22話 救出、脱出、ホラー的演出 ―2―
遺跡は基本的にそれほど大きくはないようで、五分と歩かないうちに最奥の部屋へとたどり着いた。
イメージ的には、国際展示場を全フロア使って開催される最新家電のお披露目会――家電製品フェスティバルの会場くらいの広さだ。
俺も何度か参加したなぁ、店側とお客様側で。
家電とか言いつつ『ファラウェイ』とか新作ゲームとかの新製品も展示されていて、丸一日いても飽きないイベントだった。
それくらいの広さの遺跡を走破、もとい、歩破して最奥の部屋へとやって来たわけだ。
「着きましたね」
アミューが嬉しそうに言う。
「じゃあ、入りましょう!」
「いや、待て」
遺跡にはドアはない。
入り口っぽい造りの壁があり、その奥に空間が広がっているので部屋だと認識は出来る。その程度の構造だ。
俺たちの目の前にある部屋もそんな感じで、ドアもない入り口が口を開けている。
その奥は、真っ暗だ。
「人がいるにしては暗いよな」
「それは、明かりを持っていなかったか、燃料が切れたかで……」
「そうだろうな、たぶん」
――この中にいるヤツが生きているなら。
最悪の状況は考えたくないので、生存していると仮定して話を進める。
「こんな暗闇の中にいれば、俺たちの持っている明かりはおそらくもっと前から見えていたはずだ」
「そういえば、そうですね。ここまでは直進の通路でしたし」
50メートルほどの真っ直ぐな通路を俺たちは歩いてきた。
『ファミリー撮っちゃお』のライトは眩く、直線に入ったあたりで部屋の中からもその明かりを感じることは出来たはずだ。
「にもかかわらず、反応がないのはなぜだ?」
「え…………あの、それって……」
「もしかして、もう……」という言葉は、口に出されなかった。
その可能性が一つ。
だが、先に来ている探索隊が生存していると仮定するなら可能性は二つ。
「反応出来ない状態――毒を喰らって動けないとか、気絶している状態であるか、もしくは……」
「もしくは……?」
「罠が仕掛けられている……可能性がある」
入り口に罠を仕掛けてあるのであれば、自分から出てくることはまずないだろう。罠を台無しにすることになるからな。
最初の通路にいたキングコブラカエリの率いる群れ。
魔獣を撃退するために、毒素を使って作ったようなあぁいう罠を仕掛けている可能性は十分にあり得る。
「じゃあ、どうすれば?」
「とりあえず呼びかけてみようぜ。こちらに敵意がないことを伝えて、反応があればよし。なければ次の手を考える」
そんなわけで、同じ村出身のキティに頼む。
キティは入り口の前に立ち、中に向かって声をかける。
「私は、ヴァンガード村村長ジョージの娘、キティ。探索隊のみんな。中にいるなら返事をしてほしい」
キティの声が暗い部屋にこだまする。
しかし、返事はない。
いないのか?
もしくは……
「返事、ありませんね?」
「そうだな……どうしたもんか……」
「探索隊は……一体どこへ……」
「しっ! みんな、黙って」
落胆する俺たちを、マーサが潜めた声で制する。
唇に人差し指をあて、耳を澄まして部屋の中の音を探る。
俺たちもマーサに倣って部屋の中へと意識を向ける。
すると……
「…………ぅう」
微かに、うめき声が聞こえた。
「誰かいます!」
「アミュー! 『ファミリー撮っちゃお』のカメラモードで部屋の中を撮影してくれ。マーサとキティは目を塞いでろ。フラッシュはビデオのライトより眩しいからな」
三人に指示を出し、俺も手でまぶたを覆う。
タッチパネルを操作して、アミューが入り口から部屋の中を撮影する。
真っ白な光が一瞬だけ世界を埋め尽くし、暗闇の中を進んできた俺たちの眼球に鈍い痛みを与える。
ちかちかする瞳をなんとか開き、ディスプレイに表示された部屋の中の状況を確認する。
部屋の中央に、三人の男が横たわっていた。
トラップのようなものは……とりあえず見当たらない。
「マーサ、中に入るぞ。薬を用意してくれ!」
「分かったわ!」
俺が一歩踏み出すと、それより速くキティが部屋の中へと飛び込んでいく。
アミューは慌てずに部屋の中へとライトを向けている。
うっすらと見えるキティの輪郭を目指して歩みを進める。
「これは……」
床に倒れていた男たちを見て、マーサが息を飲む。
が、次の瞬間には表情を引き締めプロの顔つきになっていた。
「アミュー、この人たちの顔が見えるように光を当てておいて」
「はい!」
「キティ。彼らのシャツをはだけさせておいて。そうね、首回りが苦しくないようにしておいてくれればいいわ」
「分かった」
「アキタカ。手伝って」
俺だけ具体的な指示がないんだが……
「二人の症状を見て最良だと思う応急処置をしておいて」
「ハードル、俺だけ高過ぎだろ……だが、分かった」
マーサが診察を始めた男以外の二人を見る。
どちらも薄く口を開き、弱い呼吸を繰り返している。
呼吸が浅い……毒素にやられたのか?
「なぁ、キティ。ここには毒素は充満してないよな?」
「……すんすん…………平気。毒のにおいはしない。けど……」
男たちの首回りをはだけさせたキティが俺の隣まで来て、男の顔を覗き込む。
「この症状は毒素によるものに似ている」
「そうね。きっと、ヘビを避けるために毒素の膜を張った時に、みんなして吸い込んじゃったんでしょうね」
「毒素はまだ研究段階。うまく利用しようにも、まだうまい取り扱い方法が確立されていない」
ヘビを避けるために無我夢中で毒素をあそこに立ちこめさせたってわけか。
粘度の高い毒素で通路を隙間なく覆うために、毒の中でしばらく作業をしたのかもしれない。
それで、一番奥まで逃げてきて……
「アキタカ。肌が変色している人はいる?」
「ちょっと待ってくれ……いないな。たぶん、ヘビに噛まれてはいないはずだ」
コブラの毒は神経毒だ。
噛まれると、皮膚が黒く変色する。
アジアのある国で、キングコブラに噛まれて奇跡的に一命を取り留めた人がいたのだが、その人は噛まれた腕を丸ごと失った。真っ黒に変色し、とても回復は見込めない状況だったのだという。
そんな深刻な症状が出ている者は、この中にはいない。
不幸中の幸い、とでも言うべきなのだろうか。
ヴァンガード村を襲った例の胞子による毒素ならば、生存率はまだ高い方だ。
「処置が遅れたからね……ちょっと危険な状態よ」
「……治せる、センセイ?」
緊張の表情を見せるマーサに、キティは単刀直入に尋ねる。
助けられるか否か。今最も気になるのはその点だ。
「キティ……」
強張った顔でキティを見るマーサ。
その頬が、蠱惑的に持ち上げられる。
「あたしを誰だと思っているのよ?」
強気な笑みを浮かべて……いや、弱気を見せないように笑ってみせて、マーサはすぐに薬を取り出す。
いくつかの小瓶を見つめ、小さな白い鉢へとその中身を入れ、混ぜ合わせていく。
薬包紙にその粉薬を載せ、折り目を付けて患者の口へとさらさらと滑り込ませ、そして水筒の水を強引に流し込む。
「ごふっ!」
少しむせるが、それでも無理矢理飲み込ませる。
すると、苦しそうだった呼吸が少し落ち着き、掠れていた気管支の音が収まる。
「さすがだな」
「あくまで応急処置よ。診療所へ連れて行って本格的に治療しないと危険だわ」
「手伝う」
同じ村の男たちのピンチに、キティが率先して助力を申し出る。
マーサの指示に従い、薬の投与を手伝う。
ここは二人に任せておけばいいだろう。




