花凛1‐6:
1‐163:
さて……花凛が自宅に招くと約束した当日の朝。綾子はいつもより早起きをしてシャワーを済ませ、前の日の夜に入念に考えたコーデに身を包み、まだ慣れないメイクに悪戦苦闘しながらもどーにか仕上げ、準備万端で下のリビングでウキウキしながら朝食が出てくるのを待ってた。
蕾:『なあ、綾子……お前、朝っぱらからムチムチの太もも晒して楽しそーにしてさ、これから男とデートか?』
リビングのダイニングテーブルには朝帰りしてきた3歳年上の大学生の姉の【蕾】が眠さと疲労に負けてグデグデに伸びきっていた。
綾子:『別に……男とデートってわけじゃないけど。つか、これから花凛様のお屋敷に市乃たちと一緒に遊びに行くんだよ』
蕾:『花凛様ぁー?誰だ、それ?』
蕾は昔から瀬尾一族のことに根っから興味がなかった。って言うのも、蕾本人は家柄だの、慣習だの、伝統だの、血統だのってもんで【人の一生を縛りつける】のはおかしいと考えてるからだ。
綾子:『花凛様は【あたしのご主人様】だって!』
蕾:『ご主人様だぁー!?お前(綾子)、メイド喫茶の店員にでもなったのかぁー?』
綾子:『そーじゃないって!あたしは【花凛様のお側つき】になったから、これからずっとお世話するんだよ!』
蕾:『はあー?何だ、それ?ヘルパーさんとか介護士さんとかの話?』
綾子:『違えよっ!あたしは遠宮家のご令嬢の花凛様に【お側つき】として御奉仕するんだって言ってんだよっ!』
1‐164:
蕾:『お前なぁ……いい年してマンガみたいなこと、言ってんなよ?今のご時世、ご令嬢だの、御奉仕だのって……。こんな北関東の田舎町のドコに【そんなブルジョワな家】があんだよっ!?』
話の噛み合わなさにお互いイラつきはじめてきた。
綾子:『ウチの近所にあんじゃんかよっ、遠宮の本家がさっ!』
蕾:『遠宮の本家って……ばあちゃんの知り合いの、何年か前に亡くなっちゃった【温泉好きのジイさん(清衛門)】の家だろ?』
綾子:『だからっ!そこに花凛様も一緒に住んでるんだろーがっ!!』
蕾:『あそこん家のジイさんの娘は、ウチのばあちゃん家に居候して官能小説書いてる紗織さんだろーがよっ!』
綾子:『【お師匠さま】もそーだけど……でも、違うんだよっ!』
蕾:『言ってる意味がよく分かんねえんだけどっ!』
蕾は眠気と遊び疲れのダブルパンチで苛立ち方が半端ない。喧嘩腰で声を荒げる。
不二子:『花凛ちゃんは【花京ちゃんトコの一人娘】よ。事情あって6歳の時から清衛門さんのところでお世話になってるのよ』
朝から騒々しい娘二人に、キッチンで朝ごはんの支度をしてる母親の不二子が口を割り入れてきた。
蕾:『ああねぇー。花凛様って、花京さんトコの一人娘なんだぁー。そりゃあ、ブルジョワなわけだよ』
1‐165:
蕾は瀬尾一族のことについてはまったくの無知なのだが……池田家のお屋形様のところで【終身人質をやりながら官能小説家をやってる】紗織と【そこに出入りしてる紗織と仲の良い】花京と花静のことだけは知っていた。綾子と同様、一時期、実家を離れてお屋形様のもとで修行を積んでいた頃の【お師匠】が紗織で……たまにそこに顔を出しに来てた花京に大きく影響されて、今では【大先生】と呼ぶほどに尊敬している。なので、それを知ってる母の不二子は敢えて花京の名前を出して説明したのだ。
不二子:『そーよ。花京ちゃんトコや亜依ちゃんトコ(恵依の家)ほどじゃないけど……ウチだって【一応ブルジョワ】で【あんたたちは一応お嬢様】なの。蕾も綾子も、そこんトコは絶対に忘れないでよね』
遠宮本家や恵依の家みたく【いかにも金持ちって感じの豪邸を構えてない】池田家だが……先祖の代より瀬尾本家の当主をおもてなす温泉宿を経営する都合上、【自分の家屋敷よりも本業に重きを置く】傾向があった。財力でいえば、池田家は十家の中では筆頭の椎名家に次ぎ……お屋形様の住む本家を【遠宮本家に負けず劣らずの要塞にし】、【そこの警備に自費で自警団を作って当たらせる】ほどであった。
さらに池田家は先祖の代より遠宮本家、十家の相川家(恵依の家)、新潟の長尾家(市乃の家)、仙台の伊達家、盛岡の最上家、札幌の瀬川家と深い親交があり、【東日本の瀬尾一族を牛耳る女首領】と陰で囁かれるほどである。
1‐166:
そんな女首領の後釜の蕾と綾子だが……池田本家のお屋形様と紗織は【次期お屋形としての素養ありとして】姉の蕾を【実質上の次期お屋形として責務を負わそーとする】一方で、お屋形様の娘で二人の母の不二子は【妹の綾子を名実ともに次期お屋形としよう】と推してて……【拒む蕾を無理やりにでも次期お屋形に据える】派と【このまま綾子を次期お屋形として据える】派とで一族内でずっと揉めていた。だが、今回の【綾子の花凛のお側つきになる件】を本家当主の花英が了解する際、『次期お屋形として呼び声高い綾子の身柄を孫の花凛が預かる以上、池田家の実務に支障をきたさないよう、姉の蕾がお屋形としての権限を行使しても構わない』という御墨付きを得て、姉の蕾は池田家の次期当主としての【いろは】を叩き込まれる羽目になってしまったのである。
今までは『妹の綾子が古臭い家の伝統と慣習を継ぐのだから』と、【我、関せず】の顔をしてた蕾だが……綾子の件で後釜を引き受けざるを得えない状況に陥ってしまった。もちろん、蕾は次期当主を断ることもできるのだが……。
紗織:花京もぼちぼち引退して落ち着くんじゃないかな?他人のことを言えた義理じゃないけど……一人娘をいつまでも放置しとくのも可哀想だろ?
師匠の紗織の【根も葉もない花京引退説】を真に受け、【これからは憧れの花京にお近づきになれるチャンスがある】と勝手に踏んで……自分に都合のいい妄想を抱きながら引き受けることにしたのである。
1‐167:
蕾:『……で、【花京さんトコの一人娘】って、どんな感じなの?』
花京の名前が出た時から、蕾は花凛のことを勝手に【花京似の美少女】だと妄想を膨らませてる。
【些か妄想癖がひどい】姉の蕾のことを熟知してる妹の綾子は、それに答えるべくパーカーのポケットからスマホを取り出して操作しはじめる。市乃に教えてもらった瑠依子のSNSのページを開いて、そこにアップされている【ゴスロリ姿の花凛】の写真を見せるためだ。
蕾:『うわっ、マジかよっ!?超カワイイじゃんかっ!!』
さっそく綾子に花凛の写真を見せてもらった蕾は、自身の妄想を上回る可愛さに思わず声を上げた。
蕾:『つか……【お側つき】ってやつさ、あたしと代われよ?あたしが花凛様にご奉仕するよ』
そして、蕾の予想では【実物の花凛は写真をはるかに上回る可愛らしい少女】だと踏んだのだ。
綾子:『バカ言ってんな!死んだって姉ちゃんとは代わらねえよっ!』
蕾の食いつきようで【自分の見る目が確かであった】ことを確信した綾子は露骨に拒否った。
蕾:『この……浮気者が!お前は恵依一筋だろーが!?』
綾子:『姉ちゃんだって【由宇】がいるだろーに!』
綾子の言う【由宇】とは、恵依の母の姉の娘で【蕾とは同い年の幼なじみで高校時代から関係を持ってる】女子である。ちと余談になるが……花凛の【お側つき】に一人娘の恵依を差し出してしまった相川本家では、次期本家跡取りに由宇を推すつもりだったのだが……。
由宇:あたしは蕾と関係、持っちゃってるんで……。もし、恵依ちゃんがこのまま戻ってこないんなら、妹の【麻衣】を推してやってください。あの子はあたしと違ってマジメだし、成績も優秀なんで……。
1‐168:
そう言って由宇がアッサリ断ってしまったものだから……その流れで妹の麻衣を次期跡取りとすることに決めた。
ちなみに麻衣は現在、中学2年で花凛や恵依たちの後輩にあたる。従姉妹の恵依や姉の由宇とは似ず、背は小さめの151センチ、猫っぽい丸顔の可愛らしい童顔、髪は花凛と同じ黒髪ロングのツインテール、細身の貧乳、性格は人懐っこく天然の甘え上手。小さい時から花凛の彼女になろうと企む彼女は、ちょいちょい遠宮本家に顔を出しては従姉妹の恵依が【花凛とくっつかないよーに】遠回しに牽制してくる。なので恵依からは【小悪魔妹】とやっかまれてる一方、メイドの瑠依子にはよく可愛がられてる。
麻衣:あたしが【相川本家の跡取り】になるってことは……もしかして養子縁組とかして【恵依の義妹】になるってことかな?つか、義理でもアイツの妹になるのは御免だけど……。でも、花凛と同じ位置に並べるからオッケーしてやってもいいよ?
麻衣はどこまでも自分都合なのだが……それが功を奏したと言うべきなのか?後日、花京が瀬尾一族の子女たちを対象にした訓練所を遠宮本家で開設することが正式に決まった際、麻衣は【相川本家の正式な跡取りだから】と優先的に入所を許可され、花凛たちと共同生活を送ることとなる。
1‐169:
蕾:『由宇は由宇、花凛様は花凛様だろ?』
綾子:『やかましいよ!』
蕾:『つか、花凛様て……実物はどーゆー感じのキャラ?写真で見る感じだと、花京さんとは違って女帝というか皇女というか……そーゆー感がハンパないんだけど?』
綾子:『女帝……皇女……?』
言葉のニュアンスの捉え方は蕾と綾子とでは異なるのだろーけども……。でも、花凛をイメージした時、女帝とか皇女とかって感じがあながちシックリきた綾子だった。
綾子:『うーん、確かに。表向きの花凛様て【庶民っぽい感じ】とか【親しみやすい感じ】とかまったくないし、【人を寄せつけない雰囲気】とか【何があっても冷静で動じない感じ】とか【変に大人っぽくて達観してる】ところもあったりするけど……。でも、実際の花凛様は可憐で愛らしいし、子供っぽいところもあるし、メンタル弱いところも甘えたがりなところも寂しがりなところもあったりして……。あたし的には【放っておけない】って言うか、【見守っててあげたくなる】って言うか……』
綾子的には無意識なのだろーけども……花凛について饒舌に語ってた。もちろん、蕾は綾子の話を真剣には聞いてはいるものの……でも、顔のニヤニヤが止まらない。
蕾:『んで、会って早々、花凛様に【あたしをお側つきにしてください!】って頼み込んだわけか?』
綾子:『……なっ!?』
蕾の一言でそれとなく察した綾子。一気に顔が真っ赤になった。
1‐170:
蕾:『恵依は恵依、花凛様は花凛様ってか?それ、フツーにこころ、浮わついてるとあたしは思いますけどー?』
綾子:『……ち、違うよっ!花凛様は……恵依とはまた違うんだって!』
綾子の中では確かに違うのだけども。でも、そのニュアンスを蕾には伝えにくい。
蕾:『いいって、いいって。姉妹、血は争えないってヤツだろーからさ』
綾子:『だからぁー、違うんだってばー!』
そんなこんな、二人がワイワイやってるところへ母の不二子が朝食を持ってくる。
不二子:『二人も三人も同じよ。それぐらいの方が若者らしくて健全でいいわ』
存外、母の不二子も口が達者で。娘二人の会話に毒を盛って区切りをつけ、次から次へとテーブルに朝食を持ってくる。焼き上がったばかりの山のよーに盛られた牛カルビの焼き肉、納豆、生卵、焼きのり、たくあん、豆腐とワカメの味噌汁、炊きたてのどんぶり飯。綾子の口は鼻腔に焼き肉の匂いが達した瞬間にピタリ止まり、蕾にいたってはすでに箸を手にして焼き肉をパクパク食べはじめてる。
不二子:『色気も食い気も枯れちゃったら、人間、終わりよ?綾子も熱いうちにサッサと食べちゃいなさい』
朝から牛焼き肉にどんぶり飯が当たり前の池田家。母の不二子が娘の綾子を【お側つき】に出す際、唯一、心配したのが【ごはん】のことだった。
不二子:ウチの綾子、フツーの女の子より全然、食べちゃうものね……。花京さんちの食費、少し援助した方がいいかしら?
でも、それ以外のことでは【まったく心配もしてない】母の不二子であった。
1‐171:
不二子:人間の社会なんて所詮【ジャングル】みたいなものだわ。色んなことにチャレンジして、色んな経験を積んで、それを糧にして【自身の生存能力を高め】ないとね。瀬尾家のお嬢様だろーとも、【弱肉強食】のルールに則って生きてくのには変わりないのだから。
さて……朝食を済ませた綾子は自転車に乗って、すぐ近くにある市乃のアパートへ。
市乃:『綾子様、おはよーございますぅー』
綾子が玄関のインターホンを押すと、すぐさま表に出てきた市乃。つか、綾子の家から市乃のアパートまでは自転車で5分。オマケに綾子は【朝に強く早起き】であることも承知してるから、市乃は眠たいところをどーにか早起きして出かける準備を済ませたのである。
綾子:『市乃、今日はゴスロリなんだぁー。めっちゃ可愛いじゃん!』
市乃はいつもどーり、両耳にピアス、指にはシルバーのリング、瞳にカラコン、ガッツリ盛りの睫毛、バッチリ決まったメイクって具合。それにプラスして今日は【自主製作した『ローゼンメイデン(原作:PEACH-PIT先生)』の翠星石コス】に身を包み、茶髪のゆる巻きロングのウィッグにルビーとエメラルドのカラコンのオッドアイ。憧れの【マリア様】に会えると気合いが入りまくってる。
市乃:『ああー、今日のコスはですねぇー、【ローゼンメイデンの翠星石】なんですよぉー』
1‐172:
残念ながら……只今、BLやらGLやらに主軸を置いてる綾子はローゼンメイデンを知らなかった。つか、それより以前は【ジョジョの奇妙な冒険(原作:荒木飛呂彦先生)】や【グラップラー刃牙(原作:板垣恵介先生)】などといった少年マンガにどっぷり浸かってたため、少女系マンガの知識はほぼゼロ状態。
綾子:『あっ、そっか。翠星石かー』
それでも綾子は忘れてた風を装って話を合わせる。相手を傷つけないための配慮ってよりも、【自身の偏りすぎた精神世界】を察知させないためのちょっとした布石だ。
綾子:『つか、市乃……その長いスカートじゃーさ、自転車、乗れないだろ?』
さらに細かな気遣いで打った布石を強固なものにする。ちなみに……翠星石の衣装は深緑のエプロンドレスのロングスカートに三角巾のよーな白のヘッドドレス。オマケに市乃は小道具として【リアルサイズに再現した】庭師の如雨露まで手にしてる。
市乃:『いや、大丈夫ですよぉー。どーにか自転車、乗れると思いますし』
綾子:『いやいや!今日のための折角のコス……花凛様にお披露目する前にシワにしたり、裾を汚したりするわけにはいかないだろ?』
市乃:『ああ、そっかぁー……。でも、歩きじゃあ……』
綾子:『いいって。歩いて行ったって、花凛様の遠宮本家までは30分とかからないだろーし。それに……途中、南條さんと待ち合わせ場所で合流しなきゃだろ?』
1‐173:
市乃は綾子が1分でも早く幼なじみの恵依との再会を果たしたいと頭では分かっていたものの……マリア様(瑠依子)にどーしても自主製作した衣装を見てもらいたい気持ちでいっぱいで……この衣装で自転車に乗ってくことをまったく考えてなかった。
市乃:『綾子様、すいませんですぅー』
なので、綾子と市乃は自転車を押して歩き、南條との待ち合わせのコンビニに向かうことに。
綾子:『別にいいって!気合い入る気持ち、あたしも分かるからさ』
申し訳なさそーに謝ってくる市乃に綾子はそう言って慰める。つか、綾子のコーデは背中に金のラインストーンでスカル(頭骨)をデザインした黒のパーカー、デニムのホットパンツ、黒レザーのワークブーツ、缶バッチをつけた黒のキャップ、シルバーチェーンのネックレスにシルバーのスカルのリング、背中にショッキングピンクのリュックと……ムチムチボディーをどーにか【少しでもスリムに見せよーと】全身黒ずくめの仕様。
綾子:やっぱりさ、【最初が肝心】でしょっ!
【花凛のお側つきに決まった】綾子にとって、今日の遠宮家へのお招きは今後を左右する一大事と踏んでいる。なので、気合いの入り方もハンパじゃない一方、不安も存外ハンパじゃなかった。
綾子:遠宮の家の人たちにしてみたら、【花凛様のお側つきになった】と言っても【新参者】も同然だし。ここはひとつ、【ロックオンされて排除されないよーに】フレンドリーにやらんと。
それに……まだ見ぬ【黒御門家一のメイド】の瑠依子や恵依の専属メイドの紗世の存在は、綾子にしてみたら【とてつもない脅威】だった。
綾子:瀬尾家の専属メイド相手にバトルするとか……それって【フツーに自殺行為に等しい】から。自分のポジションを確保するためにも、まずは花凛様のメイドに取り入らないと!
1‐174:
でも……瑠依子や紗世についての情報はとかく乏しい。特に瑠依子については【花凛と同様、瀬尾一族との交わりを絶ってた】から余計だ。唯一、市乃から仕入れた情報からは【マリア様と名乗る、ネット界のカリスマコスプレーヤー】ってことぐらいで……詳細なことについては分からないことだらけ。
でもでも、綾子には【秘策】があった。池田本家で人質となってる【お師匠さま】こと紗織から【直近の遠宮本家の事情】について聞き知り……そこから綾子は秘策のヒントを得ていた。
綾子:これなら大丈夫!専属メイドの瑠依子もきっとすぐに心を開いてくれるはず!
今日の市乃と南條についてのコスについては【花凛には事前に通達済み】で……それは当然、花凛の口から瑠依子にも知れてることだろう。そして、【黒御門家一のメイド】は【お側つきとなる池田本家の娘】について事前に下調べを済ませてるに違いない。綾子はそこまで計算した上で今回の秘策で勝算を得ることを確信していた。
綾子:悪いけど……あたしだって【ネット界じゃあ、そこそこ支持を得てる素人エロ小説家】だからな。【読心術】と【妄想力】は他人より長けて自信あるんだぜ。
そんな綾子の秘策は遠宮本家で予定通り炸裂するのだが……。それより前に綾子は【コスプレーヤーの意地とプライド】を存分に見せつけられる羽目に遭う。
自転車を押して歩いて、よーやく南條との待ち合わせのコンビニにたどり着いた二人だが……。
1‐175:
綾子:ーなっ……何だ、ありゃ!?ー
店の目の前までたどり着いた綾子と市乃がガラス越しに目にしたのは……コスプレ姿で堂々と立ち読みしてる南條だった。
市乃:『おおーっ!朋さん、約束どーり、【蒼星石コス】で来たんですねぇー!』
【蒼星石】とは多くを語るまでもなく……マンガ【ローゼンメイデン】に登場するドールの1体で【翠星石とは双子の姉妹】にあたる。蒼星石は茶髪ボブショートの頭にシルクハットをかぶり、袖口の長い白のブラウス、青いケープとニッカーボッカー風の半ズボンという……王子系というか貴公子系というか、そーゆー風な格好をしてる。市乃と南條は花凛と瑠依子にこのコスを見せたくて【わざわざそうした】のだ。
市乃は店前のゼブラゾーンに自転車を置いて、店の中にいる南條のもとに駆けていってしまった。
綾子:『お、おい、市乃……』
綾子は自分も市乃の後を追って店の中に入ろうか、正直、迷った。二人の格好が格好だけに……店員や店の中にいる他の客の視線を一身に集めることだろーし。そんな中を気にもせず平然と振る舞うのは勇気の要ることだった。
綾子:ーつか、あの格好でフツーに店の中に入っちゃうかよっ!?ー
でも……綾子はほんの僅かな時間で迷いを断ち切る。
綾子:ーつかつか……よーく考えたら、花凛様のお側つきになったら、あたしも【メイド服で】コンビニとかに買い物に来るかも知れないよな?後生のためにも今のうちにこーゆーのに慣れておこう!ー
1‐176:
そんなわけで綾子も市乃を追って店内へ駆けていった。
それにさっそく気づいた南條は、市乃の翠星石コス姿を愛でるより前に綾子に挨拶をする。もちろん、蒼星石コスなので……声色やトーン、口調はアニメ版の蒼星石に似せてる。
南條:『やあ!君が池田綾子さん?』
ここでも綾子は一瞬、躊躇った。南條の【人となり】については市乃からよく話を聞いてたし、校内で何度か目撃したこともあったから……それらを整合して【自分なりの南條朋像】を作り上げてたのだが。今、目の前にいる南條はそのイメージを払拭しなければならないほどの、フツーに可愛らしいコスプレ女子だった。
綾子:『あっ……ども、はじめまして』
綾子の脳内は大急ぎでイメージの訂正に取りかかる。
綾子:ー学校で見かけた時にはスカート丈もフツーに膝下で、黒縁メガネがハマってる、【文字通り】よく居そうな背のちっちゃい地味な感じの文科系女子って感じだったけど……。まさか、制服脱いでアニメコスしたら、こんなにも可愛い女子に変身しちゃうとか……。だもの、この娘は【花凛様の目に留まった】だけのことはあるよ。つかつか、この娘だって【一応、瀬尾一族の子女】だし……侮れるわけがないか……ー
綾子の脳内がそんな思考を巡らせてるのと同時に、南條もまた瞬時に【綾子の実物】を分析していた。
1‐177:
南條:ーこの娘が池田家の……なるほどな……。矩宗爺が言っちょったとーりかも知れぬ。『現御屋形様に限らず、池田家の子女たちは代々、十家の中でも1、2を争う【才色兼備の女傑】の血統なのじゃ』と。目の前の綾子嬢は15、6の娘でありながらも【艶っぽい肉付きをした肢体】……。中華街の豚まんを胸にくっつけたかのよーな【贅沢に膨らんだ柔らかそうな胸】、だらしなさそーだが妙に色気を感じさせる【腰付きと尻肉】、それに恥ずかしげもなく露にしてるムチムチながらもスケベ心をくすぐる太もも、存外顔は小さめで愛嬌のありそーな丸顔に割と長く見える脚……。あの遠宮をあっと言う間に口説き落として【お側つき】になったのじゃから……対人間用の洞察力や観察力も優れておるのじゃろう。見た目に惑わされてはならない曲者に相違ないー
初見の綾子に対して【そんな評価】を下した南條だったが……さっそく憂いることがあった。
南條:ー綾子嬢の目的は【幼なじみの相川家の子女】なのじゃろーが……。でも、【遠宮のお側つきとして】遠宮本家に入るとなると……些か拗れるやも知れぬな……。遠宮の【黒御門のメイド嬢】はこんな破廉恥な綾子嬢にどんな反応を示すじゃろーか?メイド嬢も相川家の子女も【どちらも質実剛健で色気の薄い女子】じゃからの……ー
1‐178:
でも……南條の憂いは徒労に終わってしまう。実は、南條は【花凛たちの遠宮本家での生態の一部分しか】知らなかったのだ。
花凛:『おおーっ!!』
予定の時間より30分以上遅れて遠宮本家に到着した綾子と南條、市乃は【真紅コス】を施した花凛に南の門前で出迎えられる。
つか、『おおーっ!!』と驚きの声を上げたいのは3人も同様だった。真っ赤なワンピースドレスにヘッドドレス、それに金髪のツインテールに蒼い瞳……。約定どーりとはいえ、あまりにもハマりの花凛のローゼンメイデンの真紅コス姿に3人は思わず見とれてしまう。
花凛:『つか、蒼星石コスやってるのって……もしかして南條かっ!?』
でも、花凛はそんな3人に猶予を与えない。学校では決して拝むことのないだろう【花凛のハイテンションぶり】にアッサリと主導権を握られてしまう。
南條:『そーだよ、僕だよ、花凛!』
花凛:『つか、めっちゃハマりだし可愛いじゃんか、南條!』
南條的には渾身の蒼星石モードだったにもかかわらず、花凛の【いつもの反応】にガッカリする。んで、花凛は南條に詰め寄ったかと思えば、アッサリと翠星石コスの市乃のもとに移ってた。
花凛:『市乃の翠星石コスがめっちゃ似合ってるじゃん!』
市乃:『ああ……花凛様ぁ……』
写真で見るよりも数段麗しい真紅コスの花凛に思わず感動して涙ぐんでしまう市乃。
1‐179:
花凛:『おいおい……。折角の翠星石コスが台無しになっちゃうぞ、市乃?』
市乃:『ううー……でもぉー……。あまりにも嬉しすぎちゃってぇ……』
詰め寄った花凛がさらに顔を近づけて、そんな市乃を優しくなだめるかのよーにニコリと微笑む。市乃は学校での【凛とした】花凛の姿しか知らないのに加えて、ほのかに香るローズ系のパフュームの匂いと花凛の優しさに余計にメロメロになっちゃう。
花凛:『それは……あたしもだよ、市乃……』
花凛は【手間のかかる】コスを朝からしてきてくれた市乃と南條を素直に労いたかった。でも……【今日までそーゆー経験のない】花凛は、こーゆー時、どーすればよいのか?正直、悩んだ。なぜなら、花凛は【今まで外の人間との交遊を避けてきた】からで……。まさか、瑠依子や恵依や紗世といった【同じ家の人間を労う】のと同等ってわけにもいかないとも思ったのである。
花凛:ーこーゆー時って……世の中のヤツって、どーしてるんだろ?ー
【やってもらうのが当たり前】の花凛は存外、お嬢様育ちだったりする。
花凛:ーつか、【ともだち】ってヤツにはやっぱり……素直に感情表現をしなくちゃいけないよな?ー
そんな時、花凛の頭に過ったのが……。
南條&綾子:『なっ……!!』
花凛は市乃をやんわりとハグする。
市乃:『あっ……』
1‐180:
まさか花凛がハグしてくるなんて……市乃はもとより南條も綾子もまったく想像に及ばなかった。【学校での花凛のキャラ】じゃ、そーゆーモーションが冗談でも出てきそーになかったから。市乃の脳内は【このイレギュラーすぎる事態】に瞬時にしてフリーズ寸前にまで陥ってしまった。
市乃:ー嗚呼……花凛様ぁ……ー
【この羨ましすぎる事態】 にもちろん、南條と綾子は妬ましく思うわけで……。
南條:ーおいおい、遠宮!ハグするのなら、市乃より前に儂の方じゃろーがっ!!ー
綾子:ー何と羨ましい!!花凛様の方からハグしてくれるだなんて……。つか、花凛様はもしかして……【家ではハグ好き甘ったれ女子】だったりするのか?もし、そーだとしたら……【お側つき】になるあたしにもそーゆーチャンスが巡ってくるかもっ!ー
でも、そんな幸運イベントを一瞬にして吹き飛ばしてしまう事態が発生する。
???:『お嬢様から話を伺ってはいたが……。まさか、ホントにローゼンメイデンのコスでやってくるとはな……』
市乃:『……えっ?』
市乃の視界には真紅コスをした花凛と一緒に入ってたはずなのだが……。目の前の花凛にばかりに気が向いていて【ついつい忘れてた】のである。市乃の鼓膜に不意打ちのよーにして届いた【はじめて聞く声】は明らかに女子のものなのだが……声のトーンを男子に近づけるかのよーにわざと低くし、ちょっと偉そーな感じの喋り口調だった。
1‐181:
そして……その声の主は静かに歩み寄ってくる。角飾りをつけた白のヘルメットをかぶり、目元を隠すマスクをつけ、金糸で装飾を施した真っ赤な軍服に黒いマントをつけ、腰元にイミテーションだと思われるレーザー長銃をつけ、手首上まで覆い隠す白い手袋、それに白のロングブーツと……その姿はまるで【機動戦士ガンダムに登場する、赤い彗星のシャア】のようだった。
市乃:『……あっ、ガンダムのシャアだ』
独り言のよーにポツリ呟いた市乃の声にハグしてる花凛がすぐさま反応した。
花凛:『……ん?』
花凛は市乃をハグしたまま首だけを後ろに回して、近寄ってくるその姿を確認する。
花凛:『市乃はシャアを知ってるのか?』
花凛の問いかけてくる声が明るく弾んでると市乃は感じた。
市乃:『はい。あまりガンダムは詳しくないのですが……メジャーなキャラは知ってますよぉー』
???:『シャア・アズナブルは【お嬢様の好みの男性】なのだよ。なので、あたしは【こーゆーコス】をしてるってわけさ』
すぐ目の前まで近寄ってきたシャアのコスをした女子は、シャアの声色と口調を真似てそう答え……白い手袋をした右手を市乃にスーッと差し出す。
瑠依子:『はじめまして、ミス長尾。あたしが黒御門瑠依子こと【マリア様】だ』
市乃:『えっ……!?』
SNSの写真でしか【その姿形を知らない】瑠依子がまさか今、自分の目の前にいてくれることが市乃にとってはとにかく感激だった。
1‐182:
花凛:『おい、瑠依子……ヘルメットとマスク、取ったらどーだ?』
そう促す花凛は市乃から身体を離し瑠依子に詰め寄る。外したヘルメットとマスクを受け取るためだ。
瑠依子:『そーですね、お嬢様。市乃様にちゃんと顔をお見せしないと、あたしがマリア様であることを証明できませんものね?』
瑠依子はまずヘルメットを取って花凛に手渡す。ヘルメットを取った瞬間にバサッと靡いたセミロングのストレートの金髪がシャアのコスを見事に着こなすスレンダーな身体とマッチングしていて……そのカッコよさに市乃は思わずキュンとなる。そして、マスクを外すと……花凛と同じ蒼い瞳をした瑠依子の端整な素顔が市乃の前に現れた。
市乃:『うわぁ……めっちゃ美人ですぅー』
花凛も端整な顔立ちをした美人ではあるが……瑠依子は同じ美人の花凛とはちょっと違っていた。クールで感情が表に出なそーな花凛と違い、瑠依子は【お茶目で人懐っこい】柔らかい感じが顔に出てる。
瑠依子:『恐縮至極でございます』
瑠依子は市乃に軽く頭を下げて礼をし、改めて握手を求めた。
市乃:『はじめましてマリア様、長尾市乃ですぅー!花凛様といい、マリア様といい、あたしのためにわざわざコスしていただいて……ホントにありがとうございますぅー!』
市乃は胸いっぱいにあふれる嬉しさと感激を盛って、差し出された瑠依子の右手に両手で握手した。
1‐183:
そーして市乃との挨拶を終えた瑠依子は、ちょっと後ろに控えてる感じになっちゃってる南條と綾子のもとに歩み寄る。
瑠依子:『朋さん、お久しぶりです。つか、その蒼星石コス姿……あまりの可愛さにビックリしましたよ』
南條:『こちらこそじゃ、瑠依子さん。まさか瑠依子さんがシャアのコスで現れるとは想像せなんだよ。そこいらの男子顔負けのイケメンじゃ』
瑠依子はまずは南條と挨拶を交わし、次に綾子に挨拶をする。
瑠依子:『はじめまして……になりますね、綾子様。ウチのお風呂の件に限らず何かと【池田の御屋形様】には大変お世話になってます』
市乃や南條の時とは違い、【花凛の専属メイドらしく】丁寧に深々と頭を下げて挨拶をしてくる瑠依子に綾子は戸惑った。
綾子:『いやぁー……あたしは【婆ちゃんの孫】ってだけだし……。それに……【これからお世話になる】のはあたしの方だし……』
そして綾子は瑠依子を目の前にして緊張する。瑠依子の【美人レベルの高さ】はもちろんだが……ガチで男装コスプレして初見の人間の前に平然と現れちゃうキャラの前にどう対処すべきなのか、改めて慎重に観察する必要があると判断したのである。
綾子:『あ、……あらためまして、池田綾子です!この度、【花凛様のお側つき】になりました!まだまだ半人前ですが……瑠依子様には何とぞ御指導、御鞭撻のほど、宜しくお願いしますっ!』
1‐184:
瑠依子に【呑まれ気味の】綾子はカチコチなモーションで頭を下げる。そんな綾子に瑠依子は慌てて制止させる。
瑠依子:『綾子様、止してください!【瀬尾十家の娘】がメイドごときのあたしに頭を下げるなどと……』
綾子:『いやいや。十家の娘だろーと、これからお世話になるのには変わりないし……』
そう言う綾子の頭を瑠依子は無理やり上げさせた。
瑠依子:『確かにそーかも知れませんが……でも』
綾子的には【ここで瑠依子の好印象を獲得する】作戦だったのだが……。
花凛:『別にいいじゃないか、瑠依子。綾子は【この家の影の主】にまずは挨拶して好印象を得ておこうって肚なんだからさ』
瑠依子:『誰が【この家の影の主】なんですかっ!?この遠宮の家の主は影だろーと光だろーと奥様とお嬢様(花凛)以外には存在しませんよっ!』
花凛:『そーじゃないって。アイツ(花京)と花静がいない時に【この家のことを切り盛りしてる】のは瑠依子だろ?あたしだって【頼りにしてる】瑠依子にまずは挨拶しとこうなんてさ、綾子はなかなかの慧眼の持ち主だとは思わないか?』
瑠依子:『まあ、確かに、そーかも知れませんけど……。お嬢様が専属メイドのあたしに【全幅の信頼を置かれてる】ことは重々承知してますけど……』
花凛:『まあ、お前には【そーゆーオーラが漂ってる】ってことだよ。十家の娘だろーとお前に対して礼を取るんなら、素直に受け取っておけばいいんだよ』
1‐185:
瑠依子は花凛とのやりとりを見ても分かるよーに【自分の立場をちゃんとわきまえてる】メイドだった。花凛の言葉こそ悪いものの、もし【フォロー】してくれなかったら綾子の作戦は失敗に終わってたことだろう。
綾子:『そーですよっ!【花凛様のお側に仕える者として】メイドだの十家の娘だのは一切関係ないですよっ!【新参者】のあたしが瑠依子さんを【我が師】と仰ぎ、尊敬の念をもって礼をするのは至極当然のことです!』
ここで綾子はそう言って【もうひと押し】するつもりで瑠依子にもう一度、深々と頭を下げる。
瑠依子:『うーん……』
そんな綾子に瑠依子は対処に困った。瑠依子の中の【十家の娘のイメージの土台】が遠宮家に来たばかりの恵依だったからだ。
瑠依子:ーウチのお嬢様(花凛)と瑠華様は【例外】だとしても……【世間知らずの威張りん坊の】十家のお嬢様にこーも下手に出られちゃうと調子が狂っちゃいますね……ー
あからさまに胡散臭い言葉の数々ではあっても綾子の方から自分に礼を取ったのには変わりない。
瑠依子:ーさすがは【池田のお屋形様】の孫娘といったところでしょーか?綾子様がTPOをわきまえるというのであれば……ここはお嬢様の手前、【とりあえず穏便に】済ませましょーか……ー
瑠依子は頭の中に平静を取り戻し、表情には笑みを浮かべて綾子に握手を求める。
瑠依子:『綾子様が1日も早く【一人前のお嬢様のお側つき】になれますよう、あたしも助力しますが……少々、厳しいかもしれませんよ。大丈夫ですか?』
1‐186:
もちろん綾子は瑠依子の握手に応じる。
綾子:『はい、もちろんです!ビシビシ鍛えちゃってください!』
二人が握手を交わし少し和んだところで【キリがいい】と判断した花凛は本館へと足を進めることにした。
道中、花凛と南條、市乃はコスプレの話で盛り上がってる一方……【コスプレーヤーでない】綾子はどーゆーわけだか自分の隣にピタリ並んで歩く瑠依子の胸中が気になって仕方なかった。
瑠依子:『ところで綾子様』
その最中、瑠依子の方から綾子に言葉をかけてきた。もちろん、綾子はレスポンスよく、でもピリピリした緊張感いっぱいで、『はい』と瑠依子の方に顔を向けて返事をしてみる。
瑠依子:『今日の綾子様はデニムのホットパンツですが……【太ももを見せる】ことに抵抗とかってないのですか?』
綾子的には瑠依子の着眼点が鋭くてドキリとした。自分の今日のコーデから【切り札にしてる】セクシーメイド服への変身の展開を見透かされてしまったと思ったからだ。
綾子:『い、いやぁ……そ、それはもちろん……【相当の勇気が要る】んですけどぉ……』
綾子が無意識に顔を俯けた先が自身の太ももであることを瑠依子は見逃さなかった。そして、綾子の次の言葉をゆっくり待つ。
綾子:『でも……頑張らないと!』
そーして出てきた綾子の言葉……瑠依子には多くを説明せずとも何となく察しがついた。
1‐187:
瑠依子:ーまあ、ウチのお嬢様が【筋肉質のスレンダー体形】だったりしますからね……。それと思わず比べちゃう気持ちも分からなくもないですが……ー
つか、花凛以上に恵依の方が身長もあるし細身だったりする。瑠依子は綾子が学校でそんな二人の制服姿を少なからず目撃してるだろうことを前提に言葉を進める。
瑠依子:『今年、ウチに支給されるメイド服だけ【ちょっと特別仕様】になってまして……。黒御門のメイドとして、それに【オバサン】なあたしは今までどーりのものを支給してもらったのですけど……。幸い、綾子様が【勇気のある御方】で助かりました』
綾子:『……ん?』
瑠依子はいったい何のことを言ってるのかと綾子は思った。でも、その言葉の意味がクラシカルな洋館を模した遠宮本家の本館の前までたどり着いた時に呑み込めたのだ。
綾子:『……なっ!?』
本館の大きな観音扉の玄関の前、黒地に白レースをあしらったメイド服を着た女子が二人、畏まって起立して待ってる。でも、そのメイド服……『超ミニじゃない?』と言わんばかりのスカート丈の短さに思わず絶句してしまう。
綾子:ーお、おい……マジかよっ!?遠宮家のメイドって【普段からセクシーメイド服】なんかよっ!?ー
市乃&南條:『おおーーーっ!!』
でも、市乃と南條にいたっては目をキラキラ輝かせながら食いつく始末。それもそのはず……超ミニのメイド服を着て待ってたのは恵依と紗世だったのだ。
1‐188:
花凛たちが来るのを今か今かと待ちわびていた、超ミニスカのメイド服姿の恵依と紗世。
恵依:『瑠依子のヤツ……やっと来たか……』
新しく支給されたメイド服を今朝、袖を通してみたら【こんな有り様】だったことに怒り心頭の恵依は、肩を怒らせてプンプンしながら花凛たちの前までやって来た。
花凛:『おおー!思いの外、【ハマり】じゃないか、恵依?』
恵依は花凛の後ろから歩いてきた瑠依子と綾子に気づき、さらに怒りのボルテージが上がってくが……。
恵依:『【ハマり】って……。花凛たん、これじゃあ【メイドじゃなくてコスプレキャバ嬢】だよ』
花凛:『それだって別にいいんじゃないのか?【あたしがそれでよい】って言うんだからさ』
恵依:『うーん……』
恵依は瑠依子が新しい春夏用のメイド服を新調する際、『膝上すぐのスカート丈をもうちょっと短くしてくれないか?』と要望したのは紛れもない事実だが……。まさか、しゃがめばパンツが丸見えになっちゃうほどの超ミニのスカート丈になってくるとは思いもよらず……。これは明らかに瑠依子の【自分のデザインしたメイド服にケチをつけてきた報復】に違いないと、それについて思いっきり抗議してやろーと思ってたのだ。
花凛:『つか、スカートの裾の白レースの下から【チョコっと覗かせてる】ペティコート、超可愛いじゃん!恵依も紗世も想像してた以上に似合ってるし……その新しい春夏のメイド服、個人的に好きだぞ』
恵依:『ううーん……』
1‐189:
つか、瑠依子がデザインした超ミニ丈のメイド服には【ペティコート】はオーダーされてなかった。瑠依子からデザインをもらった黒御門本家が【気を利かせて】スカートの裾から少し覗かせる丈の白のペティコートをわざわざつけてくれたのだ。
恵依が花凛に歩み寄ってきた際、自分が送ったデザインと異なる部分にさっそく気がついた瑠依子。胸の内ではペティコートのせいで超ミニ丈のパンチラ力が薄れてしまったことに露骨に舌打ちしたい気分だったが……それを表情にはこれっぽっちも出さず、にこやかな顔をして恵依のすぐ隣にまで詰め寄ってきた。
瑠依子:『あんたがスカート丈を短くしてくれって言うものだから……あたしもずいぶんと腐心したんですよ。あんたのリクエストに応えつつ、かつ、お嬢様の【お側つき】として下品に破廉恥にならないよう……』
花凛が自分のデザインにはなかった【+(プラス)ペティコート】を思いのほか気に入ってると判断した瑠依子は今の胸の内を抑えつつ、でも、花凛に乗っかって【恩着せがましい】一言を恵依にかましてやる。
恵依:『嘘を言うな、瑠依子!こんな超ミニ丈のスカートをデザインしたお前が【ペティコートを履いてパンチラを防ごう】なんて優しい心配りをするわけないだろーが!どーせ、【ケチをつけた】あたしにひと夏、しゃがめばパンツ丸見えになっちゃう超ミニのスカート姿で買い物とか行かせて【恥をかかせよーと】したんだろ?』
1‐190:
瑠依子と恵依は昔からちょいちょいケンカしてるが……そんな二人を長らく見てる花凛は【ケンカするほど仲がいい】って感じで気にも留めない。でも……そんな光景を初めて目にする綾子はハラハラ&ドキドキしながらも黙って様子を見守ることに。
瑠依子:『あたしはそんなに【性悪女】か、恵依?』
シャアコスしてる瑠依子は噛みついてきた恵依にやり返すべく【敢えてシャアの声色と口調で】言い返す。
恵依:『いちいちシャアの口調で言い返すな。マジ、ウザいんだけど!』
瑠依子:『フッ……そんな程度で頭に血が上ってしまうとはな。それでは日頃、外で【猫をかぶって過ごしてる】努力が台無しだぞ?』
恵依:『うるさい!つか、お前が注文した時にペティコートはつけてなかったんだろっ!?花凛たんが食いついたからって……自分の手柄みたくアピールするな!どーせ、お前の母様が配慮してつけてくれたんだろーが!』
恵依の言うことは百発百中で的を得てた。でも、瑠依子はそれを認めず【しらばっくれて】る。
瑠依子:『あたしの母は黒御門の当主だ。メイド服のデザインなどに構ってられるほど暇人ではないよ』
恵依:『そりゃ、そーだろ。お前みたいな【いつまで経っても半人前な専属メイドの娘】を持ってしまったから、黒御門の母様を苦労してるんだっつーの!』
瑠依子:『お嬢様の【お側つき】として【いつまで経っても半人前以下】のお前に言われたくないな』
★1‐191:
まあ、この調子だと……いつもどーり、二人してヒートアップの頂点にまで達して、そこから徐々に熱が冷めて収束に向かってくってパターンだろう。あたしや紗世にしてみたら【よくよく見慣れた光景】だから『気の済むまで勝手にやらせておけばいいや』って感じだったりもするけど……。でも、これを初めて目の当たりにした綾子にしてみたら、いい加減、いても経ってもいられなくなったんだろう。言い合いを止めさせたくて【こんな時の二人】の間に果敢に割り込んでいった。もしかしたら、綾子的には【見知ってる顔が口論してるのをスルーできない性分】なのかも知れないし……或いは【こーゆー二人の
姿は市乃や南條の心証が悪くなるから止めさせたい】って思ったのかも知れない。でも、どちらの理由にせよ、ここで恵依を止めるのはタイミング的にまずかった。
綾子:『おい、恵依!ケンカは止しなって!』
恵依にしてみたら、このタイミングでの綾子の言動は【幼なじみの自分じゃなくて初見の瑠依子の味方をした】ように映ったに違いない。
恵依:『はあーーっ!?』
だもの、恵依も余計に苛立つ。ただでさえ恵依は【フッと現れた綾子をあたしがいきなりお側つきにした】ことに不満なのだから。
恵依:『おい、綾子!お前さぁ、ただでさえ【あたしの許可なく勝手に花凛たんのお側つきになった】うえに……その次は【あたしじゃなくてコイツ(瑠依子)の肩を持つ】んか?』
★1‐192:
恵依の【怒りレベルが尋常じゃない】ことぐらいは、綾子をすんごい形相で睨みつけてる様を見れば一目瞭然だ。オマケに久方ぶりの再会なのに【そーゆーモノの言われ方】をされちゃったら……そりゃあ、綾子だってフツーに焦る。
綾子:『……ち、違うって!あたしはただ……ケンカはよくないって言ってるだけだよ』
恵依:『コッチの事情も分からないくせに……いちいち口を挟むんじゃねーよっ!!関係のないお前は引っ込んでろっ!!』
だいたい、恵依のヤツはスイッチが入っちゃうとホントに豪気だったりする。オマケに何を言っても聞かない。
綾子:『確かに……あたしは関係ないかも知れないけどさ……。でも、こんな時ぐらい、ケンカは止めろって』
でも、そんな恵依を前にしても退かない綾子。つか綾子は、そんな恵依だって分かってるから食らいつけるんだろーな……。ある意味、恵依にしてみたら【ホントにいい幼なじみ】なんだと思う。
恵依:『あたしがケンカしたくてケンカしてるんじゃない!コイツ(瑠依子)の方からケンカ売ってきたから買ってるだけだろーがっ!!』
綾子:『そーかも知れないけど……。でも、それ、何気に似合ってるし可愛いから……そんなにカリカリしなくていいじゃんかよっ?』
恵依:『お前なぁ……。あたしにパンツ丸見えのメイド服で外を彷徨けって言ってんのかっ!?』
綾子:『そーじゃないけど……。でも、恵依は脚、細いんだからいいじゃんかよっ?それに、パンツなんか【見せパン】履けば問題ないだろーに』
★1‐193:
花凛:ーなるほど……【見せパン】を履くって手も有りか……ー
これは誰が見たってフツーにセクシーメイド服。だったら、見せブラに見せパンは常道だろう。
花凛:ー【見せパン】か……ー
こんなところであたしの脳内は恵依の【見せパン】姿を咄嗟に想像してた。ほぼ毎日、恵依と一緒に風呂に入ってるから、それを想像するのは容易い。
花凛:ーうん、良いんじゃないか、恵依の【見せパン】セクシーメイド姿!ー
これはあたしの正直なところの感想。いつもの綿パンじゃなくて、セクシーメイド服の時だけは【ちょっとお姉さんな】黒レースのパンツとか履いちゃったりして、【いつもとは違う】大人っぽい恵依を演出してくれれば……あたしのテンションもグンと上がる。
ちなみに、あたしも普段履きは【綿パン】だったりするけども……【綿パン】の意味が違ってる。ブラは【スポーツブラ】だし、綿パンは【ボクサーパンツ】だし。フェミニンさとか、女子の可愛らしさとか、パンチラに偶然、遭遇してしまった時の男子の歓びとか興奮にまったく皆無な仕様だ。
まあ、あたしの場合、日々、トレーニングをしてる都合上、『これが具合がいい』って理由でチョイスしてる部分は大だが……『これ
が存外楽でいい』って理由もあったりする。つか、この【楽さ】を捨ててインナーを追求する気にはなれず……意外と【面倒くさがり屋】だったりする。
★1‐194:
つかつか、あたしの家では『こんなあたしに右に倣え』で【みんながあたしと同じ仕様】だった。トレーニングに一緒に付き合う瑠依子はまだ分かるけども……『どーして恵依や紗世までがスポーツブラにボクサーパンツなんだよ?』って、あたしはずっと不満だった。『もうJKな年ごろなんだし、少しはインナーとかも気にしよーぜ?』って意見したくて仕方なかった。
市乃:『このメイド服に【見せパン】ですかぁ……とってもいいじゃないですかぁー?』
この連中の中じゃあ、いちばんのオシャレ番長に違いないだろう市乃が恵依の目の前にまで歩み寄ってしゃがみ込む。
市乃:『でぇー……今日は、この超ミニスカにどーゆーパンツ、合わせてるんですかぁー?』
市乃は恵依にそう訊く。つか、恵依にそう訊くならば、恵依からの答えを待つのが然りなのがセオリーなんだとは思うが……。
ガバッ!!
恵依:『…………っ!!?』
さすがは市乃。コイツの予測不能なキャラは見事に【やらかして】くれた。間髪入れず、恵依のスカートをペティコートごと思いっきり捲りあげたのだ。
つか、市乃のアクションを想定できてなかった恵依は次のモーションに取りかかるまでタイムラグが発生した。そりゃ、そーだろ。誰もがみんなの前で恵依のスカートを捲りあげようなんて想像しないもの。
花凛:『おおー!!』
あたしの視界に【放送事故的に】映り込んできた恵依の肢体。細身ながらも腰回りが大きめな恵依の肢体と見事なまでにマッチングした【ちょっとお姉さんな】黒レースのパンツの存在。
★1‐195:
つか、今の恵依の肢体は【ちょっとお姉さん】どころじゃなく【フツーにお姉さん】だった。何ていう大人っぽさ、オマケにちょっと色っぽく……。パンツ1枚でこーまで女の肢体の印象が変わることに、あたしは思わず声をあげて興奮してしまった。
市乃:『恵依様、ズルいですよぉー!!ちょっとヤラシイ黒レースのパンツとかチラ見せして【花凛様を誘惑しよー】とか考えてるんじゃないんですかぁー?』
恵依:『……えっ!?……えっ!?』
市乃:『恵依様は【ただでさえ美人】なのに……。あたしなんて……努力したって【こんなん】なのに……』
誰もがこんな展開を予想できなかった。つか、こーゆー展開になること自体、予測もできなかった。市乃はこんな言葉を吐いたあとスッと立ち上がって、恵依の前で翠星石コスの重そうなロングスカートを思いっきり捲りあげた。
恵依:『なっ……』
目の前で市乃の肢体を目にした恵依が絶句したのも無理はない。市乃が履いていたのは【黒レースの透けパン】だったのだ。
市乃:『制服着てる時も黒レースのパンツとか紐パンとかTバックとか履いてるのに……誰も階段下からスカートの中を覗き見てくれよーとか盗撮しよーとかしてくれないし……』
恵依:『はあ……』
存外、【美少女】市乃は【見てほしがりキャラ】だったり。そんな市乃の小さい細身にセクシーランジェリーとか……ある意味、これは犯罪級の【ロリ萌え】だ。でも、これはこれで有りだとあたしは思う。
★1‐196
つか、フツーにいるんじゃないかな?【セクシーランジェリー】市乃を密
かに覗き見てる男が。まあ、仮にいたとしても、それを市乃に知れるよーに堂々とやるとは思えないけど……。もし、あたしがロリ萌え市乃ファンの男だったなら、パンチラポイントを入念にチェックしといて【自分だけの密やかな楽しみ】にすると思う。
花凛:『なあ、市乃。もし、お前のパンチラに食いつく男が誰ひとりいなかったら、あたしが覗き見てやるよ』
この時の発言は【見て欲しがりな】市乃をフォローするつもりで言ったつもりだったのだけど……。市乃のヤツは何を勘違いしたんだか?やけに嬉しそーなノリでガッツリ食いついてきた。
市乃:『ええーっ、マジですかぁー!?花凛様が【見られる】んだったら、あたし、もっと頑張らなくちゃですよねー?【美人の】恵依様や瑠依子さんを【侍らせてる】花凛様は、どんなパンツがお好みなんですかぁー?もしかして……股布が開いてて【恥ずかしいところが見えちゃう】エロいヤツですかぁー?』
おいおい、ちょっと待て!市乃の【あたしの印象】って、そーゆーなんか?でも……あたしがそーゆーのに興味がまったくないっていったら嘘にはなるけど……。
★1‐197:
花凛:『仮にもし、あたしが【そーゆー趣味の持ち主】だとしても、人前でそれを履けとは言わんよ。【羞恥プレイ】が趣味ってわけじゃないしな。それに……そんなパンツを履かせて(は)恥じらう恵依や瑠依子の姿を、どーして他の男にまで拝ませてやらなきゃならないんだ?そーゆーのは【あたしだけが独占して悦に浸る】んに決まってんだろ?』
まあ、これはあたしの少なからずの本音には違いない。もし、逆に恵依があたしにそーゆーパンツを履いてくれと頼むのなら、屋敷の中でならそれを叶えてやってもいいと思ってる。
市乃:『おおーっ、さすがは花凛様ぁー!!そんな風に恵依様や瑠依子さんを独占してるんですねぇー!羨ましいですぅーーっ!!』
この時の市乃のテンションの上がりようといい、歓喜の仕様といい、尋常じゃなかった。
市乃:『じゃあ、あたしも【花凛様にそんな風にしてもらえるよう】頑張りますぅーーっ!!』
あたしは会話の流れから市乃が冗談半分で悪ノリでそう言ってるのかと思ったが……。
瑠依子:『ウチのお嬢様は【そんな破廉恥な】娘ではありませんよ。勝手に解釈されて、勝手なことをなされては困ります!』
瑠依子のヤツは市乃がガチだと判断したらしい。瑠依子初心者には手厳しい圧と凄みで牽制しにかかる。
★1‐198
そんな瑠依子に市乃はビビって小さくなっちゃう。
恵依:『おいおい、ちょっと待て!あたしらに【破廉恥な】メイド服、着させておいて……よく、そんなこと言えるな?つか、【こーゆー展開】になった元凶を作ったの、お前だろーに!?』
まだまだ恵依と瑠依子のバトルは終わってない。市乃を不憫に思った恵依が瑠依子に食ってかかる。
瑠依子:『市乃様は【部外者】です。遠宮の屋敷の人間ではありませんよ?』
恵依:『遠宮の屋敷の人間じゃなくても【花凛たんの友だち】だぞ?そーゆー言い方は失礼だろ?』
ここは恵依の言うとーりだ。瑠依子のヤツにしては珍しく墓穴を掘ったな。
花凛:『止めろ、瑠依子。恵依の言うとーりだぞ』
ここはあたしが出て収拾をつける必要があると思った。
花凛:『つか、あたしが破廉恥だろーが何だろーが【遠宮花凛はお前のよく知る遠宮花凛のまんま】じゃないのか?つか、あたしが【こーゆーあたし】であること、今に知ったわけじゃないだろーに?』
瑠依子:『そ、それは……そーですが……』
花凛:『それに市乃は【あたしの友だち】であると同時に【瀬尾十家の跡取り娘】でもあるし。そんな市乃が【変な性癖の持ち主】だと知ってしまった以上、【友だちとして、同じ瀬尾の血をひく女として】それを見て見ぬフリをして放置しとくわけにもいかないだろ?』
瑠依子:『まあ、確かに……。それが【瀬尾本家の第二継承権を持つ】お嬢様の判断だと言うのであれば……メイドのあたしは付き従わざるを得ませんが……』
★1‐199
花凛:『恵依に始まり紗世に綾子……そこに市乃が加わったところで【あたしとお前の間は今更、何が変わるわけでもない】だろ?』
瑠依子:『そんなのは当たり前です!! あたしはあの日から終生、お嬢様にお仕えし【何があってもお側から離れない】と決めました!!こんな些細なことでブレるあたしではありません!!』
花凛:『なら、市乃のことも受け入れてやってくれないか?そーしてもらえると、あたしとしても助かる』
瑠依子:『仕方ありませんね……他でもない【あたしのお嬢様】のお願いですから……』
恵依と瑠依子、どちらか一方だけのご機嫌ばかりを取ってるわけにもいかないのが現状。つか、この2人からしてみたら、あたしのご機嫌取り的な態度と【どっちとも決めかねる曖昧な感じ】が気に入らないのだとは思うんだけど……。でも、【どっちの方がいちばんのお気に入りか?】とか、前は考えたこともあったけど……。
花凛:ーどっちも失うのは嫌だから、そーゆーの考えるの、もう止めておこうー
そんな考えに至ってからは【なるべく格付けしない】よーにはしてる。瑠依子は専属メイド、恵依はお側つき……格段の理由でもない限りは【2人はあたしの傍にいる】のだから、あたしが終生変わらず愛でてあげればいいと思ってる。
花凛:ーこれから先、この2人に【好きな男】でも出来て、あたしよりも【そっちの方が優先になる】時が来たとしても……ー
★1‐200:
とりあえず……市乃を巻き込んでの瑠依子と恵依のミニスカメイド服騒動は収束を迎えた。
綾子:ーしまったぁー!!あたしとしたことが……。2人の凄さに圧倒されちゃって【大した見せ場】も作れなかったぁー!!ー
妙案だと思って放り込んだ
【見せパン案】が市乃の介入を招いてしまい、その結果、事態をカオス化させてしまった綾子は自身の活躍不足を胸の中で悔いていた。
綾子:ーそれよりも……花凛様を含めこの屋敷の女子たちのスペックは、あたしが想像してた以上にヤバイな。こりゃあ、もしかしたら、昔、よく聞かされてた【お師匠の青春時代】に似た事態に遭遇できるかも知れないな……ー
と同時に、花凛たちとの共同生活のこれからに【変な期待】を抱いてワクワクもしてた。
綾子:ーつか、花凛様といい、恵依や瑠依子様、恵依のメイドの紗世、それに市乃と南條さん……この個性の強い面々のぶつかり合いとか絡み合いだとか……想像しただけでも脳内が活性しまくっちゃうな。つかつか、それに加えて【お色気ネタ】もあったりした日にゃあ……こりゃあ、マジ堪らんわっ!!ー
ただ……今日の綾子の対応は【些か瑠依子寄りであった】ことに若干の懸念が残った。
綾子:ーつか……今日の件といい、お側つきの件といい、恵依は嫌な顔をしてたんだろーな……。一刻も早く仲直りしなくちゃな……ー
何だかんだ言っても【恵依が中心にある】綾子にとって、それが真っ先に解消しなけらばならない急務となった。
★1‐201
もう一方、まったくの【蚊帳の外】状態だった南條は、花凛たちの日頃の生態に【初めて触れた】かたちで……正直、頭がついていってない状態だった。
南條:ー遠宮たちとは【プライベートではほとんど接点を持たなかった】からの……。まさか、こんな【ブッ飛んだ】思考回路で日常生活を楽しく送っちょったとは思いも寄らなんだな……ー
南條の中の花凛のイメージは【ミステリアスかつ繊細な少女】って感じだっただけに……【色んな意味で垢抜けてる】花凛や瑠依子、恵依たちを想像することがかなわなかった。
南條:ーじゃが……今の遠宮を見て、儂の憂いはちと晴れたわい。存外、逞しいヤツで安心したわー
市乃と同様、ここの空気を堪能してる南條だったが……その頭の中では【ちと違うこと】を考えてたらしい。それはきっと【瀬尾一族の記録係の家】に生まれてきた性かもしれない。
南條:ーさて……この屋敷には第二継承権を持つ遠宮をはじめ、黒御門本家の息女、十家二番手の相川家の息女、それに加えて十家三番手の池田家の息女が揃うことになる。そこに今度、もし遠宮の幼なじみの本家の瑠華嬢が加わることにでもなった日には……瀬尾の大人たちは一体、どーゆー顔をするじゃろーか?ー
南條はいつしか【花凛が幸せに生きれる】ことを切に願ってた。それは【花凛の出生の秘密】に触れたことに端を発したことではあるが……でも今は【花凛の人となりに惹かれて】のことだった。