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花凛:  作者: ぽん太郎
1:
5/12

花凛1‐5:

1‐133:



こーして遠宮本家に戻ってきた花京だった。花京は【いつものよーに】娘の花凛と一緒の風呂に入ったり、一緒に住む瑠依子たちとたわむれたりと、特段の変化も見せたりはしなかったのだが……。



花京:『これは……参ったのであります』



清衛門の執務室の地下にある【防衛システム管制室】に風呂上がりの姿のままやってきた花京は、目の前のモニターと認証システムと【にらめっこ】したまま苦い顔をしていた。どーやら……花京の指紋と網膜もうまくではシステムが認証せず起動してくれないのだった。



花京:『花静、瑠依子ちゃんをココに呼んできてほしいのであります』



花静:『それが懸命けんめいってもんだろー。いくら【遠宮本家の嫁】だって言ったって、あんたみたいな【鉄砲玉娘】に清衛門爺ジイがこの屋敷を任せるわけがないもんなー』



花静は【確かに黒御門本家の娘で花京のメイド】ではあるが……同時に【花京とは血の近しき存在】でもあった。花静の母は黒御門本家の後妻ごさいとして入った【花英の姉の花桜かおう】で……【花京や花桂とは従姉妹関係】にあたる。



花京:『【鉄砲玉娘】はあたしだけではないのでありますよ?』



花静は花京と二人きりの時は【メイドのお面】をつけず、思いっきり【ガラの悪い不良娘みたいな】で接してくる。つか、それが【花静が花京と主従メイド契約を交わす際の約束事のひとつ】なのだ。



1‐134:



花静:『ああー……それって、ここの娘の【紗織さおり】のことだろ?あれは【鉄砲玉娘】じゃなくって【放蕩ほうとう娘】だから!』



花静の言ってる紗織もまた【花京とは血の近しき存在】である。紗織の母もまた清衛門の後妻ごさいとしてとついだ【花英の上の姉の花秀かしゅう】である。【そんな血の濃さ】もあるかも知れないが、花京、花静、紗織、花桂、そして花京の妹で行方不明の花成は【みな、顔がよく似てて】……特に花京と花静は【元々から瓜二うりふたつに近い】顔を花静が整形して【双子も同然の瓜二うりふたつの顔にした】のだった。



花京:『【放蕩ほうとう娘】は言い過ぎなのでありますよ?【ただの温泉好きのブラコン妹】なのであります』



花静:『アハハハハハ!そこに【ドスケベ】も付け加えてやんないと!【人質騙かたって】好物の温泉場に引きこもって【今や売れっ子官能小説家】なんて周りの遠宮のヤツらに知れたらさ……アイツ、間違いなく串刺しの刑確定だぜ?』



花京:『あたしも似たようなものであります。紗織ちゃんと同じく【娘に串刺しの刑にされる母親】なのであります』



花静:『そりゃ、ちと違うな?花京を串刺しの刑にするんは娘の花凛じゃなくて【あんたの鬼姉ちゃん(花桂)】だから!』



花京:『いいや、花桂姉様も【嘘つき仮面】でありますから』



花静:『んじゃ、あたしらそろって【瀬尾の問題娘】ってことで串刺しの刑だな?』



花京:『ええ。そーなったら後事こうじは優秀な花盛様に任せるのであります』



1‐135:



花京や花静、それに遠宮本家の紗織は第2瀬尾家の息女‐花盛には昔っから一目いちもく置いていた。【最強の隠密おんみつ】としてのスペックももちろんだが……とにもかくにもマジメで【花京が唯一、口説き落とせなかったうるわしの鉄壁女子】だったからである。



花静:『つか、あの人(花盛)はあたしらが串刺しにされる前に助けてくれると思うぜ?だって……あたしらが【この世からいなくなっちゃったら】退屈すぎて死んじゃうと思うもん!』



花京:『今の花盛様には花恵ちゃんがいるのであります。決して死んだりはしないのであります』



花静:『そりゃあ、【母親としての話】だろ?あの人(花盛)個人は昔のまんまだと思うけどな?』



花京:『まあ、確かにそーかもしれないのでありますが……』



花静:『好敵手ライバルがいなくなっちゃったらツマランでしょーが?』



花京:『ああ、車の話でありますか?』



花静:『車もそーだけど……色んな意味でさ』



車と言えば、瀬尾本家では【本家に通用するための車両をシステムに登録して専用のGPSを搭載とうさいすることを義務づけてる】が……花京をはじめ【この世代の娘たち】は皆、スポーツカーを好んで使ってる。花京はアストンマーチンDB、姉の花桂はスカイラインGT‐R、花静はホンダNSX、紗織はスバル・インプレッサWRX‐STi、花盛は三菱ランサーエボリューションって具合に。



1‐136:



ちなみに……恵依の母の亜依はポルシェ911、綾子の母の【不二子ふじこ】は日産・シルビア、市乃の母の【朱鷺乃ときの】はトヨタ・AE86トレノを愛用してる。



さて、【大人になりきれない娘たち】はどーでもいい雑談を切り上げて。花静に呼ばれて地下のシステム管制室にやってきた瑠依子は花京から事情を聞き、システムにログインする。



瑠依子:『すいません、奥様。清衛門様が【お嬢様が火急の事態に遭遇そうぐうした際に家に滅多にいない奥様と温泉場で人質やってるウチの娘(紗織)では当てにならん】と仰有おっしゃって……。それであたしが清右衛門様から後事こうじを……』



花京:『気にしないでよいのであります。お義父様の言ってることは決して間違いではないので』



瑠依子は花京の言う【6番ゲート】を遠宮本家の敷地周辺までを写す衛星写真をスクリーンに出して説明する。



瑠依子:『奥様の言ってる6番は敷地の北側にある【緊急時用ゲート】で……。パッと見た感じは普通の民家にしてありますが……乗用車ごと降ろせる貨物エレベーターがそなわってます。ですから、このゲートなら車ごと地下通路に降ろせますので、本家の追手おってに後ろを付けられなければ【難なく】瑠華様たちをお屋敷の真下まで来てもらうことが可能です』



次に瑠依子は地下通路全体をスクリーンに映し出した。それがめぐらされてる広さは敷地の外にまで及び……それを見た花静は思わず驚いて口笛を鳴らしてた。



1‐137:



花静:『こりゃあ……カラクリ忍者屋敷ってより【軍事施設】だな』



普段、【メイドのお面】をかぶってる花静は油断してを出してしまった。瑠依子は【の花静】を知らないから……その口の悪さに思わずムッとした顔をする。



瑠依子:『花静【姉様】、ちょっと口が悪いですよ?姉様は【あたしたち妹の手本となるべき存在】なのですから……注意してください!』



花静:『お前はホント【出来のいい妹】だよ!さすがは【花乃姉さんの娘】だわ!』



花静はマジメにメイドやってる【妹分の瑠依子】がとにかく可愛かわいくて……ムッとしてよーともお構いなしに後ろから抱きついて頬擦ほおずりしはじめる。



瑠依子:『わわわわわ……。ちょ、ちょっと……姉様ったら!』



瑠依子は困った顔をしながらも、内心ではうれしいやらずかしいやらでほおを真っ赤にする。



花静:『あたしら【姉妹きょうだい同士】じゃん?頬擦ほおずりぐらいで、そんなに照れるなよ?』



瑠依子:『うーん……もうっ!姉様ったら……』



瑠依子は9歳の時にまだ6歳だった花凛の【専属メイド】として嫁いだわけだが……幼少期は母‐花乃の妹の花静が本家に帰ってくるたびに遊んでもらってた。瑠依子は幼少期のことをほとんどおぼえてないのだが……でも、花凛の専属メイドとして仕える際、【手本にした】のが母の花乃ではなくて【なぜか?】花静だった。なので、尊敬もしあこがれもしてる姉貴分の花静にこんな風にジャレつかられたら……そりゃあ、瑠依子的にはずかしいし照れくさいのだ。



1‐138:



瑠依子:『それで、奥様……。瑠華様たちは誰がここまで送り届けてくれるのですか?』



瑠依子は自分の顔が真っ赤になってることを承知しながらも……。でも、花京が自分を呼び出した用件についてキッチリとめていく。



花京もまた花静同様、そんな瑠依子が可愛く思えてならず……。なので、花静をしからず【そのままにしといた】上で話を進めてく。



花京:『第2瀬尾家の勝家様であります。ここに乗ってくる車はたぶんですが……前に登録していたE66のBMW760Liなのであります』



瑠依子:『分かりました。ここのシステムからちょっと照会してみます』



遠宮本家の【緊急用ゲート】は外から不用意に近づくと【オートマチックで防御システムが作動する仕組み】になっている。なので瑠依子は【システムはそのままに許可車両だけをパスできる】よーに設定する作業を行おうとしていた。



瑠依子:『……あ、あれ?』



花京:『どーしたのでありますか?』



瑠依子は自身が座ってる目の前のタッチパネルを人差し指で触れてスッと左側に走らせると……花京たちが見てる巨大スクリーンにそれらがパッと映し出される。



瑠依子:『奥様、この御方で間違いありませんよね?瀬尾勝家……第2瀬尾家前御当主‐花芳様の旦那様で……以前に登録してたお車がE66型の黒のBMW760Li……』



花京と花静が目にしたのは……勝家の顔の三面を撮った写真、生年月日、血液型、出生地、それと花芳が公用車として使ってたBMWの写真、ナンバープレート、車体番号だった。



花京:『ええ、間違いないのであります』



瑠依子:『この御方は……すでにシステムに登録されてて……【緊急用ゲート】が使えるようになってます』



花京:『ああ……そーだったのでありますか……』



瑠依子は花京に『今から6番ゲートを下見に行ってみますか?』といてきた。



1‐139:



花静はもとより、幼少よりココで育った花京ですら、今まで【地下通路】に足を踏み入れたことがなかったから……ここは好奇心も一緒に連れて行ってみることにした。



瑠依子:『では……用意しますね?』



瑠依子はスカートのポケットから自身のスマホを取り出し、何やらかのアプリを起動させ、数回タップすると……『行きましょう!』と言って、花京と花静を地下通路へと案内した。



管制室に備え付いてる階段をコツコツと降りて出口の鉄扉を開けると……目の前はコンクリート作りの地下駐車場みたくなっていて、すぐ近くには何台かの車が停まっていた。その中には若かりし時の紗織が乗っていた黄色い2ドアクーペの初代インプレッサWRX‐STiと白の4ドアセダンの初代インプレッサWRX‐タイプRAも置いてあって。それを見つけた花京は思わずなつかしがるが……。その隣に停まってる、その昔、清衛門が公用車として使ってたJG50というモデルの黒の日産プレジデントのエンジンが突如とつじょかかり、蒼白いHIDのヘッドライトをともして瑠依子たちの立ってるすぐ近くにまで【ひとりでに】ゆっくりと走ってきてピタッと止まった。



花京:『……えっ!?』



花静:『ちょっと、ちょっと!このプレジデント……無人でここまで勝手に走ってきたぞ!?』



瑠依子からしたら【大人な二人】の、子どもがビックリしたみたいな反応を見たくて、わざわざ6番ゲートまで案内すると言ったのだが……。二人の想像以上の驚きように笑い声を必死で押し殺しながら、でも腹がよじれる思いで爆笑してた。



花静:『……あっ!これって、さっき瑠依子がスマホで何かしらのアプリをいじってたやつかっ!』



1‐140:



瑠依子:『あーっははははははははははは!』



早くもさっきの【仕掛しかけ】に気づいた花静だったが……。【母親譲ゆずりの笑い上戸じょうご】の瑠依子がこらえきれず、床に転げて腹を抱えて爆笑してるさまを見ていたら怒る気も失せてしまい。花京と二人、瑠依子が笑い止むのをしゃがみ込んで待つことにした。



瑠依子:『いやぁー……先ほどは【はしたない】姿をさらしてしまって……。ホントに申し訳ありませんでした』



管制室からの制御で自動運転するプレジデントの車内で、運転席に座る瑠依子は助手席の花京と後部座席の花静に深々と頭を下げて謝った。



花京:『それはよいのでありますが……』



花京はそれよりも【今、何もせずに勝手に運転してくれてるシステム】に興味津々(きょうみしんしん)だった。運転席のインパネ回りを見渡せば、ATのレバーもステアリング横のキーシリンダーも取り外されており。コンソールの中央部分にあって運転席側に向けられた大きな液晶モニターと、車内のアチコチに取り付けられてる小型カメラ、ボディーのあちこちに付けられてるソナーらしきものが【旧き良きなつかしい車に不釣り合いな近未来テイスト】をかもしてる。



瑠依子:『ああ、コレですか?コレは地下通路を監視ドローンに哨戒しょうかいさせるために改造された【試作品】なんです』



花京:『監視用の……ドローン?』



1‐141:



遠宮本家の地下にめぐらされてる地下通路は広範囲に渡ってる。昔は屋敷の使用人がいちいち地下に降りて歩いて巡回じゅんかいしてたらしいが……今は管制室から自動制御された監視ドローンが巡回じゅんかいしてる。



このプレジデントもそーだが……まず、本体に付けられてる自動制御のための受信機が随時ずいじ、地下通路の天井の随所ずいしょに設置されてるアンテナから管制室の指示を受信する。そして、それを制御コンピューターが処理してタスクとして行うと同時に、本体に装備されてる送信機がボディーの随所ずいしょに装着されてるソナーの作動状況や室内に備え付けられてる監視カメラからの映像と一緒にマシーンの作動状態を管制室に送信。これらの受送信を絶えず行うことで管制室のコンピューターがマシーンの位置情報と状態コンディション逐次ちくじ把握はあく。そーすることで【無人巡回じゅんかい】を可能にしてる。



そして、瑠依子のよーな【管制室に権限のある者】は、専用のアプリを起動させることで巡回ドローンや無人巡回車プレジデントのタスクに割り込んで指示を出すことが可能で……。これが起動した場合は、権限者のタスクを優先して行うようプログラミングされている。なので、アプリを起動させている瑠依子からの指示を管制システムがキャッチすると、次は管制システムから無人巡回車にアプリからの指示を送って……。それで瑠依子たちの目の前まで無人の日産プレジデントが【ひとりでに】走ってきてピタリ止まったってわけである。



1‐142:



花静:『へえー!これって、そーゆー仕組みで動いてるのかー!』



花京:『なるほどなのであります!』



瑠依子の説明を聞いて、思わず感心してしまう大人二人だった。



瑠依子:『ちなみに、この車は……今は地下通路の設備のメンテナンスをするための作業車として使われています。このシステムを考案した遠宮家の【護衛役ごえいやく】の方がすぐ近所に住んでいまして……これに乗って地下の設備を定期的にメンテナンスしてくれてるんです』



【護衛役】とは代々、遠宮本家当主を護衛する役をつとめる家を指す。先代当主の清衛門の亡き後、【現状、本家当主不在】なのだが……彼らは清衛門の遺志いしにより、引き続きココに住む花凛の護衛につとめ、屋敷の設備のメンテナンスなどもやってくれていた。



花京:『ああ、そーでありましたか!』



花静:『つか、本家当主の清衛門爺ジイが亡くなって【当主不在の屋敷】だってのに……それでもココに住む花凛の護衛をつとめてくれてるなんてさ、律儀りちぎなヤツらだよ』



花京:『ええ、そーでありますね。花凛ちゃんが今日まで危うい目にわずに済んでるのは、彼らがこの家の近所に住んでいて【眼を光らせてる】おかげなのであります。後日、お礼にうかがわなければならないのであります』



花静:『それがいいかも知れないな。【田口たぐち一門いちもん】だって【正式な本家跡取りの紫織しおり】の所在を知りたいだろーしな』



1‐143:



紗織の一人娘の紫織しおりの所在は【紗織の一存で】一部の人間を除いてしか知らされていない。紗織は娘の紫織が本家当主を正式に襲名しゅうめいする時までは周りに所在をせてある。その理由として、兄‐清吉の子である花凛が遠宮本家次期当主の襲名しゅうめい放棄ほうきしたにもかかわらず、いまだに【花凛を次期当主にかつぎ上げる声があり】、そんな彼らから娘の紫織に危険が及ぶのを阻止そしするためであった。



そんな紫織は後日、遠宮本家の花凛と花京のもとを【とある要件ようけんのために】たずねてくる。そして、これが花凛にとって【遠宮花京訓練所生徒として初めてこなすミッション】になるのだが……。このことは後にくわしくれることにする。



花京:『余計なことは口にせずともよいのでありますよ、花静。【東子とうこ】さんだって、紫織さんの件については事情を分かってるのでありますから』



田口東子……彼女は若かりし時の花京や紗織とともに清衛門のもとで訓練を積んだ田口一門の棟梁とうりょうの娘で、今現在は棟梁とうりょう補佐として花凛たちの身柄の安全を確保するために尽力じんりょくしている。そして、現在の遠宮本家の設計と防衛システムの構築こうちくたずさわった人物のひとりに彼女の父であり田口一門の棟梁とうりょうでもある【清晴きよはる】がいる。主にこの二人が遠宮本家に出入りし、メンテナンスなりを行っている。



1‐144:



瑠依子は【大人たちの事情】にこっそり聞き耳を立てながらひそかに思うところがあった。【女のかん働き】ってヤツである。



瑠依子:ー遠宮家の紗織様の息女の紫織様か……。あたしにとっては【また難敵がひとり増えそうな感じ】がしますね……ー



瑠依子は【花凛がお嬢様属性ぞくせいにめっぽう好かれる】って、これまで見てきてそう思ってる。恵依しかり、瑠華しかり、そして今度【お側つき】で家にやってくる綾子や瑠華と一緒にやってくる花恵しかり……。



瑠依子:ーお嬢様(花凛)に彼氏ができたとしても、それはそれで寂しくもありますが……。かと言って【女だらけの花園】構築こうちくってのもなぁ……どんなもんだろ?うーん……複雑です。あたしは【精神年齢的にもまだまだ子ども】で【瀬尾家の専属メイドとしてもまだまだ半熟】なんですね……。願わくは、お嬢様と心穏やかな日々を終生まで送りたいのですー



そんな自覚がまったくない花凛だが……瑠依子との【距離感】は昔から1ミリもブレたことがない。それはたぶん、恵依に対しても瑠華に対しても同じだと思われる。でも、逆に【ブレない】花凛だからこそ、瑠依子にしても、恵依や瑠華にしても【自分の手もとに1ミリでも近くに寄せたい】のだ。



瑠依子:ーあたしも……花静姉様みたくなりたいな……。あんな風な【誰もがうなずかざるを得ない鉄壁の主従関係】をお嬢様(花凛)と築きたいのですー



1‐145:



花静:愛だよ、愛!アイツ(花京)のことに関して他の誰にも負けないって、胸張って言えるのはそこだけかな。



【黒御門家の問題児】と言われ親・姉妹きょうだいの頭を散々、悩ませてきた花静だが……【妹】たちからの人気と尊敬は絶大だった。



花静:ソイツ(主人)が嫌だったら、メイドなんてサッサと辞めちゃってさ、男捕つかまえて結婚して家庭作って落ち着いちゃえばいいんだよ。だってさ、あたしら【メイドである前に女でもある】んだぜ?生まれた家が瀬尾家のメイドの家柄だの、そんな古風なもん、いちいちこだわらなくったって【ひとりの女として】生きていけるんだしさ。



ただでさえ花京とは瓜二うりふたつの花静が整形をほどこして【ソックリさん】になって戦場で【影武者】までもつとめた話は、黒御門家に限らず瀬尾家のメイドの家々では今や武勇伝扱いになっている。



花静:そりゃあ、色々あるに決まってるだろ!お互い生身の人間だからな。キレイ事ばっかり、上っうわっつらばっかりってワケにはいかねえよ。ねたみもにくみもすりゃあ、ケンカも衝突しょうとつもするし……みにくさ、見苦しさ、この上ないって感じだよ、主従関係はさ。でも、それを二人で乗り越えられなけりゃーな……意味無えよ。



そんな花静は『自身の本音は最期までアイツ(花京)にも打ち明けずにあの世まで持ってく』と言ってめくくってる。



花静:そして……最期はこう言ってやるんだよ。『あたしがっても間違って【後追い】すんじゃねーぞ』って。だってさ、あたしも【一応メイド】だしさ……アイツ(花京)に後追いされちゃったら【あたしのメイド人生】に汚点が付いちゃうじゃん?そりゃあ、あたし的に非常に困るんだよ。



1‐146:



自動運転であるのをいいことに【ついつい考え事にふけってしまった】瑠依子を後部座席に座ってる花静は見逃さなかった。



花静:『すきあり!』



【やっぱり大人じゃない】花静は後ろから瑠依子の頭めがけてチョップをかます。



瑠依子:『……あ、痛っ!!』



まったくもって無防備だった瑠依子は見事、脳天に直撃したチョップの痛さに頭をすくめる。



花静:『あたしが後ろに座ってるってのに、のうのうと花凛のこと考えてるなんて……ずいぶんと余裕じゃんか、瑠依子?』



瑠依子:『……ち、違いますって!』



瑠依子は急に顔を赤くして、アタフタしながらそれを否定する。



花静:『別に違っちゃいねえだろ?1にも2にも花凛、花凛て……。そんなに好きなら花京に頼んで【花凛をめとっちゃえ】よ?』



瑠依子:『だ、だから……』



瑠依子は【自分と同じ専属メイドの】花静には胸の奥にひた隠してるよこしまな欲望を見透かされてると思った。瑠依子だって専属メイドという部分を取り除けば18歳の多感たかんな年頃の娘である。異性やら性交やらに興味があったって何ら不思議な話ではないのだ。



花京:『花静は何を言ってるのでありますか?花凛ちゃんはもう……【とっくの昔に瑠依子ちゃんにあげちゃってる】のでありますよ?』



そんな二人の悶着もんちゃくに花京の意味不明な言葉が飛んできた。



花静:『はあー!?何、言ってるんだよ、お前は!?普通、メイドがご主人様のもとにとつぐんだろーに!?』



花京:『世俗せぞくの解釈など、あたしにはどーでもよいのであります。あたし的には花凛ちゃんを瑠依子ちゃんのもとにとつがせたって気分なので……』



1‐147:



花静:『お前なぁ……』



花京とは長い付き合いの花静だが……花京独自のフィーリングや価値観についていけない時がある。



花京:『花凛ちゃんだって、きっと【そーゆー気分】なのであります。花凛ちゃんのメイド選定の時、やって来たのが瑠依子ちゃんだけでありました。それに、やって来たからって瑠依子ちゃんが花凛ちゃんを選ぶ保証なんてなかったのであります。でも……瑠依子ちゃんは花凛ちゃんを仕える主人として選んでくれたのであります。そーなれば、母親的には【大事な一人娘を瑠依子ちゃんにくれたも同然】みたいな気分にもなるのであります』



花静:『そりゃーなぁ……。でもやっぱ、ちょっと違うだろ?』



花京:『全然、違くはないのであります。あの時、あたしは瑠依子ちゃんに花凛ちゃんを任せたのでありますよ』



花凛のメイド選定だが……当時、この話が舞い込んできたメイドの家々は正直、困惑こんわくした。それは黒御門家とて決して例外ではなかった。当時の花凛が何者かに命を狙われていたこと、それに十家筆頭の椎名家にないがしろにされてたこと、さらに瀬尾本家と遠宮本家の両方の当主継承権を得てる存在であることから……【花凛が色々な方面で火種となりうる存在】で【ヘタをすればコッチにも飛び火しかねない】と想像がつく以上、大事な娘をいて火中かちゅうに放り込むよーな真似はどの家もしなくはなかったのだ。



でも、当時9歳だった瑠依子だけがこの話に乗り気だった。だが、母の花乃は花凛の取り巻く環境もさることながら、娘の瑠依子が【メイドとしてとつがせるには半熟以下だし幼すぎる】と反対をする。



1‐148:



瑠依子:半熟以下でもあたしは花凛様にお仕えすると決めました。なので、この話を進めてください。



当時、黒御門家では花凛の年齢に近い子女で【半熟以下でもメイドとしてどーにかつとまりそう】なのが本家の長女の瑠依子ぐらいしかいなかった。



花乃:…………。



母の花乃はまだまだ幼い瑠依子をとつがせること自体に乗り気じゃなかったのだが……。当の瑠依子は『花凛のもとに行く!』と言い張って、母の花乃を強引に押し切り。結局、瀬尾本家の迎賓館げいひんかんの応接の間にて花凛と相対する運びとなってしまった。



ヴェルサイユ宮殿にも似た豪華絢爛ごうかけんらんな広大な室内に、黒のドレスを着てソッポを向いて行儀ぎょうぎ悪く座ってる6歳の花凛と、そのわきに立つ黒のパンツスーツ姿の花京と花静。そこから長い赤絨毯じゅうたんかれた対面たいめんに置かれたアンティーク調の椅子に腰をかける瑠依子と花乃の母娘おやこ。上座と下座の距離感からしても【主と従者】の差がいなめないが……メイドなんて要らないって感じの花凛に瑠依子はさっそく物を申す。



瑠依子:こーして実物の花凛お嬢様を拝見はいけんさせていただきましたが……実物はお写真以上に可愛く【あたし好み】でよかったです。



花凛:…………。



瑠依子の第一声に母の花乃をはじめ、居合わせた大人たちは思わず面を喰らった。



1‐149:



メイドをめとる件について【ただでさえ乗り気でない】花凛は、瑠依子の第一声に露骨ろこつに不愉快になり。ソッポを向いて【この場をやり過ごそうとしてた】ムスッとした顔に見下すよーな眼差まなざしを加えて瑠依子に向ける。



花凛:なあ、そこのお前。メイドってヤツは主になるヤツが可愛いか、可愛くないか、で決めるのか?



花凛にとっての【メイドのイメージ】は花京の花静ではなく、あくまでも祖母の花英に仕えてる花菊のよーなつつましい淑女しゅくじょのよーな存在だった。



瑠依子:【姉様】たちがどーゆー風に主となるべき御方おかたを決めたのかは知りませんが……少なくともあたしはそーです。花凛お嬢様のよーな可愛い女子でなくちゃ、仕える気にもなりません。



それを聞いた花凛はあきれた。



花凛:だったら……あたしじゃなくって瑠華とか花恵とか菖蒲にしとけ。あたしは見てのとーり可愛げない女だからな。



瑠依子:いえいえ、あたしは花凛お嬢様で結構けっこうです。仮に、他の瀬尾家のお嬢様方が可愛くてもあたしは興味がありませんから。



食い下がってくる瑠依子を花凛はどう【やっつけてやろーか?】頭をめぐらす。



花凛:あたしのこと、少しは話を聞いてるだろ?もし、あたしのメイドになったら、お前だって【命を狙われる】かも知れないぞ?



瑠依子:ええ、そーかも知れません。けども、それが【メイドの本分】です。間違って命を落とすことがあったとしても……あたしは花凛お嬢様をうらんだりはいたしません。



1‐150:



花凛:お前なぁ……。



わずか6歳ながらもこれまでに数回、命を狙われ、時に生死の境を彷徨さまよった経験もある花凛は瑠依子が軽々しく【己の死】を口にしたことにいかった。



花凛は座ってた椅子からピョンと床に飛び下り、瑠依子の目の前まで肩をいからせながら歩み寄る。そして、瑠依子をキッとにらみつけるや、思いっきり平手打ち(ビンタ)をほおにかます。



バチンッ!!



瑠依子:…………。



とてもじゃないが……花凛の様相ようそうからしたって【子どもの痴話喧嘩ちわげんか】のようにはうつらない。花凛のいかりに【あやうさ】を見て感じ取った花静はあわてて花凛を止めようとするが……それを母の花京は制止せいしさせた。そして、瑠依子の隣に座る花乃もまた花京と同様で……花凛を止めるどころか、二人のさまを白刃をました真剣試合でも見てるかのよーな眼差まなざしで一部始終を黙って見守ってる。



花凛から平手打ち(ビンタ)を喰らった瑠依子だが……。打たれて赤くれた左頬ほおを気にもせず。座ってた椅子から降り立って花凛をにらみつけると……右手を振りかぶって思いっきり花凛の左のほおに平手打ち(ビンタ)を喰らわせた。



花凛:………っ!?



6歳の花凛よりも明らかに身体の大きい瑠依子からり出された平手打ち(ビンタ)の強さに……花凛はよろけて床にころげる。



1‐151:



瑠依子:残念ですが花凛お嬢様……あたしは【終生、あなたのメイドとして仕える】と決めてます。ですから、相手が瀬尾の隠密おんみつだろーと、遠宮の暗殺者だろーと、あたしはそう簡単には死にませんし……あなたをそう簡単には死なせたりはしません。代々、瀬尾家に仕えてきた黒御門家のメイドをめないでください!



花凛:…………。



花京と花乃もそーだが……姉貴分として面倒を見てきた花静は瑠依子の【大人も顔負けの豪気ごうきさ】にビックリさせられた。



床に倒れたまま、負けじと顔だけは上げて瑠依子をにらみつけてる花凛だが……。しばらくして、その場でスッと静かに立ち上がると、後ろにいて様子を見てた母の花京をうなりつけた。



花凛:なあ!来週からあたしが住むことになってる遠宮の家はホントに大丈夫なんだろーな!?



母の花京は花凛のこの一言で【愛娘の胸中】が分かった。なので、娘の花凛にニコリと微笑ほほえみ、いつもの調子で答える。



花京:ええ。遠宮本家は【難攻不落なんこうふらく要塞ようさい】なのであります。ここ(瀬尾本家)よりは全然、安全でありますし……何より花凛ちゃんの面倒を見てくれる義祖父おじい様も護衛の方々(田口一門)も強者つわものでありますから……【命をおびかされる】心配はほぼ無いに等しいのであります。



花凛は花京の言葉を聞き終えて、『分かった』と小さくうなずくと……瑠依子の方にきびすを返して強い瞳を向けた。



1‐152:



花凛:アイツ(花京)の言ったとーりだ。あたしは、お前(瑠依子)みたいな【自分を粗末に考える】ヤツには丁度ちょうどいい屋敷に来週、引っ越しをする。お前が【あたしのメイド】だって言うんなら、それまでに引っ越しの用意を済ませておけ!



花凛は瑠依子にそう言い放ったあと、くるりと背を向けて……さっきと同様、肩をいからせながら出入口の大きな観音扉の方へスタスタ歩いていった。



でも……花凛は途中でピタリ止まった。そして、瑠依子の方には振り返らず、大声で言い放った。



花凛:いいか!あたしの前で『死んでもかまわない』なんて言葉、二度と口にするな!もし、お前(瑠依子)がもう一度、同じことを言ったなら……その時は無理やりにでも実家に送り返してやるからなっ!



この時、瑠依子は【花凛のひととなり】を知った。それは瑠依子の母の花乃も同様であった。



花乃:ーそーゆーことでしたか……。花凛様はまだ幼くありますが……中身は【もう、すでに瀬尾の女帝】なのですね。あたしとしたことが……見誤みあやまってしまうところでしたー



花凛の遠宮本家行きの件は確かに黒御門本家の花乃の耳にも届いていた。でも、それを花乃は【大人の事情のみ】しかみ取っておらず……。まさか幼い花凛が【自身がそれを了解することで同居してる瑠華や幼なじみの花恵や菖蒲に危険が及ばなくなる】と考えて決断したとまでは考えが至らなかったのである。



花乃:ーでも……長らくご一緒に住んでた瑠華様と離れ離れになるのは……花凛様も寂しい思いをするでしょーね。どーか、ウチの瑠依子が1日も早く花凛様に受け入れられて、少しでも信頼を得られるメイドになれますよーに……ー



1‐153:



勝手に出ていってしまった花凛を花静が追いかける一方で、花京は下座にいる瑠依子・花乃母娘おやこの前に歩み寄って、深々と頭を下げて礼を述べた。



花京:あたしの方から無理を言ったにもかかわらず……本日は有難ありがとうございました。



花乃:いえいえ、こちらこそ。本日は娘の瑠依子にとって良縁りょうえんとなりました。礼を述べるのはむしろ、あたしの方です。



花乃は椅子を立ち、目の前にやってきた花京に慇懃いんぎんに礼を述べた。



このあと、花京は瑠依子母娘おやこと今後の打ち合わせも兼ねて懇談こんだんをする。



花乃:花京さんにひとつ、おたずねしたいのですが……。どーして【このタイミングで】花凛ちゃんにメイドをめとらそうと思ったのですか?花凛ちゃんはまだ6歳ですし、【遠宮家の件】についても佳境かきょうを迎えたとは言え、まだまだ解決には至らず……。そんな状況下で花凛ちゃんがメイドをめとるにはタイミングとしてはかんばしくないと思うのですが?



花乃は遠宮花京という人間が昔から今ひとつつかみきれなかった。



花京は給仕きゅうじ係が用意してくれたミルクティーで一息ひといきいたあと、ポケットから取り出した紙巻きタバコをゆるりと吸う。



花京:ええ、確かに……。でも、【家の跡取り娘】でない花凛ちゃんにしてみたら、今現在もこれから先も、メイドをめとるにはかんばしくない状況には変わりないのでありますよ。



1‐154:



花乃:……ん?それは如何いかなる意味でしょーか、花京さん。おっしゃってる言葉の意味が今ひとつ分からないのですが……。



花乃もまた、そそがれたミルクティーに口をつける。そして、娘の瑠依子と瓜二つの顔を少し気難きむずかしくして、対面に座る花京をするど見据みすえた。そんな花乃に花京はタバコの煙をくゆらせながら苦笑いを浮かべて答えた。



花京:花凛ちゃんは【あたしと同じ、所詮は庶子しょし】ということなのでありますよ。でありますから、【家の後ろ楯のない】庶子しょしがメイドをめとると言うことは、【そこに仕えるメイドにもそれなりに腹をくくってもらう】ということなのであります。



花乃:ああ、そーゆーことでしたか……それでしたら御心配なく。黒御門家のメイドは【家の財力で主を決めよ】とは教えてませんから。



確かに花京の言うとーりで……娘をメイドとして一人前に育てとつがせる家元は、とつぎ先の家に【資金提供】をしてもらうことで生計を立てている。なので、家元はメイド契約の話がきた際、まずは【主となるべき依頼主の家の財力をチェック】し、それでから話をめていくのである。今回の花凛の場合、家元への資金提供については瀬尾本家当主である花英が確約してるので問題はなかったのだが……それ以外の部分で問題があったために黒御門家以外の家元は話を見送ったのである。



1‐155:



瀬尾一族の血をひく娘たちにメイドをとつがせる家元は瑠依子の黒御門家の他に白川家、黒鉄くろがね家の2家があるのだが……。他の2家に比べて黒御門家は伝統と格式が高く【資金提供】に関しては無視できるほどの財力を有してたため……その部分に関して花凛のメイド契約に花英が後ろ楯につかなくても娘の瑠依子をとつがせることに何ら憂慮ゆうりょする必要はなかったのである。今回は【あくまでも花凛の置かれてる現状】でメイドをとつがせるかいなかが判断されたのだ。



花京:でも……ウチの花凛ちゃんが【海のものとも山のものともならない】娘に育ってしまったら、その時は花乃さんはどーするのでありますか?瑠依子ちゃんを家に引き戻すのでありますか?



母である花乃にしてみたら、娘の瑠依子の行く末が花凛に委ねられてる部分が確かに問題ではあった。願わくは花凛には【花京と同じ道】には進んでほしくはないのだ。



瑠依子:奥様(花京)、それも御心配いりません。その時はあたしが花凛お嬢様をビシビシきたえて【ちゃんと社会に出れるよーに】しますから。



9歳の割には【存外ぞんがいシッカリ者】の瑠依子の言葉に、花京は微笑ほほえましくも頼もしくも思った。



花乃:あたしからしたら……花凛ちゃんのことよりもあなた(花京)の方がよっぽど問題です!1日も早く【危なっかしいスパイ稼業かぎょう】から足を洗ってくださいませ!



花静の姉にあたる花乃は妹の安否をいつだって気遣きづかってた。黒御門本家としては【とつぎ先に再三、再四の陳情ちんじょうを述べる】のは異例中の異例だったのだ。



1‐156:



花京:ええ、まあ……前向きには考えてはいるのでありますが……。



花乃:考えてるだけではダメです!1日も早く、ちゃんと実行に移してください!



花乃が花京に【スパイ稼業かぎょう】から1日も早く足を洗えと言ってるのは【表向きは妹の花静の安否や花京の一人娘の花凛のメンタル面での育成を案じて言ってくれてる】よーに周りには映るのだが……。



花静:ああねぇ。つかウチの(花乃)姉ちゃん、【指南役の時の顔と普段の顔が全然違う】からさ……あんまり真に受けない方がいいぞ。



後日、花静が花京に教えたのは……若くして黒御門本家の指南役に就任した花乃ではなく【普段の素の時の花乃】であった。



花静:ウチの(花乃)姉ちゃんてさ、学生時代から【お気に入りの女子を自分のオリジナルのエロマンガに登場させるのが何よりの愉悦ゆえつ】みたいなヤツだからさ。だから、ほれ……。



花静は書棚から単行本と同人誌数冊を持ってきて、それを花京の前で広げて見せる。



花静:実はさ……今、ウチの姉ちゃん(花乃)て、【人気のエロマンガ家】っていう【もうひとつの顔】があるんだよ。『好きなるものの上手なれ』って言葉のとーりでさ……。



花乃は学生時代から身近な女子を登場人物にしたオリジナルのエロマンガを同人で披露ひろうし始め。作中のレベルの高い画質も去ることながら【リアル感ある生々しいエロ描写】が読む人たちの心を鷲掴わしづかみにしてアッという間に口コミで広がり。同人デビューから数年の後にエロマンガ界でプロデビュー。その人気を今でも保持ほじし続け、最近ではエロゲーやライトノベルのキャラクターデザインまでも手掛けるほどであった。



1‐157:



花静:つか、お前(花京)も【ウチの(花乃)姉ちゃんのお気に入り女子】だったりするから。その、手渡したエロマンガだけどさ……これの主人公って、たぶんお前(花京)だから。



花京:……えっ!?



花京はビックリしながらも。でも、自分がどーゆー風にえがかれてるのか?……ワクワクしながら早速さっそく読んでみる。



花静:…………。



花静は食い入るよーに真剣にエロマンガを読んでる花京にいつ、怒りのスイッチが入るやら?……内心ではヒヤヒヤしながら見守ってる。実は……花京を主人公にしたエロマンガを花乃がいてることは【同人時代からずっと姉(花乃)の作品を読んでる】花静はずいぶん前から知ってた。でも、そのことについて【知らぬが仏】と思いつつ一切、触れなかったのだ。



花京:おおーっ!!これはこれは……ずいぶんとエロいのです!!



エロマンガを読みふける花京からは感嘆かんたんの声が。そして花京はそれを一気に読みきってしまった。



花京:いやぁー……思わず興奮して【我を忘れて】しまったのであります!!



そう言ってエロマンガを返した花京のえつな顔に花静は思わずあきれてしまったが……。でも、花京が怒ってる様子が一切ないことには、ちょっとだけホッとした。



花京:あたしもこれぐらい【イケイケの肉食系女子】だったら、若い時をもっと謳歌おうかできたのでありますが……。



1‐158:



花静:何、言ってんだよ!?お前(花京)は十分、謳歌おうかしてただろーに!



花京:いやいや。同性ではなく男の方を……。



花静:アホ!お前(花京)が【エロマンガ級の肉食系女子】だったら、うらむ女が続出するわっ!



花乃のエロマンガに深い感銘かんめいを受けた花京は、これを契機けいきに花静と一緒にエロマンガをくことを始め……後日、師範代とマンガ家という【二足のワラジ】をくことになる。



でも、花京の描くマンガもまた花乃と同様、【身近な人間を主人公にした】ものであったために、娘の花凛から怒りを買いエロマンガから少年マンガへとすぐに方向転換。でもでも、それが功をそうして一躍いちやく大ヒット。デビュー作となる『お嬢様物語』は、娘の花凛たちをベースにちょいエロとオバカとギャク要素を加えた学園ラブコメだが……高い画力も去ることながら、生々しいお嬢様生態と花京のおバカセンスが広い読者に受けて支持され続ける。後に【エロとおバカの女帝‐京宮静きょうみやしずか】と呼ばれるに至る。





さて、話を戻して。地下通路を自動運転の日産プレジデントで移動してた瑠依子と花京と花静の3人は、車に乗ったまま6番ゲートの貨物運搬用のエレベーターで上がってく。



花京:『ここが……6番ゲートなのでありますか?』



エレベーターが止まって降り立った3人は周囲を見渡す。分厚そーな鉄骨が張り巡らされた高い天井にいくつもの水銀灯が煌々(こうこう)とかり、鋼板こうばんめた壁面とコンクリートの床が無機質さをかもし出す。



花静:『飛行機の格納庫みたいな感じ……だな?』



瑠依子:『はい。隠しゲートは全部、耐火たいか耐震たいしんはもちろん、壁面やシャッターも防弾仕様の頑丈がんじょうな作りにしてあるって東子さんが言ってました』



1‐159:



そう答えて、瑠依子はまたスマホを操作する。



瑠依子:『でも……外を見たらビックリしますよ?』



重そうなシャッターがゆっくりと上がってくと……その向こうには庭木が鬱蒼うっそうしげり、おもむきのある大きな岩がいくつか置かれた【ちょっと古風な和風の庭園】が夜闇と一緒にたたずんでいた。



花京:『これは……』



瑠依子:『今、外のセキュリティーを解除しますんで……』



瑠依子はスマホを操作したのち、【大人げない】二人を外へ案内する。



花静:『見渡す限りは、何か……ちょっと大きな農家の邸宅ていたくって感じだな……』



花京も花静もあたりを警戒けいかいするかのよーに見回しながらゆっくりと足を進める。ちなみに……格納庫のよーなゲートは表向きは大型の農機を収納する収納庫をしていた。



瑠依子:『はい。そっちに建ってる大きな瓦屋根の家には当然、誰も住んでませんが……非常時のためのレストハウスとしての機能を備えてます。防弾仕様なのはもちろん、自家発電、浄水システムも備わってます』



花京:『ほう……』



花京も花静も瑠依子の話に耳を傾けながらも、庭木や地面にして設置されてるセンサーや監視カメラにも目を向けてた。



花静:『こりゃあ、冗談抜きでちょっとした軍事施設だわ……』



そーして屋敷の門の付近までやってくると……花京がポツリと建ってるステンレス製の郵便ポストの前で不意に足を止めた。そして花静もその少し奥に建ってる大きな御影石みかげいし灯籠とうろうの前で足を止めて何やら探り出す。



1‐160:



瑠依子は二人の【スパイとしての嗅覚きゅうかくするどさ】には感心はするものの……その探り方が【子どもが宝探しをしてるかのよう】で、ついついクスクス笑ってしまう。



瑠依子:『そちらのポストの中にはゲート入庫の際の認証機が……その御影石みかげいし灯籠とうろうには侵入者を識別するための高解析カメラがそれぞれ仕込んであります』



花京:『なるほど……そーゆーことでありますか……』



花静:『ここのカメラで侵入してきた車体のナンバーと車種、人物をシステムで識別しきべつして、それで認証機で人物確認をさせるってやつか……』



瑠依子:『はい。隠しゲートのセキュリティーは特に厳しく設定されてるらしく……強行突破しようものなら【命の保証が危ういレベルの自動迎撃システム】が発動するらしいです』



花静:『まあ、ここは遠宮本家だからな……そーだろーな……』



花京:『でも、まあ……銃とか地雷とか化学兵器とか、そーゆーたぐいのものではないでしょーから……間違ってSPが侵入しちゃっても大丈夫なのであります』



と、まあ……花京は呑気のんきなことを言ってるが。



東子:まあ、丸焦げになって死なないことを祈るよ。とりあえず、念のため遺書を書いてから侵入してくれ。



システムをメンテナンスしてる田口一門の東子はこう言っている。ここのセキュリティーはフツーにヤバイのだ。



瑠依子:『では、本邸に戻りましょうか?あたしもお嬢様のご友人たちを出迎える準備をしなくてはならないので……』



1‐161:



花静:『花凛の……友だち?』



幼少の時から花凛を知ってる花静もビックリしたが……何よりビックリしてたのが母の花京だった。



花京:『まあ!花凛ちゃんにお友だちが出来たのでありますかっ!?【親はいなくても子は育つ】とよく言ったものではありますが……まさか、まさか、こんな日が来るとは夢にも思ってみなかったのであります!』



幼少の頃の体験トラウマから【他人を警戒して自身に寄せつけない性質】だった娘の花凛が【よーやくフツーの子らしくなった】ことに……母親の花京は思わず涙ぐんでしまった。



瑠依子:『ご友人と言ってもですね……南條様のところのお嬢様(朋)と、十家の長尾家のお嬢様(市乃)、それと同じく十家の池田家のお嬢様(綾子)ですけど。皆さん、お嬢様(花凛)と同じ学校に通われてるらしいのです』



瑠依子的には【花凛のもとある性質が変わったのではなく、花凛の周囲の環境が変わったのだ】と、遠回しに花京にアピールする。瑠依子自身は【花凛には出会った時のままの花凛でいてほしい】のだ。



花静:『へえー。南條家とか池田家は、この遠宮の家とは【昔からのつながり】があるらしいから、何となく分かるけど……。でも、長尾家って隣の新潟だろ?そこのお嬢様(市乃)がどーしてわざわざ群馬の高校にやってきたんだ?』



花京:『十家の娘だろーと何だろーと【友だちは友だち】なのであります!それに、花凛ちゃんには今まで何の縁故えんこもない(池田)綾子ちゃんを【お側つきにしちゃう】なんて……花凛ちゃんもなかなかやるのであります!』



1‐162:



母親の花京にしてみたら、娘の花凛の良いしらせは吉事きちじ以外の何物にも映らないらしい。



花京:『いくら花凛ちゃんの専属メイドとはいえ、瑠依子ちゃんに任せっきりってわけにはいかないのであります。ここはひとつ、【母親として】あたしと花静も準備を手伝うのであります!』



瑠依子:『いえいえ、それには及びませんよ、奥様(花京)。準備の方はあたしに任せて……奥様(花京)と姉様(花静)は綾子様を【お側つき】として屋敷に迎え入れる準備や、本家の瑠華様や第2瀬尾家の花恵様を迎え入れる準備をお願いします』



瑠依子的には【災難さいなんの連続】だったが……ここでつまずきがあれば花凛がガッカリするだろうと思うと、【大人げない大人の】花京と花静には【大人向けな案件】について諸事万端しょじばんたんを整えてもらって確実に遂行すいこうしてもらいたかった。



花京:『あっ、そーでありましたね!池田家のお屋形様にも挨拶あいさつうかがわねばならないし……瑠華ちゃんや花恵ちゃんのこともちゃんとしなくてはならないのであります!』



花静:『そーだぜ、花京。お前の【師範代業務の第1歩】は本家の瑠華と花盛さんとこの花恵をココでちゃんと保護できるかどーかなんだからさ。花凛の友だちのことは瑠依子に任せておいて……あたしらはギリギリまで正義の親父さんと連絡をみつに取って課せられたミッションを成功させよーぜ』



作者より皆様へ



相変わらず自由気ままに書かせてもらってます。一向に脇道にれてばっかりで本編がなかなか進まない現状……それでも読んでくれてる方々がいらっしゃるのがホントに有り難く思います。



時おり、初期の設定を忘れてしまうことがあり……。初期設定どーりならば、【瑠依子は花凛の6歳上】なのですが……ついつい忘れてしまい【瑠依子は花凛の3歳上】になってしまいましたこと、ここにお詫び申し上げます。なので、ここから先は【瑠依子は花凛の3歳上】でやらせていただきますこと、ご了承ください。



私事ではありますが……去年末、仕事での地位がひとつ上がってしまい、精神的負荷がより一層かさんでしまい、けっこー精神的に不衛生な日々を送っております。思考や価値観の偏り、自由や柔軟さの欠如など、自身の不衛生なメンタルの状況が作品にも少なからず投影されてしまってるかも知れません。どーか、ご容赦ください。



引き続き、創作に邁進していきたいと思いますので……どーぞ、よろしくお願いします。



平成30年2月12日

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