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家電転移~永久名誉店員になった俺は家電の能力(チカラ)で異世界を救う~  作者: 宮地拓海


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24話 闇の誘惑 ―1―

 砦は、燃えていた。


「……アキタカさん」


 火の手の上がる砦を見て、アミューが震えている。

 強力な魔獣の多く棲む土地とこの国との境界を封鎖するように長く連なる巨大な外壁。

 それを守護する本拠地となる砦は、それ自体が一つの小さな町のような大きさで、そこには常に数百人の兵士が常駐している。

 ただし、危険な場所であるため、戦う力を持たない商人や医者のような一般人はこの砦にはいない。

 戦力に特化した歪な町。そんな場所が、この砦だ。


 その砦が燃えている。


 数ヶ所から火の手が上がり、あちらこちらから怒号や獣の悲鳴が聞こえてくる。

 外壁の向こうで大規模な戦闘が繰り広げられているようだ。


「まだ魔獣は中に侵入していないようだな」


 砦の中から火の手が上がっているのは、外壁の向こう側からの遠距離攻撃によるものかもしれない。

 俺たちは、以前訪れた砦の入り口へ向かった。

 そこは商人や医者、冒険者や特使などが訪れる、砦の中で最も安全な場所。戦場から最も遠い広場となっている。

 だから、戦に出ない非番の兵士たちがこの場所でゆっくりと寛いでいたのだ。


「サスーンポーション。とりあえずあるだけもらってきましたけれど……足りるといいですね」

「使わずに済めば、それに越したことはないな」

「そうですね……誰も怪我をしていなければ、それが一番です」


 そんなことはあり得ないだろう。

 けれど、無事を願わずにはいられない。


「おい、そこを退け!」


 広場に立っていると、砦の中から男たちが三人出てきた。

 一人の男を、二人が両脇から抱え支えている。

 支えられている男は、大怪我を負っていた。


「これから診療所へ向かうのだ。馬車の邪魔になるからそこを空けろ!」


 今、別の者が馬車をこちらへ回しているらしい。間もなく来るのだそうだ。


「砦に薬は置いてないのか?」

「そんなもの、とうに使いきったわ!」


 男たちが苛立っている。

 薬のストックが尽きるほどに、ここの兵士たちは消耗し、傷付いているというのか。

 空はもうすっかり暗くなっている。

 一体、どれだけの時間戦い続けていたのだろうか。


「あのっ! 少しですが、ここにサスーンポーションがあります。マーサ・コモリさんから預かったものです」

「おぉ! 診療所のセンセイから!? それはありがたい!」


 アミューの申し出に、男たちは相好を崩す。

 相当切羽詰まっていたのだろう。


 ライトで照らしてやると最初こそ驚いたものの、「おぉ、あなたたちでしたか!」と、俺たちを思い出し、このライトが女神の遺産によるものだと認識したようだ。

 重傷の男を寝かせ、サスーンポーションを傷口に塗り、そして、思いっきり傷口をぐりぐり拭き始める。

 マーサも診療所ではこのやり方してたっけなぁ……痛そうなんだよな、見てると。


 しかし、効果は覿面で、重傷の男はたちまち意識を取り戻し元気そうに立ち上がった。


「かたじけない、女神の使者殿! おかげで助かりました」


 一礼をしてすぐさまどこかへ向かおうとする男を呼び止める。


「すまないが、戦況を教えてくれないか?」

「今、馬車の手配をしてしまっているのだ。それを中止してもらわないと。その後でもいいか?」

「いや。馬車は回してもらってくれ。折角だから、診療所へ薬を分けてもらいに行ってもらおう」


 砦の薬が枯渇したのであれば、サスーンポーションをもらってきた方がいい。

 使い方は知っているみたいだし、マーサなら状況を理解している。説明に時間を割くことなく分けてくれるだろう。


「しかし、薬は作るのに手間と時間が掛かるのだ。診療所でも余剰分があるとは、とても……」

「その点なら大丈夫です。マーサさんとナースのみなさんが大量に作ってくれているはずです。女神の遺産を使って」

「おぉ……っ! 診療所にも女神の遺産が……それで、薬が作れるというのか?」

「はい。それはもう、ごっりごり作れます!」


 いや、擬音。

 薬作る時の音じゃないよな、それ。


「そうか! ごりごり出来ているのなら安心だ!」


 納得しちゃった!?

 なにその安心感!?

「ごり」とか「むき」とか好きなの、擬音の中でも!?


「ですので、状況を教えてください」


 アミューは必死だ。

 砦の兵士たちが心配で仕方ないのだろう。

 女神の職業病なのかもな。民を心配してしまうのは。


「今朝、突然魔獣が砦に押し寄せてきたのだ」

「よくあることなのか?」

「少なくとも、オレがここにやって来てからは経験したことがないな。もう五年ほどここにはいるんだが……」


 異例の大侵攻。

 やはり、何かの力が動いている――ヤミか?

 しかし、魔族と魔獣は協力関係にはないはずなのだが……


 けれど、ヤミは毒の胞子をまき散らすキノコの魔獣を飼い慣らしていた。

 もしかしたら、魔王の使者の魔法――魔王魔法にそういう類いの物があるのかもしれない。魔獣を飼い慣らす、みたいな。

 ……あ。

 そういや、俺も【餌付けの達人】ってのを持ってるな。


 なんとなく、嫌な予感がする。


「破壊された砦を修復しつつ、魔獣を少しずつ撃退して……それで、現在はなんとか持ちこたえている。……だが、それもいつまで持つか……」


 薬が尽きたこのタイミングが、まさに均衡が崩れるタイミングだったのかもしれない。

 診療所へ送られた兵士は、少なからずその日のうちに戻ってくることは不可能だ。

 怪我人を危険にさらさないためにと内地に作られた診療所。

 そのせいで、最前線からはアクセスしにくくなってしまっている。

 今回のような波状攻撃に遭った際には、致命的となる欠点だ。


「マーサが戻ったからな。向こうで治療を終えた兵士も戻ってきてくれるだろう」


 診療所には、治療待ちの兵士が大勢いた。

 それに、診療所の向こうには国王が控える内地の砦がある。

 そこからの援軍が来れば、魔獣の群れを押し返せる。


「だから、今だけなんとか持ちこたえれば、きっと状況は好転する!」


 俺はある種の確信を持ってそう断言する。

 そうだとも。

 すでに治療に入って随分時間が経っている。だからきっと、もう間もなく復活するはずだ。無敵の国王と、頼れる騎士団長が!


「サスーンポーションのストックも出来ている。兵士たちにそう伝えてくれ。俺たちには、希望の方が大きいんだと!」


 消耗戦に突入している兵士たちは、きっと心がくじけそうになっているに違いない。

 多少オーバーでも、ポジティブな言葉をかけてやることで、折れそうな心を鼓舞出来るかもしれない。

 気持ちが前向きになれば、ピンチの場面で生きようという思いが強く持てるものだ。九死に一生の場面で、諦めたりせず、あがいて、生き残れるはずだ。

 ……大きなイベントの販売担当になった時なんかは、販売員同士でよく励まし合ったものだ。「徹夜組は捌けたぞ!」「最後尾が見えた!」「終わったら二連休!」と、生きるために声を掛け合った。

 希望がある。それは、人の生きる力を呼び起こす。


「そうです、みなさん! たとえ夜の闇が迫りこようとも、篝火を絶やさなければ光は潰えません! そうして、みんなで協力して困難を乗り越えれば、必ず夜明けはやってくるんです!」


 女神が勇敢な戦士たちに告げる。

 闇に飲まれるな――魔族に負けるなと。


「あなたたちを見ていると、不思議と力が湧いてきます。ありがとう。今の言葉、皆にしっかりと伝えます!」

「……あっ」


 兵士の言葉を聞いた後で、アミューが嬉しそうな声を漏らす。

 きっと、この兵士たちがアミューを信仰してくれたのだろう。

 そうか。女神の名を出さずとも、アミューに好感が集まれば信仰と見做されるのか。

 今の言葉が兵士たちに広まれば、少しくらいは信仰が集まるかもな。



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