様】から声をかけてもらえなかったのか?それとも……ウチらの家系ってブス家系とか?



花京:遠宮家は瀬尾一族の中でも【闇の部分の仕事をしてたから】であります。同じ瀬尾の血をひく家であっても【そこに属する家の子女たちもフツーじゃない】と、周りからは敬遠されてたからであります。



ああ、なるほど。とりあえず、ブスが理由じゃなくてよかった。



花凛:……で。その白百合愛善会とやらは【あたしのことが嫌い】なんだろ?どーせ、そこんところの長は菖蒲(あやめ)んちの母ちゃん(十家筆頭の椎名家の長女)だろーし……。



花凛たん、ものすごい単刀直入だな?



花京:ええ、おそらくそーでありますね。あたしも汐音(菖蒲の母)さんから『瀬尾の風紀を乱す女』だと、嫌な顔をされますから。



つか、母娘(おやこ)揃って十家筆頭に(にら)まれてるのかよっ!?でも、まあ、どっちも美人ださ魅力的だし変にモテるし好かれるし……同性として嫉妬(しっと)する気持ちも分からなくもないけどね。



☆1‐239:



花凛:……で。花恵の母ちゃん(花盛)があたしを殺さなかったからって、どーして菖蒲の母ちゃん(汐音)も手を下さないんだ?フツーだったら【逆の判断】をするんじゃないのか?だって、(なら)う必要はないだろーに?



この時、花京さんは一瞬だけ怖い顔になった。たぶんだけど……花凛たんが自分を暗殺しにきた人間の正体を分かってて、それを今の今まで花京ママにずっと黙ってたからだと思う。



花京ママは大福を食べながら花凛たんに不敵に笑う。



花京:花凛ちゃんは花盛さん相手に殺し合いをしたいと思いますか?



花京ママの言葉に花凛たんは一瞬、凍てついた。つか、この御時世に殺し合いって……フツーにそんなの、あり得ないっしょ?



花凛:そんなの、ゴメンに決まってんだろ!あたしみたいな【ヒヨっ子】が(かな)うわけないし……。つか、あの人(花盛)はムダに人を殺す人じゃないよ!そーゆー質問自体、【あたしを生かしてくれた】あの人(花盛)に失礼だ!



花凛たんの答えに2人を黙って見守ってる花静さんと東子さんがビックリした顔をする。でも……相対する花京ママはそれを聞いて静かに(うなず)き、花凛たんに優しく笑った。



花京:そーでありますね。確かに……こーゆー愚問(ぐもん)を思いつく自体、失礼でありました。あたしが軽率でありました。



花凛たんは『ったく!』って言いたげなブスくれ顔をする。



つか、あたしはふと思った。『花凛たんが来る日も来る日もトレーニングに明け暮れてるのって……その、花盛さんって人に追いつきたくて追い越したいから、なんかな?』って。



☆1‐240:



花静:なあ、花凛。さっきの話の続きになるけどさ……御当主の【魔性の姫様】は妹君に誅殺(ちゅうさつ)されちゃったわけだろ?婿も取らずに【お側つき】に囲われてる日々を送ってたわけだから、もちろん、跡取りの娘もいない。でも、今も瀬尾本家はちゃんと存続してる…‥それはどーしてだと思う?



花凛:……えっ?



花静さんの言うとーり、確かに変な話だ。実の姉を誅殺(ちゅうさつ)してしまった妹君は第2瀬尾家の開祖となったとは言ってたが……もしかしたら、本家当主も兼任したのかも知れない。でも、もし、あたしがこの妹君だったら、如何なる事情だろーとも【自らの手で殺めてしまった姉の立ち位置に君臨しよう】とは、とてもじゃないが出来ない。



市乃:もしかして……妹君の子どもが本家の御当主を継いだとか……ですかぁー?話を聞いた限りじゃあ、御当主の座を簒奪(さんだつ)するよーな感じの人には思えないし……。でもでも、本家御当主を継承するには【直系血族】である必要があると思いますから……そーなると、妹君の娘さん以外には考えられないのですぅー。



花静:正解!今の瀬尾本家の血族のルーツは第2瀬尾家の開祖と同じところから始まってる。ってことは……瀬尾本家にも第二瀬尾家にも【遠宮家の血が受け継がれてる】ってことになる。



花凛:……ん?なあ、花静……お前、いったい何が言いたい?



察しのいい花凛たんには胸に何か引っ掛かるものがあるらしい。険しくなった顔を花京ママの隣で起立してる花静さんに向ける。



綾子:……あっ、分かった!瀬尾本家も第2瀬尾家も遠宮家とは血のつながりがある。それに花凛様みたいな【瀬尾本家と遠宮本家の両方の血を継いだ魔性の姫様の再来みたいな存在の出現】は瀬尾一族の中で間違いなく波紋を生む。そーなると……長い歴史をかけてコツコツと築いてきた権力や地位の歯車が狂ってしまうのを白百合愛善会の会員たちは懸念(けねん)してるからだっ!



恵依:何だとっ!?



☆1‐241:



あたしは思わず大きな声を出してしまった。まるで綾子が『花凛たんが魔性の姫様の再来』だと、たまたまの血のつながりだけで決めつけてると思って頭にきてしまったのだ。そーだと分かった綾子はあたしの声に思わず身をすくめる。



花静:だいたい、当たりだな。さすがは【紗織のお弟子さん】だけあって、そーゆーところの頭の回転は早いな。



つか、『だいたい、当たりだな』って……。ホントの当たりじゃないのか?



東子:さっきも言ってたと思うが……白百合愛善会は【亡き姫様の遺志を継ぐ】集まりなんだ。だから、花凛のよーな【リアルな再来】を彼女たちは望んでないんだよ。そーゆーのを利用し、超党派のごときつながりを堅持(けんじ)することで【今なお、彼女たちの権力や地位が維持されてる】から。



花京:その最たる例が【椎名家による瀬尾コンツェルンの実質的な管理運用】なのであります。どーゆーわけだか?魔性の姫様の出現以降、瀬尾の本家の跡を継ぐ子女たちは頭のキレる者が多く……色々な諸事情を承知した上で椎名家の主導を容認し、【今日まで物事を穏便(おんびん)に済ませてる】みたいであります。なので、そんな椎名家が今、最も危惧(きぐ)することは【次の跡取りの瑠華ちゃんが花凛ちゃんの意向を反映して自分たちの意のままにならない】ことなのであります。近い未来がそんな展開にならないためにも白百合愛善会や椎名家は【瀬尾の巫女の預言(よげん)】に便乗して花凛ちゃんの暗殺が確実なものとなるよう根回しをしてたのであります。



じゃあ……今の白百合愛善会て、自分たちの権力と地位を守るための【身の保身だけを考えてる集団】ってこと?



☆1‐242:



花京:まあ、ホントのところはどーなんだか?本人たちでなければ分からないのであります。ですが……かつて椎名家は十家筆頭の座を利用し、直系血族同士の婚姻契約締結を禁じてるのであります。その点から考えても、彼女たちは【姫様の再来】を望んでないことが(うかが)えるのであります。



花静:でも……白百合愛善会や椎名家の瀬尾一族内での貢献や献身はただならないものがあるからな……。一概(いちがい)に彼女らが瀬尾一族を(ほしいまま)にしてるとも言いがたいんだけどな……。血縁の統制の件だって、もしかしたら【過去の悲劇】を二度と繰り返させないためなのかも知れないしな……。



でも……そんなメジャー級のネーミングを花凛たんの従姉妹と名乗る子はどーして麻衣たちのコミュの名称に使ったんだろ?



東子:まあ、アイツも変に頭がキレるヤツだからな。白百合愛善会のネームを使ってるだけなら、彼女たちにしたって人畜無害のことだから気にもかけないとは思うが……。でも、寧々のことだから、それには何かしらの考えがあるんだろ。



市乃:……ん、寧々?寧々って、もしかして……ロシアの第2遠宮家の寧々ちゃんのことですかぁー?



東子さんの口から第2遠宮家の寧々の名前が出てきたのには驚いた。つか、東子さんも市乃ちゃんが寧々ちゃんのことを知ってて、ちょっとビックリした様子だったけど。



東子:ああ、そーだ。第2遠宮家から頼まれて、今、ウチで身柄を(あず)かってるんだ。



市乃:ああー、そーだったんですかぁ。つか何ヵ月か前、寧々ちゃん、ウチに寄宿してたもので……。



東子:ああ、なるほど。長尾家と第2遠宮家は親交があるものな。それでか?



つか、思わぬところから思いもよらない名前が出てきた。彼女は市乃ちゃんに瀬尾一族の極秘情報を教えてくれた人物だ。つかつか、彼女がどーゆー思惑で市乃ちゃんに情報を提供したのか?分からないけど。でも、そのおかげあって、あたしたちは今、核心に(せま)る情報を知ることができたわけで。



☆1‐243:



市乃:つかぁ、寧々ちゃん、まだ日本にいたんですねぇ?ウチに寄ったの、まだ雪深い時期だったんでぇ……。



東子:いやいや、そーじゃないらしいぞ。今回、寧々の日本滞在は【留学】でな。寧々の母親に頼まれて、あたしが身元保証人になったんだよ。



市乃:えっ!?寧々ちゃん、留学したんですかぁー!?



東子:まあ、留学は【表向き】なんだが……。



東子さんはそれ以上のことは言わなかった。まあ、【大人の事情】ってヤツなんだろう。そーだと暗に分かった市乃ちゃんもそれ以上は聞こうとはしなかった。



東子:つか、花凛。あとで寧々と会ってみるか?お前にしてみたら寧々は【父方の従姉妹】になるわけだし、【決して損な話】じゃないと思うんだが?



ん?いったい、この話の流れは何だろ?東子さんは花凛たんに寧々ちゃんを会わせようとしてる(ふし)(うかが)える。



花凛:つか、東子は最初からソイツをあたしに会わせたいんだろ?面倒くさい言い方するなよ?



東子:そう言ってもらえると助かるよ。寧々から『花凛に会わせてくれ』って、顔を合わせるたびに催促されるんでさ。ぼちぼち実現してやらなくちゃなって。



つか、このロシアの寧々ちゃんはどーして花凛たんに会いたいんだろ?麻衣たちのコミュに入会するぐらいだから、もしかしたら、花凛たんの【熱狂的なファン】ってことも確かにあるけど。でも、それだったら前回、市乃ちゃんちに寄宿したあとにでも会いに来ることができたはずだ。



つかつか、最近の花凛たんは次から次へと色んな子達の思惑に否応(いやおう)なしに巻き込まれてる気がする。今まで瑠華嬢以外には誰彼の来訪(らいほう)は一切なく、花凛たんは自分のペースで自由気ままに生活してたのに。ただでさえ【自分の領域(テリトリー)】に他人が勝手に立ち入るのを拒む人なのに。その実、こころのドコかで疲れてたりはしてないだろーか?無理してないだろーか?あたしは個人的には【これまでどーりの箱庭のお嬢様】みたいな花凛たんがシックリくるのだけど……。



☆1‐244:



瑠依子:奥様、【魔性の姫様】の話や白百合愛善会の話は分かりました。ですが……あたしにはこの話、今ひとつ()に落ちません。



花京:なぜでありましょう?



瑠依子:十家筆頭の椎名家が血縁の制限を設けたのはそんな昔の話ではないはずです。遠い過去には【瀬尾と遠宮の(あい)の子の娘】なんてゴロゴロいたかも知れない。なのになぜ、ウチのお嬢様だけがそれをクローズアップされなければならないのか?同じ瀬尾一族の中には【間の子の血を継いだ娘】だって今なお、いるはずです。



確かに瑠依子の言うとーりだ。花凛たんの出生を契機に【それを綺羅(きら)びやかに演出してる】かのごときだ。



花京:瑠依子ちゃんはあたしの知らぬ間に随分(ずいぶん)と想像力が(たくま)しくなったのでありますね?正直、参ったのであります。



瑠依子:ん?



花静:この話は大昔からの伝承みたいなもんでさ……瀬尾の本家、それに遠宮の本家、黒御門の本家の血筋には【至極、(まれ)に超常の力を持って生まれた女子が出現する】ってのがあるんだけどさ。



第2瀬尾家の前当主で現長官の花盛の母の花芳は【千里眼】の力の持ち主だった。近い未来、遠い未来を予見し、幾度(いくど)となく瀬尾の窮地(きゅうち)を救ったという。その花芳がこれから生まれてくる花凛を【魔性の姫】と呼び、早々にこの世から消さねば瀬尾一族全体に(わざわい)がもたらされると予言したのが事の発端だった。



瑠依子:それって……超常の力を持った御当主様がお嬢様のことをそう言ったからってだけで、周りの大人たちはそれを鵜呑(うの)みにして信じたんですか?



花静:まあ、そーゆーことだな。花芳様の【千里眼】はマジでヤバかったからな。過去の実績があったから、多くは鵜呑(うの)みにしちゃったんかも知れない。



東子:それと……花凛が花京の娘だってのが【現実的な裏付け】になってるってのもある。つか、コイツの若かりし時の素行の悪さと破廉恥(ハレンチ)ぶりの方があたし的にはよっぽど魔性の姫様の再来だと思うんだがな。



☆1‐245:



南條:つか、【現場に詳しい】御三方にひとつ、訊きたいことがあるのじゃが?



ここいらで話の決着が着くだろうと思われてた展開で、突如、南條さんが口を開いた。



南條:瀬尾の本家や遠宮の本家、それに黒御門の本家は西洋や東洋の宗教や思想、哲学、はたまた占星術や数秘術といったものを古来からいち早く取り入れて研究しちょってたとか何とか……。そーゆーのと遠宮の一件とはまったく無関係なんじゃろーか?



せ、占星術?数秘術?要は【占い】ってことだよね?こんな時に何でそんなことを?



聞いてたあたしたちからしたら、その答えは簡単に出てくるものだと思ってた。でも……花京ママたちは渋い顔をして(しば)し黙りこくってる。



南條:つかつか、御三方なら分かっちょるはずじゃ。記録係程度の仕事しかしとらん(ワシ)の家が今日まで生き延びてきたホントの理由は【古来より瀬尾一族の中で秘術とされ伝承されちょる術を(ワシ)の家の当主が代々、口頭でのみ受け継ぎ門外不出となっとょる】からじゃってことを。



古来から受け継がれてる……ひ、秘術!?おいおい南條さん、こんな時に真顔でオカルト出してくるとか、フツーに中二病じゃんかよっ!?つかつか、昔はオカルト信奉も有りだったかも知れないけどさ、今は21世紀だよ?スマホで何でも出来ちゃうよーなご時世だよ?AIとかロボとか自動運転とか、そーゆー近未来なご時世だよ?



花京:うーん……。それについて、ホントのところはどーなのでありましょーか?



そう答える花京ママはまだ難しい顔をしてる。まあ、花京ママの日ごろの感じからしたって【オカルトに熱心】って感じはないし。



東子:確かに……大昔はそーゆーのがあったのかも知れないな。特にこの遠宮家は、瀬尾、黒御門の2家以上に熱心だったって昔、話に聞いたことがある。



南條:これは(ワシ)の勝手な推測なのじゃが……。もしかしたら、伝承の【魔性の姫様】ってヤツは【(たぐ)(まれ)な才能を持った術者】で……それ(ゆえ)に、その才能を恐れた者たちが自分らに危害が及ばぬよう妹君に泣きついて誅殺(ちゅうさつ)させた、のではないじゃろーか?



南條さんらしからね非リア的内容の見解だけども。でも、【(たぐ)(まれ)な才能を持った術者】って……要は占いがよく当たる人とか、未来予知がよく当たる人とか……そーゆー感じの人かなぁ?



☆1‐246:



花凛:陰謀説の次は【魔法使い】説か、南條?



つか、こーゆーネタにいちばん縁遠(えんどお)そーな花凛たんが意外にも食いついてきた。



南條:【魔法使い】か……まあ、そーゆー解釈でも良いじゃろ?『当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦(はっけ)』ってヤツじゃからの。



花凛:おいおい、ずいぶんと乱暴な言い方をするな、南條?でも、お前がそーゆーことを口にするんだから【何か試してみた】ってことだろ?【魔法使い】流のやり方でさ。



南條:ああ。これには【何の確たる根拠も証拠もない】んじゃが……。でもな、結果を見た時に【(ワシ)的には不思議とストンと腑に落ちた】のじゃよ。



南條さんは、その結果とやらを紙に書くからと花凛たんに紙とペンを所望する。花凛たんは瑠依子に頼み、紙とペンを持ってこさせる。



花京ママの作った大福をパクパクと食べながらせっせと書き物に向かう南條さん。それを見守るあたしたちもついつい大福に手を伸ばしてパクパク食べてしまう。つか、この時点で気づけばよかった。『こんな調子で大福食ってたら、絶対にごはんが食べれなくなる』って。『後々の体重計の数字にこの大福たちが確実にプラスの方向で反映されちゃう』って。



でも……この場では大福でも食べてなきゃやってられなかった。つか、思いっきりそーゆー空気だった。『あたしたちの思考の及ばぬ場所に(いざ)われてくよーな感覚』……その中で唯一、いつもどーりでいられたのは花凛たんだけだったかも知れない。



花凛:なるほどな。これって、もしかして【セフィロトの木】か?



南條さんが葡萄の房を逆さにしたよーな絵を描いたとこに【見慣れない外国語】をズラズラと(つづ)ってく。



南條:ああ、そーじゃ。(ワシ)の家は代々、遠宮の当主と親交があるからの……じゃから、【この手のこと】は多少じゃったら(ワシ)も出来るんじゃ。



☆1‐247:



花凛:なるほどな。これだと……瀬尾の命運を計った時に【あたしの存在があっちゃマズイ】って結果か?



んん?この、葡萄の房を逆さにした絵と見慣れない外国語を見て、花凛たんはどーしてそんなことが言えるんだ?あたしらにはサッパリ意味が分からないんだけど。



南條:遠宮、お前さんの存在があっちゃマズイってわけじゃあないんじゃよ。他のやり方で遠宮の命運を計ってみても……【お前さんだけは桁違い】なんじゃ。じゃから、瀬尾の大人たちからしたら【お前さんは(ぎょ)しがたい存在】じゃから……早いうちにその芽を()んでおこうって考える(やから)があっても不思議じゃないって話じゃ。



花凛:んで……【瀬尾じゃあ(うと)まれてる】あたしを清衛門の爺が【自分の後継者】にしよーと引き取ったわけか?



南條:そーなるの。確かにお前さんは【遠宮本家の後継者】じゃあないが……【遠宮清衛門の後継者】ってことには違いない。ウチの宗矩爺が生前、清衛門爺からその(むね)を記した文書を(あず)かっちょるからの。



むむむむ?あたしには2人の会話の内容がよく分からない。つか、亡くなった清衛門爺は遠宮本家の当主だったんだろ?んで、その後継者の対象に【瀬尾と遠宮の(あい)の子の】花凛たんも該当(がいとう)するから、色々な事情を配慮して【後継者から外れた】んじゃなかったのか?それに……清衛門爺の後継者だったら、実の娘の紗織さんがいるだろーに?その娘の紫織さんだっているのに……。それなのに、どーしてわざわざ花凛たんを選んだんだ?



花凛:爺はあたしと同じ【瀬尾と遠宮の(あい)の子の】紗織さんに自分の跡を継がせるわけにはいかなかったみたいだからな。



????



ますます意味が分からなくなってきた。つかつか、花凛たんは急にどーしちゃったんだ?こないだまで【自分の出生の秘密】だってわからなかったのに……今度はそんなにもこの家の事情に精通してる人になっちゃったんだ?



花京:……ち、ちょっと待つのであります!



普段、慌てる様を見せたことのない花京ママが目の色を変えて2人の会話を差し止めた。



花京:花凛ちゃん……さっき言ったこと、ちゃんと説明するのであります。勝手な臆測(おくそく)で大人の話を解釈してもらっては困るのであります。



☆1‐248:



花京ママは明らかに慌ててる。花静さんも東子さんも今の花凛たんには【自分らが及べない領域の存在】を相手にしてるかのごとくで何の手出しも出来ないまま、でも内心ではかなり焦ってた。



花凛:瑠依子。あたしの部屋の金庫から【例の物】一式、全部持ってきてくれ。



その中でも花凛たんはいつもどーりだ。つか、【いつもどーり以上】だ。(りん)としてて、堂々としてて、(おく)することも()じることもなくて。でも、それは瑠依子も同じだった。花凛たんの言いつけどーり、二階の部屋から【例の物】が入ってるだろうと思われる小さめのジュラルミンのケースを持って下りてきた。



それを瑠依子から手渡された花凛たんは、あたしたちの目の前で解錠してそれを開ける。中に入ってたのは10冊近くに及ぶ古めかしい大学ノートなんだけど。それを開いてみれば、どこの国の言葉なんだか分からない見慣れない外国語で何やらかがビッシリ書かれてる。



花凛:これな、爺があたしに書いて渡した【古来より継承されてる遠宮の思想】らしいんだけどさ……。これ、ヘブライ文字で書かれてるんだけど……お前(花京)なら読めるか?



花京:い、いや……読めないのであります。英語はもちろん、フランス語やドイツ語、スペイン語、アラビア語、中国語などはこの家で少しは学びましたが……。



花静:つか、何で清衛門の爺はヘブライ文字でなんか書いたんだ?他に読ませないためか?



東子:ヘブライ語はアラビア語に似てるが……あまり実用的なものではないな。花京の言うとーり、ここでの養成所時代には教えなかったよな。



花凛:花静の言うとーり、これは【他に読ませないために】こう書いてあるんだろーな。それに……これはフツーに読めば、遠宮が古来より陰陽五行やら西洋の神秘主義やらを研究してきた経緯がズラリと書いてあるんだが。でも、これを【ある種のルールに(のっと)って】読んでくと……爺のあたしへのメッセージが出てくるよーになってるんだよ。



☆1‐249:



花凛たんは花京ママを近くに呼び、ノートを開いて書いてあるヘブライ語の文面について事細かく説明してく。花京ママはその説明を聞いてくうちにどんどん表情が険しくなっていった。



花京:(にわか)に信じがたいのであります。でも……これを花凛ちゃんがイタズラで書いたとは到底、思えないのでありますが……。



そして、花京ママは花静さんと東子さんを呼んで近くに越させ、このノートに書かれてる【真の文面】の説明をする。



『これを花凛が読み明かし始める時、(ワシ)はすでにこの世には()らんだろう。そして、その時には(ワシ)の後継者である花凛の(そば)には【運命を(いざな)いし者】が必ず()って、修練とか試練のごとき運命が訪れることだろう。それはまるで代々の【遠宮の選ばれし後継者】たちがそうであったように、(ワシ)と宗矩がそうであったように。』



『花凛にとって【最初の障壁】は間違いなく我が娘の紗織になるだろう。花凛と同様の運命を背負った彼女もまた【過去に例を見ない(たぐ)(まれ)なる才能の持ち主】だから。ただ、彼女は自身の才能に早々に気づき、それを己の欲望の具現(ぐげん)のために覚醒(かくせい)させ解放させてしまった。そんな彼女を暴挙とも言える行為の数々を、次から次へと湧き出る欲望の体現を阻止すべく、(ワシ)は孫娘の花凛を後継者とした。』



『【瀬尾の巫女】のような超常の力を潜在的に有する者は古来より瀬尾の一族の中に少なからず存在する。時には、そういった者たちを人為的に創り出そうという研究をなされた時期も、瀬尾一族の長い歴史の中には確かにあった。ただ、それが今まで表立ってこなかったのは【その力は私利私欲のために使われるものではなく瀬尾一族の繁栄にのみ行使されるものである】という(しば)りがあり、現在もそれは固く守られてるからだ。したがって、それらを決して【この世を(ほしいまま)にせんとする】ような愚昧(ぐまい)な妄想を実現するための道具に成り下げてはいけない。』



☆1‐250:



他にも清衛門爺のメッセージはあったらしいけど。でも、花凛たんは2、3冊分まではノートを開けたが、それ以上は開けなかった。



花凛:今のあたしが【正確に解読できる】のはここまでなんだ。この後から先は今までとは違った解読の方法じゃないと読み解けないよーになってるんだ。



花京:そーでありますか……。



花京ママは自身の知らない【瀬尾一族の隠された全貌(ぜんぼう)】を知れなくてガッカリしてる様子だったが……。



花静:なあ、花凛……ひとつ、()いていいか?



そんな花京ママとは対照的な、冷静さをびた一文失わない花静さんが花凛たんに(たず)ねる。



花静:お前がそこまで読み解くのにどれぐらいかかった?



さすがは花京ママの専属メイドだと思った。花凛たんも花京ママも『思い立ったら吉日』みたいな性格の持ち主だから……ずいぶん前から花凛たんがこれに熱心であったら、当然、そんな花凛たんの姿は一緒に生活してるあたしらの目にも付くのだ。



花凛:これを読めるよーになり始めたのは……実は爺の遺言で南條のところに訪ねてからなんだ。それまではこのノートに書かれてることだって全然読めなかったんだけど……。



花静:それ以降、これがスラスラと読めるよーになったか?



花凛:う、うん。南條が何かしらの形で(から)んでて、()つ、あたし(から)みのイベントが発生すると……不思議とこれの真意を読む方法がポッと頭に湧いて出てくるっていうか……。



花静:なるほどな。お前の頭の中にカラクリ時計が仕掛けてあるよーなもんか……。それぐらいの芸当なら、【一流の魔法使い】なら朝飯前だろーな。



☆1‐251:



東子:おいおい、花静。急に何、言い出すんだよ?お前らしくもない。



花静:なあ、東子……お前は目の前の現実から目を(そむ)けるんか?冷静になって、よーく考えてみろよ?花凛は考古学者か何かじゃないんだぞ?そこいらの女子高生が学校で英語の勉強をしてたって日常英語が満足に使えんってのに……これに書いてあるヘブライ文字の文章なんて理解できると思うか?【魔法使いの仕業(しわざ)】以外に何があるって言うんだ?



花静さんの言うことには一理ある。でも……そんな都合のいい魔法が果たして存在するだろーか?つかつか、魔法自体、ホントに存在するのだろーか?



東子:理解できるも何も……。ヘブライ文字とかセフィロトの何ちゃらみたいな西洋の思想とかは亡き清衛門様が花凛に教えたんだろ?そーでなくちゃ読めないだろーに?



花静:じゃあ、花凛の専属メイドの瑠依子も読めるってことか?



東子:それは瑠依子に聞いてみなくちゃわからんだろ?



そんな会話の展開から話は瑠依子に振られる。



瑠依子:確かに……あたしとお嬢様は清衛門様から多少のことは教わりましたが……。でも、あたしもお嬢様同様、何かしらの節目(ふしめ)を迎えてから、これが読めるよーになって内容を理解できるよーになりました。



花静:それまでは全く読めなかったってことだろ?



瑠依子:……は、はい。アラビア語とかヘブライ語については日常のシチュエーションで遭遇(そうぐう)する機会ががなかなかないので……全然、頭に入って来ませんでした。



東子:つか、恵依と紗世は花凛たちと一緒に清衛門様からこの種のことを学ばなかったのか?



今度はあたしに話が振られた。つか、もし、あたしも花凛たちと一緒にこの種のことを学んでたなら、瑠依子とは違って少しぐらいは読めたかも知れない。



☆1‐252:



紗世:はい。あたしと恵依お嬢様は清衛門様からトレーニング的なものやレクチャー的なものは一切受けてませんから、もちろん、そーゆー魔術的なもの一切……。



()かれたあたしよりも早く紗世がそう答える。



東子:だよなぁー。恵依と紗世はあたしがビシビシ鍛え上げたぐらいだもんなぁ……。



つか、花凛たんと一緒にレクチャーを受けた瑠依子は、元々、黒御門本家自体にそーゆー風習があって【血統的に素養がある】と清衛門爺に判断されたに違いない。



花京:で、話を元に戻すのでありますが……。



花京ママは南條さんの書いた【セフィロトの木】は、どーゆー占術なり魔術なりを使って導き出したのか?そして、この図の意味するところを改めて()いてきた。



南條:これは【セフィロトの木】にタロットを結びつけて占ったものじゃ。(ワシ)も代々より遠宮から伝承されてるやり方に(なら)ってやっただけじゃから……まあ、初心者もいいところなんじゃが……。



【セフィロトの木】とは左右に3つのセフィラ、中央に4つのセフィラ、それらの間を22個の小径(パス)がつないでいる。それぞれのセフィラには数字、意味するところ、守護星、守護天使、色、金属、神名などが与えられている。第一のセフィラ(ケテル・王冠)からジグザグに小径(パス)を伝い、最終的に十番目のセフィラ(マルクト・天国)に至るとするものである。ちなみに、この小径(パス)にはそれぞれ対応する22枚のタロットの寓意画のカード(大アルカナ)が当てられてるが、それらは決してカバラとタロットとの関係性を証明するものではない。あくまでも『そーゆー研究がなされてた』という一例にすぎない。



さて、話を進めよう。南條さんの書いた【セフィロトの木】には第一のセフィラに黒御門の文字が、中心の六番目のセフィラに瀬尾、そのすぐ下の九番目のセフィラには遠宮と……要は真ん中には瀬尾一族の直系三家が並んでる。そして、左側のセフィラには三番目に瀬川、五番目に椎名、八番目に池田。右側のセフィラには二番目に篠崎、四番目に久遠寺、七番目にウチの相川って感じで並んでる。



☆1‐253:



この図をよく見ると……中心の六番目のセフィラは最後の十番目のセフィラ以外、全部、パスでつながってる。つか、どーして十番目だけ空白なんだ?



花凛:なるほどな。南條、お前は家の命数と血縁の有無から【この配置を導き出した】のか?



むむ?家の命数って何だ?家相みたいなもんか?それに血縁の有無って……。昔は皆、瀬尾の家々の間で嫁いだり嫁がれたりしてたんじゃないのか?



南條:そのとーりじゃ。今の十家の序列やら過去の血縁やら、それぞれの家の命数やら家相やら本家がある土地の地相やら。さらには次期跡取りとなる娘の四柱推命(しちゅうすいめい)やらを(ワシ)なりに占ってみた結果と……あとは【(ワシ)のヤマ(かん)】でこれにしてみたのじゃが……。



そう説明した南條さんの(そば)で書かれた【セフィロトの木】をジッと見てた花京ママは……何かしらに気がついたのか?ポンッと手を鳴らした。



花京:な、なるほど!これは上手いこと、出来てるのでありますね!



花京ママは左右に展開してるセフィラの序列に注目してた。



花京:遠宮と関係の深い相川と池田の両家はその左右に。瀬尾の本家と関係の深い椎名と久遠寺の両家も、黒御門家と関係の深い篠崎と瀬川の両家もそれぞれその左右に。この左右の家々は、中央のそれぞれの家と過去に血縁関係があったという話を聞いたことがあるのであります。



花静:これらの家の関係性は分かったけど……。つか、そーなると……血縁関係のあった左右の家々の娘も花凛や瑠依子みたく【魔法使いの(はし)くれ】だって可能性もあるってことか?



☆1‐254:



南條:それはもしかしたら、あり得るかも知れんの。本来ならば、これらの力は長年に渡る修行や鍛練(たんれん)で得るものなのじゃろーけども……『蛙の子は蛙』的な発想で【これらの能力や資質は血のつながりによって受け継がれる】と考えたいのが人の心理じゃからの。



花静:ってことは……椎名家の人間も、もしかしたら【魔法使い】かも知れないってことか?



南條:そう思っておいた方が無難じゃろう。これに挙げた椎名、久遠寺、篠崎、瀬川、相川、池田の6家は瀬尾十家の中でも直系三家との関わりが深いのに加え【歴史と格式のある家々】じゃからの。この遠宮の家のよーに【代々受け継がれてる秘術】的なものがあるやも知れん。



花凛:じゃあ……恵依や綾子も【もしかしたら術者かも知れない】ってことか!?



南條:今はその片鱗(へんりん)が全く(うかが)えんが……もしかしたら、ある日突然、覚醒(かくせい)するかも知れん。(ワシ)や遠宮のよーに……。



そう言われて、あたしと綾子は思わず目をパチクリさせた。つかつか、あたしにしても綾子にしても、自分の母親なり婆ちゃんがそーゆー人物でもなければ、家に神妙な祭壇や儀式場があるわけでもない。あってもいいトコ、大きくて立派な仏壇ぐらいだ。



東子:でも……ここに書かれてる直系三家以外の六家のうち四家が白百合愛善会の会員だとはな。それに加えて十家の小倉、伊達、最上……まるで【遠宮包囲網】が敷かれてるみたいだな?



花京:それは致し方ないのであります。遠宮の兄様たちは瀬尾の御当主様に(きば)()き、瀬尾、遠宮双方に多大な犠牲者を出してしまったのであります。事は終結したとはいえ、包囲網を敷かれるほど(いま)だ信用されてないってことの裏打ちなのであります。



☆1‐255:



花静:んで、その遠宮家は暗殺者集団の首領に加えて【魔法使いの優良血統】ときたもんだ。そんなところに【魔性の姫様の再来】の花凛がいる……。白百合愛善会は監視の網を張ってるって踏んどいて間違いないってことか……。



花京:そーでありますね……。白百合は花凛ちゃんだけでなく、池田の本家にいる紗織にも監視の網を張ってることでありましょう。



東子:まあ、そーだろーな……。つか、今回の寧々の来日もバッチリ把握してることだろう。でも、向こうから早々に仕掛けて来なければ、コッチは様子見でいいんじゃないのか?



つかつか、話が勝手に進んで終わっちゃいそーなんだけど!【セフィロトの木】の話、あれって……花凛たん以外にも第2瀬尾家も入ってないじゃん?それに……一番下の十番目のセフィラはどーして空白なのか?とか。更に言えば、あたしや綾子の御先祖様たちは魔術師だったのか?とか。明かすべきところって、まだまだあると思うんですけど?



南條:それぐらい余裕をもっておいた方が良いじゃろ。【来るべき運命の時】には否応(いやおう)なしに立ち向かわねばならんのじゃし……。



南條さんはそう言って話を()めくくりにかかる。



南條:あっ、そーじゃ!さっきの話なのじゃが……。



でも、何かしらを思い出して少しだけ話をしてくれた。



☆1‐256:



南條:恵依に池田家の息女はさっきの話から【自分ちのルーツ】がちと気になったところじゃろ?



綾子:さっきの話って?ああー、【魔法使い】の話か!



南條:決して【魔法使い】というわけじゃないが……お主らの家は瀬尾一族の中でも割と歴史が古いのでな……。



さっきの【セフィロトの木】やらカバラといった話は、長い瀬尾一族の歴史の中では【割と新しい部類の話】だという。それ以前は中国やインドより渡来した仏教やヒンドゥー教などの宗教や陰陽五行説、儒教や孫子などといった思想や哲学を取り入れて研究してたという。



南條:さっきの【セフィロトの木】とは話は異なるが……。お主らの生家の相川の家、池田の家、それに椎名家、久遠寺家は仏神にあやかって【四天王】と呼ばれておったそーな。



南條さんが言うに……瀬尾家を帝釈天に(なぞら)えた際、ウチの相川家は東を護る持国天、綾子の池田家は北を護る多聞天、椎名家は西を護る広目天、久遠寺家は南を護る増長天に(なぞ)えてたらしい。



南條:持国天の称号は、かつて直系三家に次いで相川家が瀬尾一族の一番手(筆頭)じゃったからじゃろう。それに持国天には『国を支える者』という意味が含まれておってな……。古典によれば、相川家な子女たちは武神のごとき剛の者が多かったそーな。



恵依:武神のごとき剛の者……ねえ……。



☆1‐257:



確かにウチのママは剣術においては【剛の者】に違いないだろう。けれども……娘のあたしにそのDNAが100%受け継がれてるとは限らない。現にあたしは剣術のけの字も知らない。



綾子:確かに恵依の母ちゃんは【女版宮本武蔵】って呼ばれてるぐらい、剣術じゃあメチャクチャ強いけどさ。つか、ウチは母ちゃんにしても婆ちゃんにしても恵依の母ちゃんみたいに【メチャクチャ強い】ってキャラじゃないんだけど?



南條:確かにそーじゃ。そもそも多聞天は、仏教の本場インドじゃ武神じゃあのうて【財宝神】として(あが)められとるのじゃからの。



綾子:ざ、財宝神?



南條:そーじゃ。十家筆頭の椎名家が商人として大成する以前は、池田家が直系三家の財政を支えるほどの大資産家じゃったのじゃ。今現在も所有しちょる草津温泉をはじめ、金山や炭鉱も所有しちょったのじゃ。



綾子:そ、そーなんかっ!?……ってことはさ、ウチってメチャクチャ金持ちの家ってこと!?



南條:ああ、そーじゃ。今現在は草津温泉のみを所有するのみの池田家じゃが……それでも先祖代々より所有しちょる【湯治なんぞに訪れた著名人の国宝級のお宝の数々】がわんさか蔵に眠っちょるはずじゃぞ?



綾子:マジかぁーっ!?



南條さんの言うとーり、池田家は先祖代々より【財を蓄える能力と財を増やす嗅覚(きゅうかく)】に長けてたという。明治の殖産興業を追い風に瀬尾コンツェルンを創設した当初の椎名家にも資金援助をしてたほどだ。その【借り】が今現在も大きく効いてるのか?椎名家も白百合愛善会も池田家に対しては【ちょっかい】を一切出してこないという。



南條:ああ、マジじゃ。もしかしたら、お前さんも【池田の御先祖様と同じ嗅覚(きゅうかく)の持ち主】なのかも知れんの?



綾子:それなら助かるよ!花凛様や恵依は【このまま行ったら間違いなくニート】だからさ……。そーなったら、あたしが飯、食わせて行かなきゃならないだろ?あたしにも婆ちゃんや母ちゃんみたいな【カネを生み出す才能】があるっていうんなら、未来は確実に明るいな?



☆1‐258:



恵依:ーおい!誰が大人になったらニート確定だって!?ー



不確定な未来について勝手に断言した綾子に思わずイラッときた。でも……【あながちあり得そーな展開】だから、ここんところら口にせずにグッと(こら)えた。



恵依:ー確かに……あたしも花凛たんも【世間知らずのお嬢様】だからな。『今から自力で社会で生きてけ!』って言われても、まったくもって生きていけない気がするし……ー



明るい未来にも【生きてくためのお金】は必要だ。でも、ウチのママや花京ママはそーゆーところをけっこー度外視してる風がある。『そんな心配はしなくていいから、【今やるべきこと】をしっかりやりなさい』みたいな。『親がそれでいいって言うんならガッツリそれに甘えておこう』っていうのが【あたしや花凛たんの生きるスタンス】なのかも知れないな。



亜依:『【汝の意志することを行え】……それが相川家の家訓だから!だから、恵依ちゃんは恵依ちゃんの意志の(おもむ)くまま生きてればいいんだよ!』



あの日、ウチのママはそう言ってあたしを花凛たんちに快く送り出してくれたのを今でも(おぼ)えてる。



亜依:『これから先、もしかしたら【困難】に立ち向かうこともあるかも知れないけど……。その時は(ひる)まず勇猛果敢(ゆうもうかかん)に立ち向かいなさい。己の前にしか道は(ひら)かれないのだから。』



もしかしたら……こーゆーのが【あたしにとっての困難】なのかも知れない。白百合愛善会だの、魔法使いだの……そんなもの、あたしにとってはどーだっていい。



恵依:ーあたしは一生涯、花凛たんのそばにいるって決めたんだ!それを邪魔立てするっていうんなら、たとえ相手が神だろーとも叩き斬ってやる!ー



【未来】ってやつは絶えず変わってくって思う。変わらないわけがないと思う。絶対普遍の真理なんて『人はこの世に生を受けたら、間違いなくいつか死ぬ』ってことぐらいだもの……それ以外はどーにでもなるって思う。喜怒哀楽てんこ盛りのあたしの日々に誰かが用意したシナリオなんて一切不要だ。いつだって即興、いつだってアドリブ……それが【いい味出してる】んだろ?



☆1‐259:



つか、みんな、この手の気難しい話が苦手だったよーで……。それでも理解しようと頭を一生懸命にフル回転させてたのだろう、花京ママの作った山盛りの大福が皿からキレイに無くなってた。



東子:なあ、お前ら。そんなに大福食っちゃって……これから肉、食えんのか?



メインディッシュの高級牛肉のことなんぞ、この気難しい話のせいでスッカリ忘れてたと思われる。



東子:んじゃ、これ、夕飯に食うか?



そんな話の流れで……南條さんと市乃ちゃんも夕飯までココに居合わせることに。



でも、彼女たちからしたら、その方が好都合だった。コスプレ好きの彼女たちからしたら、マリア様(瑠依子)が衣装製作してる花凛たんたとの相部屋の見学とか、これまで作った作品の数々を心行くまで物色できるからだ。



市乃:うわぁー……こ、これは【宝の山】なのですぅー!



瑠依子と市乃ちゃんたちは衣装製作の話で盛り上がって、それが一向に終わりそーにないので。



花凛:なあ、瑠依子。あたしらは綾子を連れて屋敷の中の案内をしてくるわ。どーせ、綾子も遅かれ早かれ【ココに一緒に住む】んだし……。



花凛たんとあたしらは綾子を連れて、屋敷の中や敷地の設備をグルグル歩いて案内した。



花凛:なあ、恵依、紗世。お前たちって、前に爺に『ココには立ち入らないよーに』って言われてたんだよな?



恵依:う、うん……。



遠宮の屋敷の敷地の西側の外れには【木造建ての小さな御堂】がある。あたしと紗世は清衛門爺に生前、『ここは遠宮の浮かばれずして死した者たちが集う場所じゃから不用意に足を入れぬよーに』と言われ、今もその言いつけをちゃんと守ってる。



☆1‐260:



花凛:中に入ってみるか?



この御堂は主に花凛たんや花京ママ、それに花静さん、東子さんが掃除したり手入れしたりしてる。



花凛:あたしさ、ココに入るたびにいつも思うんだよ……『あたしらはこの人たちの多大な助力があったからこそ【今を生きてられる】んだ』って。



恵依:…………。



花凛たんのその言葉の響きは少し(かな)しげだった。見え方を少し変えれば、確かに人の世は多くの人たちの(しかばね)の上に立ってるとも言える。けども、その上に生まれてきたあたしらには何の罪もないと思う。あたしらだって行く行くはそうなるのだから……これから生まれてくる子たちのための(いしずえ)の一部になるのだから。



御堂の中に入れば、そこはドコぞのお寺の本堂みたくだった。格子状に木枠を組まれた高い天井一面には曼陀羅(まんだら)が描かれ、中央には年期の入った木彫りの帝釈天を中心に何体もの仏像が配置されてる。



花凛:そーゆーこととかをココはあたしに(さと)してくれる。つか、ココはあたしにとっては【瞑想(めいそう)の場所】でもあるんだけどな。



つか、花凛たんが夕方のトレーニングが終わっても戻ってこない時がたまにあるのだけど……なるほど。ココでひとり、お香を()いて瞑想(めいそう)をしてたってわけか。



紗世:つか、花凛お嬢様は……この場所が怖くはないのですか?何やらとっても……【神妙な感じ】がするのですけど……。



紗世は(たま)らず口にした。つか、紗世と同じことをあたしも綾子も肌身で実感してたんだと思う。変な悪寒(おかん)が全身を走る。



花凛:ああ、ココは【とっても神妙な場所】だ。怖くて当然だ。



☆1‐261:



でも、そんな花凛たんにそーゆー感覚は微塵(みじん)も感じない。



花凛:【人知の及ばぬもの】を怖いと思った瞬間から人は恐怖を覚える……それは人の生理現象として当然のことだ。あたしだってそーだった。



そう言って花凛たんは仏壇の前に歩み寄ってお香に火を着けると、そこから少しだけ下がって座禅を組み出した。



花凛:でもな……ある日、あたしは知りたいって思ったんだよ。【この感覚の向こう側】を。



紗世:恐怖の……向こう側……ですか?



花凛:ああ。そーゆーのがあるんだって、あたしの【直感】は言うんだ。



紗世:直感……ですか……。



紗世は花凛たんの言ってることがチンプンカンだった。つか、あたしも綾子も同様だ。『花凛たんはいったい、どーしちゃったんだろ?頭がおかしくなっちゃったのかな?』って疑いたくなるほどに。



花凛:ああ。お前たちにもそのうち分かる時が来るかも知れない。



この時の花凛たんはホントに【(つか)み所がない】って感じだった。ここで言ってる言葉の数々も全然、心を捉えることがなくって……『(くう)を掴む』って感じだった。



☆1‐262:



そのうち、座禅を組んでる花凛たんから言葉が何ひとつ発せられなくなった。たぶんだけど……目を閉じて静かに瞑想(めいそう)してるんだろう。



花凛たんの後ろで正座してるあたしらも(なら)って目を閉じて瞑想(めいそう)してる風を(よそお)ってみた。



恵依:…………っ!!?



そーして間もなくだった。目を閉じて(しばら)くすると……急に目の前がものすごく強烈な閃光(せんこう)(おお)われて……目が(くら)むほどの真っ白な世界になった。



『何事が起こったんだ!?』と慌ててバッと目を見開らくと……。



恵依:あ、あれ……?



特に変わったところは何もなく。薄暗い御堂の中、座禅を組んでる花凛たんの背中がさっきと同じよーにあって。でも……おでこにも首すじにも背中にも一気に汗が吹き出たみたいで汗だく状態になってた。



あたしの両隣にいる綾子と紗世にそれぞれ見てやると……2人ともあたしと同様、慌てた顔して汗だく状態になってる。



恵依:あ、綾子……お前、どーしたんだよ?



綾子:恵依こそ、何、そんなに汗だくになってんだよ!?



瞑想(めいそう)してる花凛たんを邪魔しまいと小声で(しゃべ)る。



綾子:つかさあ、恵依……。



☆1‐263:



綾子も目を(つむ)っていた(わず)かな時間、あたしと同じ光景を頭の中で見たという。



綾子:やっぱりさ、ココが【神憑(かみがか)ってる】せいなのかな?あーゆーのを見ちゃうって……。



恵依:…………。



つか、紗世の方があたしや綾子よりも(ひど)かった。全身汗だくなのはもちろん、顔面蒼白で何かに(おび)えるみたいに小刻(こきざ)みに体を(ふる)わせてた。



紗世:お、お嬢様……。は、早く……ココから……で、出ましょう。こ、ココは……ぜ、絶対に……や、ヤバイですって!



紗世は呂律の回らない口で話す。紗世もまたあたしたちと同じ光景を頭の中で見たという。でも、紗世の場合は強烈な閃光がさらに蒼白く光り、それが【人のかたち】になっていったという。



恵依:で、でも……。



あたしたち3人が同時に同じ光景を頭の中で見た……それは世に言う【神秘体験】に他ならない。それは同時にココが【普通でない場所】であることの証明だ。



花凛:いったい何をそんなに(おび)えてるんだ?(おび)えれば(おび)えるほど【どんどんドツボに()まって()ちる】ぞ?



花凛たんはさっきと同様、あたしらな背を向けて座禅を組んだままで。別に、様子を確認するために後ろに振り向いたとかってわけじゃない。



☆1‐264:



花凛:これは【通過儀礼】みたいなもんだ。別に悪霊がお前たちに()いて魂を喰ったりだとか、そんなことは一切ないから心配するな。



『心配するな』って、いつもの調子で言われてもな……。こりゃあ、どう考えたって尋常(じんじょう)じゃない。



花凛:ココは代々、遠宮の当主が(あが)めてる神が(まつ)ってある場所なんだよ。だから、ココで多少の超常のことが起こっても別に不思議じゃないんだ。



いやいや、花凛たん……これを『別に不思議じゃない』って言葉で始末されても困るよ!つかつか、超常のことが起こるって……十分にヤバイっしょ!?ココって、間違いなく心霊スポットでしょ!?



花凛:でも、まあ、お前たちが【遠宮が(あが)めてる神】に受け入れられてマジ良かったよ。これでお前たちは晴れて【正式なあたしのお側つきになった】ってことだ。



花凛たんはそう言ってよーやく座禅を解き、後ろのあたしたちの方に体を向けた。



恵依:……か、花凛たん!そ、そのおでこは……?



ココに来る時にはおでこに【そんな落書き】はなかったし、ましてやココに入ってから落書きをした様子も一切なかった。花凛たんのおでこには赤インクで【人の目】が描かれてた。



花凛:ああ、これか?これは【第三の目】ってヤツらしい。つか、あたしが爺にココに連れて来られてから、ココに来るたびにおでこにこの目が勝手に浮かび上がってきてな。まあ、シヴァ神は古来から遠宮が(あが)めてる神らしいから……これはこれで【シヴァ神の加護(かご)賜物(たまもの)】だと思っておけばいいんじゃないのか?



☆1‐265:



おいおい、何を悠長(ゆうちょう)なこと言ってるんだよっ!?そーゆーのが勝手に浮かび上がるのって、もしかしたら【悪魔の刻印】とか、そーゆー(たぐい)のもんじゃないのか!?つかつか、瀬尾も長い歴史の中でオカルトなんかに手ぇ出しちゃってドップリ()まっちゃって……んで、間違えて悪魔とか召還(しょうかん)しちゃったんじゃないのか!?



花凛:つか、お前たちもおでこ、見てみろよ?たぶんだけど……お前たちのおでこに浮かび上がってる赤の梵字(ぼんじ)は【それぞれの家が(あが)めてる神の種子字(しゅしじ)】なんだと思うぞ?



恵依:……えっ!?



つかつか……あたしたちのおでこにも花凛たんみたいな【悪魔の刻印】があるんかよっ!?それって、やっぱり……さっきの頭の中で見た強烈な閃光のせいに違いない。



それはさておき……あたしらはそれぞれのおでこを見合う。すると、花凛たんの言うとーり、赤字で何て読むのかサッパリ見当のつかない一字が浮かび上がってる。それを見て狼狽(うろた)えないわけがなく……。



花凛:心配するな。その梵字(ぼんじ)はココから出れば自然と消えて見えなくなる。



そーゆー問題じゃないよ、花凛たん!こんな超常現象のオンパレードに遭遇(そうぐう)したら、フツー、あたふたするだろ!?なのに、何でそんな涼しい顔、してられるんだよっ!?



花凛:【次なる運命の扉】が開かれる前に、あたしはコレをどーしてもやっておきたかったんだよ。つか、これであたしの用事も済んだことだし……ぼちぼち市乃たちがいる本館に戻るとするか?



綾子:なあ、花凛様。【次なる運命の扉】って、いったい何なんだ?



綾子にしては珍しく随分(ずいぶん)と真顔だった。



花凛:あたしに限らず【瀬尾一族にとっても試練の時の始まりを告げる】扉だ。この扉が開かれるのを皮切りに長い間、蓄積されてきた(うみ)が一気に吹き出るかも知れないな?



☆1‐266:



綾子:【蓄積されてきた(うみ)】か……。でも、まあ……瀬尾本家を(おさ)とするこの体制が今現在も維持されてるってのがマジ不思議な話だもんな。そりゃあ、中には不満に思ってる人間も少なからずいるだろーな……。



綾子らしからぬ真面目なコメントだ。でも、これについては【あたしたちが知らないだけ】で。ネット小説のカリスマ池田綾子はGLやエロに限らず、こーゆー真面目なジャンルにすら【天性とも言える妄想力】を如何(いかん)なく発揮する。



花凛:そーだな……。あるいは瀬尾本家や椎名家に代わって瀬尾一族を支配するという野心を抱く者とか……。瀬尾コンツェルンの莫大な資金力や経済力はもちろん、長い歴史の中で培ってきた瀬尾本家が持ってる色々な方面での影響力や有形無形の資産は、【世界を牛耳(ぎゅうじ)りたい】なんてマジで考える野心家にとっては相当に魅力的だろーからな。



綾子:……で、そん中で花凛様はどーするんだ?本家の瑠華様を支えて瀬尾一族を牽引(けんいん)するのか?



ものスゲー真面目な話で……あたしや紗世はちょっと()いていけない感が(いな)めないんだけど。そんなあたしらに花凛たんが気付いて、『困ったヤツらだな』って言いたげに思わず苦笑いを浮かべる。



花凛:『瀬尾全体の未来を考えて行動しろ』って言うんであれば、自分の立場をわきまえて行動するけど……。でも、個人的には瀬尾の未来とかマジどーでもいい。そんなことよりも『【お側つきにしちゃった】お前たちや紗世をあたしはちゃんと養っていけるのか?』……そっちの方がよっぽど深刻な問題だ。アイツ(花京)の持ってる資産だって、このまま使い続けていけば【いつかは空っぽになる】しな……。



こんな真面目な話の最中(さなか)で花凛たんが『あたしたちのことをちゃんと考えててくれてる』のがマジ嬉しかった。



恵依:花凛たん、そーゆー心配はしなくて大丈夫だよ!『いざっ!』ってなったら、ウチの蔵にあるお宝をサザビーのオークションとかで売っ払ってお金作るからさ!



それを聞いて花凛たんは腹を抱えて爆笑した。つか、こんなにバカ笑いする花凛たんの姿を見たのは何時(いつ)ぶり以来だろ?久々の花凛たんの笑い声が今のあたしの心を和ませてくれた。



☆1‐267:



花凛:そんなことになったら……あたしが恵依の母ちゃんに一生、(うら)まれるわっ!





さて。この超常現象てんこ盛りの御堂を出て本館に戻ったあたしたち。花凛たんの言うとーり、おでこの赤の梵字はまるでなかったかのよーにキレイに消えていた。そんなあたしたちに瑠依子たちが()け寄って出迎える。



瑠依子:お嬢様!御体には何も変わりは御座いませんか!?



コラッ、瑠依子!それ、どーゆー意味で言ってるんだよっ!?



瑠依子:恵依や紗世みたいな未熟者が御堂に足を踏み入れて……遠宮の御本尊様のお怒りを買われたのではないかと、心配しておりました。



相変わらずの『自分は優秀です』アピールに、あたしも紗世も露骨(ろこつ)にムスッとする。



花凛:ああ、大丈夫だ。そんなことでヘソを曲げるほど、遠宮の御本尊様は狭量(きょうりょう)じゃないからな。



つか、花凛たんもコイツ(瑠依子)の話に合わせるなよ!?だから、ますます調子に乗っちゃうんじゃんかよ!?そんなことを(つゆ)も知らない花凛たんはカラカラ笑いながら答えて。ココからは終始(しゅうし)、上機嫌だった。



市乃ちゃんたちを一生懸命に【おもてなす】花凛たん。でも、楽しい時間はあっという間に過ぎていって……昼に食べ損ねた高級牛肉を東子さんにたんまり食わせられるという【違った意味での苦行(くぎょう)】を最後に味わって本日はフィニッシュとなる。



花凛:次からはゲーセンに来るよーな感覚で、遠慮しないでウチに遊びに来てくれ。



市乃:はい、花凛様ぁー!お言葉に甘えて、次回からそうさせていただきますぅー!



南條:そう言ってもらえると助かるの。この屋敷のことは無論じゃが……お前さんたちの生態も知らんことだらけじゃからの。これからはブラリ立ち寄らせてもらうわい。



☆1‐268:



腹いっぱいに高級牛肉を詰め込まされた南條さんたちは花京ママの()る白のアストンマーチン・ラピードSに乗って家路に着く。つか……花京ママのジェットコースターみたいな運転がトラウマにならなけりゃいいけど……。





このあと、あたしたちは片付けを済ませてダイニングで一段落つく。瑠依子が()れてくれたカフェオレを口にしながら他愛ない雑談をして後、いつもどーりの順番で風呂を済ませ、それぞれの部屋に戻っていった。つか、新たに【お側つき】となった綾子は今日は泊まってくことにして、あたしと紗世の相部屋で一緒に寝ることになった。



綾子:なあ、恵依……まだ起きてるか?



急遽(きゅうきょ)、お泊まりとなった綾子はもちろん部屋着や着替えもないため、花京ママの新品のストックを貸してもらってた。



恵依:なあ、綾子……お前、どーして【そんなスケベな格好】してるんだよ?



綾子はスケスケの黒のネグリジェに黒の大人なセットのブラとパンツを着てるんだけども。つか、昼間のピンクの紐パンといい、コイツがこーゆー格好してるとやっぱり変な色っぽさがあって。そこに【JKというブランド】を勘定(かんじょう)に加えると、まさに禁断の甘酸っぱい果実って感じが如実(にょじつ)にする。つかつか、コイツ(綾子)のそーゆーところがマジ(うら)ましいと同時に同性として非常にムカつく。



綾子:しよーがないだろ!これ、花京叔母さんのなんだからさ!



綾子はあたしの隣で(いびき)をかいて爆睡してる紗世を気遣って、『ちょっと部屋を出て話をしないか?』って持ちかけてきた。あたしも紗世が昨日から花京ママの手伝いやらでずっと奮闘してたのを知ってたから、そんな紗世を起こしちゃうのは可哀想だと思い……ここは綾子に同意して一緒に部屋を出た。



真っ暗で人気(ひとけ)のない下のリビングに灯りをつけ、ダイニングに腰かけて話し込むことにする。



綾子:なあ、恵依。もしかしたら、花凛様はホントに【魔性の姫様】の再来なのかも知れないな?



御堂の時と同様、綾子はキャラに似合わず真面目な顔して言う。



恵依:急に何だよ?



綾子:いや、さ。あたしの中の花凛様のイメージって【孤高(ここう)】って感じが強かったんだけどさ……。南條さんや市乃と触れ合ってるトコとか見てたらさ、『こーゆー【フレンドリーでフツーっぽい】花凛様も有りだな』って思ってさ。



☆1‐269:



『つか、それは……お前(綾子)に対してだってそーだよ』って言い返したかったのだけども……ここは()えて言葉を()んでおくことにした。



綾子:ああやって花凛様の周りにどんどん瀬尾の血をひく女の子たちが集まってくる。つか、東子さんの言ってた寧々って市乃の知り合いも花凛様に会いたがってるんだろ?そんな調子でさ、次から次へと集まってきちゃったらさ、【魔性の姫様】と似たような状態になっちゃうんじゃないかなって。



確かに綾子の言うとーりだと思った。元々、花凛たんの(そば)には従姉妹の瑠華嬢しかいなかった。それが遠宮家で面倒を見てもらうのをキッカケに瑠依子が専属メイドとなって。それから、あたしが引っ越してきたばかりの花凛たんに一目惚れして強引に住み着いて。それから、紗世があたしの専属メイドになって一緒に生活するよーになり。んで、東子さんちの末娘の南やウチの従姉妹の麻衣。清衛門爺が亡くなって、その遺言で南條さんと知り合う機会を得て。その南條さんの(つて)辿(たど)って市乃ちゃんが、そして綾子が花凛たんの前に現れた。



綾子:御堂に行った時にさ、思ったんだよ……『もしかしたら【魔性の姫様】も花凛様みたいに心優しい人だから……【来る者拒まず】で次から次へと受け入れちゃった結果、悲劇を招いちゃったんじゃないか?』って。つか、(みんな)はそれについて罪悪感とかなくって、ただ、居心地が良くて楽しいから姫様と一緒にいたかっただけだったのに……。姫様も一緒にいる(みんな)が楽しく笑っていられたらいいなって思ってただけなのに……。それが【大人の都合】に支障をきしちゃって大きな問題になっちゃって……。それでも姫様は(みんな)の笑顔を守りたくて、結果、大人たちに(あらが)う展開になっちゃって……。



確かに綾子は根も歯もない勝手な想像話をしてるんだろーと思う。でも、『それは違う!』って断言して静止させる根拠も証拠もドコにもなければ生き証人もいない。時折、感窮(かんきわ)まったみたくなる綾子は、これを(しゃべ)ってて胸苦しかったんだと思う。つか、あたしも『もしかしたら、これが【魔性の姫様】の(まこと)かも?』って思えてきたら……急に胸が押しつぶされるみたく苦しくなってきた。



恵依:花凛たんは……絶対に大丈夫だ。何があったって【魔性の姫様の二の舞】には絶対にならない。



☆1‐270:



御堂から戻ってきてから、胸の中に【変なモヤモヤ】が雷雲のよーに黒く(おお)ってきて……今ひとつ落ち着かない。それは多分、綾子もおなじだったんだと思う。



恵依:なあ、綾子……こーゆーのってさ、きっと【何かが起こる前兆】なのかも知れないな?



綾子:そーかも知れないな。花凛様が言ってた【試練の時】の前触れなんかもな……。



あたしも綾子も頭の中で知らず『花凛たんと魔性の姫様がリンクしちゃってる』よーな気がする。つか、あたしはそれと同時に『この姫様の一件には【とんでもない秘密】が隠されてる』って……これはあたしの直感だけども、どーも胸に引っ掛かってならない。





この時は【不確かな勝手な憶測(おくそく)】ってだけで済ませられた。でも、これから先、これが現実と少しずつリンクしていって【花凛たんと繋がってくる】展開が巡って来ようとは……この時、まったく想像も出来なかった。



恵依:ーなあ、瑠華嬢……あんたは今、何やってんだ?花凛たんが【どんどんヤバイ方へ進もうとしてる】って時に……。ー



こんなことは生きてる間に数回とないと思う。あたしじゃあ力になれないかも知れないけど……『もしかしたら、瑠華嬢なら花凛たんを……』って、助けを()うように胸の中で呼びかけた。



綾子:【瀬尾の未来】はきっと花凛様が変えてくれるって、あたしは信じる。花凛様が(いにしえ)の【魔性の姫様】みたくなってさ……。



恵依:綾子……。



【次なる運命の扉】が静かに開かれようとしてる。今、こーしてあたしらが平穏に過ごしてる最中(さなか)、ドコかの誰かは暗躍(あんやく)してるのかも知れない。白百合愛善会、椎名家、残りの瀬尾十家や瀬尾の有力家系、清衛門爺の娘の紗織さん、それに海外に散らばってる遠宮の分家たち……胡散臭(うさんくさ)そーな連中は各々の描いたシナリオの具現のため、虎視眈々(こしたんたん)と【その時】を待っていた。



○:作者より



『この話をどーゆー風に進めようか?』って、ずっとずっと悩んでまして……。つか、もはや、収拾がつかないレベルのグダグダぶりで(苦笑)。つかつか、何度、没稿にしよーか?って考えたか分からないです。



18禁か?あるいはフツーに百合ものか?でもでも、この2つを採択しても、どっちも終焉まで辿り着けそーになかったので……。急遽、オカルト系SFにシフトしてみました(苦笑)。



僕は科学系や未来系のSFは意外と好きなんで……本来なら【そーゆー得意ジャンルのものをチョイスして】創作すればいいと思うんです。ただ……遠宮花凛を書き始めた時の設定が百合だったんで……どーしてもそれに固執してしまって。今回もそれでスタートしてみたものの……百合とレズの定義やイメージが混同してきちゃって書きにくくなっちゃって。うーん、僕には恋愛要素の強い作風のものは向いてないって、あらためて痛感いたしました。



オカルト……って言っても黒魔術とか妖精だったりの系はあまり造詣が深くないのですが……宗教系のものは前に書いてた作品で少し勉強してたので、『これだったらやれるかな?』って思ってチョイスした次第です。



まあ、引き続きグダグダ間違いなしの作品ですが……ここまで読んでくれてる方がもしいたら、心からのありがとうを言いたいです。



『あなたの貴重な時間と脳内の労力を割いてくださり、ほんとにありがとうございます。引き続きグダグダな作品にお付き合いしていただけたら幸いです。』

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