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家電転移~永久名誉店員になった俺は家電の能力(チカラ)で異世界を救う~  作者: 宮地拓海


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20話 ファラウェイ試乗会 ―4―

 仮集落の外れ。そのうち畑にしようと思っていたらしい空き地に寝転がる俺。

 隣にはマーサ、お腹の上にはぽんちゃん。

 村へ帰れるからか、集落の中からは賑やかな声がずっと聞こえている。

 だが、この場所は少し静かだ。


「可愛いわね、キティ」


 そんな静かな場所で、囁くように言ってくすくす笑うマーサ。


「アキタカがあたしに取られちゃうと思ったのかしらね」

「いやいや。マーサが一緒に来てくれないから拗ねてたんだろ?」

「……アキタカって、鈍感?」

「やめろよ、人をラノベの主人公みたいに」

「…………らのべ?」

「ん、なんでもない」


 こっちでは通用しないギャグだったか。

 どスベりしてしまった。


「それで、具合はどう? 寒気とか吐き気はない?」

「あぁ。そういうのはないんだ。ただ、全身から力が抜けて立てなくなるだけで。めまいは、ちょっとあるかな」

「ふぅん……貧血みたいな症状ね」

「それに近いかもしれないな」


 俺の言ったことを小さなノートに書き記す。

 茶色い表紙の小さなノートだ。


「そのうち、魔力欠乏に効く薬を作ってあげるわ。だから、症状は正確に説明すること。しんどいのに無理して平気な振りとかしちゃダメだからね」

「はは。頼もしいな、マーサは」

「当然でしょ。あたしを誰だと思っているのかしら?」


 少し高飛車に言って、すぐにくしゃっと顔を笑みの形に変える。

 幼い少女がイタズラの成功を喜んでいるようにしか見えないんだよな、マーサは小柄だから。


 たしか……十九歳だと言っていたよな。

 ……中学生、いや、小学生にしか見えないのに…………来年成人!?(あくまで日本でならば、だが……)


「……不老不死の薬って、あるのか?」

「何が言いたいのかよく分かったから、その口を閉じないと苦い薬を飲ませるわよ?」


 必要もない薬を飲むのは勘弁なのでお口をチャックする。

 マーサはよく薬を脅しに使う。が、実際それを強行したことはないんだよな。……まぁ、当然なんだけど。


 ぽんちゃんの呼吸を胸で感じてぼーっと空を見上げていると、不意にマーサが口を開いた。


「ねぇ、アキタカ。……聞いていい?」

「なんだ?」


 アミューたちがいなくなり、ぽんちゃんを除けば二人きり。

 このタイミングを、マーサは狙っていたのかもしれない。

 なんでも知っておきたい、自分なりに理解しておきたいと思っているマーサらしい。

 答えられる範囲でなら、誠実に答えてやろう。


「あの話って、本当なんだよね? あの……アキタカが異世界人だっていう……」

「あぁ。信じられない気持ちはよく分かるけどな」

「……うん。正直、まだちょっと信じられない」


 そりゃ仕方ないだろうな。

 グラビアアイドルの『あみぷぅ』が「あみぷぅはね、ぷりん星のお姫様なんだぉ☆」とか言っても、一切信用してなかったもんな、俺も。

 ……いや、それと同列ではないんだけどな、俺は。マジもんの異世界人だし。

 しかし、他人からすれば異世界人もぷりん星人も似たようなものに違いない。


 だから別に信用しなくてもいいぞ。

 と、マーサを見ると、目が合った。


 その瞳は少しだけ、寂しそうな色をしているように見えた。


「じゃあさ……もし、この世界を救い終わったら…………アキタカは、帰っちゃう……の?」


 真っ直ぐにこちらを向いて、真剣な声で投げかけられた問いに、少しだけ面食らってしまった。

 そんなことを考えていたなんてな。

 けど、その答えはもう出ている。


「いいや。帰らねぇよ」

「そう……なの?」

「あぁ。帰れって言われても居座るつもりだ」


 日本にはもう、俺の居場所はないからな。

 日本で暮らしていた俺はもう、死んじまったんだから。


 ……ってのは、秘密にしておくけどな。


「……そっか」


 呟いて、固まっていた頬の筋肉をゆっくりと緩めていく。

 にっと口を横に伸ばした後できゅっとすぼめる。

 にやにやしてるなぁ、マーサ。


「どうせあれでしょ? その異世界ってところでいつもみたいに変なことばっかりして『出て行けー』って言われたんでしょ?」

「俺がいつ変なことなんかしたよ?」

「したじゃない! あたっ、あたしの二の腕をぷにぷにしたりっ、す、素敵……変なポエム言ったり、その後押し倒したりっ!」


 誤解も甚だしい。

 そうやって列挙されるとまるで俺が変態のようではないか。……まったく。


「でも、ずっといていいからね」


 仰向けに寝転がる俺の隣で、膝を軽く持ち上げたゆるめの三角座りでマーサが言う。


「あたしたちは、そんなアキタカを受け止めてあげるから」


 にししと、少しだけ意地悪く笑うマーサの顔には、その意地悪さ以上の慈しみがにじみ出していた。

 主治医がこんな優しい笑みを見せてくれる人なら、患者はさぞ安心感を抱いていただろうな。


 まぁ、日本から追い出されたわけではないし、変な行動を取っているなんて勘違いは不本意ではあるが……


「なら、居座らしてもらうわ」

「うん」


 折角の好意だ。

 ありがたく受け取っておくことにした。


「出て行け」って言われるよりかは、遙かにマシだからな。



 それから三十分ほど俺はその場で寝転がってMPの回復に努め、その後アミューたちと合流してビデオレターを撮影した。


 そして、太陽がそろそろ真上に届くかという頃合いになり、俺たちはヴァンガード村仮集落を出発した。







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