表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家電転移~永久名誉店員になった俺は家電の能力(チカラ)で異世界を救う~  作者: 宮地拓海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/114

23話 王と呼ばれる魔獣 ―2―

『ファラウェイ・スマート』を旋回させ、カバ王が向かってきている方向へと走る。

 足音だけが耳に届き、薄い霧に隠れて姿は見えない。

 それでもカバ王は俺を正確に追いかけてきている。おそらく、においでも辿っているのだろう。

 やっぱり、きっちりとケリを付けておかなきゃな。


「ブボォォオォオオオ!」


 突如、霧の中に巨大な影が浮かぶ。

 カバ王の速度と霧による視界不良で、ここまでの接近を許してしまった。

 正直、心臓がぎゅっと縮んだ。

 だが、すくんでいる暇はない。

 無理矢理に息を吐き出し、ちくちく痛む気管を最大限に広げ、カバ王に負けない大声を張り上げる。


「ぅぉおおおらぁぁあああああああああっ!」

「ブボォォォオオオオオオオオオオオオッ!」


 共鳴するようにカバ王が叫び、俺へと襲いかかってくる。

 俺はといえば――仁王立ち。


『ファラウェイ・スマート』を一時停止させ、立ち止まってカバ王を迎え撃つ。


 カバ王が突進してくる。

 10メートル。3メートル……速いっ、カウントダウンしている暇もない。


 ヤツの射程に入ったのだろう。カバ王は人間の大人を丸呑みに出来そうなくらいにデカい口を豪快に開いた。

 外から見えていた二本の牙だけでなく、口の中にはノコギリのように鋭い歯がびっしりと並んでいた。

 50センチ、20、10、5……ここで全速力バック!


 体を45度近くまで倒すと、まるで後方へ引っ張られるように俺の体が発射される。――ように移動した。


 つい数瞬前まで俺の顔があった場所で、カバ王の口が閉じられる。

 間一髪。ギリギリセーフ。

 …………ちびるかと思った。


 倒れる勢いそのままに、なんとかバランスを取り180度回転する。

 高速後退から再び前進。進行方向は同じ!


「ボッ、ブボォォオオオオオオオオオ!」


 背後から響き聞こえる怒り狂った獣の叫喚。

 そして、山を震わすような地鳴り。

 霧の中に消えたと思った獣の巨体がすぐさま追いついてくる。

 時速はおそらく、100キロ弱。


 カバの最高時速といわれる40キロを優に上回るあり得ない速度。

 大自然の中でこんなバケモノに遭遇したら、絶対に助からない。

 100キロって、チーターかよ。


 だが、いいぞ。そのまま来い!


 捕らえたと思った獲物を逃すのは相当に悔しいはずだ。

 カバ王はムキになる。

 何がなんでも俺を喰らおうと死に物狂いで襲いかかってくる。


 同じような速度で疾走する俺とカバ王。

 だが、決定的に違う点が二つある。


 一つは、ヤツは俺とは違い移動に体力を使っている。必要になる酸素の量も大幅に異なり、脳に回る酸素も欠如しているだろう。反面、こっちは『ファラウェイ・スマート』任せだから脳にたっぷり酸素を送ることが出来る。考えられる。冷静でいられる。


 そしてもう一つ。

 こいつが決定打になるのだが……


「もう少し……もう少し………………ここだっ!」


 100キロ近い速度で前進し続けていた俺は、ある地点で体をひねる。

 土を巻き上げ、地面を抉り、『ファラウェイ・スマート』が急旋回、ほぼ直角にカーブする。


 そう。

『ファラウェイ・スマート』は、その高性能なジャイロ機能とオートバランス機構によって高速からの急旋回がスムーズかつ安定した状態で可能なのだ。

 おのれの筋肉をフル稼働させて突進してくる巨大なカバとは違ってな!


「ブボッ!?」


 カバ王の悲鳴が、一瞬詰まる。

 おのれの置かれた異常な状況に気付き、戸惑ったのだろう。


 今、カバ王の足下に地面は存在しない。


「ブバォォオオオオオオオオ……ッ!」


 カバ王が絶叫と共に崖の下へと落下していく。

 先ほど俺が見つけた、切り立った崖。それは、この濃い霧を発生させている落差の激しい大きな滝の、ちょうど真正面に存在していた。


 あれだけの速度で走っていたら、仮にこの崖に気が付いたとしても止まることは出来なかっただろう。

 地面があろうがなかろうが、あの巨体は慣性の法則によって前進し続ける以外の選択肢はなかったのだ。

 そして、足元から地面がなくなれば、今度は万有引力の法則に則って落下していくのみだ。


 カバ王の落下を確認して、ゆっくりと『ファラウェイ・スマート』から降りる。

 ……ははっ。膝ががくがくだ。


 切り立った崖の向こうから滝の流れる音が轟いてくる。腹に響く。

 もう、カバ王の声は聞こえなくなっていた。

 崖に近付き覗き込んでみるが、崖の下は深く煙って底が見えなかった。

 30メートル以上はあるだろうか。


 足下を見ると、『ファラウェイ・スマート』の車輪痕がくっきりと残っていた。

 崖の手前、15センチ。……ギリッギリだったな。見誤っていれば、俺も崖から落ちていた。


「……今さら怖くなってきたな……ははっ」


 俺の脳も、結構熱くなっていたようだ。

 もう一回やれと言われても二度と出来ないだろう。


 崖の間際にごろんと転がる大岩に腰を下ろす。

 こいつが目印になってくれてなきゃヤバかった。

 地味ながらもしっかりとした存在感で俺を助けてくれたこの山の一員を撫でる。感謝の気持ちを込めて。

 ごつごつとしていて、冷たかった。


「……帰るか」


 立ち上がり、『ファラウェイ・スマート』に乗る。

 逃げるうちに、随分と上にまで登ってきてしまったようだ。

 肌寒く、空気が薄い。


 霧を避けるように、来た道とは異なるルートを辿る。

 帰り道で事故ったら笑い話にもならない。

 少し迂回して、山の中腹から外側へと抜ける。

 木々が少しずつ減っていき、岩肌が見えてくる。

 山林を出ると空は赤く、夕闇がすぐそこにまで迫ってきていた。

 空気が澄んでいて、よく晴れた空の下は遠くまで見渡せる。


 この山のずっと向こうの方に石造りの建造物が見えた。

 あれは、仰向け寝でかさかさ動き回る筋肉たちの群れがいる前線の砦か。

 山の上からでもはっきりと分かるほどに存在感のある強固な砦は、俺が思っているよりもずっと大きく、広範囲に亘って重厚な壁が延びていた。

 まさに、この国の生命線。

 国を守るための防衛ライン。



 その砦が――燃えていた。



「なっ!?」


 赤く染まる空に、黒々とした煙が昇っていた。

 黒煙は砦のあちらこちらから立ち昇り、時折、激しい炎が吹き上がってくる。


 一体何があった!?

 今あそこで何が起こっているんだ!?


「くそっ! 『ファミリー撮っちゃお』があればズームでもう少しよく見えるのに!」


『ファミリー撮っちゃお』は光学90倍ズームでかなり遠くのものまで見ることが出来る。

 女神コンボが利いていれば、肉眼で見えない距離のものまではっきりと見ることが可能だろう。


 取りに戻るか?

 そんな暇があったら、一刻も早く駆けつけてやるべきだろうか?


「とにかく、みんなの元へ!」


 一人では考えがまとまらない。

 そんな時は、素直にみんなの意見を仰ごう。


 そこから俺は、全速力で山を駆け下りていった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ